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寺本 修造, 村上 航, 岩沢 エリ 2026.08.06

見えない価値は「うまく語る」だけでは届かない
技術・研究・文化資産をひらく、物語のつくりかた

見慣れた景色ほど、当事者にはその価値が見えなくなる。それは、地域に眠る価値はもちろん、専門的な技術や研究に関しても同じことです。では、そんな「見えない価値」を誰かに届けるためには、どんな取り組みや工夫が必要なのでしょうか?

この問いに向き合うために、2026年7月9日、ロフトワークは自らの「ひらく」のノウハウを紹介するイベントシリーズ「ひらくの設計図」の第3回として、「見えない価値をどう魅せるのか?ー技術・研究・文化資産を、物語でひらく実践事例」を開催しました。

取り上げたのは、地域・企業技術・学術研究といった、異なる領域の3つの実践事例です。当事者には「なにもない」ように見えた景色や技術・研究にどう外の視点を持ち込み、新たな価値を見出すか。3つの事例に共通するプロセスを「リフレーミングと問いの設定」「物語と仕掛け」「社会への接続」といった要素から解説しました。

本記事では、イベントに登壇したロフトワーク シニアディレクターの寺本 修造と、ロフトワーク 京都オフィスのクリエイティブディレクター 村上 航の登壇内容をもとに、見えない価値をひらくプロジェクト設計のポイントを解説します。

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ひらくの設計図#3
見えない価値をどう魅せるのか?
ー技術・研究・文化資産を、物語でひらく実践事例

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平和というテーマから「音」につなげるまで。隠れた魅力をみつける、リフレーミングの手法

ロフトワーク シニアディレクター 寺本 修造

最初に登壇したのは、ロフトワーク シニアディレクターの寺本修造。寺本は、経営の意思決定へのデザインアプローチ導入や、企業・地域内外へのデザイン文化の浸透を専門とし、弥生株式会社のプロダクト開発や、岡山県真庭市でのクリエイターマッチング、長崎での食のリサーチなど、多様な領域のプロジェクトをリードしています。

寺本がまず紹介したのは、ひらく実践の第一ステップである「リフレーミング」の意味。それは「新たに枠組みを作り直す」ということだと言います。同じ絵でも額縁を変えれば印象が変わるように、物事を見る視点や文脈を変えれば、意味も変わってくる。そのアプローチを代表する事例として、長崎県佐世保市と実施した公募企画プロジェクト「Sasebo Sound Chronicle Award」を紹介しました。

プロジェクトが始まったきっかけは、国民文化祭の文化版にあたる「ながさきピース文化祭2025」。掲げられたテーマは「文化芸術を通じた平和の継承」。その関連企画として、佐世保市の“いま”を表すような音楽作品を募ることを目的とした、クリエイター・アーティスト向けの「ミュージックアワード」でした。ではなぜ、「平和」をテーマにしつつも「音」に着目したのでしょうか。

長崎で「平和」と言えば、多くの人はまず原爆や祈りという強い物語を思い浮かべるでしょう。その一方で、佐世保は、米海軍佐世保基地や海上自衛隊、造船所のクレーン群がいまも“日常の風景”としてある軍港のまちです。「平和」のメッセージをそのまま正面から掲げることは、むしろまちの実態とずれてしまう。ここに、最初の壁がありました。

突破口になったのは、寺本自身が佐世保に滞在して気づいたある光景でした。毎朝8時になると、米国国歌と君が代が聞こえてくる。基地も、アーケードの商店街も、朝市も、佐世保バーガーの店も、すべてが同じ日常の中に同居している。「異なるものが共存したまま続く日常」こそが、佐世保にとっての平和の形なのではないか、そう考えるようになったといいます。

では、この「日常」をどう表現するか。例えば、絵や写真も良いアプローチですが、シャッターを切った瞬間に特別な「作品」になってしまいます。「平和の絵」と言われれば、鳩や折り鶴といった紋切り型の表現に寄ってしまう。そこで寺本は、表現のフォーマットを考えるために、「異なるものが共存する」という大まかなイメージに対する言い換えとして、さまざな動詞に切り分けていたと言います。

結果として、頭から離れなかったのは、基地から流れる国歌や、造船所の金属音、ちゃんぽん店の調理音でした。こうして「混ざる」「響く」という動詞と、「音」というモチーフが、ここでつながります。こうして「佐世保の”音”を素材にしたミュージックアワード」というコアコンセプトが導かれました。

このように、見えないけれども確かにそこにある価値を「リフレーミング」を通じて明らかにした寺本。「平和」という大きな言葉のままでは、語ることができるのは専門家や語り部だけに限られてしまいます。しかし「日常」や「音」まで分解すれば、佐世保バーガーを焼く店主も、朝市を切り盛りする市民も、クリエイターの創造性と掛け合わさることで、佐世保の平和を語れる一人になる。

寺本は、プレゼンをこんな言葉で締めました。

「リフレーミングの手法は、物語れる人を増やすことにもつながるはずです」

自治体・メーカー・研究機関と実践。新しい誰かとの関係をつくる、物語のデザイン

つづいてのセッションを担当したのは、ロフトワーク京都ブランチのクリエイティブディレクター、村上航です。村上が紹介したのは、地域・企業・研究機関という、領域の異なる3つの事例を通じて「物語のデザイン」の考え方とポイントでした。

ロフトワーク 京都ブランチ クリエイティブディレクター 村上 航

紹介された3つの事例

  • 佐世保市|「Sasebo Sound Chronicle Award」(以下、佐世保 SSCA)
    • 「文化芸術を通した平和の継承」をテーマに、まちで採集した”音”を素材に音楽作品を全国から募集する公募プロジェクト(事例記事はこちら
  • マクセル株式会社|「クセがあるアワード」(以下、マクセル「クセがあるアワード」)
    • 乾電池で知られるマクセルのアナログコア技術を入り口に、クリエイターからアイデアを募り、新規層とのコラボレーション起こす公募プロジェクト(事例記事はこちら
  • 総合地球環境学研究所|「Sense of the Unseen 怪談と窒素」(以下、地球研「怪談と窒素」)
    • 人間の生存に欠かせない「窒素」をめぐる環境課題の認知拡大のために、怪談師・サウンドアーティスト・バーテンダーと協働した、体験型展示プロジェクト(事例記事はこちら

村上はまず、3つの事例に共通する「物語のデザイン」の基本的な考えを説明します。

一方向的に物語を伝える「ストーリーテリング」に対して、受け取り手が自分の文脈にのせて語り出す双方向的な仕組みが「ナラティブ」です。村上は物語のデザインを、「余白と素材を設計し、これまで出会っていなかった人との関係の起点を生み出すこと」だと定義しました。

いずれも目指したのは、「既に関心のある人」の間だけで閉じていたものを「外の誰かが語り出せる」形に開いていくことだったと言います。

そして、物語のデザインを設計するための問いは大きく3つ。「①誰に語ってほしいか」「②何を渡して、何を守るのか」「③どう語られ続けるか」。この順番の重要性にも触れながら、具体的なプロセスを解説していきました。

問い1:誰に語ってほしいか

3つの事例に共通するのは、届ける相手(ターゲット)の選定にあたって、対象を属性ではなく「何に反応する人か」で定義した点だといいます。特に、「いつもと違う人」に届けようとしたことが大きな特徴です。

各事例における選定のポイントを、村上は以下のようにまとめました。

ターゲット選定のポイント

  • 佐世保 SSCA
    • あえて平和に関心がある人や地元にゆかりのある人ではなく、音というテーマに反応する全国のクリエイターをターゲットとした
  • マクセル「クセがあるアワード」
    • 製品である電池に興味がある人ではなく、「まぜる・ぬる・かためる」というアナログコア技術の思想に反応する35歳未満の次世代クリエイター・イノベーターを対象とした
  • 地球研「怪談と窒素」
    • 環境問題にもともと関心がある人ではなく、窒素問題は知らなくても好奇心を持って物語や体験へと昇華できる人として、怪談師、サウンドアーティスト、バーテンダーをコラボレーションパートナーとして迎え入れた
地球研のプロジェクトでは、研究者とクリエイターのコラボレーションを実施。合宿形式でディスカッションやフィールドワークも行った。

とりわけ「いつもと違う人」に届けたいのであれば、まず届けるべき相手を定義することが重要、と村上は語ります。施策のあり方は、全て相手次第で変わってくるのです。

問い2:何を渡し、何を守るか

次に重要なのは、相手に何を渡し、何を委ね、何を守るのか、を考えること。

例えば、佐世保 SSCAでは、九十九島の波音や造船所の作業音、洞窟遺跡に風が吹き付ける音、佐世保バーガーの調理音など、まちで集めた音そのものを素材として渡しました。そして、その素材の使い方は完全にクリエイターに委ねています。

一方で、企画者として守ったのは「佐世保を知らない人が、知らないまま参加できる」という一点でした。地元らしさや地域への愛をあえて評価軸に入れず、審査員には、業界の第一線で活躍する音楽家を迎え、音楽表現の質だけを審査基準にする座組をとっています。

マクセル「クセがあるアワード」でも同じ構造が見られます。この公募企画では、あえて製品の使用を応募条件にはせず、「まぜる」というテーマ自体を創作の入口にしました。つまり、自社技術を製品ではなく思想のレベルでクリエイターに渡しています。当然、作品の大半は製品とは無関係です。それでも、新規層との接点を作るために、必要なことと判断できるか。それが重要なポイントだったと言います。

また「クセがあるアワード」に関しては、公募企画だけではなく、新拠点「クセがあるスタジオ」の開業プロジェクトが同時に進行しており、ハードとソフトの両面を同時に設計していったこともポイントでした。

地球研では、研究領域をテーマとした展示でありながら、あえて「正しく理解してもらう」ことをいったん手放したといいます。その代わり「記憶に残る体験をつくる」ことだけは譲りませんでした。

研究者とクリエイターの合宿を重ねることで「正確さ」の線引きを一緒に考えたり、「正しく説明する」ためのハンドアウトを展示体験の外側に用意するなど、展示体験を最大化するために「正しさに逃げない」ための仕掛けも工夫したと言います。

「怪談と窒素」の展示の様子

このプロセスで重要なこととして、村上は以下のように語りました。

「大事なのは、一度委ねたら、途中で取り返さないことです。プロジェクトでは、企画者が良かれと思って『もっとこちらの言いたいことを伝えよう』としがちです。しかしその途端に、受け取り手は語るのをやめてしまう。」

だからこそ、プロジェクトにおける「委ねる/守る」ため設計が必要だと続けます。佐世保は審査軸で、マクセルは応募条件で、地球研は合宿とハンドアウトで、判断軸がブレないための予防線を引いていたのです。

問い3:どう語られ続けるか

一方向・一時的な「語り」だけでは、プロジェクトが目指す目的を達成することはできません。

佐世保では、グランプリを受賞した作品が街なかで演奏され、まちで集めた音が作品となってまちに還っていく状況がつくられました。

このとき、ファイナリストの一人、Ai Kakihiraさんから寄せられたのが、次の言葉でした。

平和への思いが日常に息づく場所である生まれ育った長崎と、音楽で繋がることはずっと心に抱いていた夢だったので、今回の受賞はこれからの音楽活動の大きな支えとなります。

審査員の蓮沼執太さん、Kuniyuki Takahashiさんからいただいた宝物のようなお言葉を胸に、これからも音の世界を追求して行きたいと思います。

──グランプリ・Ai Kakihiraさんの受賞コメントより引用

実は、この企画の応募要項や告知には「平和」という言葉を一度も使っていません。それにもかかわらず、参加したクリエイター自身の口から、平和というテーマが自然に立ち上がってきた。村上は、それが企画した側として最も嬉しかった瞬間の一つだったと振り返りました。

さらに展示はその後、佐世保市によってアーカイブブックとしてまとめられ、市内の図書館への配架や一般販売が進んでいます。佐世保の地を離れ、東京の地でも語られ続けるものとなっています。

マクセルでは、第1回のファイナリストが後に同社の空間ディスプレイ技術「AFID」の用途開発プロジェクトに参加するなど技術共創に発展したほか、子ども向けワークショップの開催、第2回アワード「クセがあるアワード:塗」への継続などの展開につながりました。

地球研との取り組みは、『怪談と窒素』の展示企画の翌年のプロジェクトとして、ゲームクリエイターとのコラボレーションが実現。人類と窒素の関係を体験するブラウザゲーム「ゆらぐテラリウム」が生まれ、2026年5月にはインディーゲームの祭典「BitSummit」への出展を通じて、全く新しい層との接点が生まれています。

3つの事例に共通するのは、参加した人が次の語り手になるための「出口」が、最初から設計されていたこと。これが単発のイベントと「関係をつくる装置」を分けるポイントになります。

村上は結びとして、以下のように語りました。

「見えない価値は、”うまく語る”だけだと届きません。自分たちではない誰かが語り出す。その瞬間を目指して”ひらいて渡す”時、新しい誰かとの関係が始まるんです。」

生まれた価値を、再現可能・持続的なものにするために

イベントでは、多くの質問が寄せられ、村上・寺本が回答をしていきました。そのうちいくつかをピックアップしてご紹介します。

質問1:「リフレーミングは感覚に依存するものか、体系化できる方法論なのか」

1つ目は、リフレーミングをチームや組織で実践していくにあたっての質問でした。寺本は、リフレーミングは体系的なものとしつつも、フィールドに足を運んでリサーチし、その場の感覚を言葉にする力はどこまでいっても大切だと答えました。佐世保の音を実際にフィールドレコーディングしてクリエイターに配布したように、身体性を伴った企画の考え方を根底に置いているといいます。

その一方で、フィールドリサーチの進め方については、「とりあえず行ってみようというのは、悪い手だと思ってます」と補足。何らかの仮説を持ったうえで土地に入ることが重要であり、その土地に自分以上に詳しい人をコーディネーターとしてリサーチチームに迎え入れることを大切にしていると語りました。

質問2:プロジェクトから生まれた価値や活動に、持続性を持たせる設計や戦略はあるか

プロジェクトには終わりがあります。その中で持続性を作っていくための工夫とはどのようなものなのか。村上は、プロジェクトが一度終わってもロフトワークが抜けた途端に立ち行かなくならないよう、ロードマップの共有や担当スコープの開示を通じて、ノウハウが自社側にも蓄積されるよう意識していると回答しています。寺本も、プロダクトのUXデザインを支援したプロジェクトで、リサーチや効果検証のプロセスを開示し続けたことで、結果としてクライアント企業に新しくデザイン組織が生まれる一助になった例を紹介しました。

見えない価値を伝えるには「物語れる人を増やす」

見えない価値は、うまく語ろうとするほど、かえって届く相手が固定化されてしまう。

今回のセッションを通じて浮かび上がったのは、この逆説でした。

佐世保の事例では、プロジェクトを通じて美術館の学芸員自身が佐世保の日常や音を語れるようになったこともまた、大きな成果として語られています。当事者自身の変化や、新しい語り手を得られるかどうかが鍵となります。見えない価値を伝えるには、それぞれの形で「物語れる人を増やすこと」が肝心なのかもしれません。そして、このようなプロジェクトを推進する上では、十分な設計が必要で、時には何かを削る判断も求められるはずです。

技術・研究・文化資産が培ってきた価値を、新しい層に届けていくためのプロセスについて振り返った本イベント。現在、アーカイブ動画を公開中です。ご興味のある方は、ぜひご視聴ください。

さらに、地域資源を新しい価値につなげたい自治体・地域団体の方や、自社の技術・研究の価値を伝えたいと感じている企業・研究機関など、もっと詳しい話を聞きたい、他の事例も知りたいといったご希望があれば、ぜひご気軽にお話しをしましょう。ロフトワークが共に悩みながら、「ひらく」ための設計図を一緒に描いていきます。

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ひらくの設計図#3
見えない価値をどう魅せるのか?
ー技術・研究・文化資産を、物語でひらく実践事例

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企画:岩沢 エリ
執筆・編集:後閑 裕太朗
会場撮影:山口 謙之介

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謳歌する学びの未来
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