FINDING 小島 和人, 横山 暁子 2021.10.26

ライオン発の新事業「ご近所シェフトモ」、開発の舞台裏
サービス拡大の秘訣は“現場”にあり

めまぐるしく変化する時代の中、既存事業に対する不安感はどんな企業にもつきものです。新規事業の開発に向けて何か動き出さなくてはと考えている方、あるいは事業開発を始めてみたもののなかなかうまくいかないと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。その打開策のヒントは実践者の経験にあり!ということで、現場で戦う担当者の体験談から、事業開発の実現可能性を高めるためのヒントを探ります。

今回お話を伺ったのは、社内の事業創出プログラムを通じて、テイクアウトサービス「ご近所シェフトモ」をローンチしたライオン株式会社の廣岡茜さん。事業アイデアの起点となった廣岡さん自身の思い、既存事業とは全く異なる開発プロセス、社内外の仲間の集め方など、ざっくばらんにお話しいただきました。

後編では、多くの新規事業プロジェクトのプロデュースを手がけるロフトワーク 小島和人が、既存の枠組みとは全く別の手法を取り入れ開発を進めた事例を紹介し、手法と効果について解説します。(後編はこちら>>

執筆: 新原 なりか
企画・編集: 横山 暁子(loftwork.com編集部)

話した人

廣岡 茜
ライオン株式会社
ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション

2006年にライオン株式会社入社。札幌で営業を2年経験後、ファブリックケア事業部配属となり衣料用洗剤NANOX、アクロン等の商品企画・マーケティングに11年間携わる。2019年に社内の新価値創造プログラムNOILに応募した「夕飯テイクアウトサービス・ご近所シェフトモ」が事業化テーマとして採択される。20年1月より同テーマのオーナとしてビジネス開発センタービジネスインキュベーションに異動。プライベートでは家事が大嫌いな1児の母でワンオペ育児中。「子育て中でも自分を大事にする社会をつくる」をVISIONに掲げ、公私混同で新規事業に夢中。

 

小島 和人
株式会社ロフトワーク
プロデューサー
 

専門学校で建築を学びその後、デザイナー、ディレクター、プランナーとして新規ブランド / 店舗 / 商品開発 / PRプランなど広く携わる。個人では美術作家「ハモニズム」として活動し、ファッション / 植物研究 / 都市菜園などのコラボによりジャンルを越境した作品づくりを行う。
2018年ロフトワークに参画し、新規事業創出や共創空間作り地域産業推進など幅広くプロデュースを担当。2020年からはSFプロトタイピングなどの手法を積極的に取り入れ、先行きが見えない社会の中で企業や団体がこの先で何をすべきか?を提案している。企業人としても作家としても「未来」に対する問いの設計に興味がある。あだ名は「ハモさん」

「あなたの思いをビジネスにする」にビビッときた

ーライオン株式会社で新規事業を手がける廣岡茜さんから、サービス開発のきっかけやプロセスについてお話しいただきます。

ライオン株式会社 ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション 廣岡 茜さん

廣岡 こんにちは、廣岡です。私はライオン株式会社に新卒で入社し、産休育休をはさみ通算11年ほどファブリックケア事業部という商品企画の部署におりました。2019年、社内で行われた新価値創造プログラム「NOIL(ノイル)」にエントリーし、発案したアイデアが採択され、2020年にビジネス開発センターという新設の部署に異動。約1年の実証実験を経て今年の2月に「ご近所シェフトモ」というサービスをローンチしました。ご近所シェフトモはひとことで言うと、ご近所の飲食店に夕飯作りをお任せできるテイクアウトサービスです。

廣岡 実はこのサービスアイデアは私の実体験が起点となっています。働きながら家事も育児もというのは本当に大変で、ある日「もう限界だ、なにかやめなきゃだめだ」と思い立ちました。それで、中でも一番大変だった料理をやめて、近所の飲食店に個人的に夕飯作りを頼むようになったんです。そのことを周りのママ友に話したら評判になって、これはもしかしたらビジネスとしてチャンスがあるんじゃないかと思い始めたんです。そこで、ライオン社内の新規事業コンペ・NOILに応募することにしました。このあたりのことは私のnoteにも赤裸々に綴っているので、ご覧いただけたらうれしいです。

NOILの告知文に「誰にでも新しい事業を生み出す可能性がある、NOILはあなたの思いをビジネスにする」という文言がありました。その「あなたの思い」というところに私はビビッときたんです。もともとマーケティングの仕事をしていて、私の思いなんてどうでもいいからお客様が喜ぶものをとずっと考えてきました。でも私自身も一生活者として生活課題を感じていることはたくさんあって、それがどこにもぶつけられないもどかしさを抱え続けていたんです。でもこのコンテストに私の思いをぶつければ、ビジネスになるチャンスがもらえるかもしれない。そう思って応募を決めました。

ライオン株式会社では、「社員の思いを起点としたアイデア」を外部会社の支援を得てブラッシュアップし、新しい価値を有する事業を継続的に生み出していくことを目指し、2019年より、新価値創造プログラム「NOIL(ノイル)」始動しています。

廣岡 NOILは、ライオンが過去に行ってきたアイデアコンテストとは大きく違っています。まず、募集するアイデアの内容。これまでは募集する側も応募する側も既存事業の延長線上にある価値を探していました。しかし、このNOILではこれまでの常識を破る事業アイデアを求めるということで、必ずしも歯磨きや洗剤といったライオンの既存事業に関わらなくてOKということになっています。また、採択後の発案者の関わり方も大きく異なります。従来は業務範囲の縦割りが強固で、発案者が最後までやり抜けないという問題がありました。現在では発案者が新規事業を担当する部署に異動し、オーナーシップを持って事業をつくっていく仕組みになっています。アイデアの審査体制も大きく変わりました。社内のお偉いさん方だけで審査するのではなく、外部の有識者の方々に入っていただき、マーケットに出した時に本当に価値があるのかという視点と、人に重きを置いて選定しているとのことです。

個人活動からスタートしたご近所シェフトモは、実証実験を繰り返しながらサービスを拡大中。2025年、全国展開を目指している。

報連相の時間があったら現場に行け!

廣岡 また、NOILとセットでライオンビジネス開発センターという新しい本部が立ち上がりました。新規事業だけでなく、既存事業のサポートも含めてビジネスを開発する本部として位置付けられています。各部署は以下の図のように配置されており、私はビジネスインキュベーションに所属しています。ここには新規事業開発をする責任者が集まっており、意思決定も含めてそれぞれに権限が委譲されているので、部長からは「報連相はしなくていい」と言われています。「その時間があったら現場に行ってこい」と。

シェフトモのチームは、このビジネス開発センターの各部署から必要な人材を借りて編成されています。私以外のメンバーはシェフトモ専任ではなく他の案件と兼任。例えば図にあるように、エクスペリエンスデザインのメンバー3人はそれぞれ10%とか30%をシェフトモに割いてくれています。社内だけでは知見が足りない部分は、副業人材やフリーランスの方、インターン生にも助けてもらっています。

廣岡 先ほどもお伝えしたとおり、ご近所シェフトモは完全に自分の実体験から生まれたサービスです。私の仕事の仕方は、調査でお客様の声を聴き、製品改良を重ねながらDCAを回していた頃とはガラッと変わりました。今は自分起点で事業開発をしている、つまり自分=お客さんなので、直感的に他サービスとの違いや、改善ポイントがわかります。新しいことをする時に調査に時間をかけなくても、自信を持ってすぐに行動に移せるんです。飲食店さんにお話をしに行っても、リアリティや説得力が全然違うと言っていただけます。マーケティングを担当していた時は、自分で言うのもなんですけどけっこうかっこいい仕事が多かったんですね(笑)。でも今は泥臭く、とにかく現場に出ています。加盟店さんのところに足繁く通ったり、自分で店頭に立ってお客さんの声を直接聞いたり。現場に行くことで調査などではなかなか出てこないようなアイデアに出会えることも多いです。

伝えることで、仲間が増え、アイデアが集まる

廣岡 発信の大切さも感じています。もともとSNSとか得意な方ではないんですが、やっぱり伝えていかないと広がらないなと思って、1年ほど前から先ほどもお伝えしたnoteなどで発信を始めました。やってみたら意外にもお客様からたくさんコメントを頂いたり、メディアに取り上げていただいたりもして。自分の思いを伝えるってこんなにパワーがあることなんだと肌で実感しています。

これからのシェフトモが目指すこととして、まず容器のリターナブル化があります。こちらは今、飲食店の経営者、シェフトモのユーザー、インターンの大学生、そして全く違う部署のライオン社員も含め、多様なメンバーでプロジェクトチームを結成して動き出しています。また、会社の福利厚生にシェフトモを組み込むといいんじゃないかという話も出てきています。まずは社内でモデルを作れないかと検討中です。

私の事業開発スタイルをまとめますと、以下のスライドのようになります。繰り返しになりますが、自分の思いを起点に事業開発をしているので、アイデアに確信が持てる。だから調査に時間をかけなくてもすぐに行動できる。会議室であーだこーだ言っているだけの時間がほんとになくなって、行動する時間が圧倒的に増えました。そして、自分起点であることで熱量も違ってくるので、周りの人たちもどんどん巻き込まれてくれます。そうすると人の知恵がどんどん集まってきて、その中から面白い方向性が見えてきて、勝手に事業プランができてくる。もちろん、ほんとにこれはビジネスとして成り立つかというところは数字でジャッジしますが、基本的にはワクワクやときめきを大事にして、毎日めちゃくちゃ楽しく事業開発しています。

仮面を外さないと新規事業はできない

ー廣岡さんのお話を受け、ロフトワーク小島を交え、意見交換をしました。

小島 アイデアの起点というか、お題を探す段階で困っている人は多いと思うんですよね。廣岡さんは「ごはんを作りたくない」っていうお題があったからガーッと動くことができた。じゃあそれがない人はどうしたらいいか、ですよね。

廣岡 そこで悩んでらっしゃる方も多そうですね。

小島 根本的なこととして外部の方と話をする接点を作るのが大事だと思ってます。自分自身の知識がどう活かされ得るのかっていうのは、会社の外の世界を見ないとなかなかわからないですから。そう考えると、普段の生活というのも会社あるいは仕事の外ですよね。仕事モードってなると、自分がの当事者だということを置き忘れてしまいがちですよね。
実際、僕も趣味で釣りをしている時に水辺に関するアイデアを思いついたりします。水辺で時間を過ごしているいろんな人をつなげる活動をしてみたら面白そうだなとか妄想を膨らませたりしましたね。

廣岡 シェフトモも最初は個人的な活動として仕事の外で始まっていて。本当に必要に迫られて、ミールキットもめんどくさいし、デリバリーは高くて毎日は頼めないし栄養も偏るし、人を家に呼ぶのには抵抗があるから家事代行を頼むのも……って、すごい愚痴が多いんですよ。

小島 自分の愚痴を探すっていうのはいいですね。そこにアイデアの起点が隠れていそうですね。では、廣岡さんのようにやりたいこと、お題が出てきた後、それをどうやって新規事業としてコマを進めていけばいいんでしょうかね。どう会社を説得するか、いい方法ありますか?

自ら店頭に立つ廣岡さん

廣岡 私だったら「まずは1ヶ月、自由に動かせてくれ」って言うと思います。「予算もたいしていらない、10万円だけでいいので」って。そしてその1ヶ月で、そのサービスとか私の思いに共感してくれる人を1人でもいいからつかまえてくる。まず1人のお金を払ってくれるお客さんを見つけるってこと。絶対これはチャンスがあるんだっていうエビデンスとして、その人を上司とか決裁をする人の前に連れてくる。実際私も近いことを最初にやりました。

それをやってよかったことは2つあって、ひとつは本当にこういうサービスを使いたいっていう人がいるんだって証明できたこと。もうひとつは、この人は動ける人なんだっていうのを周りに示すことができたこと。おかげで、その後周りの人がすごくついてきてくれるというか、助けてくれるようになりました。

小島 実際に行動してみるのは、ほんと説得力が違いますね。反面、会社のシステムとしてライオンさんみたいなパターンは本当に稀有だなと。なかなかうまく動くことができず悶々としている方もたくさんいるんだろうなと思います。

そんな中で役に立つのは、大きな目標に向かってマイルストーンを細かく置くこと。今の廣岡さんのお話でいうと、まず1人連れてくるというマイルストーンを置くということですよね。そうやってプロジェクトの段取りを考えていけば、廣岡さんと近い状況に持っていけるんじゃないでしょうか。また、確からしさということでいうと、社外の有識者の話をちゃんと聞いて提案の際に補足的に伝えると、会社側がいいねって言いやすくなる。そういったしたたかさは必要だと思います。

廣岡 わかります。私も上の人にインプットする時には、副業の方など外部の方を巻き込むようにしています。

小島 すばらしい、さすがです。

廣岡 やれない理由探しではなく、どうやればやれるかを考える雰囲気をつくる。人の力を借りて。あと、取材をしていただく時とかに「シェフトモは会社のパーパスに沿った事業なんです」って言っています。
「なんでライオンさんがこの事業をやるんですか」っていうのはメディアの方に一番よく聞かれること。そこでパーパスを絡めて説明することで、社内外の方に「そういう捉え方もあるか」と認識してもらうことに繋がってきます。

小島 会社の方向性に合わせていくことは必須ですね。中期経営計画などに書いてあることに結びつけて語れるようにしておくこと、そしてうまく外部を使うという点も、新規事業を推進する上では欠かせないポイントですね。

廣岡 これは会社としてやるべき事業だというムーブメントをつくっていく。そういう腹黒い(笑)こともちょこちょこやっていくのが大事だと思います。

小島 廣岡さんは新規事業の部署に異動してまだ2年くらいですよね。マーケティングの王道をバリバリやっていたところから短期間でこんなに変わったのはなぜなんでしょう?

廣岡 なんか「解き放たれた」っていう感じですね(笑)。以前は、社内ルールに則って、有無を言わさず調査や議論を重ねてきました。いち早く商品を出して店頭に並べて、お客さんに早く届けて問うというやり方も手段の1つとしてあったかもしれませんが、そこまで思い至りませんでした。また、ロングセラー商品だからこそ守るべきものが多かった部分もあります。今はそこから解き放たれたので爆発させてる感じですね。本質的なところが変わったわけではないと思います。

小島 たしかに、僕がこれまで見てきた新規事業の担当者の方々も、途中から「あれ、こんな人でしたっけ?」ってなることが多いです(笑)。基本的にもともとはみんな仮面を被ってるんですよ。会社員の仮面、部長の仮面って。私はいつも「仮面を外さないと新規事業はできません」って言うんです。いかに自分自身になっていけるかというのは重要です。

あと、ちょっと楽観的になるというのも重要かもしれないですね。文脈を無視して「こういうことしたら面白くない?」みたいなことを言う人がチームに1人入っていると、みんなのハードルが下がっていくというか、こうでないといけないっていう固まった意識を壊していける。私はプロデューサーという立場でプロジェクトに関わることが多いんですが、自分でその役を勝手にやったりします(笑)。

廣岡 ポジティブに面白くしていくこと、ほんと大事ですね。私、ストレングスファインダーで一番がポジティブなんですよ。

小島 最高ですね!もし本人がそうじゃない場合は、会社の中で廣岡さんみたいな人を探して仲間にしたらいいんです。横にいれば、廣岡さんがどんなことでも楽しくしてくれる。走ったもん勝ち、ですね。

廣岡 ほんとにそうです。失敗してもそれで学びがあればいいですからね。走ったもん勝ちでいきましょう!

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