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小島 和人(ハモ), 横山 暁子 2021.10.26

正解はない 、でも方法はいくらでもある
新規事業開発を進める3つの起点

めまぐるしく変化する時代の中、既存事業に対する不安感はどんな企業にもつきものです。新規事業の開発に向けて何か動き出さなくてはと考えている方、あるいは事業開発を始めてみたもののなかなかうまくいかないと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。その打開策のヒントは実践者の経験にあり!ということで、現場で戦う担当者の体験談から、事業開発の実現可能性を高めるためのヒントを探ります。

前編では社内の事業創出プログラムを通じて、テイクアウトサービス「ご近所シェフトモ」をローンチしたライオン株式会社の廣岡茜さんに、自身の思いや開発プロセス、社内外の仲間の集め方など、ざっくばらんにお話しいただきました。( 前編はこちら>>

後編では、多くの新規事業プロジェクトのプロデュースを手がけるロフトワーク 小島和人が、既存の枠組みとは全く別の手法を取り入れ開発を進めた事例を紹介し、手法と効果について解説します。

執筆: 新原 なりか
企画・編集: 横山 暁子(loftwork.com編集部)

話した人

ロフトワーク プロデューサー 小島 和人
専門学校で建築を学びその後、デザイナー、ディレクター、プランナーとして新規ブランド / 店舗 / 商品開発 / PRプランなど広く携わる。個人では美術作家「ハモニズム」として活動し、ファッション / 植物研究 / 都市菜園などのコラボによりジャンルを越境した作品づくりを行う。2018年ロフトワークに参画し、新規事業創出や共創空間作り地域産業推進など幅広くプロデュースを担当。2020年からはSFプロトタイピングなどの手法を積極的に取り入れ、先行きが見えない社会の中で企業や団体がこの先で何をすべきか?を提案している。企業人としても作家としても「未来」に対する問いの設計に興味がある。あだ名は「ハモさん」

既存事業を踏まえ、事業開発を進める三つの起点

こんにちは、小島和人です。ロフトワークのプロデューサーとして新規事業プロジェクトに多く携わっています。新規事業を推進する際に、自分起点のアイデアがありそれを実行できればいいのですが、会社の方針とも合致させる必要もあり、自身のアイデアや思いだけで突き進むのは、難しいと思っている方も多いのではないでしょうかと。ここからは新規事業開発を進めるの3つの起点について実際の事例を交えてご紹介したいと思いますので、ぜひ参考にしてみてください。

  • 起点1) 持っている技術の社会的意義を探る
  • 起点2) 自分と社会の命題の接点を探る
  • 起点3) 現場の観察から既存のサービスや製品の意味を更新する

起点1)持っている技術の社会的意義を探る

まず1つ目が、自社が持っている技術を起点にして、その社会的意義がどこにあるのかを探っていくパターン。バンドー化学株式会社さんは独自の新技術を開発中だったのですが、その用途の展開アイデアがどうしても既存業界の範疇から抜け出せないということでご相談を頂きました。そこで我々が提案したのが、バックキャスティングを用いたロードマップ作成です。

数十数年先に、世界はどのように変化し、バンドー化学はどのような企業になっていたいのか、またなるべきなのかを改めて定義。その未来を作るために、新技術及び事業がどの様に事業を進めていくべきのか、バックキャストでアクションプランを作成しました。

技術を起点とすると、どうしても積み上げ式、フォアキャストで考えてしまいがちです。つまり「この技術の特徴をこの業界に売り込んで、そうしたらこういう売り上げが立って……」という考え方ですね。これではバンドー化学さんのもともとの課題のとおり、なかなか既存業界の範疇から抜け出すことができない。そこで、我々はその考え方をひっくり返して、「20年後にバンドー化学がどんな会社になっているべきなのか」から考えていくことをご提案しました。

20年後、社会の潮流はどうなっているのか、そしてその社会の中で生活する人々の価値観はどう変わっていくのか。そういったところから予測を立てていき、その新しい世界の中でバンドー化学はどんな価値を提供するべきなのかを大きく描く。そこからバックキャスティングで、2030年、2025年にはどこまで到達していればいいのかをマッピングしていく。その中のアクションのひとつとして、新技術はどこにつながるかを考えていきました。そしてこのロードマップをもとに、リサーチワークやプロトタイピングといった次のステップに進んでいきました。

こちらの手法は、中長期計画などでよく語られるSDGs、サーキュラーエコノミー、サステナブルなどのキーワードと関連づけやすいこともあり、大きな企業に適応できる手法だと思います。

起点2)自分と社会の命題の接点を探る

次に2つ目、自分と社会の命題の接点を探るという進め方です。こちらの事例のクライアントは、株式会社ASNOVAというレンタル仮設機材を扱う企業です。普段、工事現場の建築足場材などを商品としているわけですが、そういった仮設性という特性を活かして一般向けサービスを作りたいということでご相談いただきました。既になんとなくイメージはあるが、それにちゃんと意味を与えて、世界観とサービスを一緒に作って欲しいというようなオーダーでした。そこで用いたプロセスが、心酔できる個人の命題を探求するフィールドワークです。

“仮設性”を持つプロダクトが、私たちのくらしを、ふわっと軽くできるとしたら、どんなプロダクトか?
アイデアの起点にしたのは、私たちが生活の中でなんとかしたい「命題」。社会にはたくさんの課題があるけれど、まずは身の回りから。それぞれ個人が抱える困りごとをスタート地点に「命題」を突き詰めました。

自分で思いを持って信じ込める命題を探しましょうということですね。人から与えられた使命や課題というのは、すぐに諦めてしまえるものなんです。失敗とともに進んでいかなければならない新規事業開発の場合、諦めは天敵。壁にぶつかった時、それでもやりますと言えるかどうかは、個人の命題とか偏愛から始まっているかどうかで大きく差が出てきます。実際、私がこれまで担当してきた新規事業でも個人の思いが起点になっているものは成功している印象が強いです。

飛騨で実施したワークの様子
身の回りにあるものを寄せ集めて自分でものをつくる、ブリコラージュ

ということで、この命題を探すために自己変容を促すいろいろなワークを行いました。ブリコラージュ(身の回りにあるものを寄せ集めて自分でものをつくること)を体験するワークショップや、仮設性を活かして活動している方々へのインタビュー、他にも京都のお寺で座禅をしてみたりとか、飛騨の森を歩いて素材と向き合ったりとか。新規事業開発に当たっては、やはり自分のマインドを変化させるということは必要不可欠なので、こういった自己変容のプロセスについても私たちは提案しています。

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起点3)現場の観察から既存のサービスや製品の意味を更新する

最後に、既存のサービスや製品の意味を更新するという進め方。紹介するのは、セコム株式会社の事例です。自立巡回型のセキュリティロボットを開発するプロジェクトで、自分たちと全く異なるマインドセットを持った人たちと一緒にセコムらしさにとらわれない製品開発をしたいということでした。

セコムは90年代からセキュリティロボットの開発を進めていて、それゆえにロボットとか警備はこういうものであるべきだというのが強く固定化してしまっている。それを取り払うために、「そもそも人間の警備員は人々にどんな印象を与え、どんな役割を担っていたのか?」という問いを立てました。様々な警備員が警備する現場の観察を通じて、警備ロボットの存在意義を更新し、デザインに落とし込んでいきました。詳細はぜひ、事例ページ・動画をご覧ください。

3つの事例をご紹介しましたが、どの方法を選ぶかは現在置かれているステージを見極めて決めていくことが必要です。ステージとは、会社の状況や仕組み、あるいはあなた自身の置かれている状況などです。なので、このやり方が絶対正解というのはないと思っています。

もうひとつ重要なのは、担当者がプロジェクトを自分ごと化すること。最終的にはチームの一人一人全員が自分ごと化できる状況をデザインしていけば、きっと事業はドライブしていきます

自社のケースはどうしたらいいんだろう、チームで自分ごと化しながら進めるにはどうしたらいいんだろうとお悩みのかたは、まず私ににお声がけいただき、ざっくばらんなディスカッションをしましょう。

気軽に壁打ち、オンラインセッション

「ロフトワークにこんなこと頼めますか?」「まだプロジェクト化してないけど、早めに相談した」など、まずはお気軽な相談を受け付けています。その場で日時のご予約が可能です。

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