FINDING
Tim Wong 2023.11.20

人と百貨店の新たなつながりを目指して
台湾「NOKE忠泰楽生活」の新たな挑戦

NOKE大階段 photo credit: NOKE忠泰樂生活

Outline

JUT忠泰は、台湾で人と人・空間・環境の繋がりで新しい町のあり方を作っていくことに注力した、設立35年の不動産・建設会社です。近年、小売、アート業界に参入し、2023年4月から台北・大直エリアにショッピングモール・展示会場・レジャーを兼ねた大型複合施設「NOKE忠泰樂生活」(以下、NOKE)をオープンしました。

ロフトワーク台湾チームはJUT忠泰とともに約半年間のプロジェクトを行い、新商業施設メディア・Webサイト構築を支援。新たな体験を生み出すキュレーション・チームを育成してきました。

場所づくり(Placemaking)、帰属意識Sense of Belonging)、公共性Publicness)、関連性(Relevanceの4つのキーワードを戦略の柱に設定し、オープン当時、台湾の各種メディアで大きな話題となったNOKEは、どのように形になっていったのか、関係者へインタビューしました。

JUT忠泰グループ

1988年に設立した建築会社。2016年より美術館・ショッピングモール運営をはじめ、2023年4月、台北・大直エリアに「NOKE忠泰樂生活」をオープン。

聞き手・執筆:Piggy Yang
編集:山口謙之介・王俐勻 (株式会社ロフトワーク)
写真:NOKE忠泰樂生活・Jetsada Wongwanjaroen

Interview

「体験」を重視する場づくり

NOKE の初月売上高は、2億台湾ドルという驚異的な数字に達し、当時、百貨店業界で大きな話題となりました。売り場の比率が通常の百貨店と異なっており、「キュレーション・エンターテインメント」スペースが全体の30%を占めています。利益重視のビジネスの世界では、このような空間配置は非常に珍しく、「百貨店」を改めて定義するとも言えます。

ロフトワーク台湾の代表ティム、明日制作所のセンター長筱婷(シャオティン)、JUT の副会長のアーロンの3人と「体験」を重視した場作りのプロジェクトを振り返ります。

アーロン (Aaron Lee)
JUT忠泰グループ 副会長

アート・キュレーター領域の知識を活かし、「NOKE」をオープン。出店するブランドとは単純な賃貸契約より、長所や特徴を活かした共生関係を築くことで新しい百貨店の形を作ることを目指している。

シャオティン 
明日制作所 センター長

JUT忠泰グループ傘下にある、空間デザイン、アート、共創を中心としたアート・キュレーター集団。NOKEのアートスペース「Uncanny」での展示企画と運営を手がけている。

ティム (Tim Wong)
FabCafe Taipei / Loftwork Taiwan co-founder

2019年、ロフトワーク台湾チームを率い、JUT忠泰グループとともに購買を超えた体験価値の提供を目指して、「NOKE」オープンまでのロードマップを策定。

NOKE大階段で対談する三人。(左)ティム /(中)シャオティン(右)アーロン

—— Q:NOKEの全体計画を立てるとき、重視したことは何でしたか?

アーロン 台湾の百貨店はすでに飽和状態で、購買行動を含めて、人々の生活と徐々にかけ離れていることがわかりました。NOKEは、店舗から店舗へと移動しながら、買い物を楽しむ通常の百貨店とは対照的に、「長く滞在したくなる」場所でありたいと願っていました。

ティム 単に売買する場所ではなく、「場づくり(Placemaking)」の視点から作られていることがNOKE の特別なところです。「場づくり」の核心は、快適で信頼できる環境を提供することであり、NOKEは、人々がその空間で常に何か面白いことを見つけられるようにしています。

アーロン さらに、NOKE の「公共性」にも気を配っています。顧客に親近感を与えたり、「消費する」雰囲気を積極的に減らし、その空間にいるすべての人が共通の感覚を感じるようにしています。

明日制作所 センター長 シャオティン

シャオティン 店舗と店舗を繋ぐことで、連続した空間を作り出せるのもNOKEの利点だろうと思います。今の購買活動はECサイトが主流ですが、より密接に訪問者と関係性を築けるよう、リアルの場ならではの工夫を施しています。

——Q:NOKEはどのように百貨店と人をつなげていきますか?

アーロン JUTは、アートやデザインを通じて、人々の考え方を変えることができると思っています。「NOKE」ではJUTがアート分野におけるキュレーター経験を活かし、気軽にアートに触れられるスペースをデザインしています。これまでにない「体験」を増やすことにより、小売業界の常識を破り、人と百貨店の新たな接点を作っています。また、ロフトワークと一緒に、「NOKE」の運用をさらに幅を広げていきたいと願っています。

NOKEで行われた展示会《Everything Will Be OK(一切都很好):Lucas Zanotto 藝術展》の様子- photo credit: 明日製作所

ティム コミュニケーションの可能性を広げるために、 Uncannyと名付けたオープンスペースを大階段に設けました。 パソコンを使ったり、スピーチを聞いたり、友人と話したり、買い物の休憩所として使うなど、さまざまな使い方に対応できます。同じ場所で違う活動を楽しむことが、場所の柔軟性を表しています。

シャオティン Uncanny が、出会った人々の間に新たな火花が散るような場所になることを願い、それぞれの立場でNOKEの可能性を切り開いていきたいと思っています。

「日常的な風景」NOKE・Uncanny スペース構想図 
Noke・Uncannyスペースの前身となるイベント「 Uncanny Sunday」

——Q:初めての百貨店運営、他部署とのコラボレーションについてどのように感じましたか?

アーロン 当初の目標は、NOKE がいつ来ても空間に馴染める、大直エリアのハブになることでした。これから共創するパートナーと一緒にこの目標に向かって、さまざまなコラボの中から一緒に実現することを見つけたいです。NOKE に出店するブランドとの関係も、単純な賃貸契約というよりも、お互いの長所や特徴を生かした間接的な共生関係となっており、今までにない新しい百貨店の形を作っていると感じます。

ティム NOKE は、JUT が様々な分野で積み重ねてきた、これまでの経験が生かされた場所になっています。ロフトワークは、外部パートナーと一緒にプロジェクトを進めていくことが多く、共に前進する難しさや大切さをよく理解しています。今後もJUTと一緒に Uncanny というスペースの多様性を広げていき、人々が集まって、繋がれるようになっていけばと思っています。

シャオティン 私たちはすべてのコラボレーションにおいてオープンマインドを持っており、特に Uncanny は、制限のない「実験」のためのプラットフォームだと考えています。我々はここでパプリックをテーマとするイベントを企画する予定です。外部と対話をすることで、より多くのアイデアがここで集約されると思います。

「予想外」と「化学反応」を楽しむ

——Q:NOKE の次のステップはどのように考えていますか?

シャオティン ロフトワークは日本の百貨店と人材育成などのプロジェクトを行ってきたので「ワンチーム」の重要性を強く認識しています。チームのメンタリティを健全に保ち、無理のないペースで絆を深めていくことが、物事をうまく続けていく秘訣ではないかと思います。

アーロン NOKEがさまざまな分野の受け皿となり、アートやデザインを通して人生を体験し、同時に産業構造の変革に取り組めるよう、これからも意見交換やコミュニケーションを続けていきたいと思います!

ティム アフターコロナに入り、「普通」や「日常」の解釈が変わってきました。色々な領域が課題に直面しているし、あり得ないことや想像もしていなかったことが実際に起きています。NOKE ・レベル1のひながたは完成したと言えるでしょう。これからは、各産業をどう繋いでいくか、潜在的な可能性をどう活性化していくか「予想外」と「化学反応」を楽しみながら考えてみると新たなステップに進んでいけると思います。

NOKE忠泰楽生活

2023年4月台北に開業、JUTグループが開発・運営をしている百貨店。全店の30%が「キュレーション・エンターテインメント」を占め、異業種と交流する場として名を馳せりました。

https://noke.jutretail.com.tw/

Next Contents

The KYOTO Shinbun’s Reportage
京都新聞論説委員が見る京都ルポ「課題の価値」