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瀬賀 未久, 山田 麗音, 原 亮介, 岡本 かなは 2025.12.29

虚構から生まれるリアル。
MVMNTが生み出す世界線の作り方

ロフトワークのユニット「MVMNT(ムーブメント)」は、現代社会に「ありうるかもしれない世界線」を提示し、未知のムーブメントを立ち上げるスペキュラティブデザイン・ユニットです。今あるものに新たな価値を見出したり、既存の制度やフォーマットを借用しながら、そこにわずかなズレを生み出すことで、私たちが当たり前だと思っている現実を問い直してきました。

MVMNTが扱うのは、未来予測ではありません。虚構から立ち上がるリアリティ、そしてその先に浮かび上がる「オルタナティブな現実」です。

本記事では、MVMNTによる自主プロジェクト『TOKYO [UN]REAL ESTATE』の活動を紹介します。『TOKYO [UN]REAL ESTATE』は架空(UNREAL)の不動産屋(REAL ESTATE)です。2025年10月に開催された国内最大級のアートとカルチャーの祭典「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」にて4日間限定の空間インスタレーションとして、架空の不動産屋のグランドオープンをコンセプトに展示を行いました。

この不動産屋は、実在するのか?

東京・天王洲の一角に現れた『TOKYO [UN]REAL ESTATE』は、一見するとごく普通の不動産屋です。看板が掲げられ、スタッフが立ち、内覧を促す導線が用意されています。街中で見慣れた風景と、ほとんど変わりはありません。

しかし、ここで扱われているのは土地でも物件でもありません。取り扱われているのは、「3Dデータの部屋」です。

不動産屋というフォーマットは、私たちにとって極めて既視感の強いものです。住まいを探す、条件を見る、内覧をする。そうした行為は、現代都市に暮らす中で、あまりにも自然なプロセスとして身体に染み込んでいます。

MVMNTは、その既存フォーマットをあえて借用します。そして、ほんのわずかなズレを加えることで、「オルタナティブな不動産屋が実在する世界線」を、フィクションではなく“ありうる現実”として立ち上げます。

重要なのは、ここで「これはアート作品です」と強調しないことです。空間の作り込み、スタッフの佇まい、案内の仕方。そのすべてが、実際に存在していそうなリアリティを帯びています。

3Dデータが内包された鍵のUSB。数字は家賃ではなく、KB(キロバイト)を示している。

『TOKYO [UN]REAL ESTATE』は、架空の不動産屋です。その“現実的な違和感”を丁寧に設計することで、来場者を世界線に引き込むことを空間を使ったインスタレーションで目指しました。

この展示は、不動産という既存の制度をなぞりながら、同時にそれを裏返しています。所有や取引の対象ではないはずの日常が、価値あるものとして提示されるとき、私たちが前提としていた「価値の基準」を問い直し、アートを通した思考実験が始まります。

『TOKYO [UN]REAL ESTATE』のエントランス。「架空の不動産屋のグランドオープン」というコンセプトのもと、環境演出として開店祝いの花もディスプレイした。

TOKYO [UN]REAL ESTATEとは何か

リアルだけどアンリアル?

『TOKYO [UN]REAL ESTATE』は、都市に暮らす人々の「ありのままの暮らし」を3Dスキャンによって記録・アーカイブし、その空間データを新たな“[不]不動産”として展開するプロジェクトです。 記録されるのは、モデルルームのような整えられた住空間ではありません。生活の痕跡が残る、ごく個人的な部屋です。

モノが多い部屋、使い込まれた家具、壁に貼られたお気に入りのポスター。そうした要素は、これまで不動産の文脈では価値として扱われてきませんでした。本プロジェクトは、その価値観を反転させ、部屋を「住居」ではなく、「メディウム」として捉え直します。

3Dスキャンされた部屋がブティックのように並べられ、多様な暮らしを覗くことができる。

ひとつひとつの部屋には、そこに暮らす人々の感性や記憶、無意識の美意識が刻まれています。間取りや家具の配置、置き去りにされたモノの数々は、言葉にならない情報を内包しています。それらを3Dスキャンによって立体的に保存することで、日常は単なる記録を超え、読み解く対象へと変わります。

『TOKYO [UN]REAL ESTATE』が行っているのは、生活空間の保存だけではありません。
日常をアートメディウムとして捉え、アーティストやクリエイターが新たな感性で活用できるクリエイティブ・アセットとして再解釈する試みです。

お部屋は様々な角度から見ることができる。気になったお部屋があれば、物件チラシを持ち帰ることもできます。チラシには住人の暮らしにまつわるエピソードも紹介されているため、間取りやエピソードからどんな暮らしをしているのか想像するのも楽しい。

展示空間に並ぶ3Dデータは、完成された作品ではなく、あくまで入口にすぎません。それらは、アーティストやクリエイターの“ソウゾウ力”によって、新しい物語や意味が重ねられていきます。

誰かの暮らしは、誰かにとって価値となる。

不動産、テクノロジー、アート。それぞれの領域の境界を曖昧にしながら、『TOKYO [UN]REAL ESTATE』は、都市の中に眠る価値を新たな視点から掘り起こしていきます。

街から始まる展示体験

展示空間に入る前から、世界線は立ち上がっている

『TOKYO [UN]REAL ESTATE』の展示体験は、会場の中だけで完結するものではありません。むしろ、その入口は街の中に静かに仕込まれています。

ロゴの入った風船やポケットティッシュを配る架空の不動産屋のスタッフ、街中に設置されたサインスタンドや物件チラシが並べられたラック。それらは強く主張する広告ではなく、日常に紛れ込む小さな違和感として存在しています。通行人は、はじめから展示を見に来ているわけではなく、気づけば、いつの間にかその世界線の内側に足を踏み入れているのです。

架空の不動産屋の存在を感じさせる展示演出を街の中で展開。ロゴが入った風船を手にした人々が歩いている姿が、街の風景に自然に溶け込み、遊び心を加えながらオルタナティブな不動産屋への導入となります。

そこに立ち現れるのは、“ありうるかもしれない”不動産屋です。不動産屋という誰もがイメージしやすいフォーマットが用いられているからこそ、来場者は実在するものとして体感することができます。

展示空間に足を踏み入れると、3Dスキャンされた生活空間がブティックのように陳列されています。そこにあるのは、誰かが今も実際に暮らしている部屋のデータです。整えられすぎていない空間、生活をそのまま切り取ったデータ。それらは「見る」対象であると同時に、「読み解く」対象でもあります。

『TOKYO [UN]REAL ESTATE』の展示体験は、 「見る」から、街全体をつかって「空間で体験する」へ。そして「読み解く」へと、鑑賞のあり方を更新していきます。

街から始まる物語。そのプロセスそのものが、この展示の重要な構成要素となっています。

ストリートで配布されるポケットティッシュも、通行人がその存在に気づく仕掛け。さりげなく手渡されることで、来場者は展示への興味を引かれます。

ムーブメントを拡張する、MVMNTの手法

虚構から生まれるリアル、そして未知の世界線へ

MVMNTの手法は、未来を予測することではありません。私たちが行っているのは、「ありうるかもしれない現実」を実空間にインストールすることです。

01.コンセプトに手触りを与え、世界線を具現化する

MVMNTの手法の大きな特徴のひとつが、コンセプトを「説明するもの」ではなく、「触れられるもの」として立ち上げる点にあります。『TOKYO [UN]REAL ESTATE』では、「不動産屋のグランドオープン」という設定そのものが、展示装置として機能しています。作品が並ぶ展示空間を用意するのではなく、架空の不動産屋が開店しているという状況そのものを現実空間に出現させることで、世界線が立ち上がります。

カウンターで気に入った部屋を選択すると、3Dデータのダウンロード先が記されたQRコード入りのレシートを印字され、3Dデータを持ち帰ることができます。データはゲームやマンガ、映像、デジタルアートなど、自由なクリエイティブ活動に活用可能です。

空間構成やグラフィック、ユニフォームを着たスタッフの立ち居振る舞いに至るまで、すべては一貫した物語設計のもとに配置されています。来場者は展示を見る前に、その世界の住人として迎え入れられることになります。

さらに、BGMや店内の香り、開店祝いの花といった小道具の存在が、世界線のリアリティを補強します。それらは決して目立つ演出ではありませんが、空間に身体的な記憶を残し、「本当にここにある」という感覚を静かに支えています。コンセプトに手触りを与えることで、抽象的だった思考は現実の感覚へと変換されていきます。

架空の店舗スタッフはロゴが刺繍されたユニフォームを着用。展示空間や展示物だけでなく、人が介在することで、世界線がよりリアリティをもって浮かび上がってきます。

02.アーティストやクリエイターとともに、ムーブメントを拡張する

MVMNTの手法は、展示や体験をつくることだけにとどまりません。重要なのは、その先でムーブメントが社会と接続し、どのように広がっていくかです。『TOKYO [UN]REAL ESTATE』では、3Dスキャンされた生活空間を、完成された作品として閉じるのではなく、アーティストやクリエイターに向けて開かれたオープンデータとして公開しています。

これまでに、実在する部屋のデータをもとに、ゲーム、マンガ、VR/XR、映像作品など、さまざまな表現が生まれてきました。ひとつの生活空間が、表現のジャンルを横断しながら、まったく異なる物語や体験へと変換されていきます。

『キメラシェアハウス』oji_chang / 清水岳|メタバース上にバーチャルシェアハウスを構築するプロジェクト。限られたメンバーとその友人のみが入れるプライベートな場とすることで、実際のシェアハウスのような繋がりをバーチャルに再現し、そこから新たなコミュニティが生まれることを目指しています。



ここで重要なのは、作者がひとりではないという点です。MVMNTは世界線の起点をつくりますが、その先を完成させるのは、参加するアーティストやクリエイターたちです。誰かの暮らしが、誰かの想像力を刺激し、別の表現へと接続されていく。その連鎖によって、世界線はひとつに固定されることなく、多方向へと拡張されていきます。複数の表現が緩やかにつながり合い、時間をかけて育っていくムーブメントです。

MVMNTが目指しているのは、強いメッセージを一方的に提示することではなく、他者の創造性が入り込む余白を残すことです。『TOKYO [UN]REAL ESTATE』は、そのための土壌として機能しています。世界線は共有され、書き換えられ、拡張されながら、次の表現へと受け渡されていくことを目指しています。

『生活感の亡霊』クイックオバケ|実在する部屋のデータをもとに、その空間がもつ物語を想像して描いた1コマのマンガ。通常、マンガやアニメーションの背景画は資料写真などを参考に描かれる場合が多いが、実際に住人が暮らす部屋データを使用する事で、そのデータ自体が持つ生温かいリアリティが付与されています。
『[UN]Noclip』大澤利己|全編が部屋の3Dデータのみで構成され、部屋というフィルターを通して音がビジュアライズされたミュージックビデオ。店舗をイメージしたオリジナルのBGMも作成し、架空の店舗空間の雰囲気が一層引き立てられました。
『幽限会社わらし不動産』Studio非|現代の座敷わらしが不動産屋で部屋を探す一人称視点のゲーム。東京に実在する部屋のスキャンデータを活用した現実とフィクションが交差する実験的な探索ゲームです。
『Texture Loop』UNQUOTE(徳山史典+弓削純平)|3Dデータとしてアーカイブされた空間のテクスチャを、実在の建材として再構築。かつて空間を形づくっていた質感が、デジタル上の記号を経て再解釈され、現実の新たな素材として再び空間を構成します。展示什器の側面にも、フォトグラメトリーで抽出したテクスチャデータをテラゾーの骨材に見立てたパターンが展開されました。

日常の中に眠る問いを掬い上げる

『TOKYO [UN]REAL ESTATE』が提示しているのは、新しい不動産の形だけではありません。それは、日常や暮らしをどのように見つめ直すかという、視点のアップデートです。

誰かにとっては取るに足らない生活の断片が、別の誰かにとっては、ソウゾウ力を刺激する起点になる。本プロジェクトは、そうした日常の中に眠る価値や問いを掬い上げ、再び社会へと接続する回路をつくっています。

MVMNTの手法の根底にあるのは、答えを提示することではなく、問いを見つけることです。何が価値とされてきたのか。その基準は、誰の視点によって形づくられてきたのか。『TOKYO [UN]REAL ESTATE』では、そうした問いが、展示という形式を超えて、クリエイティブなエコシステムとして展開されています。

MVMNTが生み出しているのは、完成された答えではなく、虚構を起点に、現実の解像度を更新し続けるための仕組みです。その起点をつくりながら、他者の創造性が入り込む余白を意図的に残しています。

日常は、まだ発見されていない。そして、その発見は問いから始まります。『TOKYO [UN]REAL ESTATE』は、私たち一人ひとりの暮らしの中に眠る問いを掬い上げ、次の表現へと手渡していくための、ひらかれた入口(オープンネス)なのです。

執筆:瀬賀 未久(MVMNT)

MVMNT 

「20XX年の伝説を創造する」をビジョンに、未知のムーブメント=現代社会に新たな世界線を生み出すスペキュラティブアートの専門ユニットです。アートドリブンで思想性・社会性のあるコンテンツをプロトタイピング。現代社会に新たな世界線を表出し、コミュニティの力でXS~XXXLまで創造的な運動を起こすことを目指します。
2024年度、シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]のアーティストフェローに選出。

MVMNT Webサイト

TOKYO [UN]REAL ESTATE

TOKYO [UN]REAL ESTATEは、都市に暮らす人々の「ありのままの暮らし」を3Dスキャンで記録・保存し、その空間データを新たな“[不]不動産”として展開するアートプロジェクトです。

収集した3Dデータは、ゲームやマンガ、アニメーション、映像、VR作品などに活用され、クリエイターたちの創造力によって新たな意味や物語が重ねられ、新たな世界線へと広がっていくことを目指しています。

TOKYO [UN]REAL ESTATE 特設Webサイト

※TOKYO [UN]REAL ESTATEはシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]の2024年度アート・インキュベーション・プログラムのアーティスト・フェロー活動の一環として制作されました。

プロジェクトメンバー

瀬賀 未久

株式会社ロフトワーク
MVMNT コミュニケーション・ディレクター

Profile

山田 麗音

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

Profile

原 亮介

株式会社ロフトワーク
MVMNTユニットリーダー

Profile

岡本 かなは

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

Keywords

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食・医療・自然
ー 持続的な地域コミュニティのための「触媒」を実践の例から学ぶ