“触れ合う機会”から考える、子育て社会のこれから
「Open day with baby」開催レポート
「この社会で子どもを育てていくって、どういうことなんだろう?」
この問いは、自身が親であるかどうかに関わらず、社会のありかたを考えるなかで自然と浮かんでくるものではないでしょうか。
三井住友フィナンシャルグループが運営するGREEN×GLOBE Partners (GGP)とロフトワークは「少子化に向き合う社会デザイン会議」を共同で立ち上げました。少子化というテーマを制度・金銭的要因といった単純な理由だけで捉えるのではなく、心理的なハードルや経済的な要因、価値観の変化などが複雑に絡み合った「構造的な課題」として見つめ、システム思考を用いて紐解いてきました。
プロジェクトを振り返るインタビュー記事はこちら
今回、その活動における実証実験として、子育てにまつわる交流イベント『Open day with Baby』を開催。
子育て世代が子どもと一緒に“働く場”に身を置き、子育て前の世代やほかの親世代と同じ空間を共有するオープンデーを目指しました。
本記事では、ご家族や子育て前の世代の方々に参加いただいたイベント当日の様子と、参加者の声をレポートします。
どうすれば、子育て社会はより良くなるか? 実証実験を開催した背景
実証実験の会場となったのは、渋谷駅直結の「渋谷スクランブルスクエア」15階フロアにある共創施設「SHIBUYA QWS(以下、QWS)」。申し込みいただいたご家族と、普段からこの施設で働く方々が集まってくれました。
今回、試験的に行われたこの実証実験イベント。それぞれの目的や期待を持って参加してくれた参加者の皆様を通して、「子どもと子育て前の世代が交流する場」に対してどのような感情が生まれるのかを把握しました。
当日は、子育て前の世代が子どもたちと自然に関われる交流体験や、これからの子育て社会を考える問いのコーナーなどを会場に用意。子育て世代との交流体験を通して、これからの子育て社会のあり方を見つめ直し、“体感しながら”考える4日間をつくりました。
イベントの背景にあったのは、GGP共創プロジェクトの一つ「少子化に向き合う社会デザイン会議」を通して、参画企業が協働で行ったリサーチでした。
経済環境の変化、社会の文化と価値観の多様化——複数の要因が絡み合うなかで、少子化は、単一の施策では解決が難しい、非常に複雑な社会課題であることが見えてきました。そのリサーチを通じて特に強く浮かび上がってきた課題が、子育て世代と子育て前の若者が、日常的に交わる機会そのものの減少です。
世代や立場の違いによる距離が広がることで、子育ては個人や家庭の中で抱え込まれやすくなっています。一方で若い世代にとっては、子どもや子育てが実感の持ちにくい、遠い存在になりつつあります。
私たちは、こうした分断のなかで失われつつある「子育て前の世代・親・子どもが、同じ空間にいる時間」をひらくことが、少子化という構造的な課題に向き合ううえで、小さくても、確かな一歩になるのではないかと考えました。
子育て前の世代と子どもたちが交流するために、用意した多様なコンテンツ
リアルな子育ての現場に触れてもらうことで、異なる立場の人同士の小さな助け合いが生まれるかもしれない。そんな交流や共存の体験が、子育てへの心理的なハードルが下がるきっかけになるのではないかと考えました。
より良い接点のあり方を探し、行政・企業への展開に繋がるような示唆を得ることができたら。その小さな一歩として、子育て前の若い世代に、子どもと交流する経験をしてもらうことを目指しました。
イベントの現場では、ハイハイレースや寝返り選手権、あそびの体験コーナーなど、親と子どもたちが楽しく遊べるプログラムを用意したほか、「子どもとどう遊べばいいかわからない」ことが交流のハードルにならないようにと、子育て前の世代に向けた“ミッションカード”などのさまざまな工夫を凝らしました。
子どもと接するヒントを出す「ミッションカード」
子どもと関わるための手掛かりとしてつくられたミッションカード。子どもが喜ぶ関わり方、親が不安にならない関わりかたを100個のミッションとして整理。実際に、このカードをひらきながら子どもと交流する子育て前の世代や、「ミルク、あげてみますか?」と交流を促す親世代の姿がありました。
みんなで子どもを応援する、「ハイハイレース」
会場でとても大きな盛り上がりを見せた催しの一つが、「ハイハイレース」。親が待つゴールに向かってハイハイで進んでいくが、なかにはスタート後すぐに泣き出してしまう子や、心配そうに泣く子のそばに座って動かなくなる子も。子どもが無事に親のもとにたどりつく度に、会場からは盛大な拍手が送られていました。
混ざり合って仲良く遊ぶ、「遊びの体験コーナー」
たくさんの遊具が用意された、遊びの体験コーナー。親世代からは「渋谷にこんな場所があること自体めずらしいし、ありがたい」との声も。おもちゃを上手にゆずりあって遊ぶ、子どもたちの姿が印象的でした。
これからの子育て社会を考える「問い&ブレスト会」
会場には、子どもたちが遊ぶための仕掛けだけでなく、来場した子育て前の世代や親世代が「これからの子育て社会」について考えるためのブースも。
「子育てしながら働ける社会って、どんな社会?」、「もし、隣の家の子どもを30分預かるのが当たり前の日常だとしたら?」、「あなたやパートナーの妊娠がわかったとして、『心から喜べる自分たち』でいるために必要なものは?」など、社会に向けた問いかけに対して、付箋で自分の意見を書き足していく。多くの来場者が、いまの子育て社会に対する疑問や意見を出しあってくれました。
託児のプロによる、子どもたちへのサポート
たくさんのご家族が来場してくれた今回のイベント。会場の運営は、子ども向け施設でのPOPUP託児所や託児所併設カフェなどを運営する「ラク育」さん、未就学児ママに向けたイベント企画やコミュニティスペース運営に取り組む「ママスキー」さん、企業とともに、子育てと仕事の共存を研究し社会実装する「Louvy(そだてるはたらくプロジェクト)」さん、プレコンセプションケアや健康経営を支援する「Smart Nurse」さんら、子どもと向き合うプロフェッショナルの方々がサポートしてくださいました。子どもたちを時に遠くから見守り、時に積極的に声をかけて安心させてくれました。
来場者の声──「はじめましての子どもと交流する」Open day with Babyはどうだった?
お子さんを連れて遊びに来てくださった親世代や、この場所に足を踏み入れてくれた子育て前の世代の方々に、お話を伺いました。
「QWS会員なので、このイベントを知って来ました。子どもがいる親同士だと家族ぐるみで会うことはあるけど、はじめましての大人に子どもと遊んでもらうことは少なくて。
ただ、元々知っている会員制の施設で開催されたこともあって、他の来場者の方々も『何人か介せば知り合いの人』だという安心感はありました。大人が遊んでくれていると親同士も余裕ができていいですよね。
自分も子育てをするまでは近くに赤ちゃんがいなかったので、どう接したらいいかわからなかった。子どもが生まれる前にこういう場所でちょっとでも関わる機会があれば、子育ての印象も違っただろうなと思いますね。」
──QWS会員・Mさんご家族
イベントでは、QWS会員の子育て前の世代を対象に積極的に子どもとの交流を呼びかけ、多数の子育て前の世代が交流してくれました。来場者からは「想像していたよりも(子どもたちが)安心してミルクを飲んでくれた感じがあって、嬉しい」といった声が。「(知らない人にも身を預けていたことの)安心もあれば、ちょっと寂しいなって気持ちもありますね(笑)」と笑うお母さんも。
来場してくれた20代の方からは、「日常のなかで、子どもに関わる機会は少ない。新鮮な体験だった」というコメントもいただきました。
また、参加者からは次のようなコメントも得られました。
「適度な賑やかさがカフェのホワイトノイズのように感じられて、作業にも集中できる空間に感じた。イベントのように子どもを連れて出社できれば、子育て中でも負担を軽減できると思った。」(20代)
「作業をしている間は思っているよりも集中できました。例えるならファミレスやカフェで仕事をしているような感覚でした。」(40代)
これらの声から、子どもの存在が空間の緊張を和らげ、仕事の生産性やコミュニケーションの質に対してポジティブな影響(癒やしやリラックス効果)を与え得ることが分かりました。
一方で、子育て前の世代と子どもたちとの交流を現実に実現する上で、考えなければいけない課題も見えました。
『こういう場所で業務をするのもいいね』と話しているメンバーも居たが、自身は素直にそう思わなかったため、職場の正式な仕組みとして導入されると価値観の違いによる分断にも繋がってしまいそう。」(30代)
こうした声を踏まえると、多世代交流を企業文化として広げていくためには、「集中したい人」と「交流したい人」の双方がその時の自身の状況に応じて選択できる環境を整えることが重要だと考えられます。具体的には、明確なゾーニングの設計や、関係者の理解を丁寧に重ねていくプロセスが求められるといえます。
GGP Webサイトで公開されたレポート記事
担当者の声──場をひらくことで語りあえた「子育て社会」のこれから
今回の「Open day with Baby」開催に向けて共にプロジェクトに取り組んだ、担当者の声を聞きました。
株式会社赤ちゃん本舗 Open day with Baby プロジェクトマネジメント担当:澤田千春さんの声
私たち赤ちゃん本舗としても、少子化に対して一社だけではできることに限りがあると感じていました。そのなかで、複数の企業や関係者のみなさんとともに行ったリサーチや議論を経て、「(これからの子育て世代を考える上で、)多世代の交流が必要ではないか」ということを見出せたのは、とても貴重な機会でした。
こうしたイベントを通して、子育て前の世代と小さなお子さん、親世代のみなさんが交流してみることができました。実証実験の結果を経て、「どうやってこれからの子育て社会がよりよくなっていくのか」を、引き続き考えていきたいと思います。
ロフトワーク プロジェクトマネージャー:奥田 蓉子の声
今回の実証実験は、多様な専門性を持つ企画メンバー企業の皆様の力が結集しなければ、決して実現できないものでした。リサーチフェーズで見えてきた、普段は交わることの少ない「子育て前の世代」と「子どもたち(子育て世代)」を自然に交流させるためには何が必要か。全員がそれぞれの視点からアイデアを持ち寄り、試行錯誤を重ねて空間をつくりあげました。 実際に4日間走り抜け、参加者の意識変化など、本当に多くの学びを得ることができました。これからの社会をより良い方向を模索していくためには、こうした「共創プロジェクト」の力が非常に大きいと確信しています。
当日のダイジェスト映像を公開
合計4日間にわたって開催された「Open day with Baby」。多くの方が訪れた実証実験イベントの様子を、ダイジェスト映像にまとめました。子どもとはじめて接する子育て前の世代の方々の声や、はじめましての大人と子どもを交流させた親世代の声、当日の盛り上がりの様子をご覧ください。
※来場者の皆様にはお声かけの上、撮影を行っております。
取材・執筆:乾隼人(Loftwork)
スチール撮影:飯本貴子、村上大輔
映像撮影・編集:中村創







