忠泰建築文化芸術基金会 PROJECT

クリエイター共創から都市の伝統的な魅力を紐解く
台湾・新富市場リサーチプロジェクト

Outline

概要

2022年の後半頃から、世界各地で人々の往来と交流が再び活発になりはじめ、街をにぎやかにしています。

台湾の歴史ある〈新富市場〉の活性化に取り組む「JUT建築文化芸術財団」は、「U-mkt」プロジェクトを通じて台湾の市場や文化にどのようなポテンシャルがあるのかを紐解くために、国を超えた活動をロフトワークと一緒にスタートしました。

プロジェクトのおもな活動は2つで、1つは市場に日本と、台湾のクリエイターが一緒に滞在・制作を行うクリエイター・イン・レジデンス。2つ目が、その成果を披露するためのエキシビジョンを開催することです。本プロジェクトは、2022年から2年間を通じて行われる予定です。

本レポートで紹介するのは、クリエイター・イン・レジデンスの活動の一環として、クリエイターと協働して行った関連イベントの一つ。U-mktのある萬華エリア特有の「薬草文化」を軸に、日本と台湾のクリエイターたちがコラボレーションした、共創型ワークショップ「魔女と魔法使いの秘密の実験:都市採集から日常での実践」と題した薬草料理実験イベントです。

ワークショップを企画したのは、日本の植物療法士の村田美沙と、台湾の食のプロデューサーである宗大筠(通称:大大、発音:ダダ)。文化的背景も専門分野も異なる2人のクリエイターが、台湾では馴染みのある「薬草文化」を、いかに現代社会の中で発展させられるのか、さらに楽しく日常化していくのかを、市場のベンダー、街のお店、ワークショップの参加者など地元内外の人々を巻き込みながら、〈U-mkt〉の施設内部空間で公開実験しました。

執筆:許 孟慈
編集:堤 大樹、岩崎諒子
スチール撮影:堤 大樹

「魔女と魔法使いの秘密の実験:都市採集から日常での実践まで」薬草料理実験ワークショップ

驚くべきことに、ワークショップは情報公開から一週間足らずで満席に。このレポートでは、プロジェクトのワークショップの起点となった事前準備から、計画・現地での実施の中で起きた化学変化についてお伝えします。

Creators

日本・台湾の文化の違いを超え「薬草」を鍵に共鳴した2人のクリエイター

村田美沙さん

植物療法士・アーティストとして、プロダクトの開発から芸術祭への出展と日本の国産の薬草を用いた幅広い活動を行う村田さん。台湾到着後、村田さんはリサーチのために真っ先に萬華エリアにある信仰と癒しの拠点「薬草街」を訪問。自身の活動の軸である植物療法を切り口に、地元の人々との交流を通じて台湾特有の癒しの観点や習慣から刺激を受けながら、アイデアを膨らませていきました。

宗大筠さん(之外Zwhy)

一方、宗大筠さんは、食における美意識向上というミッションを持ち、ローカルブランドや食文化の発信、台湾で数々のレストランのブランディングやメニュー開発を手掛ける食のプロデューサーとして活躍しています。今回のプロジェクトでは、「高雄の伝統市場で育った」バックグラウンドを活かし、地元の人々と日本のクリエイターをつなぐ案内人としてその力を発揮してくれてました。

Output

知識から実演まで、薬草文化の新味を探るワークショップ

今回のワークショップのプログラムと、アウトプットについて紹介します。プログラムは二部構成となっており、前半は、日台二人のクリエイターが台湾から日本、欧州に至るまでの旅で得た薬草文化の経験と知識をそれぞれ共有。参加者にはその場で、珍しい「国産」や「原種」の薬草を触ったり味わったりしてもらいました。

後半は、薬草を用いた料理と実食。参加者は多種多様な薬草の味や香りを味わいながら、チームに別れて日常でも使える「薬草シロップ」、「薬草塩」を作りました。

Points

「クリエイターの滞在制作」の旅の一部となる、ワークショップの特徴

今回のワークショップは、あくまでプロジェクトの取り組みの一つですが、多くの学びが詰まったプログラムでした。「ローカリティ」と「越境」をキーワードにそのポイントを2つご紹介します。

プロジェクトの通過点としてのワークショップ設計

ワークショップの開催は、参加クリエイターにプロジェクトの活動の土台を提供する機会となりました。ワークショップに向けた準備として、現地のリサーチや素材の調達といったプロセスを通じて、市場で商売をする地元の人々との接点や会話が自然に生まれ、クリエイターが自然とローカルに溶け込むことができました。また、ワークショップでは、リサーチによって深掘りした萬華エリアの薬草文化の魅力をクリエイター自身の言葉で表現したことが、作品作りの補助線となりました。

言葉に頼らない、五感をつかった分野横断的コラボレーション

言語も専門分野も異なるクリエイターの村田美沙と宗大筠が、ワークショップの事前準備の一つとして行ったのが、自発的に「薬草の知識の交換会」です。現地の方々が見慣れている薬草文化をいかに多様に展開し、そして日常化していくのかを、お互いに問いかけました。。
その会では、二人がこれまでに集めてきた薬草の共有から始まり、学名から産地・生産者までの知見の交換、さらにワークショップ当日の目玉となった薬膳スープの試食で盛り上がりました。

言葉だけに頼らない視覚・味覚・嗅覚を用いた交流は、すでによく知られている薬草の種類や効能においても、新しい見方や味わい方を提示し、ワークショップ当日のアウトプットの質向上につながりました。

Finding

「制約」の中で「自由度」を。 共創型ワークショップから得たもの

「制約」の中に、探索する「自由」を与えること、それが今回のワークショップでクリエイターの2人が大事にしていたことでした。つまり、通常の料理教室のような「先生のお手本を真似する」のではなく、インプットした知識が個人の想像力を触発し、「それってなぜ良いの?」、「これはどんな料理に合うの?」と考えること。そして、参加者が同じテーブルに座る他の参加者との対話を通じて、既知の枠を超えた「新たな可能性」と出会うことを目指しました。

「異文化」と聞くと、ついつい「受け止めるべきもの」として捉えてしまいがちですが、ただ素直に受け入れるだけでなく、相互作用をによって「自らの文化」を再認識することで、自分たちの「思い込み」の枠を超えて新しい「味」を発見することができたのではないでしょうか。

ワークショップ終了後、参加者から「世界中の薬草に触れる中で、自分の好きなものを見つけた。さらに生活の中でも深掘りしたい」という声が聞こえてきたことは、その現れだったと言えるでしょう。

最後に、ワークショップの日は台風が直撃し、猛烈な雨風の中で開催されました。しかし、一期一会の越境的なコラボレーションが台湾の人々を強く惹きつけたのか、誰も欠席することなく本番を迎えることができました。社会がアフターコロナへと移行し、人々の交流に対する熱が高まる中で、地元の人々を交えたオープンな場を通じて、地域の文化の新しい魅力を発見する機会を作れたことは、U-mktにとっても未来へつながる成功体験になったはずです。

もっと知りたい!台湾での滞在制作とは?『未来からの舶来品』展示会

最後に、上記のワークショップが実施されたプロジェクト、『U-mkt年次エキシビジョン2022 – 未来からの舶来品 -』の開催背景について少しだけ紹介します!

現在、都市開発の波や、高齢化、ライフスタイルの変化に押され、台湾の伝統的な暮らしを支えてきた台湾の市場からは若者が離れていっています。また、2020年に起こったパンデミックは社会のデジタル化、非接触化を加速させ「心温まる人と人とのコミュニケーション」に価値を置く市場には逆風となりました。

そんな中、台湾で歴史ある〈新富市場〉の活性化に取り組む「U-mkt」は、「未来の台湾の市場をつくる、新しいローカルビジネスを考える」をゴールとし、ロフトワークと、国境や分野を超えたクリエイターたちとのプロジェクトに挑戦を始めています。

2022年のプロジェクトのテーマは、『未来からの舶来品』。クリエイター・イン・レジデンスのフォーマットで、制作・滞在をベースに実施。台湾の市場や文化にどのようなポテンシャルがあるのかを紐解くために、日本・台湾の9名のクリエイターを集め、それぞれの視点から「面白い」と感じたポイントを作品として形にしました。

展示期間:2022/09/03-11/21

ゲストクリエイター:村田美沙(植物療法士 / 植物表現者)

「人と植物の関係性」に着目。国内の薬草文化や生産背景を起点にフィールドワークを行い、国産の薬草を用いたフードプロダクト、ワークショップ、執筆活動、表現活動を行う。2019年に立ち上げた、ボタニカルブランドのVerseau (ヴェルソー) では、「素直なわたしになる」をコンセプトに自然と共に生きる「みらいの日常」を提案している。

https://misamurata.studio.site/ https://verseau.me/

ゲストクリエイター:之外Zwhy(宗大筠、劉淇、蕭學謙)

之外Zwhyは、ローカルブランドや食文化を外部発信の強化と、食における美学の向上というミッションを持ち、「食の美学」、「食育」を軸に、デザインやマーケティング、イベント企画専門の飲食コンサルティング。

www.facebook.com/zwhytw/

許 孟慈

Author許 孟慈(クリエイティブディレクター)

台北生まれ、台北育ち。東京→ロンドン→ニューヨークを移動して、現在は京都在住。前職は台湾大手の富邦銀行のアートファンデーションに勤務し、壁のない美術館を目指すプロジェクト『Very Fun Park』に参加。同時に、文化イベント『富邦講堂』の開催や情報誌の編集に関するディレクションを経験する。その後、デザイン思考に出会い、学びの旅にでた。慶應義塾大学大学院、iU 情報経営イノベーション専門職大学で研究員としてデザインリサーチの活動を経て、2021年にロフトワークにジョイン。国を横断するプロジェクトに多数携わる。趣味はダイビングで、水泳の息継ぎが苦手だが30メートルまで潜れる。

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