「日本の働き方を変えたい」に込められた想い
「新しいはたらき方を描く」 ─ プロジェクトのコンセプトに込められた想い、それはオカムラのプロジェクトリーダー遅野井さんが長いキャリアの中で一貫して持っていた課題感と深く関係がありました。WORK MILLプロジェクトはオカムラの、そして遅野井さんのどんな想いから生まれ、それをどのようにロフトワークと共につくっているのか。プロジェクトメンバーの遅野井さん、山田さん、谷口さん、ロフトワーク柳川、原でいままでのプロジェクトを振り返ります。
日本の働き方を変えたい『WORK MILL』に込められた想い
柳川(ロフトワーク):遅野井さんとは今回のプロジェクトを始める以前からお付き合いがありましたが、当時から「働き方」の研究をされていましたよね。なぜ、岡村製作所で新しい働き方について取り組んでいるんですか?
遅野井(岡村製作所):私は前職で十数年間、日本のものづくりの最先端の現場を見続けてきました。その技術力は本当に素晴らしいのですが、社内の働き方に注目すると「どうしてこんな旧来的で非効率な方法を選ぶんだろう」と感じる瞬間も、少なくありませんでした。そんな課題感が募った結果、2011年の夏に「よりよい働き方」の研究をするため、大学院に行く決意を固めたんです。今まで蓄積してきた経験や問いを、体系的に整理して修めようと。
柳川:最初にいた電子機器メーカーから、ソフトウェア会社に転職したのも、同じ時期でしたよね?
遅野井:そうですね。この頃は、IT周りを中心とした事業コンサルタントとしての仕事が主でした。その業務の一環として、さまざまな会社のオフィスを訪問させてもらいました。さまざまなコワーキングスペースを訪れて、洗練された空間に、それぞれ専門性を持った人たちが集まって、新しい仕事を生み出している様子をみたら「働く場所を変えれば、現代の日本の働き方をアップデートできるはずだ」と感じて、大学院での研究テーマを「コワーキングスペース」にしたんです。
柳川:弊社が手掛けた「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」に足を運んでいただいたのも、そうした背景があったからなんですね。
遅野井:KOILがオープンしたのは、私が岡村製作所に移ったタイミングでした。柏市民でありコワーキングを研究している自分が、KOILに行かない手はないと思って。そこで初めてロフトワークの皆さんと出会ったんです。メンバーの個性が豊かで、仕掛けていることの一つひとつが面白い。「いつか一緒に仕事ができたらいいな」と感じました。
三井不動産株式会社 KOIL Kashiwa-no-ha Open Innovation Lab プロジェクト
メディアをつくることを目的にしない、本質的な課題解決を目指して
柳川:遅野井さんが岡村製作所に移籍された頃から、岡村製作所では『WORK MILL』の原型となるプロジェクトは動き出していたんですよね。
遅野井:当時から「世の中への情報発信を強化していこう」と動き始めていました。“顧客”対“企業”という枠組みを超えたファン・コミュニティを作るためには、外にひらいたコミュニケーションが不可欠ですからね。2015年1月、この動きが具体化して新しいプロジェクトが発足しました。キックオフの場で、社長は「日本の新しいオフィス文化をつくる会社になろう」と宣言。この言葉をもとに議論を重ね、プロジェクトの事業ステートメントが“DRAW YOUR WORK―はたらくを描く”と決まったんです。
柳川:僕たちがプロジェクトに参画したのは、この事業ステートメントが決まる前後くらいからでしたね。遅野井さんから「情報発信のためのプラットフォームを作りたい」とご相談を受けたのを覚えています。
山田(岡村製作所):当時、弊社が自主的に発信できる機会は、展示会くらいしかなく、まずは、自社の思想や主張を表現できる場づくりが必要だと考えました。漠然とですが、「Webメディアを持つのがいいのかな」という思いはありましたね。ただ、それでロフトワークに相談をしたら「本当にWebメディアでいいのか」という投げかけをいただいて、ちょっとビックリしました。(笑)
柳川:弊社でも「Webメディア/オウンドメディアを作ってほしい」という相談がよくあります。ただ、具体的にお話を聞いていると「メディアを作ること」が目的化しているケースが少なくありません。メディアとは、何かを伝えるための“手段”です。伝えるべき“目的”が明確になってないと、いくら見栄えのよいメディアを作っても、宝の持ち腐れになってしまいます。だから、「『メディアを作ってほしい』という依頼が来たから、メディアを作ろう!」とすぐに動いてしまうのは、クライアントにとっての本質的な問題解決につながらないんです。
遅野井:だから、プロジェクトの目的について、あらためてロフトワークと整理をしていきました。結果的に、メッセージを発信するためのWebプラットフォームをつくるという方針には落ち着きましたが、あそこで原点に立ち返る時間があったから、いまの『WORK MILL』に広がりが生まれているのだと感じています。『WORK MILL』という名前も、この議論の中で見えてきましたしね。
柳川:初期の段階で「これは“メディアを作る仕事”ではなく、『WORK MILL』という名の“働き方を変えていくプロジェクトを作る仕事”だ」という意識を、プロジェクトメンバーが明確に持つことができました。Webメディアは『WORK MILL』プロジェクトの一つのステップであり、ここからさらに立体的なプロジェクトをつくっていこうと考えていました。
原(ロフトワーク):私も、最初から「メディアをつくる」とアサインされたわけではなく、「プロジェクトをグロースさせてほしい」という目的で招集されたんです。プロジェクトの中の、いくつかの並行した流れのひとつにメディアがある。この前提がしっかりと共有できていたからこそ、オフラインの場である『Sea』*と、オンラインの場である『WORK MILL』が共鳴して、新しい働き方を提示していく……というビジョンを持てました。
*岡村製作所が『WORK MILL』プロジェクトの一環として運営しているセッションスペース。これからのよりよい「はたらく」を模索するためのイベントを定期的に開催している。
「何を作るか」ではなく「誰と作るか」にフォーカスしたメディア運営
柳川:Webメディア『WORK MILL』は、2015年12月にリリースされました。それまでのコンセプト設計などでも紆余曲折はありましたが、プロジェクトとしては立ち上げてからが本番でしたね。
遅野井:オカムラにはメディア発信の経験値がまったくなかったので、「何を取り上げるべきか」「評価基準や目標値はどのように定めていくか」など、 最初はすべてが手探りでした。その点は、ロフトワークに大変助けていただきました。
原:コンテンツ制作のフローについては、何度も試行錯誤を重ねながら、ここまでブラッシュアップしてきましたね。使用するツールも、必要に応じて柔軟に変えていきました。
山田:運用を始めてみて、「メディアを作ること」についての考えが甘かったなと痛感しましたね……。
遅野井:“箱”だけ立派でも、肝心の“中身”であるコンテンツが練られていないと、思いは伝わらない。コンテンツの質をどう向上させていくかは、打ち合わせの度に議論しましたね。
原:その点に関しては、とにかく「岡村製作所の皆さんと同じ方向を見よう」と意識しながら、改善をしていました。そのためのコミュニケーションの時間は惜しみませんでしたね。今でも月に1回、かならず対面の定例ミーティングをしていますし、取材前後のラップアップも念入りに行なっています。
谷口(岡村製作所):そうなんです。改善しようとしてくださるプロセスが、他の会社と違うなと感じていました。こちらの意見をしっかり聞いてくれて、ニーズに合った提案をしてくれたので。メディアの立ち上げからしばらくは、なかなか思うような成果が出ていませんでした。それでも、苦しい時期を一緒に乗り越えられたのは、ロフトワークがこちらの気持ちに寄り添ってくれたからこそだと、私は思っています。
柳川:僕ら制作サイドが注視しなければならないのは、「何を作るか」よりも、「誰と作るか」なんです。いくら、こちらが考える最高のものを作っても、それがオカムラさんにとっての“最高”でなければ、まったく意味がない。僕らが普段の遅野井さんたちの発言からインプットして、「それって、こういう問題意識を持っている、ということですよね?」「だから、ここが改善できるといいんですよね?」と、何度もしつこく意図を確認してきたおかげで、大きなズレもなく『WORK MILL』を成長させられました。
オープンコラボレーションが、創造的な提案を生み出す
遅野井:実際にメディアを運営していく中でありがたいなと感じたのは、ロフトワークのネットワークの豊かさですね。メディアで取り上げたいと思った人とは、大抵何かしらのつながりがあるので、取材交渉はスムーズにいくことが多いです。
谷口:『明日の広告』などの著者である佐藤尚之さんや、「CRAZY WEDDING」創業者の山川咲さんへの取材が実現したのも、ロフトワークの人脈のおかげでした。
遅野井:「顧客ネットワーク」と「クリエイティブネットワーク」を接続させることに、ロフトワークはとても長けているんだなと感じています。それぞれ1対1の関係性に終始させるのではなく、「この人たちとこの人たちが何か一緒にやったら面白そう」と、利害関係を超えた所でつないでくれる。そういった“好奇心”による巻き込みによって、他ではなかなか生まれない価値を提供しているんだろうなと。
原:そうですね、弊社は新しさや面白さに忠実な人間が多いです。
山田:ロフトワークは、高いレベルで“オープンコラボレーション”のできる環境が保たれているんですよね。たとえば『WORK MILL』のプロジェクトが、私たちと柳川さん・原さんの間で行き詰まったとします。そんな時には、問題点をロフトワーク社内で共有して、他のプロジェクトメンバーからの意見を集約し、何かしらのアップデートを打ち出してくれる。内部で常に部署を超えたコラボレーションが起きているのは、非常に合理的かつクリエイティブな組織体制だなと感じています。
遅野井:なんだか、会社そのものが「コワーキングスペース」みたいな会社ですよね、ロフトワークって。社内に多様性があって、それぞれの社員が一人ひとりと線でつながっている。そのかかわり合いの中で、新たな仕事が自然発生的に、次々と生まれていく……もしかしたら、ロフトワークの社内システムは、これからの日本が目指すべき働き方のマイルストーンになるかもしれないですね。そう感じさせてもらえる会社と、「働き方を変えること」をコンセプトとしたメディアを一緒に作れているのは、非常にありがたいです。
柳川:そう言っていただけて嬉しいです。僕らも『WORK MILL』の未来を考えることは、とても楽しくやらせてもらっています。引き続きよろしくお願いします。