富士通が大阪に作った新たな共創の場
「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY」
2016年、蒲田にオープンした「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(プライ)TOKYO」。デジタルビジネスをけん引する新しいインテグレーションのコンセプト「FUJITSU Knowledge Integration」を提唱する富士通が作った共創の場です。
異業種企業や地域との連携により、アイデアを生み出す、オープンイノベーションの場として、アイデアソンやハッカソンなどの共創活動や、国内外のICTや業種・業務のトレンドなどの共有、訪れた人たち同士のマッチング促進などの多様な機会を提供するPLY。その第二の拠点となる「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY OSAKA(以下、PLY OSAKA)」が今春、大阪にオープンしました。
テキスト:野本 纏花
写真:山口 卓也
「PLY OSAKA」オープンにあたり、同プロジェクトに携わったロフトワークと富士通のプロジェクトメンバーに加え、今回初の試みである“屋台”の設計を手掛けた dot architects の土井さんとともに、オープンに至るまでのプロセスと今後の展開について語り合いました。
関西の地の利をいかした「PLY OSAKA」ができるまで
石川(ロフトワーク) 蒲田の「PLY TOKYO」ができてからもう2年が経とうとしていますね。当初は、みなさんの理解を得られるかわからないまま、手探りで始めてみたような状態でしたが、その後どのような変化が生まれてきていますか?
日高(富士通) そうですね。最初は「こんな場を作っても、活性化しないのではないか」といった不安の声が上がり、最初は強制的に2週間単位で使ってもらうということを約半年間ほど続けてみようということになりました。しかし、蓋を開けてみれば全然そんなことはなくて、自然と主体的に動いてくれる人たちが出てきています。大きな変化があったと思うのは、この1年くらいですかね。PLYを愛してくれるエンジニアの輪が2人、3人と広がっていって。例えば、“毎週水曜日はPLYの日”と決めて、自らPLYを盛り上げようと、いろいろな人をつないでくれる社員も出てきています。
石川 それは業務時間内ですか?
日高 はい。メインの仕事は別にあるのですが、1日はPLYに割くようにすると言って、「水曜日はPLYに僕がいるから、みんな会いに来てね」と声がけしてくれているんです。そうすると、彼に会うためにPLYに人が集まってくる。他にも、「PLYマルシェ」というライトニングトークのイベントを自主的に開いてくれる人もいます。“PLYを使って何かやる”というのを成果目標に書いてくれている人もいるんですよ。我々がお願いしたわけではないのに。“組織や企業を越えて一緒に何かをやる”というPLYのコンセプトに共感してくれた人が、自ら上司をうまく説得してくれているようです。
石川 プログラムを組んでお膳立てしたわけでもなく、開放してみたら自然とそうなっていったんですね。口コミ的な感じで、じわじわと。だいぶ浸透してきたなという印象はありますか?
日高 こういう場の特性上、全員が参加するというのは難しいと思っていますが、確実に“新しいことを何かやりたい”“組織を越えて何かやりたい”と思ってくれている人がいると感じています。
石川 そんな中「PLY OSAKA」を立ち上げることになった背景を教えていただけますか?
日高 蒲田が予想以上にうまくいって、共創したい人たちの拠り所になってきているという実感があったからです。我々の第二のSEの拠点は大阪にありますので、彼らのためにもこういう場を作りたいと思ったんですね。あとは、大阪の地の利をいかして、もっと新しいことにも取り組みたいという意図があります。
石川 「PLY OSAKA」があるこの辺りは、ビジネス街のど真ん中ですよね。工業地域の下町にある蒲田とは違って、人工的な街の雰囲気。なので最初お話をいただいて、ここに視察で訪れたときに、“蒲田とは頭を切り替えてやったほうがいいな”と思った記憶があります。大阪ビジネスパーク(以下、OBP)のまちの活性化の拠点になればいいというお話もありましたね。
加藤(富士通) OBP協議会の人がPLYを見つけて会いに来てくれて、いろいろな人をつないでくれているんですよ。場の魅力って、そこですよね。外から見て何か始めているのが伝わってOBPの人が入ってきて、そこからまた横のつながりで他社の人とも会話が生まれたりして。
石川 さっきも営業の方が「おもしろい場所ができたんですよ」と、お客様を案内していたのを見ました。まだ活動自体には、がっつりコミットしていなくても、少しずつそれぞれが自分なりのPLYを解釈し始めているのかなというのが垣間見られました。
日高 会話の種として、場所というリアルなものがあるというのは、すごくおおきいことだと思いますね。
“活動のショーケース”を実現するために
石川 今回ロフトワークとしてはコンセプト作りからはいらせていただきました。この場所の土地性と、蒲田での実践を受けてもう一歩挑戦するために“活動のショーケース”という考え方をコンセプトとして提案しました。空間としてもその仕掛けを散りばめていて、ここで起きているアクティビティーが社内外に染み出すようにしたんですよね。
古市(ロフトワーク) ここは蒲田よりも意匠を強調した空間としたので、最初はみなさんびっくりされたと思うんですけど、通りに面した良い場所にあるので、外から見ても“面白そうなことをやっているな”というのがわかるように、人目をひく印象強いものにしたかったんです。
日高 最初は「ここまでやっていいのかな」って言っていたじゃないですか。でも、「もっと明るくしても良かったんじゃないか」という意見も少なからず出ているんですよね。大阪人は目立ちたがり屋だから(笑)
古市 街も建物も古さはあるもののいわゆるオフィス街な感じなので、きれいにしただけだと変わった感じが出ないだろうなという懸念もあって。
加藤 当時は「上層部の人からNGが出たら、どうするんだ」と相当心配していました。完成間近の時期に、たまたまこのビルで大きな発表会があり、その足で上層部の人が見学する機会がありました。入って一言目に「良いじゃないか!」という好反応が。ホッと胸をなでおろしたのを覚えています。
石川 それくらい普段みなさんが働かれている環境とはギャップがあるので、これからどう橋渡ししていくかが重要になってきますよね。“活動のショーケース”というコンセプトをどう具現化するかも色々と議論を重ねましたね。
古市 コンセプトについては、大阪では蒲田と違った新しいチャレンジポイントを盛り込みたいということで、プロジェクトを進める機能やプログラムを入れていこうという話を議論しながら決めていきました。ただ今回は、加藤さんたちも拠点が大阪ではなかったので、大阪での体制づくりや、社内の細々としたコミュニケーションの取り方が難しかったですよね。こちらの温度感が最後までなかなか伝わりづらかったりして。
加藤 それは今も同じですね。蒲田のとき以上にギャップがあったので、とにかくここに来てもらう理由を作るところから始める必要があって。
今は各事業部から一人ずつアンバサダーになってくれる代表者を選んでもらい、その方から情報を展開してもらったり、自分の部門ではどう関わっていくべきなのかを考えてもらったりしています。みなさん自分の席を離れることにものすごく抵抗がありますし、マネジメントしている人たちも部下が目の届かないところにいることに大きな抵抗があるんだと思うので、まずは打ち合わせで使ってもらえれば良いから、とにかく一回おいでというところから始めなければいけないということが、オープンしてからようやくわかってきたところです。
石川 途中の段階でも、使い手になりそうな人たちを10人くらい呼んでワークショップをしましたよね。パツパツに業務が詰まっている忙しい人々に使ってもらうには、何かしらの気持ちの良い制度やルールを作っていく必要があると思っています。
チームとしての一体感
日高 そういえば弱気になっていたときに、古市さんに叱られて目が覚めたことを今でも覚えています。。「業務が忙しい中で、SEにヒアリングをしたいと言っても、なかなか出てきてもらえないのではないか」という話をしたら、「なんでそんなことができないんですか?」と言われて、ハッとしました。組織としての事情があるのは確かですが、我々だけで考えていたら、どうしても組織の考え方や現状に囚われてしまいがちで。
古市さんの客観的な目で「会社を変えたいと上が言っているのに、できないだなんておかしいでしょ」とはっきり言ってもらえたことで、良い刺激になりました。こういうことをちゃんと言い合えるチームだったのは、すごく良かったと思います。
石川 クライアントと請け手という関係ではなく、チームとしてフラットな状態でいることを、我々常にプロジェクトの中でも大切にしているので、今回そのようなチームでできたことを嬉しく思います。
加藤 たぶん、いろいろなものがつっかえて、僕らが尻込みすることがあると思うから、やりたいことを最大限で言ってください、と最初にお願いしていましたよね。最大限で出してもらった中から取捨選択をする方が、絶対に良いものができあがると思っていたので。
日高 オーダー通り、ロフトワークさんは妥協しないですよね(笑)
“屋台”で吹き込む北加賀屋の異色の風
石川 今回、空間設計をする上でも活動が展開して、使い方を開発していけるように細かい部分も工夫しましたよね。個人的に、dot architects さんにお願いした「屋台」のプロジェクトは挑戦ポイントでした。綺麗なオフィスの空間に、「違和感」をいれ、働き方のモードを変えるスイッチとして機能してくれないかと考えました。あと、dot architects のような、関西で活躍する作り手のチームを設計段階から仲間にいれていけないかと。
古市 今回のスペースは蒲田より狭くエントランスから奥まっているので、機能の選択と配置には人をいかに引き込むかという点に注意を払いました。街との連携を図りたかったので、屋外にも可動式の人が集まる装置を置けないかというところから議論が始まって。屋台のように、すぐに始められて、いろいろな場所に動かすことができて、なおかつ活動を見せられるステージを作れないかと考えていきました。
土井(dot architects) こことは同じ大阪市内でも、街の在り方やそこにいる人の属性がある意味対極にあるような北加賀屋で活動している僕らが呼ばれた理由は、「目一杯ふざけてください」ということなのだろうと思いました。なので、北加賀屋の一端をOBPに再現する感覚で計画を進めていきました。
石川 大阪をリサーチしたときに、この辺は東京のようにクリエイターが集まる場所や工房がなくて、どこかないかと探したときに注目したのが北加賀屋だったんです。屋台を作ることで、ここにはないエッセンスを入れたかった。北加賀屋でカルチャーをリードしているような人たちがこっちに足を踏み入れる瞬間を見てみたかったんです。富士通の方にも北加賀屋をツアーして、体で感じてもらいましたね。
土井 この屋台には、ある意味、何の機能もありません。いろいろな動作や展開・接続はするけれど、使い方は自由。あとは受け手の話かなと思ったんです。僕らと富士通さんは、場所も組織のあり方も時間の感覚も、多くの点で対照的とも言える感じがしていました。僕らはやりたいことを好きなだけ好きな人と可能な限り自由にやるけれど、そうはいかない企業も多い。だからこそ、屋台のような完全な自由を手にしたときに、それまで個人の中に潜んでいた欲望のようなものが表出してくるのではないかと期待しています。
日高 組織には説明責任がありますからね。新しいことをどんどんやりたいという思いはあるんだけど、「なぜそれをやる必要があるの?」と聞かれたときに、ちゃんと答える義務がある。成功したら理由はいらなくなると思うんですけど、なぜこの屋台が必要なのか、我々が熱く語れなければ、予算が取れません。いろいろ議論を重ねてきたのは、我々が腹落ちするために必要な行為だったんだと思うし、我々のチームとしての成長が、その議論の中にあったんだと思っています。
古市 本当に全部、提案に対して「なんでそうするの?」と聞かれる中で、たくさんのコミュニケーションを重ねました。
土井 「説明責任」として理解してもらえる内容って、第三者にわかりやすくて目指せる範囲なんだと思っていて、でもこの場所の良さって、なんとなく感覚的に経験を共有することで成り立つあり方なんだと思っています。だから、ここを今後使っていく中で、悪い意味でいろんなルールが出来すぎてしまうともったいなと思いますね。
石川 ロフトワークが作る空間は“マルチファンクション”と言っていて、いろいろな機能を上乗せして変化できるようにすることで、更新性を持たせています。これから働き方がだんだん変わっていく中で、この更新性がスパイスとして効いてくるのではないかと思っています。
プロジェクトメンバーが思い描く「PLY OSAKA」の未来
石川 PLYは一見“特別な場所”と思われがちですが、ここは決して特別な場所じゃなくて、社員の人がもとから持っているけれど眠らせてしまっている小さな才能を発揮できる場所になるといいなと。
古市 そうですね。私としては“巣”みたいに、ここにずっといたい、すべてのプロジェクトでここを使いたいというくらい愛してくれるような人が増えるといいなと思っているのですが、みなさんは今後、「PLY OSAKA」をどのような場所にしたいですか?
日高 一番重要なのは、一人一人が思いをもって使ってくれること。早くここをSEの人たちが普段使いしてくれるようにしたいですね。我々のこういう活動を面白がってジョインしてくれる企業やクリエイターを増やして、富士通という会社が外につながる場にしていきたいです。
加藤 やはりまだ自分が使うイメージを持てていない人が多いので、そんな人たちにもここの魅力をうまく伝えて、外にも中にもじわじわ広げていきたいです。
堀江 そうですね。まずは社員に魅力を感じてもらって、ここを使ってもらうことが大切だと考えます。富士通では大阪に別の共創空間もありますので、そういったところとも連携しながら共創活動を広げていけると良いのではないかと思います。
土井 本当にどんどん使われていくことを期待していますし、僕らが想像していなかった使い方をしてもらいたいと思っています。プロジェクトに非常に近い第三者として、ふざけたことを言い続けたいと思っています。
古市 ゆくゆくは、説明しなくてもPLYなら、なんとなく許されるという空気にまで持っていけたらいいなと。
石川 良いムードを撒き散らしてもらいたいですね。根気強く戦っていかなければいけないところだと思うので、引き続きロフトワークでもご協力できるところがあれば、ぜひまたご一緒させていただきたいと思います。
プロジェクト詳細
富士通株式会社
企業内外のコラボレーションのための共創スペース
FUJITSU Knowledge Integration Base PLY