伝統文化をテクノロジーで拡張。漫画「へうげもの」とMTRLの実験
Outline
茶の湯文化と現代の素材・テクノロジーのクロスオーバーを試みる
武将茶人・古田織部の生涯を描いた漫画『へうげもの』(山田芳裕/講談社)。”漫画編集担当が直々に声をかけて呼び寄せた越境的クリエイティブ集団「激陶者集団へうげ十作」”(※主催者からのイベント主旨文より引用)は、2008年から10年にわたり各地で展覧会イベント、茶会などを提供してきました。
茶道はその文化が生まれた当時、既存の価値観を崩す革新的なものでした。その精神に基づき、今までとは違う表現に挑戦することで新しい価値を生み出したい。そこで、最先端のテクノロジーに関わるクリエイターのコミュニティを持ち、テクノロジーと工芸をクリエイティブな形で融合できるパートナーとしてMTRL KYOTOに声がかかりました。
2018年5月、石橋圭吾氏(白白庵)による企画『激陶者集団へうげ十作展「俺たちの京都」 – へうげ de マテリアル』がMTRL KYOTOにて開催。本企画のコラボレーションプログラムという形で、多彩な企業やクリエイターが共創によって可能性を広げる場を実現しました。
Outputs
技術や表現の新たな可能性を模索する場の提供
MTRL KYOTOは、伝統素材からテクノロジーの粋を尽くした電子部品まで、あらゆる素材(マテリアル)を中心に、そこに多様な人が関わることで化学反応を生み出そうとする場所。今回のコラボレーションプログラムに参加した企業やクリエイターは、いずれも普段からこの場所で活動を展開する方々でした。常に新たな可能性を探求する野心的かつ創造的なコミュニティが育まれていることが、MTRL KYOTOの強みです。
私たちは、「茶の湯」というテーマの下、それまで関わらなかった企業やクリエイターが、共創しながら今までできなかった表現に挑戦し、新たな可能性を模索する機会を実現しました。結果として、「へうげもの」というテーマ性、テクノロジー、クリエイティビティが相乗効果を生み、多くの反響を呼び、来場者/作品販売数共に大きな成果を残す企画となりました。
3つの方針と5つのプログラム企画
MTRLが提供できる価値を最大限に生かすため、企画方針として以下の3点に整理し、5つのコラボレーションプログラムを企画しました。
1 実験的であること
2 関わった人たちにとって「初」の試みであること
3 「茶の湯」文化とそのアウトプットが出会ったときに、異化効果を産むこと
企画(1)Haptic茶道体験
ロフトワークが立ち上げ時から支援してきた”触覚”をデザインするプロジェクト、Haptic Design Projectと、茶人松村宗亮さんのコラボレーションで実現した「Haptic茶道」。触覚共有デバイスを使用することで、茶人がお茶をたてる手の感覚を客人の手元でも同時に体験できる「茶会」を実現。非言語的 / 身体的なコミュニケーションの実践の場を作り出しました。
企画(2)ろくろパフォーマンス x リアルタイムオーディオビジュアル
ろくろにセンサーを設置し、造形にあわせて、センシングした動きや形状のデータから、映像や音楽・ビートをリアルタイムに生成しました。制作ツールは、MTRL KYOTOを舞台にイベントを開催してきたビジュアルプログラミング環境TouchDesignerを使用することで実現。アーティストの制作プロセスの身体性からあらたな映像表現をつくりだすこの実験は、デジタルテクノロジーを用いた新たな身体表現の可能性を予感させるものとなりました。
企画(3)ホロレンズ茶室
MR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens(ホロレンズ)」を館内に設置し、3Dデータのヴァーチャルな茶室を目の前に浮かび上がらせました。実際は何もない空間ですが、ホロレンズを装着した人だけが、そこにある茶室を外から眺めたり、中に入って設えを見ることができます。本企画は、MTRL KYOTOで活動する、日本茶をテーマにしたオープンなディスカッションとアイデア共有のコミュニティ「TEA of MTRL」がきっかけで生まれた実験的プロジェクト、ホロレンズ茶室体験の展開企画です。
企画(4)新しい素材とテクノロジーから考える、日本的照明のスタディ
エレファンテック株式会社による「回路を描く / プリントできる素材・テクノロジー」に着目した実験作品を展示。同社のデザイナーでありながら、アーティストとしても活動する綱田康平さんが手がけた照明のプロトタイピング「Case Study Lamp」シリーズの新作を展示しました。最新のテクノロジーを用いて日本的な照明の新たな可能性を探る実験の機会となりました。
企画(5)異素材を「花器」にみたてる、クリエイターユニットの実験
“コンプレックスと欠損”をテーマにMTRL KYOTOを拠点として制作を行う革屋、壁屋、花屋、足つぼ師、舞台作家の異種混淆デザインチーム「清濁アセンブル」が、従来は花器として用いられることのない「皮革」「セメント建材」と植物を組み合わせ、言葉とともに展示する試みを行いました。
※各展示およびパフォーマンスの詳細についてはMTRL KYOTOのブログをご覧ください。
Member
メンバーズボイス
“「千利休そして古田織部の時代、”茶の湯”は、美意識と『面白がる』スピリットのもと、当時の最先端のテクノロジーをプロダクトや表現として花開かせてきた大きな原動力だったはず… では、現代のテクノロジーや素材、クリエイションが”茶の湯”と接続したときにどんな化学反応が起きるのか?」という発想が、今回の、異なるジャンルのクリエイター達のコラボレーションの機会となりました。
MTRL KYOTOでは、今後も、素材・テクノロジーとクリエイションの融合によって新たな価値・文脈を生み出す実験を行なっていきます。今後の企画にもどうぞご期待ください。”
MTRL KYOTO マネージャー 木下 浩佑
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