対話を重ねる、外の世界に触れる。
空間に魂を吹き込む、オフィスリニューアルの軌跡
新大阪に本社を構える総合建設コンサルタントの中央復建コンサルタンツ株式会社(以下CFK)は、2025年4月に第1期のオフィスリニューアルを完成させます。CFKは「建設コンサルタントの創造性を支えるオフィス環境を考えたい」という課題感から、全社的な取り組みとして部署横断型のタスクフォースを結成。外部パートナーとしてオフィスリニューアル伴走実績のあるロフトワークにお声掛けいただき、2024年で4年目のお付き合いとなります。クリエイティブディレクターの服部は、初年度よりプロジェクトを担当させていただいています。
建築デザインユニットのetoa studioを空間設計のパートナーに迎え、オフィスリニューアルのコンセプト策定、基本設計、実施設計、施工と歩んできています。ロフトワークは、プロジェクトマネジメントの他、働き方の進化を促すワークショップやフィールドワークの実施、ブランディングや広報の観点からWeb記事の企画・制作、サイン計画などを行っています。
完成を目前に、これまで歩んできた空間に魂を吹き込む、リニューアルプロセスの一部をご紹介します。
空間づくりと並行して「社員のマインドを変えるムード」をつくる
今回のリニューアルプロジェクトで大事にし続けていることは、オフィスを変えることと同時に、この場所で働く社員のマインドや働き方を進化させていくことです。経営計画を元に会社が打ち出す大方針に加え、社員、時には外部パートナーとの対話の中で得た知見やアイデアをオフィスリニューアルのコンセプトや設計に取り入れていきました。
1年目はコンセプト策定、2年目が基本設計、3年目が実施設計、そして施工…と時間を掛けて取り組んでいる分、社内を巻き込む時間として有効に使わない手はありません。これから先のオフィスを考えるにあたって、今後を担う若手社員を巻き込むワークショップを企画・実施してきました。
また、実施したプロセスを記録し、CFKのコーポレートサイト上で「オフィス環境づくりシリーズ」として継続的に発信をし続けています。採用サイトからもアクセスしやすくなっており、入社前からどんな意思を持った会社であるかを知っていただく機会創出に繋げています。
CFKコーポレートサイト内記事:オフィス環境づくりシリーズ(ロフトワーク企画・制作)
01:新たな価値創造を支える働き方の実現に向けて
02:社内外の共創を生み出すには? 対話を通して空間や仕掛けづくりを考える
03:地域の生態系ネットワークと呼応する、オフィスと都市の未来
04:大阪中津・西田ビルに学ぶ、自社オフィスを通じてまちを良くしていく覚悟
05:リサーチから見えてきた、わたしたちの未来の作り方
06:本音を話すことからはじめよう。部門を超えた同世代の繋がりづくり。U35ワークショップ「喫茶シランケド」
07:これからの仕事と働き方を、私たちが作っていくために。U35「価値創造を噛み砕くロジックモデルワークショップ」
08:『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』著者・三宅香帆さんと考える、CFKらしい「オフィスの本棚」
09:まもなくリニューアル。生まれ変わったオフィスを自分たちらしく活用するための手引きを作ろう
いつもと異なる地へ。現場で身体と手を動かし、心を動かす
CFKが大事にされている価値観の中に「プロジェクト志向」というものがあります。“真の顧客は市民・自然・未来の子どもたちであること”を意識し、自ら問題を設定し能動的に動いていくスタンスのことを意味しています。「プロジェクト志向」を推し進める、つまり現状の業務に留まらず未来のCFKを見据えて探索・探究をすべく、ロフトワークからいくつかのフィールドワークを提案、実施しました。
フィールドワーク先の一つとして、鳥取県智頭(ちず)町へ。大阪からスーパーはくとで約2時間。鳥取県の南東部に位置し、面積の90%以上が森で囲まれた町。智頭町で活動しているVUILD株式会社・ちょうどいい材木ラジオの井上達哉さんと、自伐型林業家の大谷訓大さんは、林業とデジタルテクノロジーを掛け合わせ「林業のマイクロ6次産業化」に取り組んでいます。CFKタスクフォースメンバー、etoa studio、ロフトワークの面々で訪れました。
大谷さんが所有する敷地内では、徒歩で移動できるエリア内で、選木、伐倒、搬出、製材、ShopBot(※木材を3次元に加工し切り出すことのできるCNCルーター)でプロダクトづくりまでが可能です。日本の中山間地域の森林の課題に向き合い続けてきた井上さんは、林業従事者の所得増へのアプローチの一つとして、同世代の仲間である大谷さんと共に「楽しみながらまずやってみる」というスタンスでプロジェクトを実験的にスタートさせたそうです。実際に山に入り、木を伐り、モノづくりを行う経験をしたことで、仲間と共に楽しみながら自ら能動的に動く…というスタンスが、タスクフォースのメンバーの意識や行動にこれまで以上に色濃く現れ始めたような気がしました。
フィールドワーク帰りの特急列車の中で、CFKの末祐介さん(未来社会創造センター 公民連携まちづくり室 室長 兼 計画系部門 技師長)から、「CFKがエリアマネジメントに関わる京都市の宝が池公園で、智頭町で体験したことをヒントに、選木からモノづくりまで行う施業者やクリエイターのコミュニティを生み出せないか考えを巡らせ始めた」…と構想を聞かせてもらいました。
それからおよそ一年経ち、オフィス一部で施工が進んでいる頃、「使い道がなかった木を活用してオフィス1階のカウンターテーブルを製作するための協力体制をつくることができた」と末さんから連絡を受けました。家具製作はロフトワークがプロジェクトマネジメントを担当している範疇ではなかったこともあり、意外な展開を知りワクワクしました。末さんは、まさに「プロジェクト志向」を体現していらっしゃいます。
公共空間の樹木が、オフィス家具に生まれ変わる
家具の材を確保する現場は、宝が池のストックヤードと呼ばれている場所。今までは災害ゴミなど廃棄物を一時的に置く、関係者しか立ち入りできないようなところです。宝が池公園周辺は、鹿の食害などによる土壌流出で、元々湿地帯であった場所も埋まっていき、豊かだった生物多様性が損なわれてしまっている側面があるそうです。
京都市役所の葉山さんは「ここは『公園』ではないため、管理が行き届かず大径木化した木が大雨などでバタバタと倒れることがあります。これまではそういった木を廃棄するか、活用できたとしてもチップにするくらいしか方法がなかったのですが、様々なマテリアルとして地域で循環できないか実験的に取り組んでいます。公園の管理上支障がある樹木から価値が生まれれば、 手入れに参加する人が増え、その結果、生物の多様性の回復につながるのではないかと考えています」と説明。
宝が池公園を拠点としたエリアマネジメントにコンサルタントとして関わっている末さんは、宝が池の森の管理のために伐採する必要がある樹木を廃棄物として処分するのではなく、お金を出して自社オフィスの家具の材として引き取ることで、廃棄物になるはずだった樹木を資源として有効活用することができないか模索していたのです。
使用するのは、カツラ、ヤマザクラ、スギなど樹種も大きさもバラバラな材。etoa studioが得意とする設計×デジタル技術(3Dスキャンやパラメトリックモデリング)を用いることで、樹木の個性的な形状を活かしたままデザインに取り入れることが可能になり、意匠としてもかっこいい家具として生まれ変わります。
「自社のためにというより企業の活動が資源循環、里山荒廃の解決の手段に繋がることにチャレンジし、同じお金を使うのであれば社会を良くしていく方向に使うことを選択していきたいです」と末さんは語ります。
いよいよリニューアル
完成した宝が池の樹木製のカウンターは、2025年4月にCFKのオフィスで使われ始める予定です。他にも、雨庭(雨水を下水道に直接放流するのではなく、一時的に貯留しゆっくりと地中に浸透させる構造を持った植栽空間)を実装し地域に貢献することを目指すなど、CFKの企業姿勢を体現した取り組みに触れることができます。
他にもロフトワークが伴走させていただいていた「働き方の進化」を後押しする仕掛けがたくさん。「Xスタ(クロスタ)」(壁面2面とテーブルに映像を投影することで動的に情報共有ができ、新たなアイデアやコミュニケーションを誘発するスタジオ)や、展示やトークイベントなどアイデア次第で自由に使える公園のようなエリア「パーク」など…。
この4年間は、一歩ずつ空間と人を育てる、ある種泥臭いプロセスだったかもしれません。だからこそ、つくり手の中心メンバーの魂が注入されている手応えを感じます。彼らの想いは他の社員に伝播していくことと思います。ここから、どんな景色が生まれていくのか楽しみです。
働く人、利用する人を巻き込みながら空間づくりを検討している企業・団体の方は、ぜひお気軽にロフトワークにご相談くださいね。