共鳴する組織をデザインする
- Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ
こんにちは、Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ 事務局の飯澤絹子です。
これからの時代を生き抜くために、経営にデザインの視点をー。
Dcraftは、30社の中小企業が、次世代のビジネスを牽引するリーダーとなることを目指し、経験豊富なクリエイティブディレクターや経営者を講師に招き、デザインを活用した経営手法=デザイン経営の実践を支援する7ヶ月間のプログラムです。
全4回行われる導入支援プログラムのうち、今回は長谷川哲士氏を講師に招き開催した、導入支援プログラムの第3回「共鳴する組織をデザインする」を紹介します。
第3回の講師
長谷川哲士氏(minna inc. 代表取締役) (写真:左)
『minna.inc』 について
2009年、角田真祐子と長谷川哲士によって設立。デザインをみんなの力にすることを目指し、ハッピーなデザインでみんなをつなぐデザインチーム。「想いを共有し、最適な手段で魅力的に可視化し、伝達する」一連の流れをデザインと考え、グラフィックやプロダクトなどの領域に捉われない活動を様々な分野で展開する。グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞金賞、キッズデザイン賞など受賞。武蔵野美術大学、昭和女子大学非常勤講師。
講義編 【共鳴する組織の作り方】
社員が組織を自分ごととして考えられているか
――理想的な組織とはどのような状態なのでしょうか?
長谷川哲士氏(以下、長谷川) 参画しているメンバーが組織を自分事として考え、行動している状態だと思います。具体的には、所属しているどの方も仕事に関する熱意の濃度が同じ状態であり、一人ひとりが自分の言葉でビジョンを語れる状態であれば、ビジョンが社内に浸透している状態、理想的な組織と言えるのではないでしょうか。
組織にビジョンを浸透させるための2つの要素
――ビジョンを浸透させる上でのポイントを教えてください。
長谷川 そこには、2つの要素が必要です。
1つめは、組織のことを感覚的に理解すること。経営に近しい主要メンバー=コアチーム以外がビジョンを言語だけで理解することは難しいです。クール1で生まれたビジョン、そしてクール2でそれをわかりやすく視覚化した絵本、これまでの2つのアウトプットを見せれば、ビジョンを知ることはできますが、感覚的な理解にまではなかなか及べないものです。ビジョンが自分の言葉や感覚になっていけるよう、知ったビジョンと経験がリンクするように誘発する仕組みをつくります。
2つめは、組織に対して外からの評価を得ること。外からの評価とは、メディアからの評価とまでいかなくても、家族や身近な人からの評価でもいいです。自分たちがやっていることは間違いではないといった認識が、自信や満足感につながります。
この2つが繰り返されることで、組織のビジョンが自分事になっていくのだと思います。
ビジョンを体験化してみる
――ビジョンの感覚的な理解のために、具体的になにをすれば良いのでしょうか。
長谷川 組織のことを感覚的に理解してもらうためには、ビジョンを体験化するのはひとつの手段です。具体的には、名刺や社内報といった、コミュニケーションツールにまつわる体験を考えてみるのもいいでしょう。例えば、名刺や店舗のショッピングバックなど、必ず業務で使用するアイテムに、ビジョンを体現する行動を自ずととってしまう仕掛けをするとしたら。何によってどのような行動をとるでしょうか。有形・無形を問わず、言葉だけに頼らないコミュニケーションとして、ビジョンを感覚的に伝えてみましょう。
※詳しくは後半のワーク編でも紹介します!(飯澤)
デザイナーと進めるデザインプロセス
――この講義をうけて早速、デザイナーに協力してもらおうと思う参加者もいると思います。デザイナーへの相談の仕方について、長谷川さんの視点からアドバイスをいただけますか。
長谷川 デザイナーに依頼をするのは、なんとなくデザイナーの力が必要だと感じたタイミングが良いでしょう。デザイナーは色や形を決めることだけが役割ではないので、作って欲しいものありきの依頼よりも、作って欲しいものが発生した理由そのものを伝えること、ビジョンについての根本の話から共有すること、それによって最適なモノゴトを提案してもらえる可能性が上がります。そして、そういった提案から引き受けてくれるデザイナーが、デザイン経営におけるパートナーとしては最適だと言えるでしょう
ワーク編 【自分たちの会社らしいと感じてもらえるモノゴトを制作する】
第1回ではビジョンを更新する方法を、第2回ではビジョンを伝える方法を学びました。今回は、ビジョンを社内に「浸透する」方法を学びます。前回までと同様、30社が参加しました。
「普段行っていることを見直す」のがポイント
企業らしさはオフィスの佇まい、雰囲気など、端々から感じられるものです。業務での普段の行動や使っているツールを見つめ直し、企業らしさを感じてもらえる体験をつくっていきましょう。
まずは、普段行っていることの見直しから、今回制作するアウトプットを決めます。日常の延長を変えるくらいの意識で小さくスタートするのが良いでしょう。アウトプットにするモノゴトが見つからない場合は、社内ツアーを行ったり、自社らしいと思うこと、そうではないことを写真に撮って周り、その理由を言語化してみるのも良い方法です。
五感を通じた体験を意識する
ビジョンを体験化する上で意識してほしいことは五感を通して体感できるかどうかという点です。
クール1と2では言語にすることを行ってきました。しかし、多くの人に理解してもらうには言語で理解してもらうよりも、感覚的に理解してもらうことが必要です。そこで、体験を通し「なんとなくわかる」を目指します。「その企業らしい」「っぽい」をつくるということです。
オフィスに訪れたらすぐに挨拶をしてくれた、スリッパがとても丁寧に並べられていたなど、日常の延長線の端々から企業らしさは感じられます。
参加企業の感想
いろんな事例とそれに対する長谷川さんの講評をお聞きし、ユーザーの能動的な行動をさりげなく促すことが経営におけるデザインの大きな役割のひとつなのだと感じました。
今回の課題を通じて、自社らしい体験のプロトタイプを追求したことで、初めて社員さんに更新したビジョンを伝えることができたと感じています。
らしさを会社として直感的に表現することの難しさに悩んだクールでした。どうしても言語に頼っていた部分もあり情報の取捨選択が難しかったです。
まとめ
今回は、長谷川氏の講義とワークを通じてビジョンを体験化し、実際に社員や顧客からのフィードバックをもらい、改善していきました。繰り返し改善していく中でも社内のビジョン浸透が進むこと、体験の質はビジョンの質と直結しているとわかり、体験をデザインしながらビジョンを改善することの必要性を認識していきました。長谷川氏との質疑応答を経て、デザイナーとどのような共創プロセスが起こるのかを体感できた様子でした。
次回は山田遊氏による導入支援プログラム第4回「ビジョンと経営と社会の接続をデザインする」です。
お楽しみに!