事業化を目指し、自走するチームを作るには?
スタートアップ創出を目指したオンラインワークショップ
Outline
現代の課題は複雑化が進み、個々人が持つ知識やアイデアでは解決が難しくなっています。これを解決するために注目されているのが「ダイバーシティ」です。実現できれば、異なる背景を持つ人々の「視点」や「経験」を生かし、新たな解決法が模索できます。
様々な意見を掛け合わせ、イノベーションを起こすために全国でワークショップやハッカソンが行われていますが、立場や業界を超えた共創は困難なものです。当事者意識を育むことに苦戦して、活動が停滞してしまったケースも多いと思います。
京都の地場産業を盛り上げ、街をよりクリエイティブかつ持続的にしていくために活動を続けている「DESIGN WEEK KYOTO(以下、DWK)」も同様の課題に悩んでいました。当事者意識を育み、持続可能な活動を行うためにはどうすれば良いのか。2020年8月に行われた「クラフトソン(クラフト+ハッカソン)」からそのヒントを探ります。
執筆:鈴木 雅矩
自走するチームとビジネスモデルを生み出す、エコシステムをデザイン
DESIGN WEEK KYOTO は多様な交流を通じて京都の地場産業を盛り上げ、街をクリエイティブかつ持続的にしていくために生まれた一般社団法人です。活動の一環としてクラフトソンが開催され、参加者と共にプロダクト開発を行ってきました。
2020年にはロフトワークが企画と運営に加わり、プロジェクトの方向性を変えて「地場産業を活かしたビジネスモデルの開発」を目指します。コンセプトは「バグズ・イン・ザ・ライフ」。ひとつひとつ異なる自然素材と向き合い、「勘」や「感性」を伴った手しごとを行うクラフトを「バグを内包する存在」と捉えました。突然変異を引き起こし、技術や文化を発展させてきた「バグ(=欠陥、不具合)」をどのように生活の中に取り戻すのか? そんな視点から、工芸や地場産業の可能性をアップデートするサービスを考えます。
8月29・30日に行われたワークショップで地場産業を活かすビジネスプランを練り、2021年2月には投資家等や地元企業へ向けてプレゼンテーションを予定。支援を募りながら、文化的ベンチャーを育むエコシステムをつくります。
Interview
登場する人
北林 功
DESIGN WEEK KYOTO 実行委員会代表理事
COS KYOTO 株式会社 代表取締役として、自律・循環・継続する社会の構築をテーマに文化ビジネスのコーディネートを行う。2016年にはDESIGN WEEK KYOTO を発足。イベントやクラフトソンを開催し、京都の地場産業、そして街を盛り上げる。
木下 浩祐
株式会社ロフトワーク FabCafe Kyoto コミュニティマネージャー / MTRL プロデューサー
カフェ「neutron」・ギャラリー「neutron tokyo」マネージャー、廃校活用施設「IID 世田谷ものづくり学校」企画担当を経て、MTRL / FabCafe Kyotoの立ち上げに参加。FabCafe Kyotoの店舗運営と並行して、年間平均100件を超えるイベントを開催。クラフトソン2020ではプロデューサーを担当する。
堤 大樹
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
京都の呉服問屋に入社後、4年間営業として京都府内を北から南まで駆け回る。その間に「インディペンデント・カルチャー」を取り扱うWebマガジン「アンテナ」を設立。現在も編集長として「企画・ライティング・撮影・編集」の全工程を担う。2016年にロフトワークへ入社した後は、Webサイトの制作からリサーチ、ワークショップの設計から地域創生まで幅広い案件に携わる。クラフトソン2020ではワークショップ全体の設計を担当。
キーワードは“自分ごと化”。単発で終わらないワークショップを目指した
DWKが活動を始めたのは2016年。地場産業の経営サポートや海外進出の支援、文化交流イベント等を行っていた北林さんが「多様な交流を通じて京都の街を盛り上げたい」と考えて事務局を立ち上げました。
京都には長い歴史に育まれた地場産業が根付いていますが、工芸品を使う人が減り、継承者不足が重なって廃業する工房が増えています。また、多様な人がいるのに横の交流が盛んではありませんでした。北林さんはこの状況を変えるために「誰もが京都のものづくりの世界に触れ、交流できる機会をつくろう」と考えました。
DWK 北林さん(以下北林さん):職人さんのなかには、偶然この世界と出会った人も多いんです。付き合った人の実家が伝統工芸を営んでいたり、たまたま工房を見学したら引き込まれてしまったり。ものづくりの現場はとても面白味があるので、接点をつくれば地場産業の魅力に気づいてもらえると考えていました。
立ち上げ後のDWKは、例年2月に人々が地場産業と交流するためのイベントを開催。京都府内の工房や工場が公開され、トークイベントやワークショップ、展示など様々な催しが行われます。クラフトソンは毎年夏に行われ、京都の地場産業を活かしたプロダクトを送り出してきました。活動は今年で4回目になりましたが、北林さんは運営上の課題を感じていたそうです。
北林さん:過去のクラフトソンは活動を持続させることに課題がありました。広くアイデアを集め、クラウドファンディングを通してテストマーケティングも行っていましたが、参加者の熱を維持すること、そしてプロダクト以上の画期的なビジネスを生み出すことが難しかったんです。今までの成果に手応えを感じる一方で、新たな一手が必要だと考えていました。
この悩みを日頃から聞いていたのがロフトワーク の木下です。北林さんと木下は、共に地場産業コミュニティに関わる仲。ロフトワークは2015年12月、「FabCafe Kyoto」を京都に開設。オープン当初から、クリエイターや職人、研究者など、ものづくりに携わる人々の交流が生まれる場づくりを行い、DWKとも継続的にコラボレーションしています。
北林さん:「ものづくり」という共通項があったので、私たちもFabCafe をイベント会場として利用させてもらい、木下さんには過去のクラフトソンで審査員もお願いしていました。地場産業の課題を議論するなかで、「新たな仕組みを考えたいですね」と話していたんです。そこでクラフトソンを進化させるため、ロフトワークに協力をお願いしました。
堤:プロジェクトはヒアリングから始まりましたが、そのなかで北林さんの話にうんうんと頷いてしまいました。「関係者の熱が冷めてしまう」「当事者意識を生み出せない」という課題は、ディレクターとして関わった他のプロジェクトでもよく耳にしていたんです。
新規事業やハッカソンにありがちな課題を解決し、進化させるためにはどうすればいいのか。堤は、持続するプロジェクトには「“自分ごと”として捉えている担当者がいた」と話します。
堤:「これから立ち上げるサービスや、つくるプロダクトを実際に自分たちで使いますか?」と問われて、「はい」と言えるかどうかがとても大切だと感じていて。担当者が「このプロジェクトは僕たちの暮らしを豊かにするかもしれない。だからなんとしても実現したい」と考えていれば、ビジョンに熱意がこもり、周囲の人を巻き込めます。
北林さん:堤さんの話を聞いて、ブラッシュアップの糸口はそこにあると感じました。地場産業の課題を“自分ごと”として捉えてくれる人が現れれば、地場産業の活性化に関わってくれるはず。そして、その活動を支える経済的な基盤やエコシステムも必要です。クラフトソンを進化させるために、今年度は「地場産業の自分ごと化」と「ビジネスモデルの創出」をテーマにしました。
ロフトワークはワークショップの企画・設計のほか、PRと運営を、DWK事務局はワークショップ後の事業化コーディネートを担当し、それぞれの強みを活かしたクラフトソンの設計が始まりました。
コンセプトは「バグ」。ユニークなキーワードが参加者を後押しした
「持続可能な産業をつくるために、どのようなワークショップが必要か?」と議論を重ね、導き出されたコンセプトが「バグズ・イン・ザ・ライフ」です。これには「技術や文化を発展させてきたバグ(=欠陥、不具合)を生活の中に取り戻そう」という意図が込められています。
堤:ひとことで「工芸」と言っても定義は様々ですし、それ単体では業界に関わりがない人には取っ付きづらい。だから興味の入り口として、自分たち自身も地場産業を身近なものとして面白がれるコンセプトが必要だったんです。そうしてミーティングを重ねるうちに、メンバーがポロッと「バグがいいのでは」と言い出しました。
北林さん:ブレストに参加していた僕も面白いコンセプトだと思いましたし、今年は新しいアイデアを集めるために参加者の層を変えてみたかった。ユニークなコンセプトはその目的にうってつけでした。
実際に参加者を募ってみると、クリエイターや職人をはじめ、学生や会社員など、例年とは異なるコミュニティから30名の参加者が集まりました。
堤:例年と異なる層にアプローチできたのは、コンセプトの力が大きかったと思います。今まで「なんとなく地場産業に興味がある」くらいに感じていた人達が、「このコンセプトなら参加してみたい!」と思ってくれた。DWKとロフトワーク がタッグを組んだことも良い効果を生みました。それぞれが培ってきた異なるコミュニティにアクセスできたので、参加者の多様化につながったと思います。
完全オンラインで行われたワークショップ、当事者意識を育むための工夫とは
8月29・30日で行われたクラフトソンではどのようなワークショップを行ったのでしょうか。
堤:ゴールとして定めたのは、ワークショップの後に何かが生まれること。そして参加した人の意識が変わるきっかけをつくることでした。
そのために、ワークショップでは参加者と地場産業の接点づくりに努めました。「工芸を暮らしに取り入れるためにどうすればよいか」「参加者は各々どのような暮らしをしてるのか?」「そもそも、あなたにとって地場産業とは?」と問いを重ね、“自分ごと”として捉えてもらえるよう設計しています。
さらに、コロナ・ショックへの配慮から、ワークショップは完全オンラインで開催されることに。オンラインツールをフル活用して設計を行いました。
堤:アイスブレイクや議論はZoomで進めながら、Miroではアイデア出しなどのアウトプットを行いました。受賞者を決めるプレゼンテーションもオンラインで行っています。
さらにアイデア創出を盛り上げるため、1チームにひとりロフトワークの社員が付き、ファシリテーターを務めました。
木下:一般的にファシリテーターはチームを客観視して、メンバーを導く役割を担います。しかし、今回参加した社員はメンバーとともに考え、正統なファシリテーターに求められることから逸脱した部分もあったかもしれませんが、その場にいた皆の団結を促し、推進力を持たせる場づくりができました。
どのプロジェクトでも「誰かを導く」ではなく「チームの一員として一緒につくること」を大切にしていますし、熱中しなければ“自分ごと”としてプロジェクトに取り組めないので、ある意味ではそれも正解かなと思います。
今年のクラフトソンでは7つのチームが結成され、3チームがプレゼン候補として選出されましたが、選ばれなかったチームのファシリテーターは後日集まって反省会をしていたようです(笑)。
北林さん:木下さんが話してくれたように、ロフトワーク の皆さんはコンセプト段階から運営・進行まで当事者としてプロジェクトに関わってくれました。その熱量が伝わったのか、30名の参加者は皆京都の地場産業を好きになってくれた。これからはクラフトの魅力を伝えるエヴァンジェリストになってくれると思います。
一緒に悩み、考える。そのなかで仲間は増えていく
ワークショップは終わりましたが、クラフトソンはビジネスモデルの創出に向けて進行中。2月のプレゼンテーションに向けてサポートは続いているようです。
北林さん:選出されたチームは月一で報告会を行い、準備を進めています。投資家等から支援を受け、さらに事業化を実現することがこのクラフトソンのゴールです。もっと言えば、その事業が京都発のスタートアップになればいいなと思っています。
投資家のサポートは資金でなくても良くて、事業をより良くするアイデアや「自社の販路や倉庫を使っていいよ」とアセットを提供してもらってもいい。数十万円の少額投資でもいいんです。大事なことは京都の地場産業を盛り上げること、それを支える人とエコシステムを育むことだと思っています。
だからこそ、プレゼンテーションの場に誰を連れてくるかが重要です。文化的な事業に関心を持ってくれる投資家や地元企業を呼ぶために交渉を進めています。
2020年のクラフトソンはまだ終わっていませんが、北林さんは来年に向けた構想を描いているようです。
北林さん:今年はオンラインでクラフトソンを進めたので、全国から参加者を集めることができました。場所を問わずに開催できることがわかったので、来年はアジア全域から参加者を募ってみたい。そして、いずれは「五方良し」をものづくりの世界に広めていきたいです。
僕らは「五方良し」を行動指針にしています。近江商人が使っていた「三方良し」は売り手・買い手・世間の3者を重視していました。でも、そこに作り手は含まれていません。
私たちはものをつくる「作り手」、価値を伝える「伝え手」、物を使う「使い手」、地球全体を視野に入れた「社会」、そして次世代やその先を含めた「未来」の五方良しを目指しています。
「ここに課題があります」と一方的に伝えるだけでは、なかなか当事者は増えてくれません。共に考え、悩むからこそ、当事者が増えていくと思います。
まだ接点がないだけで、課題を見つけて「無関係ではないかも」と関心を寄せてくれる人はきっと近くにいるはず。ワークショップは「一緒に考えてくれませんか?」とお願いできる手段なのかもしれません。
Member
北林 功
一般社団法人Design Week Kyoto
実行委員会 代表理事COS KYOTO株式会社 代表取締役
堤 大樹
株式会社ロフトワーク
シニアディレクター
南 歩実
株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター
飯田 隼矢
ロフトワーク
クリエイティブディレクター
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