東日本旅客鉄道株式会社 PROJECT

モビリティ変革に、ユーザー視点を取り入れる。
デザイン思考実践の場づくり NewHere Project

Outline

産学連携を通じて、モビリティ領域におけるイノベーション創発を目指して活動する「モビリティ変革コンソーシアム」。JR東日本が主催・運営する本コンソーシアムの取り組みの中で、ロフトワークは2019年より「ユーザー中心のサービス開発の促進」をミッションとした『NewHere Project』の活動を進めてきました。

2020年度は、コンソーシアム参加企業とチームを組み、2つの具体的なサービスアイデアを起点にデザイン思考のフレームワークを用いたプロトタイピングを実施。さらに、コロナ禍以降の世界における「移動の新しい可能性」を模索するために、グローバルクリエイティブアワード『YouFab』とのコラボレーションを実施しました。

モビリティ領域で世の中にインパクトを与える新事業・新サービスの開発と社会実装を目指し、NewHereは取り組みを継続していきます。

執筆:石部 香織
編集:岩崎 諒子(loftwork.com 編集部)
キービジュアル写真撮影:村上 大輔

プロジェクト概要

  • プロジェクト期間
    • 2019年2月〜継続中
  • クライアント・プロジェクト名
    • クライアント名:東日本旅客鉄道株式会社
    • プロジェクト名:NewHere Project
  • 体制
    • ロフトワーク:
      • 柳川 雄飛:プロデューサー
      • 多田 麻央:プロジェクトマネージャー
      • 上村 直人:クリエイティブディレクター
      • 野島 稔喜:アシスタントディレクター
    • クリエイター:
      • 中野 雄大(SAKIGAKE Projects Inc.)
      • 樋口 恭介(アノン株式会社, SF作家)
      • 武田 侑大(イラストレーター)
      • 宮田 龍(科学コミュニケーター)
      • 野中 聡紀(イラストレーター)

技術視点からユーザー視点へ。組織の「発想の転換」を担ったプロジェクト

「モビリティ変革コンソーシアム 」は、JR東日本の主催で2017年に設立。交通事業者・国内外企業・大学・研究機関などが横断的に繋がり、「移動」を主なテーマとした社会課題の解決、イノベーション創出を目的に活動しています。

しかし、組織内の議論では参加企業が持つ既存技術からの発想に偏りやすく、真にユーザーから求められるサービスが生まれづらいという課題がありました。そこで、従来の技術ありきの発想からユーザー中心の発想に転換するための試みとして、JR東日本・コンソーシアム参加企業・ロフトワークは、2019年2月より共同プロジェクトとしてNewHereを発足しました。

プロジェクトでは、コンソーシアム外の専門家やクリエイターと協働しながら、デザイン思考のアプローチを取り入れたサービス開発を実践。定期的なイベント開催と情報発信ができる仕組みを構築し、社会課題に対する中長期的なビジョンを検討するワークショップなどを開催しています。

組織を超えた協働システムを構築し、アイデア創発から社会実装を目指す

2019年2月、NewHereは「渋谷」を舞台に、新しいモビリティサービスのアイデアを創出するアイデアソンを実施。渋谷駅周辺エリアを利用する人々の「移動」に関するインサイトを多角的に探りました。

また、2019年度からの取り組みでは、アイデア創発のみならず社会実装を視野に入れてプログラムをアップデート。オンライン公募プラットフォーム「AWRD(アワード)」を使ったサービスアイデア募集から始まり、アイデアが採用されたクリエイターとのチームビルディングや、各チームのメンタリング、プロトタイピング、ユーザーテストを実施しました。これにより、コンソーシアムにおける業種・業界を超えたコラボレーションを生み出すエコシステムが生まれていきました。

サービスプロトタイプを持ちプレゼンするチームの様子
アドバイザリーからのフィードバック

デザインとアート、それぞれアプローチでサービスアイデアを創出

2020年度は、より社会実装の確度が高いアイデアを生み出すため、コンソーシアム参加企業、JR東日本との連携を強化。これまで組織内で議論されてきた既存テーマについて、新たな視点から掘り下げるためのチームを編成し、デザイン思考を用いたサービス開発プログラムを実践しました。

さらなる新しい試みとして、クリエイターのグローバルネットワーク「FabCafe(ファブカフェ)」が開催するクリエイティブアワード『YouFab 2020』とのコラボレーションを実施。世界中のクリエイターからアイデアを募ることで、モビリティの未来を考える上で必要な視点・示唆を得ることを目指しました。

2020年度の取り組み タイムライン

Outputs

「空飛ぶクルマ」のサービスプロトタイプ

コンソーシアムがこれまで取り組んできたテーマ「ロボット活用」や「混雑緩和」の文脈から派生して、「空飛ぶクルマ」のサービスアイデアを検証しているチームがNewHereのプログラムに参加しました。「空を飛ぶ」ことに対する人間の潜在的な期待や価値を明らかにした上で、新しいエアモビリティサービスを検討。移動に速さを求めるのではなく、「ゆっくりと静かに空を飛ぶ」ことで得られる体験を提案しました。

「空飛ぶクルマ」の模型 ©︎ 2021 SAKIGAKE Projects Inc.
「空飛ぶクルマ」活用シーンを描いたビジョンイラスト/イラストレーション:武田 侑大
「空飛ぶクルマ」機体イメージ ©︎ 2021 SAKIGAKE Projects Inc.

「DXヘルスケア」のサービスプロトタイプ

「Smart City」の文脈にて生まれたのは、移動・心身の健康・デジタル技術を組み合わせた「DXヘルスケア」を検証するチーム。改札内のスペース、いわゆる「駅ナカ」で身体をメンテナンスできたり、医師の問診が受けられる体験をストーリーボードに落とし込みました。

「DXヘルスケア」のユーザー体験を描いたストーリーボード/イラストレーション:野中 聡紀

サービスアイデアを社会に共有する企画展示

プロジェクトを通じて創出されたサービスプロトタイプは、高田馬場駅に直結するカフェ「STAND by bookandbedtokyo」で展示。駅利用者に向けて、NewHereの活動とアイデアを共有しました。

「STAND by bookandbedtokyo」でのサービスプロトタイプ展示風景/写真:村上 大輔

クリエイティブアワード『YouFab 2020』NewHere賞 受賞作品

『YouFab 2020』とのコラボレーションにより設けられた「NewHere賞」では、世界各国のクリエイターから作品が寄せられました。

受賞した「City Glinder – Next Gen Footwear」は、靴の中の空気圧機械システムによって、より疲れを感じにくい歩行体験を可能にするアイデア。人々が移動手段として「歩行」を選択しやすくすることで、車両混雑や事故、二酸化炭素排出量を削減し得る、持続可能なモビリティの未来を提示しました。また、推薦作品としては、インターネット注文できる材料を使って都市の中に学習スペースを誕生させる「S.O.S-Solution Of School-urban plug-in!」が選ばれました。

「City Glinder - Next Gen Footwear」 ー YouFab特別賞「NewHere賞」受賞作
「S.O.S-Solution Of School-urban plug-in!」 ー YouFab特別賞「NewHere賞」推薦作品

Story

組織を超えたチームを結成。既存アイデアに新たな視点を取り入れて社会実装を促進

2020年度のNewHereは、コンソーシアム内で議論されている既存テーマを起点にアイデアを創発。以下の4つの基準により、掘り下げるテーマを選出しました。

  • 親和性: コンソーシアムの旗印が提唱する社会の実現に寄与する内容か
  • 実現する意義: ビジョンやゴールを描けているか
  • 生活者視点: コロナ禍における生活者のライフスタイルや価値観の変化の根本的な理由や背景を捉えているか
  • 実現性: 2.5年以内に社会実装が可能か

そうして選ばれたのが、「空飛ぶクルマ」と、多くの企業が関心を示した「DXヘルスケア」という2つのテーマ。コンソーシアム参加企業とNewHereが合同チームを結成したことにより、各テーマを多様な視点から検証することと、新しいサービスアイデアをより実現性の高いものにブラッシュアップすることの両方が可能になりました

デザイン思考とSFの視点で、課題発見からプロトタイピングまで一気通貫で実施

デザイン思考の「ダブル・ダイアモンド」のフレームワークを実践。

各チームは、デザイン思考の「ダブル・ダイアモンド」のフレームワークに則り、課題発見からインサイト探索、ビジョン策定、ソリューション・サービスへの落とし込みを実施

「空飛ぶクルマ」チームが目指したのは、参加企業がかねてからサービス化を検討している本アイデアを、社会需要の観点から捉え直すこと。そのために、2種類のインタビューを行いました。

1つ目は、ユーザーインタビュー。「空飛ぶクルマ」はまだ既存サービスがないため、空を飛ぶアクティビティを好む社会人や大学生を「想定ユーザー」として、話を聞きました。2つ目は、エキスパートインタビュー。参加企業に所属するパイロットや、パラグライダーを使った空撮を行う写真家たちを対象としました。

インタビューで得られた結果をデスクトップリサーチの内容と統合し、新しいサービスの仮説を設定。「空飛ぶクルマ」の理念、ミッション、ビジョン、バリューを言語化し、サービスのコンセプトへと落とし込みました。

新しいサービスの指針となる、「理念(PHILOSOPHY)」「存在意義(MISSION)」「実現したい未来(VISION)」「提供価値(VALUE)」を言語化した。

「空飛ぶクルマ」のアイデアを具体化するプロセスでは、工業デザイナーの中野雄大さん、SF作家の樋口恭介さん、イラストレーターの武田侑大さん、科学コミュニケーターの宮田龍さんらと協働。SFプロトタイピングの手法を取り入れながら、サービスアイデアをビジュアライゼーションしました。

中野 雄大/
SAKIGAKE Projects Inc. 代表取締役・工業デザイナー

樋口恭介/
SF作家

武田 侑大/
イラストレーター

宮田 龍/
科学コミュニケーター

空飛ぶクルマのある未来を描いたSF小説 / 執筆:樋口 恭介

グローバルアワードを通し、先端的視点から「モビリティの未来」を捉える

パンデミックを経験した社会で、人の移動のあり方・可能性はいかにアップデートされるのか。その問いに対し、先端的な感性で世界を眺めるクリエイターたちからの答えを受け取るべく、NewHereはグローバルクリエイティブアワード『YouFab 2020』に協賛し、特別賞『NewHere PRIZE』を創設。「移動の可能性」をテーマに、アイデアを募集しました。

多数の応募が集まったYouFab2020(キャプチャはエントリー作品の一部)

『NewHere PRIZE』には、世界各国のクリエイターの鋭敏な感性による作品が多数寄せられました。コロナ禍以降の世界で移動に関してどのようなインサイトがあり、それらに対していかにクリエイティブな発想で応えることができるか。多彩なアプローチに触れることで、これまでコンソーシアムのメンバーが意識し得なかった視座を獲得しました。また、「空飛ぶクルマ」チーム自らが一作品として応募したプロトタイプも、クリエイティブやメディアのスペシャリストたちによる審査を経て、その価値や可能性についてのフィードバックを得ることができました。

協働体制とプログラム設計を大きくアップデートした今回の試みを通じて、新しいモビリティサービスの社会実装へ歩みを進めたNewHere。コンソーシアム活動の終了を予定している2022年度末に向け、さらなる挑戦を続けていきます。

Member

柳川 雄飛

株式会社ロフトワーク
シニアプロデューサー

Profile

多田 麻央

株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター

Profile

上村 直人

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

野島 稔喜

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

メンバーズボイス

“「モビリティ変革コンソーシアム」は、解決が難しい社会課題や次世代のまち・交通について、交通事業者や国内外企業、研究機関などとチームを組み、モビリティ変革を実現する場として設立されました。

コロナ禍を含め様々な課題に直面している現在、これまでのやり方を保守的に続けるのではなく、社会に必死に食らいつき、更にどんどん先を行かなければなりません。そこで、モビリティ変革コンソーシアムでは、イノベーションの火を絶やさずに社会課題の解決を図るべく、取り組みを続けています。

しかし、私たちJR東日本だけでは固定観念に捉われ、解決方法の模索で行き詰ってしまいます。そこで、NewHereにて多くのアイデアや手法を採用し、次世代のまち・交通について考えてきました。これまでにも夢のある、わくわくするようなアイディアを多くいただきました。

今後も、モビリティ領域において世の中にインパクトを与える新事業・新サービスの開発と社会実装を目指し、固定観念に捉われない斬新な取り組みを実践してまいります。”

佐藤 勲/東日本旅客鉄道株式会社 技術イノベーション推進本部 データストラテジー部門 部長

“NewHere Projectは、形を変えながら実験的な取り組みを続けてきました。

2018年度はアイデアソンを通じて、これから私たちの生活をモビリティがどう変えていくのかを想像することができました。2019年度の取り組みでは、課題を持った人々とボトムアップで社会に新たな価値を実装する難しさを知りました。2020年度はコロナウイルスの影響を受けながらでしたが、プロジェクトの方針は変わらず、私たち自身がひとりの生活者であることを忘れずにユーザードリブンでサービスの構想やプロトタイピングを続けてきました。

モビリティ変革コンソーシアムの活動期間がいよいよ残り2年となった中で、NewHere Projectができることは何か? それは、この活動自体が終わった先も、価値あるサービスが実装され続けていくための「仕組み」をつくることだと考えています。コンソーシアムの空気も活発に変化し続けています。残り2年の活動にぜひ注目していただけたら嬉しいです。”

柳川 雄飛/株式会社ロフトワーク プロデューサー

“3年度目になりますが、NewHereという取り組みが少しずつ形になってきていると実感しています。引き続き本活動を通じて、地域企業や大学、ユーザーとなる生活者が有機的につながり、モビリティという切り口から、世の中をより良くしていくエコシステムを作れたらと思います。”

多田 麻央/株式会社ロフトワーク クリエイティブDiv. シニアディレクター

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地域、人、大学のつながりを「対話」を通して言語化
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