株式会社ブリヂストン PROJECT

“人の動きを支える”ブリヂストンへ
ソフトロボティクス事業にかける想い

Outline

10年後の未来を見据え、新事業を開拓する際に必要な視点とは?

株式会社ブリヂストンは、2021年2月中期事業計画 (2021-2023)にて、探索事業として「ソフトロボティクス事業」へのチャレンジを発表しました。
同社では、長年にわたるゴム素材の研究開発の知見を活かし、ソフトロボティクスの分野で人工筋肉としての活用が注目される「ラバーアクチュエーター*」の開発を進めてきました。人工筋肉をまとった「柔らかな性能」を持つロボットが人の暮らしを支え、活躍する未来を想定し、5つのワーキンググループを立ち上げ、新領域の事業検討を行っています。

ロフトワークは未来探索チームに並走し、10年後の社会におけるラバーアクチュエーターの用途を探索しました。

プロジェクトの指針となったのは、デザイン・ドリブン・イノベーション**のアプローチ。「なぜ、ブリヂストンがソフトロボティクスに挑戦するのか?」という「なぜ」を考え抜くプロセスを通じて、社会における新しい「動力」のあり方の意味をデザインすることを目指しました。

未だこの世にない製品の意味を見出し、新規用途を開拓する際に、どのような視点やプロセスが必要なのでしょうか?

株式会社ブリヂストン・ソフトロボティクス事業を率いる事業責任者、探索事業開発第1部門長 音山さん、本プロジェクトリーダーの山口さん、プロジェクトマネージャーのロフトワーク長島による鼎談の模様をお届けします。

ブリヂストンの技術が詰まった「ラバーアクチュエーター」の技術開発 ※東京工業大学 鈴森教授の協力によって開発

*ラバーアクチュエーターとは
ラバーアクチュエーターは、タイヤや油圧ホースの技術を適用したゴムチューブと繊維を編んだスリーブからなる高分子複合体です。「柔らかいロボット」を実現させるソフトロボティクスの分野で注目されています。ラバーアクチュエーターが普及すれば、これまでのアクチュエーターにはなかった「感覚」という要素を加え様々な用途への活用が期待されています。

**デザイン・ドリブン・イノベーションとは
ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授が唱えた概念。「意味」 のイノベーションとも呼ばれ、従来のデザイン思考とは異なるアプローチのイノベーション創出手法である。ベルガンティは、社会や価値が激変するときには、前提に疑問を投げかける必要があり、その答えは、どのように(HOW)ではなく、なぜ(WHY) の中にあると主張しています。

  • プロジェクト期間:2020年10月〜2020年12月
  • プロジェクト体制:
    クライアント:株式会社ブリヂストン
    プロジェクトマネージャー:長島 絵未
    クリエイティブディレクション:長島 絵未、柳原 一也、伊達 善行
    プロデューサー:小原 和也
    イラストレーター:タカハシジュンヤ
    有識者 :
    ・南澤 孝太 教授(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 KMD)
    ・嘉数 正人(株式会社CuboRex 取締役)

執筆:杉田 真理子
撮影:村上 大輔
企画・編集:loftwork.com編集部 横山 暁子

Process

Interview

登場人物

左から
ブリヂストン ソフトロボティクス事業開発第1推進課 山口 真広さん
ブリヂストン 探索事業開発第1部門長 音山 哲一さん
ロフトワーク クリエイティブ ディレクター 長島 絵未

人々の暮らしに寄り添いたい、という創業者の想いに立ち返った

ロフトワーク長島(以下、長島): 2021年2月に公表されたばかりのソフトロボティクスプロジェクト。今回のプロジェクトのはじまりから事業立ち上げの経緯まで、お聞かせいただけますか?

株式会社ブリヂストン 音山さん(以下、音山さん): 2020年6月にラバーアクチュエーターの事業化プロジェクトが立ち上がり、私は9月に事業開発部門の責任者となりました。ラバーアクチュエーター自体は、実は1980年代から開発が始まっている以前からある技術です。当時は事業化してもうまくいかなったのですが、去年から改めてこの技術に向き合うことになりました。

株式会社ブリヂストン 探索事業開発第1部門長 音山 哲一さん

長島: そもそもなぜ、ラバーアクチュエーターが改めて注目されるようになったのでしょうか?

音山さん: 会社全体の機運として、「モビリティ・環境・人」についてアクションを起こしていこうという動きがある中で、モビリティ・環境については既に直結した事業がありますが、「人」についてはまだ摸索中の状態でした。創業者が「人々の暮らしに寄り添う」ことを大切にしていたこともあり、人のために何かしたいと、改めてラバーアクチュエーターに目を向け、そこから事業化計画が立ち上がりました。

また、新しい事業を通して、起業家精神を持った若手をもっと活躍させていきたい、という人材育成の面もありました。山口さんと一緒に活動を始めたのにも、そうした経緯があります。

株式会社ブリヂストン 山口さん(以下、山口さん): 私は2018年の夏に入社し、本社勤務を経験しました。本社は戦略を作ることができますが、実際に実行ができないことに、もどかしさを感じてもらいました。いいアイデアが「いいね」で終わってしまい、自分で実行できないというジレンマがあったんです。元々マーケティングが専門ですが、技術ドリブンのイノベーションに興味がありました。

株式会社ブリヂストン ソフトロボティクス事業開発第1推進課 山口 真広さん

「事業」「人材育成」両輪を担う探索事業で社会課題に貢献する

長島: ソフトロボティクスは今回、探索事業とされています。探索事業はブリヂストンの中でどのような役割だと捉えていますか?

音山さん: ブリヂストンは、タイヤの売り上げが約85%を占める既存事業が強い企業です。“モノ”を創って売るコア事業をさらに強化し、成長事業であるソリューション事業を拡大させていくことが重要になります。また、「2050年までにソリューションカンパニーになる」というVISIONがあり、既存事業に加え、新しい事業をクリエイトしていくことが必須です。

人材育成の側面もあります。探索事業を通して、企業家精神を持っている若手が挑戦できる舞台をつくりたいという想いもあります。ブリヂストンでは、ビジネス変革に合わせて人の働き方を変える「HRX(Human resource transformation)」を掲げていますが、ここで探索事業は大きなキーとなります。

山口さん: 探索事業という言葉はなかなか珍しいですよね。英語で言うと「Area of exploration」と言って、僕が気に入っている言葉です。大企業で新規事業を考える際には、社会課題に即し、世の中にソリューションを提供するくらいの規模で考えていかないとなかなか通すことができません。ソフトロボティクス事業は、テーマとしてはぴったりでした。

一方、社会課題というふわっとした話を、いかにリアリティあるものとして語るかが大事です。あちこちに出向いて、現場から生々しい話を聞くことで、手触り感のあるプレゼンに仕上げることにこだわりました。

長島: リアルな情報をどう集めるか、に尽力していたんですね。

音山さん: 大企業はなかなか新しい事業を受け入れるのが難しいですよね。トップを含め、全員が答えをもっていないのが新規事業です。ただ、答えは顧客が持っています。彼らに手触り感のあるリアルな情報を持って、きちんと伝えることは常に意識していますね。今回、顧客ベースのアプローチが強みとなり、探索事業として進展させるに至りました。

「なぜ?」を自身で問い、明確な答えを持つことが大切

長島: 今回、ロフトワークをパートナーに選んでいただいた理由をお聞かせください。

音山さん: ソフトロボティクスの事業化に向けて、未来探索グループ、技術開発チームなど複数のチームを形成していました。この未来探索の部分で、ロフトワークと一緒にやりたいと思いました。素材に特化したプラットフォーム(MTRL マテリアル)を運営していて、素材に強い企業ということで、即決しましたね。

事業開発ももちろんですが、若手の育成も意識したプロジェクトでしたので、一緒に探求するプロセスが大事だと感じました。

長島: そうでしたね。我々からは、若手が中心のチームということもあり、未来社会におけるラバーアクチュエーターの用途アイデアをより強固なアイデアにするため、デザイン・ドリブン・イノベーションのアプローチを提案しました。これは、開発に関わる研究者、開発者、企画者個人のアイデンティティをベースに、批判的思考を発揮させながら、「How」ではなく「Why」の問いから出発する開発のアプローチです。

プロジェクトの中では、「なぜ」その材料や製品は我々の生活に必要とされていて、それはどのような意味があるのかを問うプロセスを大事にしました。特に「他の会社ではなくなぜブリヂストンがやるのか」「なぜ社会に必要とされるのか」の部分を、プロジェクトメンバー自身が明確に答えられるということを強く意識しています。「なぜやるのか」が自身の中で明確でないと、モチベーションを保ち、新規事業を承認を通すことは難しいと考えてプロジェクトを設計しました。

ロフトワーク クリエイティブ ディレクター 長島 絵未

長島: 山口さん、実際にプロジェクトをご一緒して、いかがでしたか?

山口さん: デザイン・ドリブン・イノベーションという言葉だけだと、スッと入ってこないですよね。あったら良いね、という発想だけでは意味がない。ロフトワークにディレクションしてもらいながら、どういうものが世の中に意味があるのか、現実感も含めて考えていきました。

主に若手を中心に構成されていたチームでしたが、自分の意見を言うことに慣れていないなど、新しいプロセスに慣れず、作業が難しい面もありました。彼らには、このプロジェクトが終わった後も、「自分ごと」として考えてもらいたいという想いはありましたね。

音山さん: 与えられたことをこなせる優秀な人は多いのですが、「なぜ」を突き詰めて考えられる人は少ないです。変化の多い時代に、自分で考えることができないとなかなか前に進めない。だからこそ、正解がないものに対して自分で問いを立て、答えていくことが大事です。ロフトワークとのプロジェクトは、自分で問いを立てる機会になったと思います。探索事業を通じて、社員が殻を破って自分のフィールドを広げていってほしいと考えています

長島: 絵空ごとで終わってしまわないよう、プロジェクトでは現実に戻すような問いかけを何度もして、わたし自身が皆さんの壁打ち相手になれるように意識して振る舞っていました。しつこいくらい、粘り強く彼らのアイデアに向き合えたと思います。皆さん自身とても優秀なので、我々が持っていない視点も多く、こちらとしても学びの多いお取り組みになりました。これがご一緒してアイデアの「意味」に向き合う意義ですね。

長島: 未来へのアイデアにリアリティを持たせるために、もう一つ意識したことがあります。それはアイデアの先にある「産業」を見据えることです。「産業」を捉えそこにあるニーズを見定める広い視点と、手元にある材料の特性とを行き来しながらアイデアを研ぎ澄ませるプロセスが大切だと考えています。また、自分自身の興味から出発することももちろん大切ですが、社会にとってなぜこれが必要か、自分の中で消化できていることも重要です。

音山さん: 「具体性」と「自分がやりたい」ことを重視しました。お客さんから生の声をきいて、社会や産業に何が必要かということを意識するようになりましたね。

慶應義塾大学大学院 南澤教授とともにワークを実施

“私たちがやる意味”をとことん考えた

長島: プロジェクトを終えて、メンバーのみなさんに何か変化はありましたか?

山口さん: 問いの立て方、インタビューの仕方など、対話ができるように鍛えてもらったと思っています。

音山さん: 像を描く力が身につきましたね。誰がやるのか、どう実現するのか、考える癖がついてきました。

長島: 問いに答えるプロセスがプロジェクト後の業務にも生きているということですね。とても嬉しいです。プロジェクト後には、ソフトロボティクス事業に対する社内承認を獲得されていました。承認を通すためにどのような部分を強調されましたか?

音山さん:大企業で新規事業をやるには、単に「やりたい」だけでは十分ではありません。産業としての社会貢献や、ブリヂストンがやる意味についても考える必要があります

ソフトロボティクスを実現するためには、3つの要素(ソフトマテリアル、ソフトアクチュエーター、制御)が必要です。それらの技術を、ブリヂストンは既に持っている。それを我々がやらなくてどうするんですか?と提案しました。

長島: 弊社とのプロジェクトは、どういう位置づけになりましたか?

山口さん: どういう社会にしたいのか、産業のどの部分が変わっていくか、ここにラバーアクチュエーターがどう関わるのか、この部分についての洞察が、プロジェクトを通じて深まりました。最終成果物レポートも素晴らしく、探索事業の承認をとるための社長プレゼンにも一部入れさせてもらっています。

音山さん: ソフトロボティクスが実働する世界は、遠い世界だと思っていましたが、意外と身近なことだ、と自分自身の考え方が変わりました。また、ロフトワークとディスカッションを進めた短期間のなかでも、ソフトロボティクス関連のコミュニティを広げてくれたのもよかったです。

3ヶ月のプロジェクトで出たアイデアがポンと事業化に直結するとは初めから思っていません。それよりも、過程が大事ですよね。探索事業は、共創無くしてありえないと思っているので、ここで生まれた関係性は今後に生きてくるはずです。

探索事業は共創なくしてありえない

長島: 共創を軸に事業を展開するということですが、ぜひ今後の展開について教えてください。

山口さん: モノを作って終わり、というビジネスモデルでは新事業として意味がないと思っています。共創的アプローチで、どう世の中が変化するのか、誰と組んで、どのような価値を生み出せるかということを考えながら、事業を発展させていきたいです。中長期的な視点も必要ですね。

音山さん: 今までは自前主義でしたが、これからはアカデミア、スタートアップ、大企業などと積極的にコラボレーションしていきたいです。その拠点となるのが、Bridgestone Innovation Parkです。パーク内にイノベーションセンター(B-Innovation)も建設中です。オープンイノベーションハブという、共創活動を積極的に行うエリアもできます。

「人の移動」を支えてきたブリヂストン。これからの私たちのテーマは、「人の動き」を支えることです。これから、さまざまな共創パートナーと共にソフトロボティクスの可能性を広げていきたいです。

長島: ソフトロボティクスという、これからの社会をつくる分野を今後ともぜひ一緒に開拓していきましょう。

Bridgestone Innovation Parkについて

ブリヂストンが社会、お客様、パートナーとつながり、新たな社会価値と顧客価値を生み出していくための複合エリア「Bridgestone Innovation Park」。ブリヂストンの歩みやDNA、事業活動、さらに未来に向けた活動をご紹介するBridgestone Innovation Galleryに加え、社内外の共創拠点B-Innovation、生み出されたアイデアを実車を使って体感、検証するB-Mobilityを建設中。

Bridgestone Innovation Gallery

MTRLについて

MTRLは素材メーカーとクリエイターの共創を支援しイノベーションを生み出す、グローバルプラットフォームです。MTRLは、マテリアルこそが製品に意味を与え、イノベーションを生み出すことを疑わないすべての人の「MATERIAL DRIVEN INNOVATION」(マテリアル・ドリブン・イノベーション)の創発を支援します。

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“MTRLではデザイン・ドリブン・イノベーションをベースに、より「材料・技術開発」に特化した「MATERIAL DRIVEN INNOVATION」を実現するためのアプローチを、みなさまと探求しています。MTRLのプロジェクトの中でも近年大きな比重を占めるテーマ、ロボティクス分野は、近年目覚ましい技術開発が展開していますが、究極的には人間の「不可能」を「可能」にする世界の実現が目指されます。中でも、ロボットやアバターが人間の暮らしに寄り添い、人の「能力、活躍、ライフ」を支える存在になることを目指したコンセプトが多く議論されています。ブリヂストン様ともそのような視点を大切にしながら、人にとって、社会にとって、産業にとって「なぜその技術が必要か」について多くの解釈をぶつけ合い、進むべき道筋を描いていきました、あとはその世界を信じて、まっしぐらに進んでいくだけです。”

ロフトワーク MTRL事業責任者 小原 和也(弁慶)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任研究員

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