株式会社高山活版社 PROJECT

ボトムアップで価値共創できる組織へ
創業110年の印刷所が挑戦したデザイン経営

Outline

「らしさ」を生かし、持続的に成長できる組織への変革を目指して

大分県大分市にある株式会社高山活版社は、創業110年の歴史を持つ、大分県で最も古い印刷会社です。長年にわたり百貨店や結婚式場向けの業務用印刷を売上の主軸としていましたが、市場は年々縮小傾向にあり、事業計画の見直しが急務となっていました。

未来に向けて事業を持続的なものにするため、ロフトワークとともにデザイン経営導入のアプローチである「ビジョン更新」「組織の変革のデザイン」に取り組みました。マネジメントと社員それぞれの声をもとに自社の価値を再定義し、企業理念とステートメントを刷新。また、事業構造を再編し、20年後を見据えた事業ロードマップを策定しました。

執筆:吉澤 瑠美
編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)

プロジェクト概要

  • クライアント:株式会社高山活版社
  • プロジェクト期間:2020年10月〜2021年2月(5ヶ月)
  • 体制
    • PD:井上 龍貴、二本柳 友彦(いずれも株式会社ロフトワーク)
    • PM・CD:加藤 大雅(株式会社ロフトワーク)
    • CD:戴 薪辰(株式会社ロフトワーク)
    • コピーライティング:山村 光春(BOOKLUCK)
    • プロダクトデザイン:井下 悠(INOSHITA DESIGN)

Challenge

「デザイン経営」を糸口に、自社の「ありたい姿」を組織基盤とロードマップに落とし込む

既存の事業が縮小する一方で、近年は外部デザイナーとの協働による自社プロダクト開発や、デザイナー向けの活版印刷サービスの売上が伸長。これらの動きを強化し、自社製品・ODMに結びつけたいと考える一方で、社内に根付くトップダウンと縦割りの文化が創造的な活動のハードルとなっていました。

そこで本プロジェクトでは、マネジメントと社員双方の視点を交えながら自社の「ありたい姿」を明文化すると同時に、社内からアイデアや価値創造が生まれる主体的な組織文化をインストールしていくことを目指し、以下の3つを行いました。

  1. リブランディング:自社の価値を再定義すること
    高山活版社の経営理念に代わる社員全員の “合言葉” としての企業理念をつくる
    新しいステートメントを作ることによって、高山活版社の提供価値を言語化する
  2. 組織変革と文化醸成
    社員が主体的に外部デザイナーと連携しながら商品・サービスを生み出す組織文化をつくるため、製品・サービス開発できるフローを設計。実際に新製品のプロトタイプを制作することでフローを試験運用する
    社員主導による新製品のお披露目イベントの企画・実施を支援する
  3. 事業ロードマップ作成:直近3年間の事業戦略を整理し、施策を見える化すること

Outputs

ミッション

提供価値

ステートメント

Aタイプ
Bタイプ

社員主導による新製品開発プログラム

これまでは社長が主導して進めていた、自社製品開発。本プロジェクトでは、プロダクトのアイデア創発からデザイナーと協働した製品開発までを社員が主導して行えるよう、デザイン思考の手法を取り入れた開発プロセスを設計し、社内にインストール。その実践による成果として、デザイナー 井下悠氏のデザインによる新製品『「NOT A NOTE」 №1 White Diary』が誕生しました。

持続可能な「ゆるやかな成長過程」を描いた事業ロードマップ

2015年からクリエイターとのコラボレーションや自社ブランドの立ち上げなどの新事業にも取り組み始めた高山活版社。新たなミッションのもと、組織として成長できる事業戦略を描いていくには、各事業の伸び率を正確に把握する必要がありました。

そこでロフトワークは事業構造の再編を提案。顧客ニーズ軸に再編された過去5年分の売上データを参照しながら、経営陣とともに成長が期待される事業領域を分析しました。加えて、現状の売上分析をもとに3年間の事業ロードマップ案を作成。プラス成長を前提としつつも、あくまで大きなジャンプアップよりも社員が前向きに事業に取り組めることを優先した、着実な成長過程を提案しました。

ミッションを新たにした高山活版社の事業戦略を考える上で、事業構造を再編

Story

マネジメントと社員が協働し、企業理念を編み出すための「3つのワークショップ」

従来のトップダウン型の業務体制は、業務の安定性と顧客からの信頼をもたらす一方で、社員の主体性や創造力を削いでしまうリスクにも結びついていました。事実、社内には「ただ働いている」「与えられた作業をしている」という受け身の意識が広がっており、マネジメントは組織変革の必要性を感じていました。

ロフトワークは、全社員の拠りどころとなるべき企業理念が形骸化している点に着目し、その刷新を提案。社員のモチベーションや目指す組織像を反映した「合言葉」としての企業理念を改めて共有することで、主体的な発想やボトムアップ型への変革の足がかりとしました。

社員の動機と部署間の対話を引き出す

はじめに、高山活版社のメンバーが描く「理想の組織像」をキャッチアップすべくワークショップを企画。経営層と社員では視座が異なるため、意見やアイデアを発散するワークショップを別々に開催しました。

社員が取り組んだのは、会社と個人のつながりを再認識するためのワークショップ。高山活版社で働くことになったきっかけや働く中で喜びを感じた経験談を語りました。工場勤務でワークショップになじみのない社員も多い中、ファシリテーターと対話のラリーを重ねることで、硬直した思考を解きほぐし、自由なコメントやアイデアを引き出しました。

歴史の中から「ならでは」の価値を再発見。そして、「ありたい姿」を言語化

一方、経営陣は作成途中となっていた社史の編纂からスタート。これまでの高山活版社の歩みを振り返り、その時々の事業が担っていた社会的意義と現在の社会を見比べながら、自社の強みや機会を探りました。

それぞれのワークショップにおけるアウトプットを発表し合い、会社全体で「これからの高山活版社像」を考える統合ワークショップを実施。高山活版社が「目指したい」方向性を全社で共有する貴重な機会となりました。

ミッション、提供価値、ステートメントの執筆にあたり、隣県の福岡県を拠点とするライターをアサインし統合ワークに同行。高山活版社の思いや温度感をより的確に汲み取ることができた。

大分と東京、距離と文化を超えて「いい空気」を醸成

東京のロフトワークと大分の高山活版社。組織変革を実行するには、ロフトワークのプロジェクトチームが高山活版社の内部に入り込み、社員一人ひとりと対峙することが不可欠でした。「東京から来たよそ者」から「自社のことを考えてくれるパートナー」として信頼を獲得し、組織に受け入れてもらうために、プロジェクトチームは大分で2度の短期滞在と1度の2週間滞在を行いました。

滞在中は、ワークショップやデプスインタビューを通じて、社員と対話する機会を複数回にわたり設定。また社員と同じ時間帯に出勤し一緒に昼食をとったり、休憩時間に雑談を交わしたり、昼夜膝を突き合わせながらプログラムを進行。「社の仲間」として受け入れてもらうべく努力を重ねました。

当初はプロジェクトメンバーからの一方的な働きかけに終始していたコミュニケーションも、徐々に社員からもリアクションや質問が挙がるように。高山活版社の社内とロフトワークのメンバーの間には、立場やカルチャーを超えた関係が醸成されました。

ワークショップに参加した、高山活版社の皆さん

デジタルツールを「昔ながら」の組織に馴染ませる

プロジェクト期間中、距離を超えてコミュニケーションを図る上でデジタルツールの導入は必須でした。ロフトワークはオンラインワークショップを実施するための情報伝達、共有手段としてチャットアプリ「Slack」を、リモートによるワークショップの実施にはWeb会議ツール「Zoom」、そしてオンラインホワイトボード「Miro」を導入。初回の現地滞在時に社員に向けたハンズオンを実施し、以降、プロジェクトのほとんどのプロセスをオンライン上で進行しました。

高山活版社ではパソコンやデジタル機器の操作に不慣れな社員が少なくありませんでしたが、プロジェクト期間中に、多くの社員がこれらのツールを使えるように。結果として、プロジェクトの進行だけでなく、部署単位で分断されていた社内のコミュニケーションも見える化されました。
プロジェクトの終盤では、開発した新商品をPRするためにZoomを使ってオンラインイベントを開催。このイベントは運営・配信を高山活版社の社員が敢行し、ロフトワークのプロジェクトチームは企画進行サポートとメンタリングのみに従事。結果として、晴れてイベントは成功に終わりました。

社内からは「高山活版社にもIT革命が起こった」という声も

Voice

社員の意識を変えたリブランディングプロジェクト

高山活版社 高山 香織 様

今回、ロフトワークさんが私たちのような小さな規模の会社と補助金を申請するところからご一緒してくださり、『デザイン経営』の導入プロジェクトを実現できたことは、私たちの未来への一歩につながったと感じています。

コロナ禍で様々な制限があるなか、担当してくださったディレクターやプロデューサーの方々が非常に高い熱意を持って真摯に取り組んでくださったことが、弊社の経営者をはじめ社員の意識を変えました。ロフトワークさんと共に歩みだしたこの一歩を次に進めるため、これからも社員と共に力を合わせて頑張っていきたいと思います。

またロフトワークさんとご一緒させていただく機会がありましたら、とても嬉しいです!

Member

加藤 大雅

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

戴 薪辰

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

井上 龍貴

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

二本栁 友彦

株式会社ロフトワーク
無所属

Profile

メンバーズボイス

“デザイン経営を導入する。それは高山活版社にとって、会社としての「意志」をまとめ上げ、社会と接続することでした。
今回新しくつくった企業理念や商品は、何もないところから生まれたわけではなく、長い歴史の中で高山活版社が取り組んできたことの中にそれらの素材は織り込まれていました。デザイナーや編集者の客観的な視点も借りながら、それを紐解き、意味づけし、具体化させていく。そのプロセスに社員全員が参加し、高山活版社の未来を共有できたことが何より大切でした。
その過程にロフトワークとして伴走させてもらい、一時的にではありますが会社の一員として共に考え、悩み、喜べたことはとても幸せでした。高山活版社の皆さんが、自分たちで定めた道を信じて、これから進んでいかれることに期待しています。”

加藤 大雅  株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

“僕個人としては、初めて「デザイン経営」に取り組んだ貴重な機会。ロフトワークとしても初の試みが多く、難しい局面もありました。それでも、高山さんたちと共に、未知の領域に踏み込んで行く過程にとてもワクワクしたし、ドキドキもしました。
過去から現在、そして未来へ。プロジェクトメンバーみんなでひとつひとつ丁寧に積み上ていくことで、朧げだった高山活版社の「ありたい姿」の輪郭が、徐々にはっきりと見えてきたのが印象的でした。
誰一人欠けても完走することの出来なかった5ヶ月間のプロジェクトは、僕にとって、社内にも社外にも最高の仲間が出来た特別な時間でした。ぜひ、また一緒に企てましょう。”

井上 龍貴 株式会社ロフトワーク プロデューサー

“企業理念の更新と新商品開発、そして最後に、成果披露をするためのオンラインイベント開催。わずか5ヶ月間でここまで幅広いアウトプットを実現できたことにも驚きますが、何より高山活版社のみなさんと僕たちとの関係がこれほど深いものになるとは想像だにしませんでした。
私は主に新商品開発フェーズを担当しましたが、キックオフミーティングでデザイン思考のプロセスを説明した際、社員の皆さんからの反応は「こんなことできない」「意図が理解できない」など決してポジティブではありませんでした。しかし実際に進めてみると、商品アイデアの発散から絞り込み、またそれを実現する過程で、全員がひたむきに努力している様子が伺えました。
「橋をつくれと言わずに、まずは谷を見よ。」
これは、デザイン思考の考え方を伝える上で、私が引き合いに出した言葉です。1月に同社を再訪した際、2ヶ月前のキックオフで伝えたこの言葉が事務所に貼り出されていたことが、とても印象的でした。
本プロジェクトで掲げたゴールは「個社へのデザイン経営導入支援」。綿密に計画したりフレームワークを用いてみたりしたところで暗中模索する部分も多く、誰も「必ず成功する」とは断言できません。そんな中、「我々は仲間です」という姿勢のみを貫き、高山活版社の皆さんと接してきたつもりです。結果として、社員の皆さんに私たちが提供するフレームワークを理解していただけたと確信しています。今後も継続的にこれらを活用し、成果を生み出していくことを期待しています。”

戴 薪辰 株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

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停滞した企業風土にメスを入れる
後継社長が決断した組織改革

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