錦城護謨株式会社 PROJECT

停滞した企業風土にメスを入れる
後継社長が決断した組織改革

Outline

歴史から存在意義を紐解き、自信や根元を取り戻す

ゴム素材メーカーとして1936年に創業した錦城護謨株式会社(以下錦城護謨)。「モノを産み出す」ゴム工業製品製造、「地盤改良によって土地を産み出す」土木事業 、2本柱の基幹事業をベースに発展を遂げ、大阪府八尾市を代表するモノづくり企業のトップメーカーです。

組織を率いる太田社長は、生き残りをかけていくために、下請・受動型の事業構造から脱却し、社会やユーザーに求められているモノを自ら産み出す開発主導型に転換する必要性を感じています。しかし、社内全体の停滞した企業風土や意識の乖離が変革の妨げになっていました。

そこで、組織内の現状を明らかにし、今後の解決策を導くための改革プロジェクトを発足。歴史を紐解きながら原点に立ち返り、「何のためにこの会社があるのか」存在意義を明確にしていくため、社内インタビューや育成プログラムを通じて、課題の抽出、分析、仮説形成を行いました。

一朝一夕では解決できない組織の問題。現状にメスを入れ、そこから何が明らかになり、どんな変化が起きたのか。

組織変革の第一歩を踏み出した太田社長と担当ディレクター小川がプロジェクトを振り返ります。

プロジェクト概要

  • プロジェクト期間:2020年1月〜2020年3月
  • プロジェクト体制:
    • クライアント:錦城護謨株式会社
    • プロジェクトマネージャー:小川 敦子
    • プロデューサー:小島 和人
    • クリエーター:スーパープロジェット株式会社内 トリトングラフィックス事業部
      アートディレクター 松岡 賢太郎

執筆: 新原 なりか
企画・編集: 横山 暁子(loftwork.com編集部)

Interview

登場する人

左から

錦城護謨株式会社 代表取締役社長 太田 泰造
近畿大学商経学部卒業後、1996年に富士ゼロックス株式会社へ入社。2001年に錦城護謨株式会社へ入社し、土木事業部長、専務取締役を経て、2009年、3代目アトツギ社長に就任。

株式会社ロフトワーク アートディレクター 小川 敦子
東京都出身。百貨店勤務を経て、生活雑貨メーカーにて、商品企画・PRを担当。総合不動産会社では広報部門の立ち上げに参画。その後、独立しフリーランスとして、ブランディングディレクション、アートディレクションを行う。 現在ロフトワークにてアウターブランディングから、インナーブランディングまで、一元化された流れのもと、企業のブランディング設計を手掛ける。本プロジェクトでは、全体のプロセス設計、プロジェクトマネジメントを担当。

誰にも言えなかった課題が見抜かれた

ロフトワーク 小川敦子(以下、小川) プロジェクトの始まりから振り返っていきましょうか。

錦城護謨株式会社 太田泰造(以下、太田 社名・敬称略) 初めはロフトワークさんにアウターブランディングをお願いしようと思っていたんです。おかげさまでYAOYA PROJECTから生まれた「シリコーンロックグラス」がヒットしたこともあって、最近メディアに取り上げていただく機会も増えたんですね。取材の時には正直ちょっと格好つけたりもするので、記事だけみるとすごい会社のように見えるんですよ。でも、自分たちから発信するものがそのイメージに追いついていない。そのギャップに苦しんでいました。そこで、ウェブサイトの制作をはじめとするアウターブランディングを手伝ってもらえないかとご相談したんです。

小川 実は、プロジェクト実施前の打ち合わせの際、プロデューサーの小島がちょっとした違和感を持ったそうなんですね。社長と参加されている社員さんの向いている方向がそれぞれバラバラで、一致していないように感じたと。社外に向けて新しいことをやる前に、まず社中の環境を醸成するインナーブランディングをやった方がいいと考えたきっかけはそこにありました。

ロフトワーク プロデューサー 小島:新規事業開発支援などの案件を数多く手がける

太田 お話しした内容とこちらの雰囲気などを総合して考えてくださったんだと思いますが、自分でも見ないように蓋をしていた部分をピンポイントで見抜かれたのでびっくりしました。それまでは、新しい取り組みをとにかく走らせてしまえば、そのうち自然とみんなついてくるだろうという考えでやっていたんです。ところがなかなかそうもいかず、先を走った人が孤立する状況が生まれてしまっていました

小川 小島はロフトワークでクライアントの新規事業のプロデュースを多く手がけています。その中で、新規プロジェクトに関わる人と関わっていない人との間に乖離が起きてしまうという現象を何度も経験してきたそうです。だからこそ、錦城護謨の現状を見て、今は新しいことを走らせるよりも組織内でアイデンティティを構築することを優先した方がいいと考えたんです。

家族経営の老舗ならではの悩み

太田 組織力が不足しているということは常々感じていました。個々人はすごく頑張っているのに組織として力が出せていない。そうなると、成果は出ないし離職も増え、従業員満足度も低くなる。錦城護謨は家族経営で三代続いている会社で、その強みはもちろんあるんですが、どちらかというと悪い側面が強く出てしまっている状況だったんですよね。

小川 太田家が核としてあることは会社の強さにもなっているけれど、経営を合理的に進められないという側面も生んでいました。どんな会社でも合理的にいかない部分はあるとは思うんですが、家族経営だと特に感情が入ってしまう場面がどうしても多くなってきますよね。

太田 ノウハウや成功体験がありすぎて、逆にそれがバイアスになっていたんです。「今までこれでうまくいっていたんだからいいじゃないか」と。もちろんそのノウハウが役に立つことも多いんですが、変革を阻害する要因にもなっていた。加えて、下請けから脱却できないことによる社内の停滞感も常態化していました。その環境で経営をするのは私自身も苦しかったし、もうここで思い切って変革を起こさないと会社として瀬戸際まできているなと感じていました。そういう私が誰にも言えずに抱えていた苦しみを的確に言い当てられたことが、ロフトワークさんと一緒にやっていこうと決めた一番の理由でしたね。

会社の真の課題を明るみに出すのは正直恥ずかしい気持ちもありましたが、やるんだったら格好つけずに本当のところを全部見せ、本気でとことんやろうと腹をくくりました。小川さんもその思いに応えてくれたというか、単なるコンサル的なやり方ではなくてしっかり内部まで入ってパートナーとして一緒に取り組んでくれました

小川 会社の本当の姿を見るために、会社のプロセスの中に自分自身も入っていくような感覚でやっていました。どこがいい点でどこに傷があるのか、リアルに掴みたかったので。そうなるともう生半可なことはできないので、大変な労力を使いました。

太田 お互い大変な時期もありましたね…。でも普段誰にも言えないようなことも相談できて、本当に心強かったです。

ロフトワーク アートディレクター 小川

インタビューで見えた会社の「真髄」

小川 プロジェクトの開始が決まったらまず、プロジェクトメンバーを11名を社長に選んでもらいました。そして最初に行ったのが、経営層・管理職へのインタビューです。これは、会社のルーツを明らかにしマインドアイデンティティを探ること、組織内の課題を明らかにすることが目的です。次に、プロジェクトメンバーの意識改革にむけて、デザイン経営などについて学ぶ人材育成プログラムを実施しました。最後に、インタビューから明らかになったマインドアイデンティティから行動指針を設計するワークショップを行なっています。これらのアクティビティをから抽出した内容をもとに、組織マネジメントの全体像を把握し、課題を抽出、分析し、仮説を形成していきました。

行動指針を設計するワークショップの様子

太田 今回インタビューがとても重要なキーになりましたね。もし私が一人一人呼んで話を聞くとなったらやっぱりみんな構えてしまうだろうし、特にここは外部の方にお願いした価値があったなと思います。

小川 会社の課題についてのみなさんの率直な語りから、それぞれがフラストレーションを抱えていることが伝わってきました。それから、みなさん話していくうちにだんだんと心が開かれていって、インタビュー後半には大事にしている価値観とか人生観についても話してくださったんです。何人もインタビューしているうちにその共通点が見えてきて、錦城護謨のマインドアイデンティティというか、真髄が見極められたのが大きな成果だったと思います。

太田 インタビューでは経営目線の質問もたくさん入れていただいていて、みんながそれを深く考えたこと自体、視座を引き上げるという大きな意味があったと思います。

錦城護謨が地盤改良を手がけている現場の様子

小川 インタビューを通して見えてきたのは、錦城護謨は一人一人の個が強い会社だということ。誰かに言われて何かをするというよりも、全てが自分がこれをしたいと思って始めることに端を発していて、そうやって今までの歴史が積み上がっていることがわかりました。「共創」よりも「創発*」の会社なんですよね。みんなで一緒に協力しあってというより、一人一人が持っている意見を戦わせながら何かが生まれていくという。

錦城護謨はすごく大きな事業構造の転換を何十年も前に実現しています。もともとゴムの工業製品だけを作っていたところから、その技術を活かして地盤改良を行う土木事業を始めた。このダイナミックな発想も「共創」のあり方ではもしかしたら生まれなかったんじゃないかと。

太田 私は理想的な組織のあり方として「水紋」のイメージを持っているんです。水面に水が一滴落ちて波紋が広がる。また別のところにも水紋が生まれて広がって、重なったところに新しい模様が生まれる。そんなふうにみんながいろんなものを発信できて、それがみんなを巻き込んで発展していく。そういう組織になればいいなと思っていたんですが、これはまさに「創発」そのものですよね。

*創発とはー動詞のemergence は「立ち現れる」という意味。物理学の文脈では部分の性質の単純な総和にとどまらない特性が全体として立ち現れてくることを「創発」という。組織デザインの文脈では、対話によって個人の考え方や能力を超えた既存の考え方やパターンとは異なる新たな意味や見方アイディアが立ち現れてくることを創発と定義している。変革は、継続的であり循環的。マインドセット=思考パターンと考え方を変革することに変革の焦点を当てる。

プロジェクトの流れ

「自ら手が上がる」組織へ

太田 次のフェーズに向けて、何人もの社員が自ら手を上げて動いてくれたのもうれしかったですね。私がトップダウンでやれって言うんじゃなくて、みんながやりたいって言ってくれるなんて、最高じゃないですか。本当に今回のプロジェクトをやっていい方向に進んでいるなと思います。

小川 今回はいわば「頭で理解する」フェーズだったので、次からはいよいよ「体を動かす」ところに入っていきますね。事業戦略、人員配置、昇給・昇格制度、考えることは山ほどあります。

太田 そうだ、事業部の名称を新しくしようと思っていて。一緒に考えてもらえませんか?

小川 それは私も考えたいと思ってました。名前って大きなメッセージだから重要ですよ。

太田 頼もしいな!これからもよろしくお願いします。

小川 こちらこそ、よろしくお願いします。

Member

太田 泰造

太田 泰造

錦城護謨株式会社
代表取締役社長

小川 敦子

株式会社ロフトワーク
アートディレクター

Profile

小島 和人(ハモ)

株式会社ロフトワーク
プロデューサー / FabCafe Osaka 準備室

Profile

Service

未来を起点組織・事業の 変革を推進する『デザイン経営導入プログラム』

企業 の「ありたい未来」を描きながら、現状の課題に応じて デザインの力を活かした複数のアプローチを掛け合わせ、
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足場レンタル業から、価値提案型企業へ転換
6年間・15のプロジェクトであゆんだ企業変革の道のり