株式会社山田商会 PROJECT

ハードインフラの整備から、社会インフラの構築へ
複合的なプログラムで企業改革を支援

Outline

社員のオーナシップを育む、複合型プログラムを実践

山田商会は1906年創業、愛知・岐阜・三重を拠点とするインフラ工事を担う企業です。「100年分の技術で次代へつなぐインフラを」という理念のもと、地域の生活を支えてきました。主な事業は、生活に不可欠なエネルギーを届けるガス管工事・ガス設備配管工事、水道工事、そして顧客の多様なニーズに応えるリフォーム事業です。

エネルギー業界の大きな変革期を迎える中で、同社は「ハードのインフラ支援会社」から「人々の暮らし全体を支える社会インフラを構築する存在」への変革を目指しています。この企業改革を推進するため、社員の主体性と事業へのコミットメントを高める社内改革プログラム「未来プロジェクト」を始動。ロフトワークは2023年よりこれに参画、社員の意識改革と変化を楽しむ柔軟性(レジリエンス)習得に焦点を当て、以下の複合的なプログラムを実施しました。

  • 未来構想スクール:社員の意識変革と土壌作りを促進
  • ロジックモデルの策定:ロードマップを描き、目指す未来像と、新たな活動基盤となるプログラムを設計
  • 未来像を体現するプログラムの実施:公募プログラムを実施。地域住民、社員、事業パートナー間でネットワークを拡大を目指す

一連の活動を通じ、多様なアイデアと関係人口の増加を実現し、社外の認知変化を促しました。また、社内では社員の主体性(オーナーシップ)が向上し、アンケートに回答した社員67%が活動にポジティブな影響を期待するなど、全社的な意識改革を推進しました。

変革はまだ道半ば。今後も未来プロジェクトを継続しながら、企業変革にむけた実践を重ねていきます。

Process

図版:未来プロジェクトの開始前から開始後のプロセス

Approach

企業の未来を描き、改革推進のロードマップを定める

本プログラムは、社員の意識改革と主体性の獲得を目的に、岐阜県飛騨市にて開催された全4日間のワークショップ「未来構想スクール」から始まりました。デザイン思考などを活用して自社の状況把握や事業転換モデルを研究し、普段の業務では触れることがない「自社のあり方」や「事業」を俯瞰して捉える視点の体得を目指しました。

次に、このスクールでの示唆を基に、社員一人ひとりが主体性(オーナーシップ)を持ってコミットできる状態を目指すためのロジックモデルを策定しました。これは、同社が「ハードのインフラ支援会社」から「社会システムとしてのインフラ支援会社」へ転換するという長期目標に対し、現状の活動が将来の成果に論理的に結びつく道筋を設計したものです。

ロジックモデルの策定を通じて、社内外からの知見・アイデアを取り込み新たな気づきを得る「スクールプログラム」と、新たな知と社内アセットを掛け合わせてプロトタイピングを行う「ラボプログラム」という、今後の活動の核となる二つのプログラムが考案されました。これらは地域住民やパートナーとの関係構築、継続的なアイデア創出の基盤となり、特に直近1〜3年で社員が具体的に取り組むべき活動の解像度を高めることに注力しました。

写真:ホワイトボードを囲むメンバーたち

飛騨で実施された、未来構想スクールの様子

写真:合宿に参加した総勢20名

飛騨で実施された、未来構想スクールの様子

写真:和室にて、手書きのロジックモデルを囲むメンバー

ロジックモデルワークショップの様子

関係人口を育みながら、未来の価値を探索

実践フェーズとして、未来の価値探索と外部とのネットワークを形成し関係人口の増加を目指して実施したのが、「FLEXIBLE ↻ AWARDS」です。これは、「FLEX(変化に適応するしなやかさ)」と「ABLE(未来を切り開く可能性)」が融合する創造的な技術・表現・活動を広く募集する、プロダクトデザインのアワード。テーマである「FLEXIBLE ↻」には、同社が培ってきた、変化に対応し再生する「しなやかさ」を広く社会にひらき、次の可能性を探るというメッセージが込められています。

異分野クリエイターと出会い、これまでにないアイデアを通じて同社の未来のベクトルと価値を探ること、またアワードの実施や発信を通じて、社外の認知を変化させることを目指しました。

約1ヶ月の公募では全国から、69作品の応募を獲得。インテリアプロダクト、アプリ、サービスなど多岐にわたるアイデアやクリエイターとの出会いを創出し、共創の機会を広げるチャンスを拡大しました。また、「FLEXIBLE ↻(フレキシブル)」というテーマに対し、アップサイクル、アート、社会福祉など様々な作品が集まったことで、今後の山田商会の新しいビジネスの切り口となる視点を学ぶことができました。

写真:アワード審査会参加者の集合写真
(撮影:田ノ岡 宏明)

「FLEXIBLE ↻ AWARDS」について

図版:フレキシブルアワードのメインビジュアル

FLEXIBLE ↻ – しなやかさがつなぐ、暮らしと未来 –
FLEXIBLE ↻ AWARDSは、「FLEX(変化に適応するしなやかさ)」と「ABLE(未来を切り開く可能性)」が融合する創造的な技術・表現・活動を広く募集する、プロダクトデザインのアワードです。

社員のオーナーシップを育み、社内の意識改革を推進

アワードの実行には、山田商会の企業変革の根幹となる社員の主体性の向上を目指し、部署横断で選出された少数精鋭のメンバーが参画しました。メンバーはプロジェクトの設計段階から深くコミットし、既存の領域にとらわれない業務を通じて、多様な外部クリエイターとの連携力や、イベント運営のノウハウを会得。

この経験は、社員が「仕事は与えられるものではなく、自ら作り出すもの」と認識し、既存事業の枠を超えて「無意識の壁を超える」ための主体性を高める上で、重要な一歩となりました。

写真:プロジェクトメンバーが、付箋にテーマを書き出す

アワードのテーマを決めるためのワークショップの様子。アワードの設計から社員がコミットすることで主体性を育む。

写真:イベントの客席

FabCafe Nagoyaで実施された「FLEXIBLE ↻ AWARDS スペシャルトークイベント「未来をつくる、しなやかな技術とデザイン」の様子。既存事業とは違うチャネルでのタッチポイントを醸成した。

写真:2名がスライドを使いながらプレゼンテーションをする

FabCafe Kyotoで開催された「街と建築、その周辺」の様子。山田商会のメンバーが イベントに登壇し、社外にプロジェクトを発信する機会を設けた。

プロジェクトに直接関わらない社員にも活動を広げるため、社員からのアワードエントリーを推進したほか、愛知県名古屋市熱田区にある本社1階ショールームでファイナリスト5名によるグループ展を開催するなど、複数の社内認知拡大施策を実施しました。

結果、社内からのアワードエントリーは6件。また、展示後に実施されたアンケートでは社員総数の約25%にあたる166名がアンケートに回答し、56%が企画をポジティブに評価、67%が社内・社会への良い影響を期待するなど、未来プロジェクトへの社内認知の向上と好意的な波及効果が確認されました。

一連の活動を通じて、公募やプロモーション、展示会のノウハウが社員に共有され、今後の活動への応用可能な知識として蓄積されています。
今後は、ロジックモデルで描き出した「スクールプログラム」と「ラボプログラム」を継続的に運営することで、常に外部に視野を開きつつ、社内外共同で手を動かすことでアウトプットする文化を根付かせ、当初掲げた「オーナーシップを持った社員で溢れる組織体」を目指していきます。

写真:ファイナリスト2名が作品前に並ぶ

FLEXIBLE ↻ AWARDSファイナリスト「bio~菌糸と火山灰による壁面のデザイン~」 (撮影:田ノ岡 宏明)

写真:受賞作品を解説する様子

FLEXIBLE ↻ AWARDS 審査会の様子(撮影:田ノ岡 宏明)

写真:受賞作品が机に並ぶ

ガス配管を使った什器。和田 拓さん設計の什器案をベースに山田商会の職人さんが制作(撮影:田ノ岡 宏明)

プロジェクト基本情報

クライアント:株式会社山田商会
プロジェクト期間:2023年8月〜12月、2024年3月〜4月、2025年3月〜8月、

体制

  • 株式会社ロフトワーク
    • プロジェクトマネジメント:岩倉 彗、圓城 史也、山﨑 萌果
    • クリエイティブディレクション:佐野 まり沙、三輪 彩紀子、宇佐美 良
    • プロデュース:矢橋 友宏、東田 海斗、仲村 友樹
  • 制作パートナー
    • phase1|未来構想スクール
    • phase2|ロジックモデル策定
      • 宮原 伸朗(アミタ株式会社)
    • phase3|公募プログラム「FLEXIBLE ↻ AWARDS」
      • グラフィックデザイン:永井 創(LEAP)
      • 展示空間デザイン:和田 拓(株式会社メズマリズム)
      • 撮影:田ノ岡 宏明
      • 審査員:
        • 稲波 伸行 (株式会社RW 代表取締役、株式会社菰野デザイン研究所 取締役、半田赤レンガ建物 館長)
        • 橋田 規子(プロダクトデザイナー、芝浦工業大学 デザイン工学科 教授)

Members

山﨑 萌果

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

宇佐美 良

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

仲村 友樹

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

佐野 まり沙

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

三輪 彩紀子

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

矢橋 友宏

株式会社ロフトワーク
ロフトワーク顧問、株式会社FabCafe Nagoya 代表取締役

Profile

メンバーズボイス

“思考の枠を思い切り広げ、ここだと決めてやりきることを身をもって学びました。
近年の世界的なイシューの中で、私たちインフラ工事会社はどうあるべきかと問いを定め、「FLEXIBLE ↻ AWARDS」というプロトタイプに行きつきました。体の細胞が物質を行き来させるように、私たちは広く外からの知を受け入れるとともに、外に向けて発信していきます。
私たちが問い続ける限り、このスクール事業とラボ事業のループは回り続けます。”

株式会社山田商会 代表取締役社長 山田 豊久

“未来プロジェクトを通じて、視野を広げ、視座を高める貴重な体験ができました。これまでの慣れ親しんだ枠を越え、未知の課題や答えの見えない状況に向き合いながら、自分たちが選択した道を「正解」にしていく重要性を学びました。さらに、外へと開示することで、新しい出会いや取り組みの可能性を広げ、未来への扉を切り開く力になることを肌で感じることができました。未来プロジェクトに参加させていただくことで得た学びや新たな発見は、個々の成長だけではなく、山田商会全体の進化を後押しするものであり、非常に良い経験となったと思います。これからも今回の経験を糧にしながら、多様な視点や出会いを大切にし、より良い未来を築くための挑戦を続けていきます。”

株式会社山田商会 人事部人事課 中村 圭太

“部署や年齢を超えて、互いへの感謝やリスペクト、自社への誇りを言葉にして伝え合う姿勢。未知の事業に挑む手探りの状況にあっても、そのスタンスを貫き、終始前向きに取り組んでくださる山田商会の皆さんの姿がとても印象的でした。その背景には、2023年の「未来プロジェクト」立ち上げ当初から積み重ねてきた、お互いへの確かな信頼があるからこそだと感じています。
こうした志の高い皆さんと共に始まったこの取り組みの価値が、さらに社内へ浸透し、そして社外へも着実に広がり、組織全体に新たな変化を生み出していくことを信じて、これからも共に挑戦し続けていきます。”

ロフトワーク クリエイティブディレクター 山﨑 萌果

Keywords

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「チョケる」が生む創造性──
主体性を引き出し、完遂力を育むプログラム開発