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藤原 里美 2023.04.24

脱「OJT頼み」の新人育成。
分析と検証で模索する創造性人材の育てかた

近年、既存の価値観を乗り越えて課題解決や新しい価値を提案できる、「創造性人材」の育成が企業において求められている、という話をよく耳にします。事実、経産省でも創造性人材の育成支援に向けてさまざまな施策を行っています

私たちもクライアントから新規事業立ち上げ支援などのご相談をいただく際に、決まってこの話題が浮上します。パートナー企業や外部人材とのコラボレーションによって画期的な新規事業を立ち上げたとしても、実際にその事業を継続的に運営しグロースさせていくのは自社の人材だからです。

では、そのような人材をどうやって育てればいいのでしょうか? 広い視野と創造的なアプローチからビジネス課題を解決し、主体的に未来への道筋を描ける人材とは、どのようなプロセスによって成長していくのでしょうか?

実は、「既存の価値観を乗り越えて課題解決や新しい価値を提案する力」は、他ならぬロフトワークのメンバーにも求められる素養です。今回は、ロフトワークでプロジェクトの企画提案を担う「プロデューサー」の育成プロセスについて、シニアプロデューサーとして取り組みを推進してきた藤原里美がご紹介します。

藤原 里美

Author藤原 里美(シニアプロデューサー)

2008年にプロデューサーとして入社、産休、育休を機にマーケティング部門に転属。イベントの企画運営、CRMの設計、既存クライアントへのサポートサービス構築などに携わる。2018年から京都オフィスにて再びプロデューサーとして、大学、病院、BtoB企業などの組織のブランディング、専門領域の情報発信のデザイン、Webサイトを活用したセールス設計やコミュニケーション設計に重きを置いて提案活動中。教育機関とのプロジェクトが多かったことと、娘二人の育児の中でPBL(Project Based Learning)に興味を持ち、「新たな学びの形」を模索中。2023年、京都精華大学メディア表現学部 非常勤講師に就任。

Profile

複合的なスキルを求められる、プロデューサーの仕事を言語化する

ロフトワークにおけるプロデューサーは、大きく以下の4つのコアスキルが求められます。

  • プロジェクトプランニング……顧客要件理解に基づくロフトワークらしさを活かしたプロジェクト設計力
  • アカウントリレーション……顧客との長期にわたる深い信頼を築くことのできる力
  • ネゴシエーション……契約内容、プロジェクト要件、技術要件、コスト、スケジュールなどの各種条件を交渉し、健全なビジネス環境をつくり出す力
  • ネットワーキング……クリエイティブプロジェクトをつくり出す原動力としての多様な人びととの関係性をつくり維持できる力

プロジェクトプランニングは、いわばプランナーとしての素養といえます。アカウントリレーション、ネゴシエーションはいわゆる営業的な素養。そして幅広くトレンドを読み解きながら、さまざまな能力・得意分野を持った人々の人脈を開拓していくネットワーキングの能力も求められます。

このように、ロフトワークのプロデューサーは複合的な能力が求められるため、直線的な成長曲線を描くのがとても難しい職種です。加えて、多くのビジネスパーソンがそうであるように、忙しい中で幅広い知識を習得するのはなかなか簡単ではありません。

ロフトワークのプロデューサーチーム(Photo:村上大介)

多くの中小企業と同様、ロフトワークでもミドルクラスが自社の売上の多くを支えています。最も多忙を極める彼らが新人のためにかけられる時間・リソースは決して多くはなく、これまでの新人育成はもっぱらOJTが中心でした。しかし、OJTによる人材育成の課題として、もともと個人に備わっている素養とモチベーションによって大きく成長ペースが左右されるという点があります。人によっては成長が鈍化したり、キャリア形成の途中で離脱したりするケースも少なくありませんでした。

さらに、終身雇用という概念が消え去った近年では、短い期間で若い世代の成長を促しながら、彼らにとっての働きがいやモチベーションを維持することが、組織・チームにとっての必須課題になりつつあると言えるでしょう。

こうした背景から、ロフトワークでも短期間でプロデューサーのスキルを高めるための環境整備や、個々人に応じて成長ポイントを発見し効果的にスキルアップへと導くための育成プロセスの整備を行いました。

Challenge Point

フレームワークや科学的なアプローチも織り交ぜつつ、個人の素養やモチベーションにも寄り添いながら、いかに着実に・短期間で成長を促せるか?

STEP1:ツールの力を借りて、個々人の得意と苦手を分析する

能力や特性が異なる新人たちに対して同じやり方・内容で指導をしても、それを理解し実践できる人もいれば、うまく理解できない人もいます。先輩たちは新人ごとの得意・不得意に関して感覚的には理解しているものの、何を根拠に・どのようなやり方で指導していくべきかを適切に判断するのは難しいものです。

そこで今回、個々の新人メンバーに対して適切な指導方法を考える根拠となる情報を得るために、一人ひとりの強み・弱みを定量化しデータとして見える化することを試みました。

やってみたこと:

  • 商談解析ツールを導入し、一人ひとりの商談の様子を定量的に分析する
  • 話すスピード、商談全体での発話量、話のトピック分布などを抽出

結果として、先輩プロデューサーと新人のデータを比較したところ、新人メンバーの苦手なところ・未習熟な点が浮き彫りになりました。

これらのデータを、本人を含めたチームのメンバー全員に共有することで、一人ひとりの強み・弱みについて共通認識を形成できました。これによって、チーム内で先輩が新人に対して指導を行う際に、個人に合わせたやり方を工夫できる環境が生まれました。

画像提供:amptalk株式会社

STEP2:スキルトランスファーと対話に向けた定期勉強会実施

日々の業務のなかで、OJTを通じて先輩のスキルを新人に引き継ぐことは一見効率的に見えます。しかし、このプロセスではスキルが言語化されることはなく、結果として理解・定着までに多くの時間を要してしまいます。また、新人ごとのスキル習得進捗がその時々の仕事内容・状況によって左右されるため、成長がアンバランスになりがちです。

そこで、プロデューサーに向けた定期的な勉強会を開催することで、一人ひとりの苦手や得意をフォローしながら安定的なスキル習得を促すことを目指しました。

やってみたこと:

  • 月1回、プロデューサー全員が参加する定期的な勉強会を実施。
  • 勉強会は二部構成で、前半は新人に継承したいスキルを要素分解し言語化したものを先輩が解説する座学を実施。後半は学んだことを実践するために新人と先輩とがロールプレイングを行った。
  • 「商談」「ヒアリング」のような仕事の粒度ではなく、「質問の数よりも種類を重視すること」や「打ち合わせの終え方」など、より具体的につまづきやすいポイントを意識した課題を与えた。

勉強会は座学としてインプットするだけでなく、自ら考え実践してみること、さらにその振り返りをディスカッションすることによって、短い時間の中でも実感を伴いながら学習できる機会をつくりました。

これを続けた結果、新人たちは今まで聞きたくても聞けていなかったことや、分かったつもりが理解が浅くなっていたスキルを認識できました。また、先輩側も継承したいスキルの中で言語化しきれていない・伝えきれていない部分がどこだったのかを明確にできました。

STEP3:インプットのベースとなる個人学習用教材を整備

ロフトワークでは、新卒や未経験者でも素養のある人材をプロデューサーとして積極的に採用しています。一方で、先に述べたようなプロデューサーのコアスキルを身につける上で、マーケティングやプランニング、ビジネスモデルなどの基礎知識を抑えておくことは欠かせません。

また、先輩たちが日々の業務に追われる中で、基礎知識のインプットを含めた新人指導を十分にできないという状況を打開するべく、個人学習のためのコンテンツを充実させることにも注力しました。

やってみたこと:

  • 社員研修のサブスクリプションサービス「グロービス学び放題」を活用し、プロデューサーに必要な基礎スキル強化のラーニングパスを設計。入社3ヶ月目の新人に向けて、OJTと並行した個人学習の機会を提供した。
  • 先輩プロデューサーの打ち合わせ記録動画に解説をつけて、新人たちが視聴できるアーカイブを整備した。

「グロービス学び放題」は、学びたいテーマごとに「インプット+習熟度テスト」の構成になっています。新人にとっては、習熟度を確認できる点と、不安なテーマは何度でも繰り返し確認、見直しができるという利点があります。また、先輩たちも、ラーニングパスを履修した新人に対して、基礎知識がある前提でOJTを進められるようになりました。

また、勉強会を続けてきた中で新たに発見された課題として、新人たちは先輩たちがクライアントとの商談でよく使う「話し方」を見てそれを表面的に真似ていたものの、実際にはその話し方の本質的な意義や効果を理解できていなかったという点がありました。先輩たちは、実際に打ち合わせの最中にどんなことを考え、何をきっかけに話を切り出しているのか? 話していることを表面的に聞くだけでは、その意図に気づけません。

そこで、打ち合わせの記録動画に先輩たちが補足コメントを追記し新人に共有することにしました。動画を視聴しながら、打ち合わせが今どういう状況なのかを把握したり、先輩たちの発言意図を理解できるようになり、これまでのOJTではフォローできなかったネゴシエーションスキルについて、より深い理解を促せるようになりました。

STEP4:プラスアルファの成長機会を提供する

新人教育を終え、プロデューサーとしてのありかたを自分自身で模索しはじめると、必ずと言っていいほどぶつかるのは「企画」の壁。新人たちが企画力を高めるには、どんなサポートが必要でしょうか?

そんな問いに応えるべく、2022年からロフトワークでは新しい取り組みを始めました。博報堂出身でカンヌ広告祭でアジア初の金賞受賞など数々の受賞歴を持ち、企画の学び場「777塾(トリプルセブンじゅく)」の主宰である、クリエイティブディレクター福田敏也さんの完全協力のもと、「業務高度化FUKUDA塾」というスキルアップ講座を実施しています。ここでは、プロデューサーだけでなくディレクター、マーケティングなど、入社2年目頃の若手から中堅社員までの幅広いメンバーが、福田さんから企画力を高めるための脳の「鍛え方」を学びます。

クリエイティブディレクター 福田敏也さんの企画脳の鍛えかた

答えのない創造性人材の育成環境は、アジャイル的に構築する

課題解決ができる人材に求められる素養は多面的で、直線的な成長を期待するのはなかなか現実的ではありません。また、業界や業態、職種によって必要なスキルが異なれば、育成プロセスの設計も大きく異なるはずです。どの組織でも通用する「これさえやってれば大丈夫(成長できる)」というやり方はありません。

だからこそ、まずはチームやポジションごとに「どんな人材が必要なのか」「どういったスキルが求められているのか」をブレイクダウンして、客観的な言葉にしていくことが肝要です。その上で、現状分析と仮説構築をした上で、素早く育成の仕組みを実装する必要があります。

ただし、その仕組みが本当に適しているかどうかはやってみなければ分かりません。人材育成の仕組みもアジャイル的に、検証、分析・評価、見直しをスピーディに繰り返していくことで、より良い育成環境が整っていくはずです。一度実装した仕組みをもって完成とするのではなく、検証結果によってその仕組み自体を柔軟につくり変えていくのが良いのではないかと考えています。また、これらの仕組みづくりを実行するためには、チームのマネジメントを担当する人材が新人一人ひとりの素養と向き合うための時間をしっかりとつくることが欠かせないことを付け加えておきます。

最後に、今後の人材育成の課題として「継続する力をいかに育てるか」という点は引き続き取り組んでいきたいテーマです。新しく生まれた画期的な事業や取り組みを形にした後は、成果を出すために活動を継続しながら、それをより良いものとしていくことが必要です。これを粘り強く続けていける「人」を育てていくことが、今後、多くの組織に求められていくのではないでしょうか。

企画・執筆:藤原 里美/株式会社ロフトワーク シニアプロデューサー
編集:岩崎 諒子、後閑 裕太朗/loftwork.com 編集部

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