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松井 創 2016.08.08

ワークショップ設計で大切なことは、だいたい高校部活から学んだ

楽しいワークショップは部活と同じだ

 
先日、お台場のワークショップ会場から夏模様を眺めて、ふと高校時代の部活を思い出した。
 
高校時代の部活はテニス部。一つ上の先輩部長がカンシャクもちで、いつも練習はピリピリしていて、「テニスだったらお気楽だろう。」と思っていた同級生のほとんどが辞めてしまい、残ったのはエア・ケーができたエースの石川くんと、カンシャク部長とは何故か上手くやれた僕の二人だけになってしまったから、3年生の先輩達が春の大会で引退すると早々に部活を引き継いで、夏から2年の僕か石川くんのどちらかが部長の役をやらざるをえなかった。二人でジャンケンをして、(勝ったか負けたか定かでないけれど)僕が部長になったと記憶している。
 
部長になってからは、日々の練習メニューをアレンジするのが日課になった。いつも同じメニューではつまらないし上手くもならないから、毎日の練習テーマやチャレンジポイントを設定した。夏と冬では、テニスコートに居られる時間が1時間以上も違うし、土日や夏休みは朝から日暮れまで、合宿ともなれば数日間のマイルストーンを考えなければならない。何でもできる石川くんのようなエースもいれば、1年の後輩たちは未経験者ばかりで、さらに男女合同練習だったからステークホルダーは多様だ。何より練習をピリピリからワクワクに変えて、一人も辞めないような楽しい部に変えたかったから、いま振り返ると僕にとって毎日の部活が楽しくワークショップをやっているようなものだった。
 
…というわけで、高校時代から自然とワークショップ(のようなもの)が身近にあって、これを設計する立場にあったから、昨今のワークショプやハッカソン、アイデアソンのようなものを企画設計したり、ファシリテーションするのは結構、得意だったりするロフトワークのプロデューサー松井創です、こんにちは。(いつも前置きが長いと呆れらております。)「楽しいワークショップは部活と同じだ。」という強引な展開で、初めてのロフトワーク・ブログを書きはじめました。ワークショップの設計で抑えたい大切な事を「部活」で例えて紹介してみようという実験。さて、着地するでしょうか…
話を高校時代の部活に戻そう。部活の1日の練習メニューは、ざっくり「導入部」「応用部」「定着部」の3部門で構成する。部室から校舎裏の山の上にあるテニスコートまで5分の道のりが、この3部構成を考える時間だった。
 

導入部

 
まず「導入部」は、準備運動から基礎的な動き(ストロークやボレー、サーブ)の練習に始まり、その日の「テーマ」をメンバーにインプットする時間。例えば「決定力を身に付けよう」というテーマ設定で「強いボールを打ち込んでからネットに近づきボレー、まごついた相手が弱いボールを高く返してきたらスマッシュ!」というような新しい技をチャレンジポイントとする時は、それを頭と体で体感してもらう。エースの石川くんには、はじめにお手本を見せてもらう。「スマッシュをカッコよく決める事よりも実は一つ前のボレーで決着は決まっているんだぜ!」とテーマの隠れた本質に迫ってもらうよう、石川くんに予め頼んでおく。このようなメンバーへの伝承は僕(=ファシリテーター)が言うよりも、その道の先駆者(=講師)の方が何百倍も効果がある。ただし、本質は事前に自らも習得している方が望ましい。メンバー達にはスマッシュが打てる状況になる弱いボールが返ってくる為のボレーを意識して練習してもらうと、スマッシュという手段以外でも決定力が上がることに気づいてもらえる。
 
導入部では、できるだけ練習相手をシャッフルする(ワールドカフェ方式)。相手が異なればボールの癖も、見える景色も変わってくる。実戦では毎回打ちやすい球が来るとは限らないし、自然と自分の発想も柔軟にならざるを得ない。ダブルスのレギュラー組は、いつもの試合のペアと組みたがるが、それを善しとしない。多様性を受け入れたとき、自身と相手の関係の中に新しい発見があると思うからだ。
 

応用部

 
次に「応用部」は、導入部の着眼点を保ちながら、実際のラリー(相手との攻防)の中でフィニッシュまで行ける状況をどうやったら作れるか個人個人に試行錯誤して動いてもらう。一つ手前のボレーが大切なのは分かった、でもそのような状況って、さらに一つ手前の強いボールが打てなければネット際へ向かえない。そうやって「自分が強い球を打てる時って、どんな状況の時だ?」と理論を考えて練習してもらう。それができたら、「自分はサーブが得意だから強いサーブの後すぐ前に出よう」とフレームワークの応用を考えるメンバーがいてもいい。「これもあり」「あれもあり」というプランが沢山でる事を期待する。
 
当然、こちらの狙い通りできないメンバーもいる。できる人は直ぐできる。応用の時間で、どのレベルに合わせるかは、いつも課題になる。メンバー様子や、実体験の感想を途中でメンバーから聞いたりもするが、参加者全員が満足する状況なんて不可能だと割り切るしかない。できない人に寄り添いすぎるのも、できる人だけを持ち上げるのもどちらも全体の底上げに成らない。ただ試合前などの「ここぞ」という日は試合に出るメンバーに注力したい時もあるだろうから、その都度、柔軟でいいと思う。
 

定着部

 
最後に定着部。実戦に近いミニゲーム形式(コンテスト)でやる事が多い。個人が練習(プロセス)で身につけたものを自己表現(アウトプット)して「勝った(できた)」という小さな成功体験を得ることができれば、テーマやチャレンジポイントの定着につながりやすい。なかには、テーマと全く繋がらない方法で勝とうとするメンバーも出てくる。親の心、子知らず。それでもやっぱりテーマに沿ってパフォーマンスを上げて勝ち上がってくるメンバーがいる。そういう人には、顧問の先生や周りのメンバーを通じて「いいね!(拍手)」と言って多大な称賛を与える。時には顧問や先輩の)協賛で、アイスなどのインセンティブがあってもいいかもしれない。(ただしアイスの為のミニゲームではない。)
 
あとは「導入部」「展開部」「定着部」をどれくらいの時間配分でやるか、毎回決めればいい。1:1:1でやるときもあれば、3:6:1という場合もある。
 

進まない事を前提にして余白を残すことが大切

 
これを練習前に想像し計画しては毎日異なるメニューで実施するという日々が続いて感じたことは、「練習(ワーク)はナマもの」ということ。途中で夕立が降って練習が中断する時や、参加メンバーが想定より少ない日もある。むしろ計画どおりに進まない事の方が多い。進まない事を前提にして余白を設けて、アジリティをもってやる。それでも想像できる限りシミュレーションはしておく。そうすると心に余裕が出て、練習中に冗談も言えるようになってメンバーの熱量も上がってくるものだ。もしかしたらカンシャク部長はシミュレーションをしてなかったのかもしれない。
 
これで常勝メンバーが育ったら美談だったけれど、僕の世代のメンバー達は、対外試合で大きな結果を残す事は出来なかった。それでも毎日の練習は笑いが絶えなかったし、僕と石川くんのダブルスペアは、2日間のトーナメントで勝ち上がったものの翌日がテニス合宿だったので、試合を棄権して合宿を選ぶという本末転倒してしまったくらい練習が大好きだった。
 
正直なところ僕自身、テニスはあまり上手くなかった。自分が十分にできないにも関わらず、勇気をもって出来ない自分を棚上げして練習メニューを計画しつづけるのは正直つらかったし、不安だった。一人も辞めなかった事や引退後、後輩たちが寄せ書きをくれて「練習メニューが何より楽しかった」と書いてくれた時には心が救われた。
部活での経験は、社会人になって大いに役に立った。例えば時間感覚。練習メニューを分単位でこなすからプレゼンなど時計を見なくても大体の経過時間が体内時計で分かったり、プロジェクトで限られた期限内に何かの目標に迫られたらその配分がイメージできたり。そして本題のワークショップの計画やファシリテーションにつながる。今年3月の「未来のヘルスケアをデザインする (パナソニック協賛)」や、実施模様は後日、公式レポートが公開される方に譲るとして「未来をデザインする Insurance & Technology システムデザイン思考で考える新しい保険(アクサ生命協賛)」の多くの参加者は、(僕自身がテーマ、ファシリテーションいずれもその道の専門家ではないものの)「楽しかった!」「ためになった!」「ファシリがよかった」と言ってくれた。「(高校時代は毎日やってましたらから、楽しくて当然ですw)」と心の中では思いつつも、きっとそれは伝わらないから、「それは良かったです!」とだけ言って、はにかんでいる。
 
今回は僕の高校時代の思い出と成果を紹介するものではない。(むしろ大人になって学んだ「バックキャスト&フォアキャストを行ったり来たりする手法」や「デザイン思考」が高校時代にできていたら、もっと僕のメンバーは試合で勝てただろうと思う。)ここで伝えたいのは、何かの小さな事でも場数を踏めば誰でもワークショップやイベントの設計はできるということ。あらゆるプロジェクトにも役立つし、機会は身近なところに転がっており、それほど難しいチャレンジではないということ。
 
楽しいワークショップ(の設計)は部活(の設計)と同じだ。
 
さて、なんとか着地しただろうか。(ワークショップに使えるエッセンスは太字にしてみた。 )
 
こんな話をすると、ビジネス界隈ではワークショップもハッカソンも「サークル活動の延長でしょ?」と言う意地悪な人がいる。プロデューサー(プロジェクトの設計者)の立場で言わせてもらえるならば、1時間の会議も、2日間のワークショップも、プロジェクトも中身の設計次第でパフォーマンスは大きく変わる。そう言う貴殿の仕事は、メンバーが楽しく働けるよう設計されているだろうか、毎回ダラダラ会議を開いてないだろうか。カンシャクを起こしてばかりいないだろうかと逆に問いたい。毎日毎週、ワークショップを繰り返せばプロジェクトになるし、プロジェクト活動における仮説と検証で成果が垣間みえたら、新規事業へもつながるはずだ。長くなったので、これはまたいつか別の機会に。 
松井 創

Author松井 創(Layout CLO(Chief Layout Officer))

1982年生まれ。専門学校で建築を、大学で都市計画を学ぶ。地元横須賀にて街づくりサークル「ヨコスカン」を設立。新卒で入ったネットベンチャーでは新規事業や国内12都市のマルシェの同時開設、マネジメントを経験。2012年ロフトワークに参画し、100BANCHや SHIBUYA QWS、AkeruEなどのプロデュースを担当。2017年より都市と空間をテーマとするLayout Unitの事業責任者として活動開始。学生時代からネットとリアルな場が交差するコミュニティ醸成に興味関心がある。2021年度より京都芸術大学・空間演出デザイン学科・客員教授に就任。あだ名は、はじめちゃん。

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