現場で使える「行動のデザイン」プロセスガイド
Vol.1:ユーザーを徹底的に理解する
社会心理学や行動経済学で実証された人間の行動原則をどのようにサービスやプロダクトに反映させ、イノベーションにつなげることができるのか?
社会起業家のためのグローバルネットワーク+ACUMENが発行している資料を元に、様々なプロジェクトでユーザーの行動について観察・考察しているディレクターの小檜山が実際の現場で使えるTipsを交えて3回シリーズで解説します。
第一回目のテーマは「ユーザーを徹底的に理解する」。ユーザーの行動のどこに、新たなイノベーションのヒントが隠れているのか。理解のための問いとポイントを紹介します。
情報だけでは行動は変わらない
新しいイノベーションが浸透しない理由の1つは人は「明らかに生活を良くすると分かっていても、現状にしがみついてしまう習性がある」ためです。
例えば石鹸で手を洗うことは清潔さを保ち、感染症の予防に効果があります。特に病気にかかりやすい子供にとっては身に付けさせたい習慣です。しかし「手を洗いなさい!バイ菌がいっぱいで、風邪を引いちゃうよ」と単純に情報(手を洗わないことの危険性)を与えるだけでは子供の行動はなかなか変えられません。
では一体、どうすれば子供に手洗いをさせることができるでしょうか?その答えはWHOが知っていました。彼らは感染症でなくなる子供達を減らすために子共達に手洗いを促す必要がありました。そこで考えたのが石鹸の中におもちゃを入れること。もちろん、おもちゃを手にするにはたくさん石鹸を使う必要があります。そのため子供達は手洗いだけでなく、体まで洗うようになったそうです。
子供達の生活は遊びが中心、彼らの生活や習慣に合わせたように、時に行動デザインは直線的ではないことがあります。つまり、ユーザーの環境や日々の習慣に合わせることができれば、その人にとってより良い習慣や判断のキッカケ、パターンを含めた行動をデザインすることができます。
ユーザーへの理解度を測る11の問い
では具体的にどのようなステップで、行動のデザインを進めていくのか。アイディアを考え始めるまえに、まず、「誰の」「どんな行動」を変えたいのか決める必要があります。ユーザーが日々どんな暮らしを送っているのか鮮明にイメージできるようになること、彼らがどうやって判断を下しているのか理解することが行動デザインの基礎にもなります。
ユーザーに対する理解度を図るために参考になる11の問いがあります。理解度を図れると同時に、答えていくことで「どんな要素がユーザーの行動に影響するのか」見えてくるかもしれません。もしあなたが答えられないようであれば、ユーザーにインタビューしてみたり、観察してみたりしましょう。
- 1 理想のユーザー(または既存ユーザー)をキーワードで表すとしたら?
- 2 彼らはどこに住んでいますか?また年収は?
- 3 職業は何でしょうか?
- 4 年齢やジェンダー、家族構成は?
- 5 教育水準やデジタルリテラシーのレベルは?
- 6 毎日の流れは?
- 7 彼らの望みはなんでしょう?憧れている人はどんな人でしょうか?
- 8 誰の話を信頼して聞くでしょう?
- 9 誇りや自慢に思っていることは?
- 10 何を失うことを恐れているでしょうか?
- 11 最大の心配は?
ユーザーへの理解が深まったらターゲットになる行動を決めます。結果や気持ち・感情ではなく、あくまでも「行動」にフォーカスします。
例えば「松田君は選挙CMを見て、政治への関心が高まった」(Outcome)ではなく「松田くんは選挙CMを見て、投票に行く」(Behavior)でなければいけません。
あいまいな表現も避けましょう。「会議を活性化する」ではなく「社員が会議で、他人の意見に賛成か反対か、折衷案があるか発言を促す」のように具体的に決めます。
「摩擦の元」を見つける
ターゲットとなる行動にどのような手順でユーザーはたどり着くのか?ステップを細かく分けて文章に落としていきます。カスタマージャーニーマップなど使ってみるのもいいでしょう。ただし、ユーザーが取る行動を具体的な文章で書くことを忘れないでください。
マップができたら「摩擦の素」を探します。摩擦の素とは料理を美味しくする素ではありません。摩擦の素は主に「決断すること」「複雑で複数の選択肢」から成り立ちます。ユーザーにとって判断の必要がある、またはどこをクリックするか選ぶ必要がある、立ち止まって考える必要がある時、「摩擦の素」は生まれます。しかし、摩擦の素が少なければ少ないほうが良いというわけではありません。使い方によってはユーザーの判断を遅らせ望ましい方向に向かわせることもできるからです。
マップに書いたユーザーの行動を改めて見て、こう問いかけてみましょう。
- 行動を実行するのに、どれくらいの努力が必要か?
- 行動はユーザーにとって緊急性があるか?
- どんな「摩擦の素」をユーザーは超えなければいけないか?
ポイントは行動と行動の「間」に注目することです。例えばオンライン英会話を始めた会員は最初の1週間の継続率は90%ですが、2週間経つと50%に減少します。この場合、最初の1週間の行動と翌週の行動の「間」に摩擦の素が潜んでいます。
マップをもう一度振り返り、最も摩擦の素がありそうな5つの行動を選びます。ユーザーはどんな摩擦の素に出会いそうか、それぞれの行動に対して書き出してみます。
目的意図と実行意図
実際に人が自律的に行動を起こすためには「目標意図(goal intention)」と「実行意図(implementation intention)」に分けて考える事ができます。
目標意図とは、自分が成し遂げたい目標のこと(私は英語を話せるようになりたい)。実行意図とは、目標を達成するための行動をいつ、どこで、どのようにとるかを事前に決めているものです(通勤時に英単語を学習アプリを使って10個覚える)。
どちらかが欠けていると目標達成率は低く、2つがしっかり設定されていると最も目標達成率が高くなります。年始の書き初めで書いた目標が「目標意図」、しかし「実行意図」は立てていない人がほとんどではないでしょうか?
この実行意図には公式があり「もし〇〇な状況になったら、☓☓する」と表すことができますが、さらにわかりやすくするためにこの公式を2段階に分けて考えます。
第1段階はユーザーが障害や問題にぶつかった時、本来の目的(目標意図)を実現するために対策として今現在、どんな行動をしているか把握する必要があります。
「もし(ユーザーが)〇〇な状況になったら、(今現在は)☓☓している」
その上で、
「もし(ユーザーが)〇〇な状況になったら、(理想的には)☓☓する」
のように行動を「現在」と「未来で分けて考えるとより分かりやすいでしょう。
次回は行動をデザインする時に知っておきたい5つの原則を紹介します。
現場で使える「行動のデザイン」プロセスガイド Vol.2
ユーザーの行動を促す5つの原則
https://loftwork.com/jp/finding/20191024_behaviordesign
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