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藤原 里美 2021.07.27

コンペやる?やらない?
最適なパートナー企業の選び方

パートナー選定の際に、行うコンペティション(以下、コンペ)。実施する理由や目的は明確になっていますか?
コンペは、より良い提案を広く集め選択するための一つの手段ですが、会社の慣習や、組織内での合意を取りやすいという事情で実施しているケースも多いのではないでしょうか。実はこの数年で、指名顧客や既存顧客を優先すると言う理由で「コンペティションには参加しません」と名言している企業が増えており、「コンペ形式の選定では最良のパートナーに出会えない」という声をよく耳にするようになりました。

では、最適なパートナー選定を行うにはどうしたらいいのでしょう?今回は、多くのWebサイトリニューアルの企画提案を担当し、「コンペに参加してくれますか?」というご相談に応じてきた、プロデューサーの藤原がその疑問にお答えします。

藤原 里美

Author藤原 里美(シニアプロデューサー)

2008年にプロデューサーとして入社、産休、育休を機にマーケティング部門に転属。イベントの企画運営、CRMの設計、既存クライアントへのサポートサービス構築などに携わる。2018年から京都オフィスにて再びプロデューサーとして、大学、病院、BtoB企業などの組織のブランディング、専門領域の情報発信のデザイン、Webサイトを活用したセールス設計やコミュニケーション設計に重きを置いて提案活動中。教育機関とのプロジェクトが多かったことと、娘二人の育児の中でPBL(Project Based Learning)に興味を持ち、「新たな学びの形」を模索中。2023年、京都精華大学メディア表現学部 非常勤講師に就任。

Profile

自身が一緒にやりたいと思える、パートナーをアサインするために

入社以来、多くのお客さまとプロジェクトをご一緒させていただき、コンペへの参加依頼も幾度となくいただいてきました。実は、その度に「積極的に参加はしておりません。」とお答えしています。本音を言うと「御社と一緒にやりたい」と言っていただけるお客様とご一緒したいのが正直なところです。しかし、プロジェクトの規模が大きくなると、社内で承認を得るためにコンペが避けられないと言うことも、重々承知してます。

では、避けて通れないコンペを、目的達成のために有意義に実施する準備はできていますか?RFPを書いてコンペを実施すれば良いパートナーが選べるわけではないことは、一度コンペを企画した方であれば実感されていることでしょう。選定される側に提案力や実行力が求められるのと同様、選定する側にも最適なパートナーを選ぶための準備が必要だと考えています。

コンペの際は、プロジェクトの担当者のみならず、上長や組織の上層部の方々が選定に加わることも多くありますが、実際にプロジェクトが始まってからはパートナーとやり取りするのは現場の担当者です。だからこそ、現場の担当者自身が一緒にやりたいと思えるパートナーが採用されるための下準備が必要なのです。

そこで、これまでお話した多くのお客様の状況を整理し「目的に応じたパートナー選定の方法」をまとめてみました。一例としてご紹介いたします。

目的に合わせたパートナー選び

パートナーを選ぶ際に、必ず「どんなパートナーが最適か」という点についても協議しているかと思います。
今回は、目的に合わせたパートナー選定方法を以下の3つに絞って整理しました。

  1. 課題の解決方法が明確で、スコープの変動要素が少ない場合
  2. 課題は明確だが、解決方法については専門家の提案を期待したい場合
  3. 目指すべき方向性は見えているが、具体的な課題整理ができていない場合

1、課題の解決方法が明確で、スコープの変動要素が少ない場合

実施内容が明確で、不確定要素が少ない場合には相見積やコンペでの選定が可能です。ただし、発注者側でにも、費用が適正か、実施内容にずれがないかを判断できる基準と知識が必要となります。
まずは依頼内容を正確に取りまとめましょう。そして、委託先に見積依頼をする際は、見積と合わせて、作業範囲記述書*も出してもらいましょう。双方の認識のズレがなくなります。ここで注意すべきは、スコープ外の事項です。委託先が「見積に入っていませんよ」と言っている内容が、想定とずれていないか?自社内で実施できる内容か?を確認しておきましょう。
見積と作業範囲記述書があれば、コスト感と実施内容のバランスを確認することができます。コンペを実施しなくとも相見積で十分比較可能な場合もあります。

*作業範囲記述書とは:複数の主体が共同で進める事業・業務・プロジェクトなどにおいて、そのプロジェクトの目標や、成果物の定義や仕様、スケジュール、作業工程、作業内容、各主体の役割、分担、権限などを定義した文書。

POINTS

  • 依頼内容を正確に取りまとめよう
  • 見積を依頼する際には、作業範囲記述書も提出してもらおう
  • スコープのズレがないか、スコープ外事項が自社で実施可能か確認しましょう

2、課題は明確だが、解決方法については専門家の提案を期待したい場合

このケースは課題解決方法について、具体的な状況を共有し、どんな解決方法が考えられるのかじっくり相談した上でパートナーを選定るすることをお勧めします。しかし、課題がシンプル、かつ解決方法を各社の得意領域で提案してもらう場合は、コンペでの選定も可能かもしれません。

ただし、コンペを実施するとしても、社内での事前調整が重要です。
まずは自社内で情報を取りまとめましょう。プロジェクトの目的は何か?目的を達成するための障害は何か?障害を取り除くためにクリアすべき課題は何か?パートナーに期待することは何か? これらを明確にした上で、自社内(プロジェクトメンバー、決裁者)で方針を合意しておきましょう
このステップを実施することで、パートナーからの提案を検討する際に、個人的な好みや社内の力関係でパートナーを選んでしまうリスクを回避できるようになります。

新規のパートナーには十分な情報提供を

新規の委託先を見つけたい場合、既存取引先が含まれるコンペへいきなり参加してもらうのは理解度に差がついてしまうため、お勧めしません。
新規パートナーを開拓したい場合は、コンペの前に理解度を揃えるための事前準備をしてはいかがでしょう?

まずは自社のことを明確に理解してもらえるよう、事前に複数回の打ち合わせが必須です。打ち合わせを通じて、事業内容、得意領域、業界内での立ち位置、経営理念、社風、現状の課題、決裁者のタイプ・判断基準などを共有しておきましょう。特に、その会社に期待している場合は、事前に決裁者と直接の面談を設定することをお勧めします。決裁者にも事前にどんな会社を選ぼうとしているかを知ってもらえる機会になります。

POINTS

  • 課題が複雑な場合は、どんな解決方法が考えられるのか、じっくり相談した上でパートナーを決めよう
  • コンペで選定する場合は、自社内での選定方針を明確にし、社内で合意しておこう
  • 新規のパートナーを開拓する際には、事業内容だけでなく、社風、現状の課題、決裁者のタイプ・判断基準などを共有しよう

3、目指すべき方向性は見えているが、具体的な課題整理ができていない場合

課題の整理からパートナーと一緒に行うケースでは、コンペでの選定はリスクが大きくお勧めできません。課題が不明確な状況では、プロジェクトの実施内容(コスト、スケジュール含む)に軌道修正が必要になる可能性も高くなります。まずはRFPの作成や、プロジェクトの要件定義部分を切り出した「小さなプロジェクト」を実施しましょう。

昨今、様々な業界で「先の見えない時代」という表現を多く目にします。予測しづらいということは、いま抱えている課題がそもそも的を得ているのか?という不安も大きくなります。これを裏付けるために、仮説を立てた上でリサーチを実施し、その結果をもってプロジェクトで何を実行するべきなのかが見えてきます。いきなり大きなプロジェクトを計画し、実行することは非常に難しく、大きなリスクを伴います。そんな時は、プロジェクトをコンパクトに分割し、短期間で見直しできる状況を作り、状況に応じて次フェーズの実施内容をチューニングできる環境を作っておくことが大切です。

POINTS

  • RFPの作成や、プロジェクトの要件定義部分を切り出した「小さなプロジェクト」から始めよう
  • プロジェクトをコンパクトに分割し、短期間で見直しできる環境を整えよう

「小さなプロジェクト」からスタートしたプロジェクト事例

方向性を定めるために、リサーチプロジェクトを切り出し実施した具体事例をご紹介します。

【株式会社ASNOVA】若手人材と足場業界をつなぐメディア構築

仮設足場のレンタルを柱に事業を展開する株式会社ASNOVAが業界を盛り上げ、牽引していく覚悟で取り組むのは、年々深刻化する業界の若手人材不足です。

すぐに解決できない課題に対し、まずはデザインリサーチの手法を用い、足場職人が増えない原因と足場職人の魅力の訴求方法を調査することからプロジェクトをスタート。若者はそもそも足場業界に無関心であり、魅力を伝える以前に、まずは関心を集め、関係人口を増やす活動が必要であるという気付きから、メディアの方針を導きました。

事例詳細はこちら>>

【京都市観光協会】インバウンド向け多言語サイト構築

京都市観光協会は「持続可能で満足度の高い国際文化観光都市」を実現するためにターゲット像の明確化や価値観の理解、それらを踏まえた情報発信への進化が求められていました。そこで、オンラインでの訪問意向調査、デザインリサーチの手法を用いた定性調査を通じて5つのアーキタイプを導きました。その上でアーキタイプに該当する人々を対象に世界11カ国で定量調査を実施し観光客が持つ京都のイメージや、旅において大切にしている体験や価値観を明らかにしました。
調査の結果を踏まえ、外国人観光客向けの多言語サイト「Kyoto City Official Travel Guide」のサイトリニューアルを実施しました。

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プロジェクトマネジメントの知識体系をまとめたPMBOK®でも、ステークホルダーのマネジメントは重要な要素と位置づけられています。様々な問題が起こりうるプロジェクトを、一緒に乗り越えるパートーナーとして、自社にあった相手を選べるかはプロジェクトの成功に大きく影響します。
今回は、私が過去にお会いしたお客様とのやり取りを元に、状況に応じたパートナー選定の方法をまとめています。

記事を読んだだけでは細かいことがよくわからない!わかってはいるけれど、社内の慣習をどうにもできない。と言うご意見もあると思います。そんな時はお気軽にご相談ください。何ができそうか、考えるところからご一緒いたします。

ロフトワークでは、ざっくばらんに話を聞きながらの気軽に相談できるミーティングの場を設けています。要件が固まる前のご相談から受け付けています。モヤモヤしたときは、ぜひ一度気軽にお声がけください。

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