Culture Design Lab 01
「批評」と「クリエイティブ」の関係を探ってみました
ロフトワークが何か新しいことを始めるとき、その出発点は極めて個人的な関心だったり、偏愛だったり、好奇心だったり、問題意識だったりします。始まりの主語は、「ロフトワーク」より「私」。
もう一つ、私たちが大事にしてきているのが、活動をひらくこと。
一人の経験としてとどめずに、みんなとシェアし一緒に学んでいくことが、私たちの想像/創造する力を押し広げてくれる。ロフトワークという組織の可能性を広げていくのは、いつだってこうした、一人ひとりの「うずうず」や「モヤモヤ」から生まれる自分ごとの活動だと考えています。
こうした想いから、これまで積極的に自分ごとの学びに挑戦したり一緒に学ぶ機会をつくってきましたが、新しく始まったのが「Culture Design Lab」です。ロフトワークのカルチャー実験室として位置付け、個人の好奇心から始まる勉強会や活動の立ち上げを支援しています。
今回は、「批評」を用いて物事を多角的・俯瞰的に見る視点や、構造的に捉える力を身につける勉強会を開催しました。「批評」と聞いて、「自分には関係ないかも」と思ったそこのあなた! 誰もが知る国民的アニメを題材にして「批評」してみたと聞くと、ちょっと読んでみようかなと思いませんか?
企画立案者であるクリエイティブディレクターの関本は、大学で文芸批評や西洋哲学、言語学などについて学びました。「批評のプロセスを体験することで、物事を多角的・俯瞰的に見る視点や、構造的に捉える力を養うことができ、クリエイティブにおけるソフトスキル向上につながるのでは?」そんな想いから、勉強会を開催することになりました。関本が見出したクリエイティブにおける「読解と批評」の関係とは?
企業文化の土壌を耕しつづけるロフトワークのカルチャー実験室
執筆:宮崎 真衣(ロフトワーク)
なぜ「批評」なのか? 「何かわからないけど、なんかいい」からの脱出
突然ですが「批評」と聞いてどんなイメージを持っていますか?「難しそう」あるいは「理屈っぽい」と感じている人がいるのかもしれません。
批評とは「理由に基づいた価値づけ」
と、ある批評家は言います。「感覚的に良いと感じられるものがなぜ良いのか、どこが良いのか?」を理性的に噛み砕き、説得力のある形で説明できるようになるためのスキルが、批評活動のなかに詰まっていると考えたことが、この勉強会の出発点でした。
今回は、こんなメンバーが勉強会に参加しました。
- 問い・仮説を立てるスキルを向上させたい人
- 物事を構造的に捉え、冷静にジャッジできるようになりたい人
- 専門分野や興味分野以外でも、あるテーマのディスカッションへ積極的に参加できるようになりたい人
- 視野を広げて柔軟性を上げたい人
- クライアントやクリエイターと、もっと説得力があるコミュニケーションがしたい人
講師紹介
なぜ文学批評を勉強するのか?
小林さんは、上海で高校生に向けた国際バカロレア(International Baccalaureate)という教育プログラムのなかで、「批評」を用いて日本文学を教えています。小林さん曰く、文学批評を勉強する理由は3つあると言います。
- 現代人の「ニーズ」を探る
- 社会の「価値観」を見出す
- 新いプランを立ち上げる
勉強会の前半では、国民的アニメの「名探偵コナン」を例に、典型的なストーリーの流れを分析して登場人物の間でどんな構造があるのか座学を受けました。さらに物語の深層を特定するために批評理論を用いて作品に潜んだ意味を見出していきました。
「文学批評」は専門用語が多く、メンバーのほとんどが批評的な視点を持ったことがなかったものの、認知度が高いアニメの登場人物をルールに基づいて分類し記号化することで、物語の中でそれぞれどんな役割を担っているのか構造的に分析することができました。(わかると、きもちがいい!!!)
アニメを題材に、実際に「読解と批評」をやってみた
小林さんのインプットトークの後に、さらに国民的アニメである「それいけ!アンパンマン」を題材にグループワークを行いました。「アンパンマンにおける典型的なストーリーとは何か?」「登場人物の関係性はどうか?」「どんな暗喩が隠されているのか? 幼少期に繰り返し見てきたアニメですが、こんなにもキャラクターの目線に立って心を寄せたことはありません(笑)。複数のメンバーの視点が入ることによってストーリーの深層に徐々に近づいていくような感覚がありました。
おもしろいことに、同じ物語を分析してもチームによって導き出した回答はさまざま。あるチームは「スタートアップ」というワードが、はたまた別のチームからは「環境問題」というワードが出てきました。多様な視点を持つことで、自分とは別の見方があり、正解は一つではないということに改めて気づくことができました。
「批評」を用いることで妄想や感想で終わるのではなく、物事の深層が何なのかを冷静に見極めることができるのかもしれません。
「読解と批評」をやってみてどうだった? 参加メンバーの感想
勉強会への参加後のアンケートを一部ご紹介します。
「抽象化して構造化することで、全く関係ないと思ってたものと繋げて発想することができる」
「批評論として様々な見方があるなかで、まったく違う視点を持っていてもそれも正解であるという点が面白かったです。」
「批評の手順、特に話素の抽出は新鮮だった。既存の意味を解体して、再構築する感覚は文学批評だけでなく、日常で使ってみたい。新たな世界が開きそう!」
「暗喩の力。暗喩を使うと発想が飛躍できることに気づけてよかった。」
「自分の得意領域でなくても、『色眼鏡』を通して理解を深められるということ。色眼鏡って比較的『個人的主観』『論理的ではない』と改善を求められることが多かったけど、自分のウィークポイントを強みにできる方法を知ることができてウキウキでした」
慣れ親しんだ題材を入り口に批評を学び、そして実践し、それを共有することで、構造的な視点が身についたり、多様な見方があることを実感したりすることができました。
【まとめ】批評を学ぶことは、日常生活を豊かにする?
批評力は、抽象と具体を行き来することによって突然思考がジャンプするかのようなクリエイティブジャンプを意識的にできるようになるなど、仕事面に役立つことが期待できます。それだけではなく、自分にはなかった価値を発見することで物事の見方が変わり、日常生活も豊かになるのかもしれません。
最後に、「批評をもう少し学びたいと思ったら、何を見るといいですか?」と小林さんに聞いてみたところ、「詩がオススメ」だと教えてもらいました。
詩は短い文体で、言葉がフル活用されています。どういう順番で書いてあるのか、音のテンポはどうなっているのか? ぜひ分析してみてほしい、とのこと。
この記事を読んで、もう少し批評を知りたい・深めたいと思った人は、小林さんの著書『新装版 文学のトリセツ「桃太郎」で文学がわかる!』を手にするのもオススメです。桃太郎をさまざまな文学理論(価値観/視点)で読み解いている批評の入門書です。
一人ひとりの解釈の違いを知って、自分の知らなかった枠組みを自分の中で見出していく。それを創造力に変えていく方法と実践知を増やしていく「Culture Design Lab」。次回はどんなテーマが繰り広げられるのか楽しみです!
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