プロジェクトマネジメントの“不確実な旅”を軽やかに楽しむ。
NEWh×コパイロツト×ロフトワーク 3社合同勉強会を開催
企業の新規事業・サービス開発に特化したデザインコンサルティング&スタジオ株式会社NEWh(ニュー)、企業・団体が実施するプロジェクトの推進を支援する株式会社コパイロツト、ロフトワークのメンバーが集い、プロジェクトマネジメントを題材に実務の中で日頃感じていることを共有しながら学びを深める、3社合同勉強会「プロジェクトマネジメント夜話」が2023年2月8日に開催されました。
一口にプロジェクトマネジメントと言っても、ITや建設業をはじめ、製造業や物流などさまざまな業種・業界で導入されてきた知識体系です。この3社では、これまで大規模なWeb開発から空間プロデュースまで、さまざまなプロジェクトを手掛けてきましたが、組織や人によってプロジェクトマネジメントの手法は大きく異なります。しかし、クライアントの経営課題にどれだけ貢献できるのかを、クリエイティブな視点とプロジェクトマネジメントを結びつけて考えているところは、この3社の共通点かもしれません。
『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド』『アジャイル実務ガイド』に代表されるように、この領域の資料では「マニュアル」ではなく「ガイド」という名称が多用されます。まるで、ガイドブックを頼りに各々が求めるルートや景色を求めて独自の歩みを進める旅のようです。
しかし、旅人が旅先での体験談を語らうことはあっても、プロジェクトマネージャーが「プロマネ旅」について語らう場はそう多くありません。シェアすることで新たな気づきを得たり、新たな旅路を開拓することができるのではないでしょうか。
3社で行われる勉強会は3回目になりますが、オフラインでの開催は初の試みです。プロジェクトを旅になぞらえた「不確実な旅を軽やかに楽しむために」というテーマのもと、ロフトワーク10階でゆるやかに旅人たちの「夜話」が繰り広げられました。
執筆:吉澤 瑠美
編集:鈴木 真理子・宮崎 真衣(ロフトワーク)
撮影:宮崎 真衣(ロフトワーク)
インプットトーク01 : プロジェクトに必要なスキルを補完するには?
前半はインプットトークとして、3社から1名ずつプレゼンテーションが行われました。トップバッターはNEWh プロジェクトマネージャーの木下拓郎さんです。
プロジェクトマネジメントにおいて木下さんが特に重きを置いているのは、「いかにプロジェクトメンバーの才能を活かしていくか」ということ。多様なメンバーを巻き込み、それぞれが専門分野で得意なスキルを発揮することは重要です。しかし、全員が得意なことだけをしていては必ず足りないスキルが出てきます。
そこで「クライアントも含めプロジェクトメンバー全員がそれぞれ未経験の分野に挑戦する必要がある」と木下さんは指摘します。未経験の分野への挑戦は容易なことではありませんが、プロジェクトにとってスキルの補充になるだけでなく、その人にとっての学びにもなります。
挑戦への第一歩として木下さんは「ミーティングやワークショップにおける役割のローテーション化」を提案しました。例えば、ファシリテーターを参加者全員の持ち回りにするという試みです。一人だけが負担するのではなく、タイムキーパーやフォロワーなど全員に役割を与えるのがポイント。また、くじ引きなどゲーム的な要素を持たせて楽しく平等に分担するとハードルも下がります。このローテーションを取り入れたことで、「これまで会議に乗り気でなかった人も会議に積極的に参加するようになった」と木下さん。自律的な組織へと成長させる第一歩としても有効なようです。
インプットトーク02 : 「振り返り」がプロジェクトを改善する
コパイロツト プロジェクトマネージャーの斎藤大さんは、Webプロデューサーとしてさまざまな組織を渡り歩きながら我流でプロジェクトマネジメントを習得してきました。現在はコパイロツトで、積み重ねてきた経験を活かしプロジェクトマネジメントに取り組んでいます。
企業のプロジェクト推進を支援するコパイロツトで斎藤さんが身につけたプロジェクトを改善・成功させる秘訣は「振り返り」。定期的にプロジェクトメンバーの認識を合わせ、過去・現在・未来各フェーズで改善の示唆を得ることが大切だと語ります。
KPT法を使って過去の振り返りをしている方は多い一方で、あまり取り組まれていないのが現在と未来のための振り返り。現在を改善する振り返りとして斎藤さんは「テンショントリアージ」を提案します。ここで言う「テンション」とは歪みやギャップのこと。今もやもやしていることや解決したいことを棚卸しして議論する時間を設けます。
未来のための振り返りとして提案するのは、自己認識と期待値をすり合わせる「期待値セッション」。プロジェクト開始前や中間地点などで、自分が思う自分の役割と他者に期待する役割を付箋で書き出してすり合わせます。共有することで各々の特徴や強みが共通認識になり、役割が明確化します。
全ての振り返りに共通するのは、身構えず気軽に振り返りを行う習慣を持つこと。ツールにこだわらず、付箋や会議ツールのチャット欄などを使って会議の最後に10分程度で振り返るのがポイントだと斎藤さんは補足しました。
インプットトーク03 : プロジェクトメンバーの隠れた価値を見出す
新卒でロフトワークに入社しプロジェクトマネジメントに取り組んできたディレクターの林剛弘は、プロジェクトチームに対する考え方を共有。人と人が協同して大きな建造物などを作る取り組みは太古の昔から幾度も行われてきましたが、「プロジェクトマネジメント」と名付けられ、アメリカの働き方改革をもとに体系化されたのは1940年のこと。実は100年も経っていないのです。
ベースはアメリカにあるものの、個人のタスクを作業の進捗に合わせてボードに張り出す「かんばん方式」に代表されるいくつかのフレームワークは日本生まれ、または日本で急成長を遂げたシステムです。林さんは「日本には体系の更新に向いている文化的土壌があるのでは」とコメントします。私たちのノウハウが新たなフレームワークとなる可能性もあるわけです。
社会の関心はHuman ResourceからHuman Beingへと移行し、「Well-being」という言葉も普及しました。揺らぎ、変わり続ける人のあり方を尊重する現代の考えに共鳴し、林さんも「“その時”のその人と働くことを意識している」と語りました。また、ロフトワークの創業者・林千晶の「アクティブフルムーン構想」を引用。社会では対外的な肩書きが先行することが多いですが、良いチームでは「表向きにはわからない隠れた価値」「人と人が関わる中で見えてくる良さ」が機能しているのではないかと林さんは指摘します。
その隠れた価値を見出すのに有効なのが「チェックイン」です。カードゲームなどを取り入れ、お互いのコンディションや魅力を知るきっかけになればと提案しました。
意外と知らない「となりのプロマネ事情」に驚きと気づき
前半のインプットトークを受けて、現在携わっているプロジェクトや過去に手掛けたプロジェクトを思い返す人も多かったのではないでしょうか。各々の気づきや悩みを共有すべく、後半は3〜4人ずつのランダムなグループに分かれ、「プロジェクトマネジメント」をテーマにワールドカフェを行いました。
旅の目的地は同じでも人によってルートや装備が異なるように、同じようにプロジェクトマネジメントをしていても担う役割やプロジェクトの組み立て方は人それぞれ異なります。サンドイッチやフィンガーフードをつまみながらお互いのプロマネ事情を共有し、どのテーブルも賑やかです。
あるテーブルでは「担当するプロジェクトはどうやって決まる?」という質問から、互いの企業文化の話に花が咲きました。基本的には希望者の立候補でプロジェクトが割り振られることが多いようですが、上級のプロジェクトマネージャーがメンバーの稼働状況を把握したり、業種や難易度から適任者にオファーしたりすることもあるようです。プロジェクトマネージャーのスキルや関心、得意領域を活かすことが健全なプロジェクト進行とも密接に結びついていることがうかがえます。
また、プロジェクトの成功のためのサポート体制について話し合うテーブルもありました。ある企業では、成果物のクオリティを担保するクオリティマネージャーというメンバーがいると紹介。「それいい!」など賛同の声が上がりました。一方、ロフトワークのようにクリエイティブのスペシャリストがプロジェクトの「壁打ち」役を引き受けてくれているという企業や、「ナレッジ交換はするけれど、プロジェクトの進め方には個性も出るので口は挟まない」という個人主義的な企業も。直接的な関与の有無やその度合いは組織によって異なるものの、第三者の視点をもらったり他者のプロジェクトにも目を向けたり、誰かと関わりを持ちながらゴールを目指すことがプロジェクト成功の秘訣なのかもしれません。
3社による合同勉強会でしたが、それぞれのメンバーのみならず11社から約30名が参加。プロジェクトマネジメントを身につけてきた方々が大半でしたが、中にはインプットトークでお話しいただいた斎藤さんのように、フリーランスでスタートしたためにプロジェクトマネジメントの体系化を課題と感じている方も。さまざまなプロジェクトに直面する中で自身のスキルを見極め、必要なスキルに応じてスペシャリストとタッグを組むことで多岐にわたるプロジェクトを成功に導いてきたというパワフルなエピソードに目を丸くする一幕もありました。
プロジェクトマネジメントの不確実性は難しくて楽しい
3時間にわたる長丁場にもかかわらず、最後までディスカッションは白熱しました。プロジェクトマネジメントはまさに十人十色。各テーブルで多様なアプローチが共有され、驚きと学びで大いに盛り上がりました。プロジェクトでの悩みや苦労話を語り合う参加者の表情はどこか活き活きとした様子で、プロジェクトマネジメントの不確実性に楽しみを見出していることがうかがえました。
会社を超えてプロジェクトマネジメントに関わる人が集まったことで、社内だけでは得られない視点や気づきを持ち帰ることができたのは大きな収穫だと感じます。中締めの後には改めて名刺交換をし再会を約束する参加者の姿も散見され、良い交流の場となったのではないでしょうか。まだまだ話し足りない参加者も多かったようで、次回への期待が高まる中、終演となりました。
編集後記 : 宮崎(ロフトワーク)
ロフトワークでは2002年から、Webとクリエイティブの領域に世界標準のプロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK®(A Guide to Project Management Body Of Knowledge:ピンボック)」を導入し、Webプロジェクトのフレームワーク確立やリスクの軽減などに努めてきました。
これまで、プロジェクトマネジメントに関する50以上の講座を開発されている野村隆昌先生をお招きした勉強会を開催したり、さまざまな業種・職種のメンバーが混ざってプロジェクトマネジメントの実践方法を共有するなど、常に変化している社会環境や現場でプロジェクトを成功に導くための手法を探ってきました。
プロジェクトマネジメントは、世界中の先駆者たちの集合知でもあります。
ロフトワークでは、プロジェクトマネージャーとクリエイティブディレクターを兼務することが多く、プロジェクトを進めながら自分とは異なる立場や価値観の人とチームワークで目標を達成しなければなりません。
しかし、プロジェクトマネジメントを単なる進行管理として捉えるのではなく、もっと自由で、もっと大きな冒険を可能にしてくれる旅のコンパスのように捉えているところがあります。ロフトワーカーの中には、プロジェクトマネージメントを「人生そのもの!」と例える人も少なくなく、友人との旅行プランを考えることや、子どもの卒業記念のDVDを制作するようなありふれた日常だって、実はプロジェクトマネージメントの手法が活用できるのかもしれません。
仕事においてプロジェクトを推進する人に限らず、誰でもプロジェクトマネジメントに出会う機会があれば、ものごとを捉える視座が変わるのかもしれません。
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