地場産業とクリエイターの関係が続いていくために
富士吉田のKYODO PROJECTが台北で見つけた可能性
山梨県富士吉田市を拠点に、地域の機屋(はたや)と国内外のクリエイターをつなぐKYODO PROJECT。2025年にFUJI TEXTILE WEEKで発表された協働作品は、2026年春、台湾・台北へ渡りました。
KYODO PROJECTは、伝統的な地場産業として機織りが続いている山梨県富士吉田市を拠点に、株式会社DOSOが2023年より展開しているプロジェクトです。国内外のクリエイターと地域の機屋が協働し、織物産業の歴史や技術を基盤に、新たなテキスタイル表現を探求してきました。
ここでいう協働(KYODO)とは、アーティストと機屋が作品を一緒につくることだけではありません。つくりたいものを持つ人と、それを実現する素材や技術を持つ人が出会い、相談しながら関係を続けていくこと。その関係のなかから、次の商品やプロジェクトが生まれていくことも、含まれます。
今回は、株式会社DOSO代表でFabCafe Fujiファウンダーの八木毅の視点から、台北での展示をきっかけに生まれた出会いや気づきを通じて、地場産業とクリエイターの関係を一度きりで終わらせないために何ができるのかを考えます。
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話を聞いた人

FabCafe Taipeiとの協働
今回のFabCafe Fujiの展示を支えたのは、FabCafe Taipeiとの連携でした。富士吉田で生まれた協働作品を台北で紹介するには、作品を運ぶだけでなく、現地の人や場所、文化的なコミュニティとの接点をつくる必要があります。その橋渡しを担ったのが、FabCafe Taipeiでした。
当初、台北の展示で八木が期待していたのは、現地のアーティストやデザイナーとの出会いでしたが、その想像を超える出会いとして、キュレーターの存在が大きかったといいます。キュレーターは、アーティストやデザイナーの活動をよく知っている存在です。あるテーマや素材に対して、誰とつなげると面白い展開が生まれそうかを考えられる。テキスタイルや機屋と、海外のクリエイターをつなげたいと思ったときに、キュレーターとの出会いは大きな意味を持ちます。
今回の会場となった朋丁(ポンディン)は、ブックカフェ、ショップ、ギャラリーが一体となった台北のアートスペースで、台北カルチャーの発信拠点です。そうした場所の性格もあり、朋丁の関係者も、さまざまな人をつないでくれました。現地の文脈を知る人を介して出会いが生まれたことに、大きな意味がありました。
その結果、自分たちだけでは出会えなかった人たちと話すことができたと、八木は振り返ります。展示後、すぐに富士吉田を訪れるデザイナーも現れ、台北で生まれた出会いが少しずつ次につながっていく手応えがありました。
例えば、台湾のファッションデザイナーであるシーチュー・チーは、自身のブランドやファッションをつくっていきたいという動機を持っていました。これまではアンティークテキスタイルを使っていたものの、アンティークの布は数に限りがあります。だからこそ、新品のテキスタイルでも風合いやその背景に惹かれるものと出会うことで、産地への強い関心を持ったことが、富士吉田への訪問のきっかけとなりました。
台湾での展示は、FabCafeネットワークが、情報や作品を届けるだけでなく、人と人の新たな関係をつくる媒介になり得ることを示す機会にもなりました。


産地とクリエイターが出会う意味

KYODO PROJECTは、地域の機屋とクリエイターが一緒に作品をつくる機会を生み出してきました。その協働には、産地の技術や素材を新しい視点で捉え直すという大きな意味がありました。
今回の展示では、異なる地域で活動するFabCafe同士がつながることで、一方の地域で育まれた素材や技術、プロジェクトが、別の土地の文脈のなかで紹介されました。結果として、そこから新しい解釈や関心が生まれ、さらに人が地域を訪れたのです。
一方で、作品を完成させ、展示して終わるだけでは、その関係が次の仕事や制作へ続くとは限りません。台北での展示や出会いを経て、八木があらためて注目したのは、クリエイターが持つ「これをつくりたい」という強い動機でした。
今回、協働作品を制作・展示したシーチュー・チーのように、自分のブランドや商品をつくりたい、自分が本当に使いたいテキスタイルと出会いたいという想いを持つ人が機屋と出会うことで、作品制作の先に、商品開発や次のプロジェクトへと続く関係が生まれやすくなるといいます。
八木:そういうデザイナーと機屋さんが出会うと、お互い情熱を注いでくれます。ちゃんとビジネスの話にもなる。富士吉田は小ロット生産にも対応しやすい産地なので、作家やデザイナーとの相性もいいと思っています」

今後は、富士吉田の機屋が得意とする生地を、海外のデザイナーやクリエイターに紹介していくことも考えられます。たとえば、アンティークテキスタイルに関心のある人に、その風合いや背景に通じる新品のテキスタイルを提案すること。あるいは、古い傘の骨組みを生かしながら、生地だけを産地のテキスタイルに張り替えること。
そうした具体的につくりたいものと、富士吉田の素材や技術が結びつくことで、新しい商品やプロジェクトが生まれる可能性があります。小さなきっかけを拾い上げ、仕事へと育てていくことも、KYODO PROJECTの次の展開になり得ます。
観光と滞在から深まる関係
また、今回の台北滞在で八木が強く感じたのは、同じ場所に一定期間身を置くことの力でした。
八木:会話というより、滞在だったと思います。宿屋としても、レジデンスとしてもそうですが、中長期で同じ場所にいると、より深く人や物事との関係ができます。FabCafe Taipeiのチームと話したり、現地の人たちと話したりするなかで、今まで考えなかったことを考えるようになる。そういうところから、感覚がひらかれていったのだと思います」
観光は、知らない土地に関心を持ち、実際に足を運ぶための大切な入口です。その入口から、滞在時間が少しずつ長くなり、地域の人と会話を交わし、土地の産業や日常に触れていく。そうした経験を重ねることで、一度の訪問が、その土地との継続的な関係へと変わっていくことがあります。

台北での2週間は、八木自身がその流れを別の都市で確かめる時間でもありました。展示のために現地へ行き、設営し、会場に立ち、現地の人と話す。短い訪問だけでは見えにくい距離感や文化の重なりが、滞在するなかで少しずつ身体に入ってくる。そうした時間があるからこそ、富士吉田の活動も別の角度から見えてきます。
八木は、FabCafe FujiとFabCafe Taipeiの関係について、富士吉田に滞在した人が台湾に行く、台湾で滞在した人が富士吉田に来る、といった人の往来も考えられるのではないかと話します。
八木:自分自身が、クリエイターとして台湾に滞在していたような感覚がありました。何かを研究したい、もっと深く考えたい、別の環境で仕事をしたい、新しいインスピレーションを受けたい。そういうときに、物理的に移動して、ある程度の期間滞在することは、とても効果があると思います。
観光をきっかけにその土地を訪れ、滞在するなかで人と出会い、地域との関係が少しずつ深まっていく。そういう旅のあり方があると思っています。FabCafeが、人の移動や滞在を支える役割を持てるといいなと思っています」
ものが移動する。人が移動する。視点が移動する。そのたびに、地域の素材や産業は、別の意味を帯びはじめます。今回の台北展示は、海外に向けて富士吉田の作品を紹介する場であると同時に、FabCafeというグローバルなネットワークが、人の移動や滞在を支え、対話やリサーチを通じて新しい視点を育てる可能性を考えるきっかけにもなりました。
クリエイティブの流通を生み出す拠点へ
2012年に渋谷でFabCafeが始まった頃、つくることをひらくための大きな入口のひとつは、専門的な技術や機材へのアクセスでした。その役割はいまも変わりません。
一方で、今回の台北展示から改めて見えてきたのは、FabCafeが地域の活動を別の土地へ運び、そこに暮らす人々との接点をつくる役割です。富士吉田で育まれた作品や取り組みが台北へ渡ったことで、自分たちだけでは出会えなかった人との関係が生まれました。さらに、FabCafe FujiとFabCafe Taipeiの連携は、産地とクリエイターをつなぐだけでなく、現地で交わされる対話や一定期間の滞在から、新しい問いやアイデアが育つ可能性も示していました。
KYODO PROJECTが台北へ運んだのは、富士吉田に人が来る理由であり、産地とクリエイターが出会う入口であり、次の協働が生まれる余白でもあったのかもしれません。新しいものづくりや、アーティスト、クリエイターとの関係は、これから富士吉田でさらに育っていくはずです。その続きは、ぜひ現地で。
執筆:宮崎真衣(ロフトワーク)
編集:岩崎諒子(FabCafe Tokyo)
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