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原 亮介 2022.05.17

「同一化への恐怖が僕の原点」
ロフトワークの“異分子”原亮介のクリエイティブ論

ロフトワーク リーダーズインタビュー「Loftwork is...」第1回 原亮介

「クリエイティブ」や「クリエイティビティ」といった言葉が本質的に抱えているものとはなんだろう? なんらかのモノをつくる仕事をする人であれば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。本連載「Loftwork is…」では、ロフトワークのリーダーたちに、各々の考える「クリエイティビティとは何か」を尋ね、その多様な解釈を探索していきます。

連載第一弾は、シニアディレクターの原亮介さんが登場。

クリエイター不在のロフトワークという組織の中で、原さんが意識しているのは「異分子であること」。異分子であり続けることで、社会や組織に多様性をもたらし、多様性の創発がもたらす化学反応——すなわちクリエイティビティ——を生み出しているのだと言います。

「僕の仕事は、言うなれば編集です」と語る、原さんの独創的なワークスタイルを追い、ロフトワークが手がけるクリエイティビティ、そしてロフトワークという会社の存在意義について考えました。

執筆:オバラ ミツフミ
撮影:村上 大輔
企画・取材・編集:くいしん

多様性の創出こそが、クリエイティブの原点

—— ロフトワークのディレクターを務める原さんにとって、「クリエイティブ」や「クリエイティビティ」は、一体どのようなものでしょうか。

クリエイティブという曖昧なものを、僕なりの言葉で表現するなら、「多様性」です。

「クリエイティブの素となるのはアイデアだと思うのですが、ジェームス・W・ヤングら先人が言うように、“アイデアというものは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない”。つまり既存の要素が多様なほうが新しい食い合わせになるし新しいアイデアになるというのが基本的なロジック。

多様性なしにクリエイティブは生まれない」とは言い切れませんが、多様性があるからこそ、ひとりでは想像もできなかったアウトプットが生まれるのだと思っています。少なくとも、僕がつくっている「クリエイティブ」はそういうものです。

ひとりの頭の引き出しのなかから考えて生み出せるものなんて、大概の場合は大したことがない。でも、多様な情報や考え方、バックグラウンドや思考性が異なる人が交わると、化学反応、新しい組み合わせが起きるじゃないですか。

そう考えると、多様性による創発に導かれた結晶こそが、クリエイティブなのかなと思います。

歴史や文化すら、クリエイティブの材料

—— ファーストキャリアでは編集者だった原さんですけど。ここに原さんが考えるクリエイティブの原点があったと推察しますが、そもそもなぜ編集者を志したのでしょうか。

背景にあるのは、「同一化することへの恐怖」です。僕の生まれは愛知県の新城市というところで、まあ田舎なんですよね。黙っていても情報が入ってくるような場所ではなかったので、自分から情報を掴みにいかなければ、みんな同じような考え方になっていきます。僕は、それが怖かった。

だから、雑誌を読み漁っていましたし、その習慣が発展してダイヤルアップ接続時代からインターネットに齧り付いていました。情報ジャンキーだったんです。いつからか「自分が好きなことには、誰よりも詳しくなりたい」という気持ちを持つようにもなり、働く以前から編集者的な思考を持っていたような気がします。

最終的に編集者になったのは、振り返ってみると、新しい見方を世の中に提示したいという欲求があったからだったと思います。「世の中にはこんなにおもしろいものがあるよ」と、誰かに教えてあげることに喜びを感じるタイプなんです。

—— 現在も、編集者だった当時と変わらない思考で、クリエイティブに向き合われている……?

ロフトワークの社内には、クリエイターがいないんです。プロジェクトをリードするディレクターを中心に組織が構成されていて、ディレクターがプロジェクトごとにクリエイターを指名します。

ディレクターが何をしているのかといえば、これも僕なりに表現するなら「編集」です。

ロフトワークの基本形である、社外のクリエイターたちと協力してクライアントのニーズに応えるプロセスは、さまざまな社会的文脈とクライアント課題を編み、ライターやフォトグラファーなど、ベクトルが異なる才能をかけ合わせて、コンテンツをつくる編集のプロセスと似ていると思います。

また、情報を浴びる習慣はそのまま残っていますね。新しいプロジェクトを任されたときは、今でも必ずと言っていいほど書店にこもります。タダで本を読み放題の書店に足を運んで、一日中書籍を読み続けるんです。

ロフトワークに相談をくれるクライアントのみなさんは、私たちに、前例のないアプローチを期待してくれています。だから、僕自身も自分をアップデートしないことには、想像を超えるアウトプットを出し続けることができません。そのためにできることには、時間を惜しまないようにしています。

依頼された領域にとにかく詳しくなることはもちろん、まったくの異業界からアイデアを引っ張ることも必要になるので、情報収集を怠ることはしません。

—— まったくの異業種からヒントを得たプロジェクトについて、具体例を教えていただきたいです。

たとえば、VRコンテンツを制作・配信できるVRプラットフォーム「STYLY」のユーザーコミュニティをつくる取り組み「NEWVIEW」は、デトロイト・テクノの誕生と発展の歴史を参考につくっています。

デトロイト・テクノとは、かつて巨大自動車工場で名を馳せた工業都市・デトロイトが不遇の時代を迎えたことで、現実逃避と新たなロマンを渇望していた若者たちの間で生まれたミュージック・シーンです。

オリジナルなファンクサウンドが生まれていった歴史を参考に、時代背景・環境とテクノロジーと新たな表現を模索する若い才能を起点とした新たなコミュニティ創造を目指しました。

ヒントにしたという書籍『ブラック・マシン・ミュージック: ディスコ、ハウス、デトロイト・テクノ』野田努のほかに、インターネット史、サブカルチャー史も
野田 努『ブラックマシンミュージック ディスコ、ハウス、デトロイトテクノ』(河出書房新社)
野田 努『ブラックマシンミュージック ディスコ、ハウス、デトロイトテクノ』(河出書房新社)
橋本 忍  『私と黒澤明 複眼の映像』(文藝春秋)
橋本 忍 『私と黒澤明 複眼の映像』(文藝春秋)

—— それも、原さんだけではなし得なかった、多様性の化学反応によって生まれたプロジェクトなのでしょうか。

聞いた話ですが、黒澤明監督が手がけた『七人の侍』は、いくつかの脚本家と箱根で合宿をして、「せーの!」で出てきたアイデアの結集だったそうです。僕はそんなアイデアの生み出し方が好きなんですよ。

だから、いつも、どうやって予定調和を崩すかを考えています。

「NEWVIEW」もそうです。ビジネスサイドの発想だけでは、考え込んだところで既視感のあるアイデアしか生まれないと思っていたので、異なるジャンルの人にもプロジェクトに参加してもらいました。

左脳的に考えると、突き詰めれば、誰が考えても同じ答えになりがちです。でも、それじゃあ、おもしろくない。大変なことはわかっていても、それでもハプニングを起こすのが、僕なりのクリエイティビティなんです。

組織の“異分子”であり続ける

—— ハプニングを起こすために、日頃から意識していることはありますか。

絶えず学習するのもそのひとつですが、自らが積極的に、王道から離れた異分子であることも心がけています。

繰り返しになりますが、「想像を超えるアウトプットを出すには、ベクトルが異なる才能をかけ合わせ、化学反応を起こす必要がある」というのが僕の基本的な考えです。

これをプロジェクトごとに実現することはできるのですが、ロフトワークという組織の中だけで実現するのは、そう簡単なことではありません。やはり、デザインやクリエイティブへの関心が高い人たちが集まっている時点で、メンバーの方向性はある程度似てしまいますから。

でも、自分が異分子であり続けられれば、組織の中にも多様性を生み出すことができる。いま着ている青いパーカーも、意識的に選んでいます。ロフトワークで、そしておじさんで、こういった服装をする人はあまりいないので(笑)。

—— 編集者は大衆の代表であることが大事、という話もあります。ディレクターとして編集をする原さんは、その考えに対してどのような考えをお持ちですか。

それは、大衆にヒットするコンテンツを生み出すためですよね。でも、僕の役割はそこにありません。

新しいアプローチを生み出すには、新しいものに触れ続けていなければいけないし、数歩先の未来で受け入れられる才能をキャッチしなければいけない。そのために、自分自身が大衆のど真ん中でいてはいけないと思っているんです。

自分が異分子であり続けることの重要性は、“We belive in Creativity within all”という新たなCIを掲げたときにも再認識しました。

実を言うと、最初にCIを聞いたときは、「なんて前提の話をしているんだ」と思ったんです(笑)。いわゆるクリエイティブ業界に身を置いてきたのもあるでしょうけど、人が創造性を持っていることは、空が青いのと同じくらいに当たり前に感じられることでしたから。

ただ、僕の認識は間違っていました。同僚に「人が創造性を持っているなんて、すごく当たり前のことだよな」という話をしたところ、「原さんだからそう思えるんですよ」と言われてしまって。

話を聞けば、彼の前職は金融業界で、「創造性の発揮を求められる機会なんてなかった」というのです。「インプットとアウトプットをただひたすらに繰り返すマシーンでした」って。

そのとき、ハッとしたんです。たしかに誰もが創造性を持っているだろうけれど、それを発揮する機会がない人や、そもそも自分自身の創造性を信じられていない人もいるわけです。

そういった人たちにクリエイティビティを発揮してもらうには、彼らに異分子として接することで、創発を生む必要があります。

“We belive in Creativity within all”というCIを掲げたことによって、ディレクターとして働く私の仕事は、誰かに創造性を発揮してもらうことであり、発揮された創造性で価値をつくり出すことなのだと、再認識できました。

クリエイター不在のクリエイティブカンパニー

—— 原さんが考えるクリエイティブを、ロフトワークでつくり続ける理由についても教えてください。

「クリエイター不在の組織」というがひとつの理由です。エージェンシーとして、多様な業界の多様な課題に向き合えるおもしろさを享受しつつ、毎回異なるクリエイターたちと奇想天外なアウトプットに挑めるのは、ロフトワークならではのおもしろさだと思っています。

プロジェクトごとに、違う会社で働いている感覚なんですよ。刺激を求めているからか、転職の回数が多いほうですが、ロフトワークにはもう随分と長く在籍しています。それだけ、毎日が刺激的なんです。

—— 今後、ロフトワークで実現していきたいことはありますか。

編集者をしていたときに、黎明期のブロガー、いわば素人たちが、本職の編集者を軽々と超えていく光景を目の当たりにしました。時代に追いつくのではなく、時代をつくっていかなければ、変化に太刀打ちできなくなることを痛感した瞬間です。

多くの人が社会や生活に新しい意味を求めている現代では、変化の兆しを敏感に捉えるクリエイティブな個人や、個人的な問いや欲求を原動力に表現を投げかけるアーティストの価値がますます高まっていくと思っています。

だから、ロフトワークで新しい事業ユニットを立ち上げることにしました。クリエイター/アーティストとの共創で世界観を創り、コミュニティベースで社会にムーブメントを起こしていく。そんな支援や自社事業を行うユニットです。まだ詳しく話せませんが、近々詳細な発表をしようと思っています。

おわりに

「この青いパーカー、変でしょ?」。——小さな街で「同一化すること」を恐れていた少年時代から、社会に「まだ誰も知らない価値」を提供しようと奔走する今日まで、原さんを貫く価値観は変わらないのでしょう。少なくとも、私たちの目にはそう映ります。

原さんを貫く価値観、それは「自分が起点となり、世界をアッと驚かせること」のように感じます。

好きなことを「好きだ」ということに、恐怖心さえ感じられる社会で、大衆に迎合することを決してしない。既に存在する価値観を疑い、スタンダードを覆し続ける。

孤独になることすら厭わないその姿勢は、まさに「異分子」です。

【連載】LWリーダーインタビューシリーズ「Loftwork is... 」

「クリエイティブ」や「クリエイティビティ」といった言葉が本質的に抱えているものとはなんだろう? なんらかのモノをつくる仕事をする人であれば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。本連載「Loftwork is…」では、ロフトワークのリーダーたちに、各々の考える「クリエイティビティとは何か」を尋ね、その多様な解釈を探索していきます。

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