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宮本 明里, 坂木 茜音 2023.01.17

Loftwork is...
ロフトワークの地域共創×これから
一人ひとりの想いを重ね、ありたいコミュニティをつくる

ロフトワークの多様な“クリエイティビティ”を探索するインタビューシリーズ「Loftwork is…」は、これまでのリーダーインタビューから趣を変え、「ロフトワークの人たちが向き合う、 “○○のこれから”」にフォーカスする“2ndシーズン”をスタートします。

創業23年を迎えようとしているロフトワークは、Webサイト制作からコミュニティデザイン、場づくり、イノベーション創出、社会課題の改善まで、幅広い領域でプロジェクトや事業に取り組んできました。「Loftwork is…」2ndシーズンでは、ロフトワークの「人と活動」に焦点を当てることで、私たちが発揮している“クリエイティビティ”の解像度を高めていきます。

初回のテーマは、ロフトワークの「地域共創×これから」。ロフトワークはこれまで、自治体や地域の企業、住民などが一体となって地域の未来に向けて活動をする「共創コミュニティ」をつくるプロジェクトを数多く実践してきました。

たとえば、長野県諏訪市の地域産業ブランディングと魅力発信の「SUWAデザインプロジェクト」や、山梨県富士吉田市とのワーケーションプロジェクト「SHIGOTABI」、地域の生産者と都市の生活者で豊かな食や社会をつくる「めぐるめくプロジェクト」など。

SUWAデザインプロジェクトで、地域の事業者とクリエイターがミニ四駆の共同開発からレース大会まで行った、「SUWACKASON(スワッカソン)」の様子

これらのプロジェクトを、ロフトワークのLAYOUT unit・シニアディレクターとして手がけてきた、宮本明里さん。そんな宮本さんに今回、「入社する前からロフトワークの地域案件が気になっていた」と語る、坂木茜音さんがお話を聞きました。

写真左が宮本さん。隣が坂木さん。

山口県の出身で、大学時代は京都で伝統工芸を学びながら、地域の人たちと多くのプロジェクトを実践してきた坂木さん。ローカルでプロジェクトを企画・運営するとき、参加する人たちのモチベーションを保てなかったり、地域の中の人と外の人、あるいは地域の人同士でも結束しきれなかったりと、いろいろな難しさを見て、感じてきたと言います。

坂木さんが宮本さんからもらったヒントは、「一人ひとりのこうしたいという想いを引き出すことから、みんなが自発的にプロジェクトに関われるようになること」や、「ローカルプロジェクトがサステナブルな状態で続くために、かたちは変わっていい」ということ。

お話は、「地域共創における人々が自発的に参加できるプロジェクトのつくり方」「プロジェクトの終わり方」といったローカルプロジェクトのマネジメント論から始まり、宮本さんが好きだというヴァナキュラー建築をはじめとした、「時代と共に姿かたちを変えながら、その土地で自然につくられてきた文化」のお話まで。ふたりの対談から探っていきます。

写真右奥がインタビュアーのくいしん、手前が小山内

取材・執筆:小山内 彩希
撮影:村上 大輔
企画・取材・編集:くいしん

結束できない、実りがない、地域共創の課題感

── 今回、「ロフトワークの地域共創×これから」というテーマなのですが。坂木さんが宮本さんに聞いてみたいのは、どういったことでしょう。

坂木 じつは、ロフトワークに入社する前から、私自身が明里さんが所属するLAYOUTユニットが手がけるプロジェクトには、うっすらですけど関わらせてもらっていたんです。たとえば、100BANCHのスタッフだったり、SHIBUYA QWSの利用者だったり。

宮本 そうだよね。私はQWSの立ち上げメンバーだったから坂木さんとは薄くはつながっているんだけど、これまですごく交流があったわけではなかったというか。

坂木 入社前から、明里さんのことを「素敵な場をつくっている人」と思っていましたし、ロフトワークが手掛ける地域のプロジェクトもすごく気になっていたので、明里さんにいろいろなことを聞きたいなと思っていました。

地域のプロジェクトへの関心は、私の地元である山口県の過疎化が進んでいることから始まっていて。活動している人たちはいるけど、人によって地域にこうあってほしいと思う姿が違っているので、上手く結束しきれないことを目の当たりにして、帰省するたびに地域のこれからについて考えることがよくありました。

坂木 それともうひとつ、伝統工芸が好きな母の影響を受けて京都の大学で伝統工芸を学んでいたんです。その中で、地元の職人さんたちと一緒に商品開発したり、それを販売したりというプロジェクトに積極的に参加していたのですが、成果を残せたという実感を持てないまま終わってしまうことを経験していて。どういう終わらせ方だと地域のためになるのかについても考えてきました。

そういった課題感が自分にある中で、明里さんが携わるプロジェクトの事例を知ったときに、地域の方がすごく積極的に参加している印象を受けたんです。ですから、まずは「地域の方々が自発的にプロジェクトに入っていくためにはどのように考えてプロジェクトを設計するのがよいか」ということを伺いたいです。それから、「地域のためになる終わり方とは、どのようなものなのか」ということについても、伺えたらと思っています。

個人の想いが重なる点から企画すると、みんなが「自分のプロジェクト」と言える

── 地域の方々が自発的にプロジェクトに入っていくためにはどのように考えてプロジェクトを設計するのがよいか?という坂木さんの疑問がありました。宮本さんはどう考えますか。

宮本 まちの人たちにプロジェクトに参加してもらうときに、「参加した」という気持ちを持たせないように工夫しているかもしれないですね。私が思う最高のプロジェクトは、全員がいろんな視点から「自分のプロジェクトだ」って言える状態になっていること

ひとつの地域でプロジェクトを進めていった結果、市役所の〇〇さんのおかげで」「リーダーの〇〇さんがいたから」となるのではなく、最後には「私がいたからこのプロジェクトが成立している」ってみんながそれぞれの視点から話せる状態が理想。それを見ると私は、すごく興奮するというか(笑)。

関わる人たちそれぞれが自分自身の関わる動機みたいなものがないと、結局はやらされて終わっちゃったりする。そういう状態にならないように、気をつけるようにしていますね。

坂木 なるほど。「プロジェクトを始めよう」となって、そこに地域のいろんな人たちを巻き込んでいくときに、プロジェクトに積極的な人と受動的な人、つまり熱量の差があるじゃないですか。後者の人がモチベーション高くプロジェクトに入っていくためには、どうすればいいのでしょうか?

宮本 その地域のいろんな事情から、プロジェクトに乗り気じゃない人がアサインされることも、たまにあるよね。そういうときは、その人が普段何を考えていて、本当は何がしたいのかというのをしっかりと聴くようにしています。その上で、プロジェクトとその人が本当にやりたいことが重なる点を見つけて、プロジェクトが実現したいビジョンとロジックを伝え、参加する動機を一緒につくるようにしているんです。

一人ひとりの動機が見えない状態でチームで集まっても、「結局このグループがやりたいことってなんだろう?」とわからなくなってしまう。会社だったらひとつのビジョンがあって、それに共感して集まった人たちががんばればみんながハッピーになれるけど、まちづくりってそう単純じゃない。学生からおじいちゃん、おばあちゃんまでいて、それぞれやりたいことが違うから。いきなりチームをつくったり、上から言われたことを力技で通そうとすると、うまくいかないんです。

だからまずは、それぞれが考えているこうしたいというWill的なものを見つけて、次にそれぞれのWillが重なる“点”からプロジェクトを企画していく組み立て方で進めています。

地域の魅力を見つけるヒントは、企画する人の中に眼差しを増やすこと

坂木 「みんながやりたいことを叶えるプロジェクトにしたい」という個々人のモチベーションを大切にしたい気持ちは、共感できます。一方で、以前自分で立ち上げた、あるボランタリーのプロジェクトがあったのですが、そのときの私は関わっているみんながやりたいことを優先しすぎて、結局、何がプロジェクトの軸なのかわからなくってしまったことがあって。明里さんはプロジェクトの中で、何をやって何をやらないという線引きをどのようにしながら、チームを導いているのでしょうか。

宮本 プロジェクトとして何を取捨選択していくのかもやっぱり、個々人のWillが重なる点を見つけることがヒントになるんじゃないかな。そうじゃないと、お互いがお互いのやりたいこと全部を叶えたいとなっちゃうので。そしてその重なる点を、プロジェクトの軸としてしっかりみんなで共有し合うことを私は大切にしています。

── 誰かが「自分の想いが入っていない」と感じないように、宮本さんはその重なる点自体をみんなが共感できるものとして、しっかりと磨き上げているのかなとも思いましたが、どうでしょうか?

宮本 点に対する共感性もちろん大切ですけど、どちらかというと、「みんなの想いが重なるこの点に対して、あなたならどういうアクションをしますか?」と問うことを大切にしています。一人ひとりのアクションを私たちが完璧に設計してしまうよりも、点に対して個々人がどう動きたいのかというWillを重ねてもらうようなイメージ。参加する人たちに向けてやるべきことを問うかたちにすることで、より自分のプロジェクトだって思えるし、みんながそれぞれ問い続けることでプロジェクトの軸がブレにくく強いものになっていくんです。

具体的な例を挙げるなら、都心のクリエイターと富士吉田市をつなぐワーケーションプロジェクト「SHIGOTABI」。プロジェクトとして何を大切にしているのかを丁寧に言葉にするという作業をして、それをタグラインに落とし込んだのが、「考える人の旅」というコピーです。

宮本 地元側の想いを集約すると、地域に自発的にまちに関わってくれる人がもっと増えてほしいというのがあって。そしてワーケーションをするクリエイターも、自分の創造性を発揮できる土壌がある地域だと感じられる言葉にしようと考えていき、「考える人の旅」になりました。パッと聞いたとき「考える」という言葉自体は珍しいものでもないけれど、そこの奥にはいろいろな人の想いが入っています。

── 宮本さんが、個人の欲求とプロジェクトとの接続点を見つける力だったり、それぞれの想いが重なる点を見つける視点の多さだったりを、どうやって身につけていったのか気になります。

宮本 私のバイブルは、ランドスケープアーティストであり研究者でもあるハナムラチカヒロさんのまなざしのデザイン』という本なんですけど。中でもハナムラチカヒロさんの「異化」という言葉が大好きなんです。それは、同じものを同じ人が見たとしても、ちょっと切り口を変えるだけでものの見え方は変わってくるということ。

宮本 その本を読んでから、眼差しをどれだけ多様にするかをすごく意識するようになりました。地域の文脈においても、「AはAだ」としか思えなかったことが「あなたが見ているAは、BにもCにもなる」ということがわかるようになる本ですし、そもそもそういう存在があることを知ることに価値があるんじゃないかと思っています。

坂木 地域の中のキラッと光るもの、つまり地域の魅力を明里さんはどうやって見つけているんだろう?ということも気になっていました。眼差しを多様にすることがそのヒントになりそうですよね。

宮本 そうそう。眼差しを増やすことは、まちの魅力、つまり企画の切り口をたくさん増やしていくことなのかなと思っています。

持続可能性のために、あえてプロジェクト運営から離れるという決断

── 坂木さんからは、大学時代にものづくり分野のプロジェクトに携わっていたけれど成果の実感を持てないまま終わってしまったことから、「地域のためになるプロジェクトの終わらせ方」についても気になるというお話がありました。

坂木 京都の大学にいながら地域のおじいちゃんやおばあちゃんと連携したプロジェクトに参加して印象に残っているのが、「協力はしたいけど、学生と何かをつくろうみたいなことは、これまでさんざん協力はしてきたんだけどね」と言われてしまった話で。

長い年月の中で地域を良くしようとプロジェクトが立ち上がるたびに協力してきたけど、「結局は短く終わってしまう」とか「チームとしてひとつにならないまま終わってしまった」という体験談を聞いたときに、「どうしたら続いていけるのか、どうしたらいい終わり方なのか」すごく考えさせられたんですよね。

宮本 私は大前提として、プロジェクトは終わりがあっていいというか、終わりがあるからプロジェクトだと思っているかな。

プロジェクトに関わった地域の人たちがこれまでの取り組みを生かすための新しい活動を始めたりなど、その地域が次のステップへと歩んでいくためなら、プロジェクトを終わらせること自体はすごくポジティブなことだと思っています。大切なのは、茜音ちゃんの言うように、どうしたら次につながるようないい終わり方ができるかを考えることだよね。

坂木 たとえば、2016年から始まった地域産業のブランディングと魅力発信をする「SUWAデザインプロジェクト」では、ロフトワークは2021年に運営から離れたけど多くの人がそれに納得しているような印象を受けて、すごくいいなと思っていたんです。諏訪市のプロジェクト自体は今も続いていますが、ロフトワークだけが運営から離れるときにどのようなことを大切にしたのか伺いたいです。

宮本 諏訪のプロジェクトにはロフトワークとして立ち上げから6年間関わってきて、いろいろと成果も見えてくる中で、「来年度(7年目)も協力してもらえないか」という声もいただきました。でも、諏訪市の担当の方との対話の結果、ロフトワークは「あえて離脱する」ことにしました。それは、地域の外の組織や人がプロジェクトに関わること自体は続けたほうがいいと思うけれど、運営という核となる母体が地域の外にあり続けるのはサステナブルじゃないという理由から。

その代わり、地元の人たちでしっかりと回せる体制にしようと提案し、諏訪圏在住のクリエイターの方々にワークショップの設計をレクチャーしたり、ロフトワークの手がけるプログラム開発のファシリテーションを一緒にやったりして、1年間くらいかけてちょっとずつ地元で体制をつくって、運営を引き継いだんです。

坂木 ロフトワークの企業活動という観点から考えると、6年間も続く関係性があるからこのまま一緒に仕事をしたほうがいいという考え方もできますよね。でも、明里さんたちはそうではなく、本当にその地域のためになりたいと運営から離れた。かたちが変わってもプロジェクト自体が続いていける選択をしたんですね。それってすごいことだと思います。

時代が変わっていく中で自然なかたちに変化していく文化

── 宮本さんからプロジェクトの始め方から終わり方まで大切にしたいポイントを聞いてきました。坂木さんは今、どんなことを考えていますか?

坂木 これからも東京で働きながら地元に何か還元したい想いがあったので、明里さんにプロジェクトの見えづらい部分までお話を聞けてすごくヒントをもらえたなと思っています。

それと、明里さんと対談する上で、私自身の地域への関心をもう少し掘り下げて考えてみたんです。ふり返ると、大学時代に伝統工芸を勉強したあとに、「そもそも自分の中の文化とはなんだろう?」と言語化したくなって海外でバックパックをしていました。結果、思ったのは、「今、この瞬間に重なっているもの」すべてが私にとっての「文化」なんだということ。今まさに現在を生きている人の営みによって生まれている現象のようなものを「文化」だと感じ、それ自体に興味があるなと思ったんですよね。

宮本 つまり坂木さんは、大学では日本の伝統工芸を学んでいたけれど、ひとつの地域の特定の文化にだけ興味があるわけではないということ?

坂木 そうだと思います。だから職人になる選択肢もあった中で、それを選ばなかったんだろうなと。まだうまく言語化できていないのですが、私は地域の魅力を地域の人たちと一緒に考えたくて。それは新しい文化をつくるというより、地域の文化を残しながら時代とともに変わっていくことだったり、新しい何かをすることによって魅力が再発見されることに関わりたいのかなと、今日の明里さんの話を聴いて感じました。

宮本 私、ヴァナキュラー建築という考え方がすごく好きで。その土地の気候風土や人々の暮らしや営み、歴史によってかたちづくられる建築のことなんですけど。たとえば、洞窟の家とか。そういうものが自然発生的にその場所に存在している状態がすごく美しいなと思うし、時代が変わっていく中で自然なかたちに変化していくことも好きなんですよね。

坂木 私が大切にしたい「文化」のイメージと、通じる部分がある気がしました。言われてみれば、地域の中でも、無理なく自然にいいものができあがっていくことは素敵だなと、思っています。

── これまでの資本主義経済はヴァナキュラーのような自然発生的な文化を分断しがちだったのではないかと考えます。伝統工芸をはじめ、坂木さんの地域の文化に対する課題感も、現代の生活や仕事の基盤となっている経済性が絡むことで、人の営みの連続性の維持が難しくなったことから生まれているのかもしれないなと。

坂木 たしかにそうかもしれません。

宮本 自然でありのままの次の文化をつくっていくことと、そこにしっかりと経済性を持たせていくこととのつなぎ直しは、これからの地域共創プロジェクトの中でやらないといけないことなのかもしれないですね。

おわりに

坂木さんが、プロジェクトの持続可能性を優先した“離れ方”に感動していた、SUWAデザインプロジェクト。

じつは、運営していた6年間の中で、プロジェクトの軸はその都度、変わっていったのだそう。最近、諏訪の担当者の方から「変わり続けている状態自体が、このプロジェクトだ」と言われたことを、宮本さんはうれしそうに明かしてくれました。

「変わらない核のようなものが存在していると、その核を設定した人が離れたときに虚しさや、『誰か知らない人がつくったもの』という理解し難さみたいなものを生みかねない。プロジェクトの核は、その場にいる人たちの手によって、ちょっとずつ手垢がつけられるぐらいの余白があるといいんじゃないかと思います」

このような話は、坂木さんの文化の解釈や、気候風土や人の営みを反映するヴァナキュラー建築とも重なる部分があります。

関わる多くの人の想い、人の営みを反映した伝統文化の継承、経済性……などなど。何かひとつを選んで何かを諦めるのではなく、地域社会を構成するあらゆる人・もの・ことがサステナブルな状態で続いていくために、「ありのままの自然なかたちで変わり続けていく方法を探ること」がこれからの地域共創のヒントになるのではないかと思います。

【連載】クリエイティビティを探索するインタビューシリーズ「Loftwork is... 」

「クリエイティブ」や「クリエイティビティ」といった言葉が本質的に抱えているものとはなんだろう? なんらかのモノをつくる仕事をする人であれば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。本連載「Loftwork is…」では、ロフトワークのメンバーに、各々の考える「クリエイティビティとは何か」を尋ね、その多様な解釈を探索していきます。

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