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小川 敦子 2023.03.29

【シリーズ】めぐる、オンナたち。
vol.1 人生の選択をするたびに、わたしたちは自由になる。

【シリーズ】めぐる、オンナたち。

 エンパワーメント=個々が持つ本来の力を発揮させ、“with”共に、というスピリットをもって、感性豊かに、めぐらせる。そのような、ある種の特有の力が女性にはあると捉え、世の中に、企業内に、コミュニティに対して、変化・変容をもたらす女性たちを取材する。

 エンパワーメントを発揮する女性に共通するのは、巻き込む力だ。そこには、「私はこう考える、こうしたい」という、しなやかで、強い想いがあり、人を惹きつける“何か”がある。その背景には、その人自身の生き方から導かれた、選択する基準や独自の視点と軸がある。その人らしい基準・視点・軸は、どうやって出来上がったのか? それぞれの生き方を丁寧に紐解いていくことで、これからの女性の生き方や働き方のエッセンスを多元的に導き出し、新しい未来への道へ、と繋げていく。  

artwork : yuka kobayashi

小川 敦子

Author小川 敦子(アートディレクター)

ロフトワーク京都 アートディレクター。1978年生まれ。百貨店勤務を経て、生活雑貨メーカーにて企画・広報業務に従事。総合不動産会社にて広報部門の立ち上げに参画。デザインと経営を結びつける総合ディレクションを行う。その後、フリーランスのアートディレクターとして、医療機関など様々な事業領域のブランディングディレクションを手掛ける。そこにしかない世界観をクライアントと共に創り出し、女性目線で調和させることをモットーにしている。2020年ロフトワーク入社。主に、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を軸としたコーポレートブランディングを得意領域とし、2021年より経産省中部経済産業局、大垣共立銀行が中心となりスタートした、東海圏における循環経済・循環社会を描く「東海サーキュラープロジェクト」のプロジェクトマネージャーを担当。

Profile

「わたしは、自分で映画をつくりはじめた当初から、つねに視点というものについて考えてきたつもりです。差別の問題だけではありません。男と女の違いなんて、当然だといえば当然で、わたしには興味のない問題なのです。違いはもう誰もが知っているのです。問題は、その違いから何をすべきか、世界をどう見つめてゆくか、ということだと思うのです」

映画監督 アニエス・ヴェルダ

 例えば、ダイバーシティー、インクルージョン……。横文字で表現された、このような言葉が、その背景にある真意について深く語り合われる場面は、実は非常に少ない。多様性、包摂性。日本語に訳せば、もちろん、もう少し、その言葉の意味を想像することはできるかもしれない。が、結局は「どこか、私には、遠い話」として、意識としては、「私には関係がない」と、捨て去って、忘れ去られてしまうことが多い。

 職業柄、時代の潮流に沿ったワードに触れたり、扱う機会が、私自身は多い方かもしれないが、それでも、言葉を自分の中で咀嚼をして、自分の言葉として使うには、とても時間がかかる。その言葉の背景をあらゆる観点からリサーチし、ときには、その筋の有識者を自らアポイントを取り、尋ね歩くこともある。そうして、多方面から把握したのちに、その言葉の本来意味することを理解することが出来るし、自分ごと化をして言葉を受け止め、その言葉を使って、他者に伝えるという行為にようやく至れる。

 これは、「テーマ」も同一で、ある特定の分野を仕事上扱うことになった場合も、画一的ではなく、多方面へのリサーチによって、さらに、個々人の肉声という「声」を集めていくことで、いくつかの文脈が複合的に見えてくる。そうして、そのテーマについて、深く伝えることが出来るようになる。

 今、私自身がもっとも着目しているテーマ。それは、「女性の生き方」である。アイデンティティの確立、自己肯定、自立して生きる、ジェンダー問題、社会参画、女性リーダー、女性活躍…女性を取り巻くワードは、実に多様だ。

 一方で、そのような女性を取り巻くワードの数々から、深く“自分ごと化”をしながら考えていくことは、実は、女性にとっては、ある種 “苦痛” に近いものがあるのではないか? と感じる。人によって、その感じ方は、もちろん差異があると思うが、私自身が個人的に感じている一つの疑問は、生き方は決してひとつではないから、そもそも、「女性」という生き物を、こうあるべきだという枠に納めることはできないのでは? ということ。もちろん、女性が自立して生きること、自分を肯定すること、社会に積極的に接点を持ち続け、キャリアアップや社会進出をしていくこと自体は、社会にとっても、とても良いことだと思う。

 でも、それは、その人自身が心の内側から「私はこう生きる」と決めたことと、同一であったときに、はじめて、その人自身の幸福と繋がるのであって、女性一人ひとりがとことん考えて、決めて、選択をすればいいのではないだろうか。女性であれ、男性であれ、年齢、性別、国籍に関係なく、すべての人に、本来、人生を決定する選択権がある。それが、このテーマの出発点であり、前提となる。

 では、どうやって選択するのか? 何を基準に選択をするのか? 実は、問題はここにあるのではないだろうか? なぜなら、生き方を選択するためには、自分自身の軸が必要であり、「どちらが自分にとってより良いか?」ということを決める基準が自分の内側に必要になってくるからだ。つまり、「私はこう考える」という揺らがないものがあって、結果として、「私はこう生きたい」という結論に至ることが出来るのではないか、と考えるからだ。生き方の選択の、その先にあるのは、まさに、映画監督のアニエス・ヴェルダが表現するように「何をすべきか、世界をどう見つめてゆくか」という、自分の視点と感覚と感性を揺るぎないものとして、自分という人生をどう表現するのか? に、他ならない。

 本シリーズ「めぐる、オンナたち。」では、女性たち一人ひとりが、何を選択し、何を見つめ、今という時を、どのように生きているのか? 多角的にインタビューをし、その記録として、記していきたいと思う。

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