これからの組織のあり方を共に考える。共に創る。
vol.3 インナーブランディングのはじめ方
「これからの組織のあり方を共に考える。共に創る。」をテーマに、全6回に渡りお届けするシリーズ「めぐるめぐる」
vol.1、vol.2では、組織ブランディング-インナーブランディングの概念をお伝えしてきました。ここからは、インナーブランディングの具体的な方法について、お伝えしていきます。vol.3は小川が担当します。
Illustration:サン
めぐる めぐる
“もし、私たちが、人間性にあふれた世界に存在することができれば、一体何を実現できるだろう。”
(『ティール組織』フレデリック・ラルー著, マーガレット・ウィートリー&マイロン・ケルナー=ロジャーズ「もっとシンプルな方法」より著者抜粋, 鈴木立哉訳, 栄治出版社, 2018年)
連載企画「めぐるめぐる」について
この連載は、「これからの組織のあり方を共に考える。共に創る。」をテーマに、全6回に渡りお届けいたします。連載を担当するのは、ロフトワーク京都のプロデューサー小島和人とアートディレクター小川敦子です。それぞれが中小企業を中心に、ブランディング、新規事業立案、イノベーション改革という命題に応え、クライアント企業と共に並走してきた2人です。
変化はチャンスと捉え、ぜひ、私たちロフトワークと共に、これからの新しい組織ブランディングーインナーブランディングについて考えてみませんか。
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インナーブランディングとは?
企業とは何かを知るためには、企業の目的から考えなければならない
P.F.ドラッカー
組織として共通の価値観を持ち、調和のとれた一つの力に集めることがとても大切です。組織/企業は、生き物です。調和がとれて、はじめて、モノ・コトが自然と生まれてくる状況をつくりだすことができます。
「自分たちが何のために存在しているのか」
自分たちの価値観や目指す未来=存在目的(自分たちが何のために存在しているのか)をこれまでの歴史・文化を振り返りながら、全員に共通する「本質的なスピリット=心のアイデンティティ」を探りあてていきます。
どのように「企業理念=存在目的」へ向けて進んでいくべきか、何を解決してゆくべきか、組織という一つのチームで考えること。そして、存在目的を実践・実現するための仕組みという「道」をつくること。これが、インナーブランディングです。
自分たちの価値を心で捉え直し、見つめ直し、全員で共通した価値観を持つことによって、組織の中に「共感」が生まれます。これによって、自分たちの目指すべきところが明らかになり、ブランディングのDNA=核が構築されます。
核が定まれば、一貫した流れのなかで、開発・PR・顧客サービスをブレることなく組み立てることが可能となり、企業としてのブランドアイデンティティ=企業価値を高めることが、自然とできるようになります。
商品やサービスは、ブランディングの核という本質を表現するための「手段」に過ぎません。大切なのは、組織全員で共通した価値観をしっかりと定めることです。
あらゆる組織において、共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには、「われわれの事業は何か。何であるべきか」を定義することが不可欠である
P.F.ドラッカー
社内インタビューの実施と分析
企業経営の基本的な方向性を示す「企業理念」への認識度合いについて、経営層と現場管理職にインタビューを行います。日常とはかけ離れた崇高なものとして誤った認識がなされていたり、風化してしまっていることも多々あります。企業理念は、創業者が会社を設立した際に託した重要な「思考」であり、それは、ブランディングのDNA=核になります。
企業理念と日常がなぜかけ離れてしまうのか。それは、いつの間にか、独自に形成された組織風土や組織文化が、企業全体の行動原理と思考様式にすり替わってしまうからです。組織風土や組織文化は、個人個人の価値観、感覚で成り立ちやすく、組織に影響を及ぼしていきます。
社内の風通しがいつの間にか悪くなってしまうことの根源は、組織が個人の価値観や感覚によって運営がなされていることにあります。例えば、企業理念では、個人の成果主義を謳っているにも関わらず、実際には年功的な仕組みが採用されていたり、現場の意見を吸い上げるボトムアップを重要視していながら、実際には、経営層のトップダウンによる意思決定によって組織が運営されていることは往々にしてあります。
それでは、社内の納得感や共感は生まれません。組織への懐疑心が高まり、結果、離職率が高まり、信頼関係を構築することもできません。
上位概念である企業理念と、全ての施策ー組織構造や人材育成、人材採用といった人事制度を一貫した流れで結びつけ、組織全体を機能的に論理的に構築することが、非常に重要です。
このように組織・人事戦略が一貫した流れで構築することができると、そこから、市場顧客戦略や商品・サービス戦略といった「事業戦略」、事業戦略のベースとなる「企業戦略」、3~5年の中長期的な戦略とビジョンを策定し、各々の部署の計画、社員一人一人の目標設定へと、組織全体をぶれることなく、まとめていくことができるようになります。
インタビューすることによって、最も明らかにしたいのは、いつの間にか、個人の感覚によって組織全体が運営されてしまっていないかどうか。それによってどのような課題が生まれているのか。この膿出しのような工程は、ときに、苦しさも伴うこともあるかもしれませんが、経営層だけでなく、社内全体で原点に立ち返って、自分たちの存在目的-何のために自分たちが企業として存在しているのか、大切なアイデンティティをしっかりと見つめ直すことができます。
マネジメント人材の育成
仕事のためではなく成果のために働き、贅肉ではなく力をつけ、過去ではなく未来のために働く能力と意欲を生み出さなければならない
P.F.ドラッカー
インナーブランディングプロジェクトを実施する際には、プロジェクトメンバーを社内で選定してもらい、組織のマネジメント人材として、意識改革を目的とした人材育成を行います。
意識改革とは、視座を上げ、思考力を鍛えること。現状よりも、高い視座で組織全体を改めて見つめ直し、様々な講義やワークショップを通して、自社の存在意義を共に考え、共に対話していくための道筋を見つけていきます。また、視座を上げることによって、課題があっても、それを嘆くのではなく、どのように解決して行けばいいのかという思考に切り替えることができます。
講義内容は、組織全体で目指したい方向性によっても異なってきますが、主にはブランディングという経営戦略法のメソッドをきっちりと理解した上で、社内をマネジメントしていくことの重要性を根本から理解してもらうことがその大きな目的です。
インナーブランディングは、ブランディングの工程の一つです。
つい目先のことに囚われてしまい、商品開発を急ぎ過ぎた結果、あとから、どうやって販売の戦略を立てるのかを考えたり、ようやくブランディングの重要性に気づく企業の方々も少なくありません。また、対外的にどう思われたいか、という目線だけでブランディングを実施してしまうと、社内への理解を得ることがお座なりになり、結果、誰からも協力してもらえないということになってしまいがちです。
ブランディングの初期に、インナーブランディングを実施することで、企業のアイデンティティという最大のブランド価値を構築し、しっかりと核を定めることができます。
ブランディングとは、自分たちにしかないもの、他とは違うところを明確にし、「差別化」を図ることです。自分たちにしかない価値はどこにあるのか。自分たちにしかない価値を言葉にするために、知る、対話する、自問自答することによって、上位概念である「思考」を生み出すこと。
インナーブランディングによって生まれたDNA、ブランドの核こそが、社内にとっても、社外にとっても、共感を生み、価値を生み出すための「源泉」となります。
今回は、インナーブランディングの主な流れについて、お伝えしました。次回は、「改革を後押しする組織の形」について、お届けします。
*参考文献
『組織と人材をつくる人材マネジメントの起点 HR Standard 2020 』大野順也編 株式会社アクティブ アンド カンパニー著, ダイヤモンド社, 2019年『ティール組織』フレデリック・ラルー著, 鈴木立哉訳, 栄治出版社, 2018年,『マネジメント エッセンシャル版ー基本と原則』P.F.ドラッカー著, 編訳者 上田惇生, ダイヤモンド社, 2001年
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