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木下 浩佑 2022.03.04

自社の技術を魅力的に伝えるには?
ー NISSHAのトレンド分析から考えるコミュニケーションツールのつくり方

サスティナビリティ / ジェンダーフリー / スマートモビリティなど、私たちのライフスタイルにおける大きな潮流の変化に伴うさまざまなキーワードが「トレンド」に影響を及ぼしています。トレンドの奥にある「新たに求められる価値観」を掴み、製品・サービスに落とし込むには、どうすれば良いのでしょうか。

2021年11月、印刷、コーティング、成形、金属加工などをコア技術としてグローバルに事業展開するNISSHA株式会社のインハウスデザインチーム「NISSHA Design & CMF」の野村 真さんと川田 有桂さんをゲストに迎え、トークイベントを開催しました。(イベント概要はこちら

そこで、私たちロフトワーク / MTRLが外部パートナーとして取り組んだトレンドリサーチのワークショップを振り返りながら、「トレンドを分析し、近未来に求められる新しい価値軸と世界観を提示するためのプロセス」や「素材の製造・加工技術を起点に、体験 / 機能 / 意匠 / 質感を統合的にデザインする方法」について考えました。

執筆:野本 纏花
企画・編集:木下 浩佑

インハウス デザインチーム「NISSHA Design & CMF」の取り組み

野村さんと川田さんが所属するDesign & CMFのミッションは、NISSHAのクライアントであるメーカーのデザイナーに対し、リサーチとデザインとテクノロジーを掛け合わせて最適なCMFを提供することです。CMFとはColor(色)・Material(素材)・Finish(仕上げ)のことで、エンドユーザーが製品を手にした際に、一番に目にする重要なものになります。

CMFの精度を上げるには、デザイントレンドはもちろん、社会背景や市場のニーズ、そしてエンドユーザーの好みの変化などを、複合的に捉えておく必要があります。そこでNISSHAでは「NISSHA TREND VISION」として年に一度、レポートを作成しています。このレポートには、世界中のデザイン・建築・芸術・テクノロジーといった、さまざまな分野のムーブメントを調査した結果から見えてきた兆しや気づきが詰め込まれており、毎年の最先端トレンドを可視化・言語化しています。

NISSHAではこのTREND VISIONをもとに、「CMF DESIGN BOOK」を制作。見開き1ページごとにデザインコンセプトと使用しているテクノロジー、サンプルが添付されたものとなっており、顧客へ意匠や機能価値だけでなく体験価値を伝えるコミュニケーションツールとして活用されています。

こうした取り組みをNISSHAでは2014年から続けていますが、今回、初の試みとしてロフトワーク / MTRLが外部パートナーとして加わり、Design & CMFのみなさんとともに、2日間のワークショップを実施しました。以下、今回実施したトレンド分析の詳細なプロセスについてご紹介します。

FabCafe Kyotoを会場に、トレンドリサーチのもと加飾 / 造形 / センシングのテクノロジーを統合し体験価値を具現化したサンプルと、そのデザインプロセスに触れられる展示企画も開催されました。
NISSHA TREND VISIONのテーマに沿って作られた「CMF DESIGN BOOK」 。

Information

2022年2月末、このワークショップを経て完成した「NISSHA TREND VISION」がベースとなった、モビリティ空間への木目意匠提案をまとめた最新サンプルブック『WOOD 14』がリリースされます。

NISSHA株式会社 Design & CMFグループではこの度、モビリティ空間への木目意匠提案をまとめた最新サンプルブック『WOOD 14』をリリースいたします。

『WOOD 14』とは
時代が変遷する中で、空間と心地よく調和する意匠デザインにも常に変化が求められています。
弊社では最新のデザイントレンドと社会情勢の独自分析によって導き出した「NISSHA TREND VISION」から3つのテーマを設定し、新たな時代のニーズにお応えする木目意匠をサンプルブック『WOODシリーズ』の形でご提案します。

ブックリリースは2022年2月末を予定。
内容をご紹介するムービー (Long ver.) も制作中です。

リリースに先立ち、3つのテーマと世界観をご紹介するムービー (Short ver.) を弊社webサイトにて公開中です。
是非ご覧ください。

トレンドを読み解く4つのプロセスとは

今回のワークショップでは、Design & CMFのみなさんが収集した大量の事例を、メガトレンドと呼ばれる大きな潮流の中に置き直し、文脈を与えて言語化していきました。トレンド分析のプロセスは、「1)メガトレンドのインプット 2)バックキャストによる未来予測ワーク 3)KJ法を用いた情報整理と分析 4)潜在ニーズからコンセプトを言語化」の4つに分解できます。

1)メガトレンドのインプット

大量に持ち寄られた事例を読み解くために、まずはメガトレンドをインプットして、大きな潮流とその文脈を掴んでいきます。ここでのポイントは、複数のテーマを横断しながら多角的な視点を得るとともに、一見すると直接関係がなさそうなテーマに通底する価値観や変化を読み取ることです。具体的には、「サスティナビリティ」「ジェンダーフリー」「Additive Manufacturing」の概略を共通認識としてインプットしていきました。

“トレンド”というと流行りものというニュアンスが強くなりがちですが、そうではなく、メガトレンドは“これから訪れる社会の前提となるもの”。メガトレンドを読み解くことで、『今までの古い慣習や常識、ステレオタイプを見直して、リフレーミング(再定義)する姿勢や態度が必要だ』という共通認識を持つ効果がありました。

 
イベント当日のスライドより引用。メガトレンドを横断的・立体的に読み解き、“これから訪れる社会の前提" として捉え直す。

2)バックキャストによる未来予測ワーク

次に行ったのが、私たちMTRLが「未来予測のロードマップ」と呼んでいるオリジナルのフレームワークを用いたワークショップです。先ほどインプットしたメガトレンドを大きな潮流として心の片隅に置いた状態で、社会の変容をシミュレーションしながら「未来の生活者像」の仮説を立てることを目的に行いました。

バックキャスティングとは、現状を起点に未来を予測するフォアキャスティングとは逆に、10〜50年先の未来から逆算して、「将来こうなるのであれば、その過程はこうなっていくのではないか」とブレイクダウンしていく手法です。

このワークショップでは、横軸に「現在を起点にした時間」を置き、縦軸に「未来予測・社会・業界・ユーザー(生活者)」などといった複数のレイヤーを置いたロードマップ作成のフレームワークを使用します。そして、現在から未来に向かう時間軸の中で、自分個人と所属する企業や業界、社会状況を行ったり来たりしながら、今やるべきことが何につながるかを導き出していきます。この手法や効果は、新規事業戦略の策定や製品開発でも、いろいろな実績が出てきているので、ぜひこちらのページもご参照ください。

未来から逆算し、今できるアクションを考える「未来予測のロードマップ」。

ここまでの2つのワークショップを通じて、「価値観・評価軸」「サプライチェーン」「顧客セグメント」といったものがどのように変容していくのかをシミュレーションしてきました。次からは、トレンドの奥にある“時代をつかむ要素”を掘り起こして言語化するプロセスに入っていきます。

3)KJ法を用いた情報整理と分析

決められたカテゴリにあわせて整理するのではなく、背後にある「共通する価値軸」を探し出して言語化・再統合するプロセス。

まずは事前に収集された膨大な資料の中から、「ここは重要だぞ」「ここに肝があるかもしれない」と感じたキーワードをどんどん書き出していきます。ここでは量が重要なので、きれいにまとまった言葉になっている必要はありません。この作業が終わったら、「なんとなくこれとこれは関係があるのでは?」という“惹かれ合う”キーワードを近づけてグループ化していきます。そして、各グループ内で共通する要素を言語化することで、「それが求められている理由=生活者の潜在的なニーズ」として再定義することができるのです。

4)潜在ニーズからコンセプトを言語化

最後のプロセスでは、ここまでで導き出してきた「これからの価値観・評価軸の変化」や「社会や生活者の潜在ニーズ」に、「NISSHAの技術や製品が可能にする体験」という視点を掛け合わせることで、NISSHAにしか出せない“コアバリュー”を具体化していきました。
こうして言語化した結果は、2021年の「NISSHA TREND VISION」に反映されています。

自社を知り尽くしたプロフェッショナルだからこそ見えるもの・見えないもの

ここからはNISSHAのトレンドの読み解きと “素材” 起点の価値提案における工夫について、クロストークの様子をご紹介します。

技術そのものではなく「価値」を提案するコミュニケーションツールの効果

MTRL 木下(以下、木下) 「こんな技術があるから使ってください」ではなく、「CMFの観点から、御社のプロダクトでNISSHAのこんな技術を使うといいのではないですか?」と提案することは、クライアントである製品開発をしている人たちにとって、どんなメリットがありますか?

NISSHA 野村さん(以下、野村) ユーザー向けの製品を開発するデザイナーや設計者の方は、普段からは、新しいものを生み出すためのデザインリサーチをされています。そんなお客さまと同じ目線でトレンドを見ながら会話ができる我々のようなサプライヤーがいると、すごく助かるのではないかと思いますし、意思疎通ができる相手だと分かれば「じゃあ一緒にこの商品開発をしましょう」という話につながっていくと考えています。

木下 BtoB企業であるNISSHAがデザインチームを擁しているのは、トレンドやその奥にある社会の潜在的なニーズと自社の強みを接合するためだと思いますが、具体的にデザイナーは社内でどのような役割を果たしているのでしょうか?

野村 開発の人たちって、アンダーテーブルでいろいろと新しいネタを仕込んでいるものなんですよね。でも、逆に温め過ぎて、出口が見えなくなっていることもある。そうした開発者の持っているネタを、我々がトレンドの観点から客観的に見てみると、「この技術は次の新しい価値として絶対に使える!」というものがあるんです。そこからお客さまも巻き込みながら、私たちが一緒に一緒にプロトタイピングすることで、市場から求められるものができていくケースが多いです。

木下 インハウスだと自社の強みを知り尽くしているし、開発者に直接、深い話を聞けるという大きなメリットがありますよね。

野村 そうですね。加えて、技術が先じゃなくて“欲しいものが先”というアプローチができるのも、我々デザイナーの存在価値かと思います。

木下 社内と顧客どちらに対しても客観的な立場でユーザーのニーズと自社技術と顧客をつなぐ、コミュニケーションの媒介者・翻訳者ともいえますね。その視点でつくられる「CMF DESIGN BOOK」も、単なるサンプルやカタログというよりも「コミュニケーションツール」として機能していると考えられます。

解像度高くトレンドを捉えるために

木下 では次に、私たちがご一緒させていただいたワークショップを振り返っていただきたいのですが、膨大なトレンド群からコンセプトワードを導き出す際には、どのような点に留意されましたか?

NISSHA 川田さん(以下、川田) 2点あります。1点目は、ライフスタイルや商品のトレンドなど、よく目にする言葉は、旬の情報としてメモに残すよう、常に心がけています。2点目は、毎年トレンドの変遷図をつくりながら、一年ごとに、何がどう変わったかを比較・確認することを大切にしています。

木下 実際に、過去の「CMF DESIGN BOOK」を見せていただいて、その精度の高さに驚きました。後から振り返っても、「確かにこんな年だったね」と思えるようなものを、どうして毎年つくり続けられるのか、と。それはトレンドを自分の生活の延長線上にあるものとして捉え、トレンドの変遷に対して非常に高い意識を持たれているからだったんですね。今回、初めてトレンド分析の過程に、私たちMTRLという外の人間を入れていただいたわけですが、それによってどんなメリットが生まれたのかを教えてください。

川田 こちらも2点あります。1点目は、ワークショップとは別に、社内の営業部門がトレンド分析の内容をまとめたレポートである「NISSHA TREND VISION」や「CMF DESIGN BOOK」をどのように活用しているのかをヒアリングする機会を設けていただいたことです。その結果から、今後の改善点が見つかり、とても勉強になりました。2点目は、ワークショップに学生さん2名にもメンバーとして参加していただけたことによって、NISSHAのメンバーは良くも悪くも思考バイアスがかかる中、若い人の視点をインプットすることができ、すごく有意義な時間になったと感じています。

木下 ありがとうございます。“ユーザー目線”とよく言われますが、プロフェッショナルになり過ぎて周りが見えなくなるというのはどこでもある話ですよね。そこに外の人間を入れることで、自分たちがやっていることの意義を再認識できたり、捉え方や解像度が変わってきたり、といった効果があったということですね。

木下 では最後に、本日のまとめとして以下の3点を挙げておきたいと思います。

・素材を起点に体験価値を創出するためには、単なる技術サンプルではなく「コミュニケーションツール」が有効である。

・そのコミュニケーションツールは、機能紹介だけでなく「先端のトレンドを押さえていて、近い未来の価値観・生活に対する提案ができるもの」である必要がある。

・トレンド分析のプロセスでは、「大きな潮流の中に文脈を発見し、自分たちの強みと接続させること」が重要である。

トレンドと自社技術を接続し、さらにそれを伝えるコミュニケーションツールをデザインする。そのための最適なアプローチは、業界や企業ごとにケースバイケースです。迷った際には、外部の視点やデザインの手法をぜひ取り入れてみてください。

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