甘くない“クリエイティブディレクション”という仕事に
若手ディレクターが思うこと〜甘いパフェを添えて〜
地域の産業振興から、企業のブランディングや新規事業・サービス開発、Web構築、空間プロデュースなど。ロフトワークのクリエイティブディレクターは、多種多様なプロジェクトを設計・推進しています。
ロフトワークのクリエイティブディレクター(以下、ディレクター)には、「プロジェクトマネジメント」と「クリエイティブディレクション」という2つのコアスキルがあります。いずれも高い習熟度が求められるスキルであるがゆえに、経験の少ない若手ディレクターにとって、その道のりは前途多難。プロジェクトを担当すると、さまざまな困難や障壁、ときには失敗を乗り越えなければなりません。
本記事では、そんな「甘くない」ディレクターという仕事に日々取り組み、個性とスキルを伸ばしながら成長を重ねている、3名の若手ディレクターに話を聞きました。「ディレクター」という役割、ロフトワークという会社と向き合うなかで、彼らはどう考え、何に悩み、何を目指すのか。仕事のほろ苦さを和らげる甘いパフェを添えて、実直な気持ちを語りました。
企画・執筆:後閑 裕太朗
撮影:山内 康平
撮影協力:夜パフェ専門店 Parfaiteria beL渋谷
話した人
左から順
飯島 拓郎 クリエイティブディレクター
入社3年目。学生時代は地域行政と市民活動の関係について学ぶ。Webディレクションや地域振興案件を中心に、リサーチと観察を通して課題を見極め、バランスを整えるスタイルでプロジェクトに向き合う。真面目かつ率直。
担当プロジェクト:広島県観光プロダクト開発支援プラットフォーム「HYPP」
東郷 りん クリエイティブディレクター
入社3年目。学生時代からデザインを学び、前職ではデザイナーを務める。そのバックグラウンドを活かしながら、主にサービスデザインやデザイン経営の案件を担当。個人活動としてデザイン教育のプロジェクト「デザインのとびら」の企画・運営も行う。日本酒好き。
担当プロジェクト:中央大学 産官学連携Webプラットフォーム「+C」
細谷 祥央 FabCafe クリエイティブディレクター
入社2年目。生物学系修士。バイオテクノロジーのコミュニティラボ「BioClub」をはじめ、FabCafe・ロフトワークの社内案件を主に担当。多様な専門知とクリエイティブが交錯するプロジェクトに魅力を感じている。
担当プロジェクト:YouFab Global Creative Awards 2021
店舗紹介
今回、取材・撮影にご協力いただいたのは、道玄坂にある「夜パフェ専門店 Parfaiteria beL渋谷」。お酒を飲んだ後に楽しむ〆(シメ)として「パフェ」を食べる「夜パフェ」の専門店として、季節ごとに特徴のある、味わい豊かなパフェを楽しめます。
夜パフェ専門店 Parfaiteria beL渋谷
〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂1丁目7-10 新大宗ソシアルビル3F
試行錯誤の中で、ディレクションの「実感」を探る
ーー今回、3人には「ディレクターとしての仕事の甘くないところ」をお話いただきたいと思っています。とはいえ、まずは前向きに、ディレクターとしての仕事の「魅力」をどこに感じているのでしょうか?
東郷 私は、「一人ではできないことができる」のが一番の魅力に感じているかな。中央大学「+C」のWebサイト構築のプロジェクトでPM(プロジェクトマネージャー)を担当して、すごく実感した。私は学生時代にデザインを勉強していたけれど、Webデザインの専門ではないし、モーショングラフィックスや5000文字の優れた記事も生み出せない。でも、それぞれのフィールドでプロフェッショナルなクリエイターをアサインすることで、骨組みができて、肉がついて、表情ができて、服を着て……。そうしてアウトプットの姿がだんだんと見えていく、そのプロセスが好き。クリエイターの出してくれるものは、そのほとんどが私たちの想像を超えてくるから。
細谷 いきなり悩みの話になってしまうけど、「ディレクション」をすると、制作したアウトプットが「ディレクターの成果物」と言えるかどうかはすごく曖昧だよね。実際、「自分は具体的に何ができたんだろう」って、悩むときはない?
東郷 もちろん、ある。でも、今回はその迷いが生まれなかったかな。アシスタントディレクターとして関わっていたときは、あくまで調整役という意識だった一方で、「+C」のケースは「クリエイティブディレクションをした」と胸を張って言えるかな。自称すると恥ずかしいけれど。
細谷 なるほどね。僕の場合、なかなかそう思えなくて。僕らはクリエイターではないから、手を動かして制作をするわけではない。だから、「プロジェクトを進める」というのは、あくまで外から見た時の表現だと思っているんです。実際に手を動かしてる内容で言うと、メールとスケジュール調整と……。
飯島 あと、ミーティングのアジェンダを練ることですね。
細谷 そうだね(笑)。無論、どれも大事なことだけど、自分が手を動かしていることとアウトプットとの間にどうしても乖離を感じてしまって、悩むこともあるんだよね。
飯島 僕の場合は、むしろその悩みが全然ないかな。僕が一番面白いと感じる瞬間は、デザイナーさんが「また一緒にやりましょう」とか「ポートフォリオに載せてもいいですか?」と聞いてくれる時なんです。僕自身が何をしたかというよりも、そう言ってもらえる瞬間が一番嬉しい。
ーー逆に、ディレクションの「難しさ」はどこにあるのでしょうか。
飯島 そもそも、僕は「ディレクションとは〇〇である」とはまだ言いきれないんです。でも、クライアントの考えや意見に対して「こういう道筋はどうでしょう?」と別の方向性を提案するときは、すごく苦悩しますね。
細谷 「これはできない」ではなくて「こっちの道もありますよ」という提案ができるかどうかは、経験やスキル次第だよね。ロフトワークのシニアディレクターは、みんなその提案が上手い。
東郷 「言い方・伝え方」は、ディレクターの仕事において重要だね。私の場合、クリエイターでも、クライアントでも、相手の良いところを見つけて誰かに伝えるのが好き。例えば、発注申請の資料を作っているとき、「なぜこの人をアサインするのか」「実績やひととなりから今回何が期待できるのか」を言語化するのが、すごく楽しい。
伝え方を模索する先に、ディレクターの責任を見出す
細谷 そういう丁寧なコミュニケーションが自然とできるのはすごいね。ただ、実際に仕事を進めていると、クリエイターとクライアントそれぞれへの「伝え方」は必然的に変わるよね。
飯島 僕らとクリエイターで定めた方針に、クライアントが同意してくれるケースと、そうでないケースがあるんですよね。そのスタンスのズレが生じたときこそ、ディレクターが伝え方を工夫して、意向をつなげるための「共通言語」をつくるべきタイミングだと思っています。僕自身、経験が足りないのでめったなことは言えませんが。
細谷 それ、すごく若手座談会を象徴してしている一言だね(笑)。……ただ、経験不足を承知のうえで、伝えることが重要な仕事において「卑怯な立場」にはなりたくないと思っている。これは、YouFabのプロジェクトでPMを任されて、強く感じたこと。
YouFabでの受賞作品の発表は、「FabCafeはこの作品を評価します」という、社会へのスタンスの表明でもあるんだよね。スタンスを示して共感を呼ぶこともあれば、批判が生まれる可能性もある。でも、その怖さを引き受けて「これがいいんだ」と表明している。つまり、方向性を示すことによって、同時に発生するリスクも引き受けている。これこそがディレクターの責任であり根本的な役割そのものではないか、という気がしているんだよね。
東郷 その視点で考えたことはなかったけれど、感覚としてわかる。確かにその通りだね。
細谷 さっきの例で、クリエイターが制作してくれたものとクライアントの要望にズレが生まれた時、ディレクターは「作ったのはクリエイターです」と“言ってしまうこともできる”。でも、それは絶対に言ってはいけないし、言いたくないじゃないですか。ディレクションしたのは自分なんだから、ディレクターが責任を持つべきだよねっていう。
逆に言えば、クリエイターの初期案に対して細かい指示や小さな違和感であってもフィードバックするほうが、むしろお互いの信頼につながる。こういう風にプロジェクトにおける責任がどこで発生して、どこに力点があるのか、詳細まで把握して浮き彫りにさせる必要性をYouFabでは強く実感したかな。
「私だからできる仕事」を求めるべきなのか?
東郷 でも、うまくいかないことも多いよね。
細谷 失敗談とかあります?
東郷 帰ってから泣いたこともある(笑)。
飯島 いいですね、聞きたい。
東郷 あるプロジェクトで、自分がワークショップの場にいられない状況で、現場にいるメンバーに「こういう風にしておいてほしい」と伝えたけれど、それがうまくいかなくて。その場の誰が悪いっていうわけでもないんだけど、すごく悲しかった。
細谷 それは見方を変えると、他の誰でもない東郷さんがその場にいなければならなかった、つまり替えが効かなかったということでもあるよね。
東郷 そうだね。
細谷 このケース、ある意味で「クリエイティブディレクション」の一つのありかたじゃないかな。東郷さんの築き上げてきた「魔法のカギ」がないと開かない扉というか。指示や共有するだけじゃなくて、そのカギの作り方から教えないと代替できないような。そういう仕事って、大事なんじゃないかな。
飯島 自分もワークショップの卓越したファシリテーションとか、そういう現場を目にすると「これはオンリーワンの技術だな」と思う。
細谷 それぞれあるはずなんだよね。その人にしかできないことって。
東郷 「その人だからこそ」という感覚は、お客さんやクリエイターにこそ感じてほしいことかも。私自身も「株式会社〇〇の人」とか「デザイナー」という肩書きじゃなくて、その「人」と仕事したいと常に思っている。
細谷 簡単ではないよね。そういう関係を目指せる東郷さんは、俗っぽい言葉で言うと、気に入られ上手だなと思いますね。これは才能だと思う。
東郷 俗なおだて方だな(笑)。でも、それはたしかにあるかも。
飯島 僕の場合、気に入られ上手ではないからこそ、相手のことを徹底的に調べるとか、準備で補うようにしています。クライアントの要望に対して「でしたら、こういう方針がありますね」と事前の準備からサッと返すことで、「あなたのことを理解している」と伝えることは大切だと感じています。
「ロフトワークにおける私」として、どんな姿を目指すのか
ーー「替えの効かない」という話が出ましたが、3人は現在、ロフトワーク・FabCafeの中でどういう立ち位置にある、もしくは目指したいと感じていますか?
細谷 僕の場合二人と違うのは、YouFabをはじめBioClubでの活動など、社内案件を多く担当していることです。それは会社の中でも特殊な立場だけど、必要な立場でもあると思っています。
東郷 なるほど。立ち位置としてどう表現できるのかな。
細谷 言うなれば、ポジティブな影響を与えるための「余り」。もはや「働かないアリ」とすら言えるかも……。こんなこと言ったら怒られるな(笑)。例えば、デザインやヒアリング、アートディレクションといった、ロフトワークの王道といえるスキルが長けているわけではない。けれど、内側において大事にしたい仕事を担っていると思う。
東郷 私は、これからの展望として、やっぱりクリエイティブに強いディレクターになっていきたいかな。まだまだ胸を張っては言えないけれど。私自身のデザイナーとしてのバックグラウンドをもっと生かしていくことで、「つくること」に強いデザイン経営のディレクターを目指したい。私も担当していた「Dcraft」のプロジェクトでは、「つくる」ことに長けたディレクターの必要性を強く感じたから。
飯島 「思考型」と「つくるのが得意」なディレクターが両方がいると、組織として厚みが出ますね。
東郷 そうそう。あと私の経験として、美大でデザインを学んでいる時、周囲から「デザイナーになるべき」という空気感をひしと感じていた。でも、4年勉強して「つくる」素養を身につけたうえで、上流から考えるほうが得意だと気づく人もいるはず。そういう人たちにロフトワークのディレクターという選択肢があるといいなと思っているし、そのきっかけになりたい。飯島君はどう?
飯島 僕は……。そうですね、僕がこの会社にいるのってすごく不思議だなって思うんです。別に「新しいアイデア」を思いつくのが得意なタイプではないし、世間一般の「クリエイティブ」のイメージとも重ならない。それでもなお、なぜ働けているのか、そういう人間が活躍できる道はどこにあるのか、よく考えるんです。そんな僕が、今目指したいのは、「対象に潜むおもしろさを発見し、編集する」こと。
飯島 特に、広島での「HYPP」のプロジェクトの中で強く感じました。広島には各地域に「おもしろさ」が眠っている。それをどう言語化・明示化できるか考えながらプロジェクトに向き合うのが、僕にとてもマッチしていたんです。これは地域に限らず、例えばWeb案件でも、クライアントに眠る魅力を発見・編集するという意味では、やることは通じています。これを積み重ねていくと、「みんなが気づいていなかったおもしろさ」を、どんな案件であっても紡げるかもしれない。
東郷 いいね、めっちゃ素敵。
細谷 こう比べると、得意なことも苦手なことも、目指す姿も人それぞれだよね。以前、先輩から「細谷はPMをきっちりやれる人と組んで、自分の関心に突き進める環境を整えていくのがいい」と言われたことがあって。スキルも個性も、足りない部分は補い合っていきたいね。
飯島 僕は逆に「これしかないんだ!」と突き進むことや、クリエイティブディレクションはまだまだ苦手だから、東郷さんや細谷くんみたいなタイプと協力できると良いプロジェクトになるのかも。
東郷 ぜひ、やりましょう。このパフェみたいに、一つひとつ違う味の各要素が構造となって全体を支える、みたいな。
細谷 でもこれ、お店の人が「ちょうどいいタイミングで混ぜて食べてください」って言ってたけど。
東郷 そういえば、すっかり上だけ平らげてしまった(笑)。やってしまった!
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