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伊藤 望 2023.09.08

未来ビジョンを組織・事業づくりに、確実に活かすには?
よくある「躓き」を回避するための一問一答

それ、なんのための未来ビジョンですか?

自社の向かうべき未来を描きたい、事業領域がこれからどうなるかを考えたい。不確実な時代の中で、多くの企業が未来ビジョンを策定するにはどうすればいいか悩んでいます。

最近、クライアントのみなさんからよく聞くのは、「コンサルティング会社に依頼して壮大な未来ビジョンを作ったけれど、結局使わずに埃をかぶっている」というお話です。おそらく、そのような事態は発注した担当者の方も、依頼されたコンサルの方も望んでいなかったはずなのです。きっと、その未来ビジョンの内容自体は良かったはず。ただ、未来というものは「描いた後の扱い」が難しい。なぜなら、それはまだ実現していないことで、目に見えない想像の中の世界の話だからです。

未来ビジョン策定についてのご相談を受けるとき、私は必ず、「それ、なんのための未来ビジョンですか?」という問いを投げかけます。未来ビジョンは目的をぼんやりしたままつくってしまうと、結果として「全く使えない」ものになってしまうからです。そこで、本記事では、これまでさまざまなクライアントとプロジェクトを推進する中で見えてきた、未来ビジョン策定に関する「よくある躓き」とその回避策について、一問一答形式で解説していきます。

執筆:伊藤 望/ロフトワーク VU unit リーダー
編集:岩崎 諒子/loftwork.com編集部

1. 未来ビジョンの抽象度が高すぎて活用しづらい

躓きの要因:目的が複数であるほど、未来ビジョンは抽象化してしまう

回避策:未来ビジョンの次に何を作るか、目的をシャープにする

未来ビジョンを策定する際にやりがちな失敗は、目的を広げすぎたために、結果として抽象度の高すぎる内容になってしまい、その活用の道筋が立ちづらくなることです。

重要なのは、考え始める前に「なんのための未来ビジョンか?」を徹底的に問い、目的をなるべく1つに絞り、シンプルにすること。そして、ビジョンを作ったその次に何を変えて、何を実現したいのか?をシャープにすること。

例えば、

  • 新規事業のアイデアを得たいのか
  • 組織の目指すべき方向性をシャープに絞りたいのか
  • 自社の新たな顧客を発見したいのか、自社の技術の新たな可能性を発見したいのか

など……

「社員を未来志向にしたい」というのも一見シャープなようで、ふわっとしている。未来志向にした上で何をしたいのか?をもっと具体的に考えてみましょう。

2. プロジェクトチームを組成する段階で躓いてしまう

躓きの要因:プロジェクトチームのメンバーを「誰にするか」にばかり注力してしまう

回避策:チーム編成よりも、モチベーションデザインに重点を置く

未来ビジョンを探索するチームを組成する際に、チーム編成のことばかりに気を取られていませんか? もちろん、どんなメンバーでチームを組むのかは極めて重要ですが、それだけでは片手落ちです。それに、必ずしも望ましい人材で理想的なチームを組めるとは限りません。

実は、メンバーの編成以上に重要となるのが、モチベーションデザインです。参加するメンバーに自社の未来を考える責任を与えるなど、いかに主体性やリーダーシップをもって参加できるかを考えながらチーム組成のプロセスを設計する必要があります。

これまでを振り返ると、チーム組成の方法は大体3つのパターンに分けられます。

  1. 完全選抜型……未来の経営幹部候補生を集める。
  2. 完全公募型……やる気がある若手を抜擢して実行する。
  3. 半分選抜・半分公募型…….重点的にこの社員に入ってもらいたいという思いはありつつ、未来のスターを発見したいという意図で公募する。

これまで様々なクライアントとプロジェクトをやってきた感覚では、2と3の割合が多い印象です。

個人差はあれど、社員は多かれ少なかれ自社の未来について考えているはずですし、日頃から問題意識を感じながら働いています。社員の内側に眠る思いをどれだけ引き出せるプロジェクトをデザインができるかは、誰をプロジェクトに巻き込むかと同じくらい重要なのです。

3. 未来ビジョンが社内に浸透しない

躓きの要因:複数の事業部を持つ組織で1つの未来ビジョンを共有するのは無理筋

回避策:組織の形に合わせた階層構造で未来ビジョンを設計する

自分たちが描く未来像を全社で共有したいのに、うまくいかないのはなぜか? 少人数のスタートアップやベンチャー企業はいざしらず、複数の事業や異なるKPIを抱える全社単位で未来ビジョンを共有するのはどうしても難しいもの。

未来ビジョンは本来、顧客及びステークホルダーと自社がどのような価値を共有し、どのような理想的な社会をつくっていくか、という計画であり約束です。裏を返すと、異なる顧客やステークホルダーであれば、また違う未来の理想が浮かび上がってくるわけです。未来ビジョンを異なる顧客を扱う部署間でまとめようとすること自体に無理があるのです。

社員一人ひとりに自分ごととして未来ビジョンを捉えて欲しいのであれば、まずは事業部ごとのスケール感で未来ビジョンを描くことからはじめるのがおすすめです。事業部が対象としている顧客層やユーザー層に寄り添ったビジョンであれば、自分たちがどんな価値を提供できるかより具体的にイメージしやすいからです。

もし全社で統一した未来ビジョンをつくりたいのであれば、事業部ごとのビジョンをつくった上で、それらを包括的に統合した抽象的な未来ビジョンをつくるという、複数階層で設計するプロセスが妥当ではないでしょうか。最初から1つの未来ビジョンにまとめようとすると、やはり役に立ちづらいものになってしまいます。

4. 未来ビジョンが内向きになってしまう/視野が狭くなる

躓きの要因:自社のオフィスに閉じたままでプロジェクトを進めてしまう

回避策:オフィスの外に出て、多様な外部人材と積極的に対話する

未来を考えるときに、オフィスに閉じこもって考えてしまうこともよく失敗しがちなアプローチのひとつです。定期的に会議室に集まって社内メンバーだけで延々と議論して、そのまとめをパワーポイント資料にしてもっていく。議論を重ねることは重要ですが、やはりそれも片手落ちです。

1つ、実際に行ったプロジェクトの事例を紹介します。A社では、未来に向けた新規事業をつくるプロジェクトチームが立ち上がりました。チームは未来に向けて、ざっくりと「こんなことを実現したい」ということを形にできていましたが、実際にどんなサービスが求められているのか、具体的に何から手をつけたらいいのかが分かりませんでした。

私たちがまずそのチームとともに始めたのは、その会社が持っている技術やアセットの一部をドキュメント化し、目にみえる価値へと変換すること。そして、そのあとすぐに一緒にオフィスを飛び出し、さまざまな専門家や顧客と対話することでした。すると驚くべきことに、彼らの中でも自然と「自分たちが何を目指すべきか」「そのために何をするべきか」が非常にクリアになりました。

外の情報に触れずに、会議室の中にばかりこもっていると、どうしても浮世離れというか、地に足がつかないビジョンが浮かんでしまいます。そればかりか、自社の技術やアセットに思わぬ価値や新たな可能性があることに気づくチャンスを手放すことにもなりかねません。

ただし、ご紹介したケースのような自社の技術・アセットにおける価値発見や、外部の専門家や顧客との対話を実践するには、さまざまなコミュニティとのつながりが必要になります。例えば、食に関する新事業を展開しようと思ったら、生産者から食品製造業者、外食産業従事者まで、食に携わる幅広いプレーヤーと接続できるコミュニティにアクセスすることで、視野や発想を広げることができます。

Approach. 多様なコミュニティにアクセスし、対話を通して新事業の解像度を上げる

ロフトワークでは、クリエイターやビジネスパーソン、研究者が集まるものづくりカフェ「FabCafe」を運営しています。この場所は、ものづくりや食、建築、サーキュラーエコノミー、微生物多様性研究、現代アートといったコミュニティとの接点があるため、新規事業開発のプロセスで多様なコミュニティにアクセスしたい、という動機からロフトワークに相談してくださる新規事業担当者の方もいます。

>>FabCafeのオープンイノベーション

5. 未来ビジョンを策定したのに、社内でも社外でも話題にならない

躓きの要因:未来ビジョン策定のアウトプットをドキュメントだけにしてしまう

回避策:映像やWebサイトなどの「目にみえる」形にして、社会に問う

未来ビジョンはだいたいドキュメントとしてまとめられることが多い印象です。しかし、ドキュメントのままだと、その価値やイメージが浮かばないまま使われず、社内のクラウドの中で、ひっそりと埃を被っていきます。

おすすめしたいのは、未来ビジョンがある程度形になったら、どんどん外に出して、社外の人々からの評価を得るやり方です。未来ビジョンをドキュメントの形式だけで表現しようとすると、社内ではなかなか評価されにくいもの。一方で、「外でこういう反響や評価を得ました」というファクトがあると、社内の評価もよりポジティブなものへと変わっていきます。

不思議なことに、未来ビジョンの中身がほとんど同じでも、それをそのまま上司やマネジメントに出して評価をもらう場合と、一度外部を経由する場合とでは、全く評価が変わってしまうことすらあります。特に未来ビジョンというわかりにくいものは尚更です。

Approach. オープンなイベントの場で、未来ビジョンとサービスプロトタイプを検証

NEC ビルCXソリューション開発プロジェクトでは、未来ビジョンとそれに基づいて開発したサービスプロトタイプの検証をイベント形式で実施。有識者によるインプットトークも踏まえながら、イベントに足を運んだ人々から深い共感を得ました。

>>詳しいレポート

アウトプットのかたちはさまざまです。例えば映像にしてみたり、Webサイトを立ち上げたり。ビジョンを体現するプロトタイプを制作して展示をしてみる、イメージをWebサイトで公開してみる、など。

私たちがお手伝いする未来ビジョン策定プロジェクトでも、ビジョンを体現するプロトタイプを制作して、それを一般に紹介する展示会を開催し外部からの評価を作っていくというプロセスを実践することが増えています。ドキュメントをつくる以上の工数がかかりますが、出来上がった未来ビジョンを社会に向けて問いかけて反響を得る取り組みは、未来ビジョンの中身を考えるのと同じくらい重要なのです。

まとめ:一度、未来を描くことに躓いたとしても。まずは小さくリスタートしてみよう

本記事を読んでくださっている方の中には、未来ビジョンを考えるプロジェクトを新たに立ち上げようとしている人だけじゃなく、過去に取り組んで失敗してしまった人もいるのではないかと思います。

本記事でご紹介したような「よくある失敗」を回避するために対策することはもちろん大切です。しかし、それよりもまずお勧めしたいのは、小さくアクションすることです。もし、すでに考えた未来ビジョンがあるのなら、それを活かしたプロトタイプをつくって社外の評価を形成するのもいいでしょう。未来ビジョンそのものに組織や上長が懐疑的になっているのなら、正面から攻めずに新規サービス・事業開発の方面から未来に取り組んでみるのが効果的かもしれません。

自分ひとりで、あるいは志を共有する同僚や上司とともに、未来にまつわるイベントや展示にでかけてみるのも良いかもしれません。幸い、ロフトワークではそういったイベントをよく開催しているので、まずは足を運んでもらうだけでも大きな一歩になるのではないかと思います。

わからないことがあれば、ぜひ私たちロフトワークのメンバーとブレストしてみましょう。

みなさんの会社から素敵な未来の一歩が生まれることを祈っております。

伊藤 望

Author伊藤 望(VU unit リーダー)

2018年ロフトワーク入社。機会発見のためのリサーチや、リサーチに基づく新規事業開発、未来洞察、新たなコンセプトを生み出すためのフレームワーク開発、アイデアソンなどのプロジェクトに従事。人がアイデアを思いつく仕組みについて研究中。2023年よりトランジションデザインと出島型開発を通じた事業開発を支援するVU unitの立ち上げ支援を行うチームを立ち上げ。足立区東京2020大会記念協創提案型事業審査委員長など。文房具探しと書店めぐり、サウナ通いが生きがい。

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