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鈴木 うらら 2026.08.28

偏愛・AI・感性が、まちのものさしをどう変えるのか?
探す、見つける、語る「ぶやぶや渋谷」レポート

渋谷と聞いて、どんな風景を思い浮かべるでしょうか。スクランブル交差点。大きな広告。絶えず行き交う人々。次々と建て替わるビル。

情報が多く、「渋谷らしさ」がすでに強く語られている街だからこそ、私たちはいつの間にか、知っている渋谷を確かめるように歩いているのかもしれません。

けれど、同じ街を歩いていても、人によって立ち止まる場所は驚くほど異なります。建物の隙間から伸びる植物が気になる人もいれば、誰かのちょっとした工夫に目を奪われる人もいる。遠くに切り取られた空や、街角に残された跡に惹かれる人もいます。そうした一人ひとりの「なんか気になる」から、まちを見つめ直してみたら、どんな風景が見えてくるのでしょうか。

2026年7月18日、参加者それぞれの感性を手がかりに渋谷を歩くイベント『ぶやぶや渋谷~感性視点のまちあるき~』を開催しました。

企業、行政、大学、まちづくりなど、異なる背景を持つ約20名が参加。専門家ならではのまちの見方を借りながら街を歩き、自分が反応したものを集め、さらに他者やAIの視点を重ねていきました。まちあるき後のワークショップで取り組んだのは、それぞれが感じた「なんかいい」を、自分なりの“まちを測るものさし”に変えること。

今回の実践を通して見えてきたのは、まちの魅力を新しく発見する方法だけではありませんでした。誰かの個人的なものの見方が、別の誰かのまちを見る視点になっていく。そんな、これからのまち歩きや地域との関わり方につながる可能性が見えてきました。

イベント詳細

ぶやぶや渋谷
ー感性視点のまちあるきー

2026年7月18日に開催した、感性を手がかりに、渋谷の見方をひろげてみるまちあるきイベント。いつもと視点を変えながらまちの風景を記録し、自分なりの「まち感性指標」をつくりました。

イベントの詳細を見る

鈴木 うらら

Author鈴木 うらら(ゆえんユニット プロデューサー)

長野県大町市出身。北海道教育大学卒業後、株式会社ロフトワークへ入社。地域共創ユニット「ゆえん」のプロデューサーとして、地域の文化・歴史・産業・暮らしを未来へつなぐプロジェクトに携わる。大学時代は、札幌でのシェアハウス立ち上げ・運営や、島根県海士町での「大人の島留学」、教育系スタートアップでの探究学習支援など、教育・地域・コミュニティを軸に活動。まちあるきの楽しみは、味のある看板、自転車通行可標識、拾われた落とし物などを探すこと。

Profile

偏愛、テクノロジー、感性のものさし。3つを重ねて街を見る

今回のプログラムで重ねたのは、大きく3つの視点です。

一つ目は、路上園芸鑑賞家・村田あやこさんの「偏愛」から生まれるまちの見方。まちを見るピントを、いつもと少し変えていきます。

二つ目は、写真と位置情報、生成AIを通じて、目の前の風景と土地の歴史や文化をつなぐ「timespace ZINE」。「なんか気になる」をきっかけに、その風景の向こうにある土地の時間や背景に触れていきます。

そして三つ目が、言葉や既存の数値では捉えにくい街の魅力を、自分なりのものさしとして表す「まち感性指標」。自分・他者・AIの見方を重ねながら、そこで感じた「なんかいい」を言葉にしていきます。

「ぶやぶや渋谷」は、この一連の体験を通して、個人の小さな反応と土地とのあいだに、新しい接点をつくる実験でした。

まちとの距離を縮めるには

地域の魅力は、観光名所や人口、人流、経済効果など、誰もが共有しやすい情報によって語られることが多くあります。

一方で、実際にまちを形づくっているのは、そこで暮らし、働き、訪れる一人ひとりでもあります。ふと足を止めた風景。なぜか気になった誰かの振る舞い。うまく説明できないけれど、妙に心地よく感じた場所。そうした個人的な反応のなかにも、その人と土地との接点や、まだ名前のついていないまちの価値が隠れているのではないでしょうか。

そうした小さな反応を拾い、誰かと交換できる形にすることで、まちを見る視点そのものを増やせないか。「ぶやぶや渋谷」は、そんな問いから始まりました。

まちの見方を、少しずらしてみる

普段通りに歩けば、見えてくるものも、いつもと大きくは変わりません。私たちは、無意識のうちに、自分に必要な情報やすでに知っている意味を選びながら歩いています。そこで、街へ出る前に、専門家の視点を借りて、見方をひらいていきました。

個人的な偏愛から、まちを見るピントを変える

最初に登壇いただいたのは、路上園芸鑑賞家の村田あやこさん。自身の関心や偏愛を手がかりに街を見る実践を紹介いただきながら、まちをみるピントの変え方、合わせ方について共有いただきました。

大型ディスプレイに、履き古したブーツを鉢代わりにして植物が育つ路上の植栽が映し出され、その前でマイクを持った登壇者が話している

村田さんが観察する「路上園芸」は、軒先の鉢植えや、建物の隙間から自然に生えた植物など、都市の中に現れるインフォーマルな緑です。植物そのものだけでなく、どこに生えているのか、何が鉢として使われているのか、水やりや固定にどんな工夫がされているのかに目を向けると、都市の隙間や水の流れ、そこで暮らす人の試行錯誤まで見えてきます。

何気ない緑も、村田さんの視点を通すと、植物と人、街の環境が関わり合いながら生まれた、その土地ならではの風景として見えてきます。

当日は、「気になるものにピントを合わせる」「はみ出しものを探す」「時間軸を変える」「マイテーマに名前をつける」といった視点を紹介いただきました。

少し偏って、自分なりのマイテーマを持ちながら街を見ることで、昨日まで背景だったものが、そこに暮らす人や土地の時間を想像する手がかりへと変わっていきます。

AIで、写真の向こうにある土地の文脈をひらく

続いて登壇いただいたのは、株式会社timespace 共同創業者/COOの高山累さん。今回のまち歩きでは、参加者が気になった風景を記録し、その場所の背景へ触れるために、株式会社timespaceが開発を進めるアプリ「timespace ZINE」を活用しました。

timespaceが掲げるコンセプトは、「世界を雑誌にする」こと。街で気になった場所を撮影すると、写真と位置情報を手がかりに、生成AIが周辺の歴史や文化、土地の背景を読み解き、一つの記事として生成されます。

「何が出来るの?」と題したスライドを指しながら話す登壇者。スライドはtimespace ZINEの3つの機能を、画面遷移の図とともに示している。
timespace ZINEが生成した記事の画面。日付は「July 18 2026」、場所は「東京都, 渋谷区」、見出しは「神泉の落書きと生活」。ゴミ箱にブランドロゴ柄の袋が収められた様子を描いたイラストと、かつて湧水で知られた神泉の住宅街について書かれた本文が並ぶ

高山さんは、都市が経済合理性を優先することで、場所ごとの違いや、人がその土地で感じたことが見えにくくなっていくことへの問題意識を話しました。timespaceが記録しようとしているのは、場所そのものの情報だけではなく、その人がその街の何に反応したのかという視点です。

最初に「なんか気になる」と反応し、写真を撮るのは人。その個人的な視点に対して、AIが土地の歴史や文脈を返すことで、目の前の風景を、自分一人ではたどり着けなかった時間軸や背景から捉え直していきます。人の感性から始まり、テクノロジーを介して、もう一度その人の感覚へ戻ってくる。今回のまち歩きでは、timespace ZINEが、その往復をつなぐ役割を担いました。

それぞれの「ぶやぶや」を探しに、渋谷へ

「なぜか気になる」「思わず足を止めた」。

そんな、自分の感性が反応した渋谷の風景や気配を、この日はそれぞれの「ぶやぶや」として集めていきました。「ぶやぶや」は、渋谷という地名の中にある「ぶや」という音から生まれた言葉です。地名の音を手がかりに、その街を感覚から捉え直しながら歩くことで、普段とは少し違う見方をひらいていきました。

参加者は渋谷・神泉の街へ出発しました。どの道を歩くか、どこで立ち止まるか、何を撮影するかは、一人ひとりに委ねられています。植物や階段に注目していたり、人を観察していたり、ふと遠くの景色を見てみたり。中には、鳥というマイテーマを決めて集めている人もいました。

また、街へ出る前には、いつもの視線から少し離れるための3つのヒントも共有しました。

いつもの視線から離れるための3つのヒント

ノールック採取|偶然を味方にする
画面を見ずに撮る。きれいに撮ろうとせず、身体が反応したものを拾う。

360度採取|目線のクセを外す
上・下・遠く・近くを見る。いつもの目線から外れてみる。

五感採取|写らない感覚も残す
匂い、温度、音、風など、写真に写らない感覚も採取する。

参加者に配られたネックホルダー入りのカード「街歩きのヒント」。ノールック採取・360度採取・五感採取の3つが、それぞれイラストとともに並ぶ
渋谷の交差点脇で、まちあるき中の参加者2人が、撮ったばかりの写真をスマートフォンで見せ合っている
路地に立った参加者が、店先の庇を見上げてスマートフォンを構えている。右手のガラス面にその姿が映り込んでいる

「なんかいい」を、自分なりの渋谷のものさしにする

街から戻った参加者は、撮影した写真の中から、なぜか一番引っかかる一枚を選びました。

ここからのワークを設計したのは、FabCafe Osakaの小島和人さん、通称ハモさんです。ハモさんは「まち感性ラボ」の活動を通して、人流や売上といった既存の指標だけでは捉えきれない都市の感性的な価値を、自分たちの言葉とものさしで捉える「まち感性指標」の研究と実践に取り組んでいます。

参加者はまず、自分が選んだ一枚について、「自分は何に反応したのか」を考えます。そこへ、隣の人には何が見えるのか。timespace ZINEは、その場所にどんな歴史や土地の文脈を返したのか。自分・他者・AI、それぞれの見方を重ねていきました。

同じ一枚を見ていても、目に入るものは違います。自分は「建物の隙間から見える空」が気になったのに、隣の人は「その場所で人が立ち止まれること」に注目するかもしれない。AIからは、その風景が生まれた都市の歴史や地形が返ってくるかもしれません。

ハモさんは、こうした見方の「ズレ」のなかに、まだ名前のついていない街の価値が眠っていると考えます。そこで次に行ったのが、曖昧な「なんかいい」を、あえて数値で測れる「まち感性指標」に変えてみることです。

感性を、なぜ数値にするのか

たとえば、夕暮れの街を歩いていて、思わず足を止めたとします。「夕暮れがきれいだった」で終われば、それはその人の感想のままです。でも、そこからあえて「夕暮れで立ち止まる人率」という指標をつくり、0と100の状態を考えてみる。

0は、誰も足を止めずに通り過ぎる街。100は、みんなが立ち止まりすぎて歩けない街。

では、自分が心地よいと思う「myベスト」はどのくらいなのか。たとえば40だとしたら、自分が価値を感じていたのは、夕暮れそのものだけではなく、ふと立ち止まる余白がある街の状態だったのかもしれません。

感性は、本来きれいに数値化できるものではありません。だからこそ、あえて少し強引に「0」「100」「自分にとってのベスト」を決めることで、自分でも説明できなかった感覚の輪郭が見えてきます。

まち感性指標は、街を採点したり、ほかの街と競わせたりするためのものではありません。自分はどんな状態を心地よいと感じるのか。この街に、どんな風景や振る舞いが残っていてほしいのか。曖昧だった「なんかいい」を、他者と話せるものさしに変えるための方法です。

参加者は、自分が残したいと感じた視点をまちの状態へと言い換え、それを観察するなら何を見ればよいか、どう測れるかを考えていきました。そのうえで、指標の名前や0・100の状態、「myベスト数値」へと落とし込み、自分が街の何に価値を感じていたのかを少しずつ言葉にしていきました。

個人的で曖昧だった「なんかいい」が、まちについて誰かと話すためのものさしへと変わっていきました。

2台のスマートフォンを手に、timespace ZINEのCommons画面を見比べる参加者。「東京都, 渋谷区」で生成された記事が、「神泉の街角で」「湧水が眠る坂」「渋谷の波打つ手すり」といったタイトルで一覧に並ぶ
参加者2人が、撮影した写真をスマートフォンで見ながら、ピンクの付箋を手に話し合っている
付箋やワークシートを広げて手を動かす参加者たちのあいだに進行役が立ち、テーブルごとに言葉を交わしている
ワークシートにペンで書き込む参加者。手元には、手書きの文字で埋まった付箋とスマートフォンが並ぶ

「額縁」「イタズラ」「犬との遭遇」。渋谷から生まれた指標

実際に、参加者からはさまざまな指標が生まれました。

ある参加者が着眼したのは、高架とビルの隙間から、遠くの風景が切り取られて見えることです。その一枚から生まれたのは、「まちの中のがくぶちの数」という指標です。ここでいう「がくぶち」とは、建物や高架、路地などによって、街の向こう側の景色が額縁のように切り取られて見える場所のこと。

0は、建物が密集しすぎて、向こう側の景色がまったく見えない状態。反対に100は、開けすぎていて、景色を切り取る「額縁」そのものがなくなってしまった状態です。この参加者が心地よいと感じていたのは、開放感そのものではなく、建物の密度のなかにふと遠くの景色が現れる、その絶妙な隙間でした。

ほかにも、「公的にYesとは言えないけれど、警察につかまらないくらいのイタズラ」という指標が生まれました。この指標のmyベスト数値は50。さらに、「散歩中の犬との遭遇率」「木を見上げる人の数」など、それぞれの感性を起点に、まったく異なるものさしが生まれていきました。

指標になったのは、渋谷の客観的な特徴ではありません。その人が渋谷の中で思わず立ち止まり、心地よさやおもしろさを感じたものです。そして指標を見せ合うと、その人が「街の何を価値だと思っているのか」が、ほかの参加者にも伝わっていきます。

後日、参加者の一人からは、「街を歩いていると、他の人がつくった指標がふと頭に浮かぶようになった」という声も聞かれました。誰かがつくったものさしが、別の誰かのまちを見る視点として残っていく。今回の実践では、そんな見方の伝播も起きていました。

隣り合った参加者2人が、ワークシートの記入内容を指さしながら笑い合っている
素材見本が並ぶ棚を背に、3人がそれぞれスマートフォンを手に笑いながら話している

終わりに

一度のまち歩きで、その土地への愛着や主体性が生まれた、と言い切ることはできません。それでも今回、参加者からは「怖い印象を持っていた渋谷に、人間味を感じた」「自分と渋谷が混ざり合うような感覚があった」といった声をいただきました。

自分の感性を手がかりにまちを見ること。
そこで見つけたものに名前をつけること。
そして、誰かの見方と交換すること。

今回の実践から見えてきたのは、まちを自分との関係のなかで捉え直すための、小さなきっかけをつくれるということでした。

誰かの偏愛に触れ、普段は見過ごしていたものに目を向ける。
テクノロジーを通し、その風景の背景や時間に触れる。
そこで感じた「なんかいい」を、自分なりのまちをみる指標に変えてみる。

それらを重ねることで、自分でも気づいていなかった「まちの見方」が少しずつ輪郭を持ちはじめます。個人の「なんか気になる」を起点にまちを見つめることは、その土地にまだ名前のついていない価値を見つけ、新しい関係を育てる入口になるのかもしれません。

感性から始まる、新しい土地との関わり方を、私たちと一緒に探ってみませんか。

「ぶやぶや渋谷」のタイトルが映るスクリーンの前に、登壇者と運営メンバー7人が横一列に並び、手を広げてポーズをとっている
「ぶやぶや渋谷」のタイトルが映るスクリーンの前で進行役が話し、テーブルを囲む参加者とゲストがそれに耳を傾けている

地域共創チーム「ゆえん」について

ロフトワークの「ゆえん」は、地域に暮らす人や企業、行政、クリエイターなど、さまざまな人たちとともに、その土地にある資源や文化、関係性を捉え直し、地域に必要な外部の視点やつながりを持ち込みながら、新しい価値や活動を生み出し、持続的な発展に資する挑戦を支える地域共創チームです。

地域の魅力やこれからの関わり方について、「こんなことを考えてみたい」というテーマがあれば、ぜひ私たちと一緒に考えてみませんか。

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