「京都市観光協会」の事業価値を再定義する
Webリニューアルプロジェクト
Outline
参加型のリサーチによる「事業価値の再定義」
京都市内の観光事業を支援する京都市観光協会。法人会員数の更なる増加を目指して立ち上げられた”法人サイトリニューアルプロジェクト”をロフトワーク京都が担当。3段階の情報分析を行うことで、課題を具体化させると同時に、観光協会のミッションや事業カテゴリの再編集を行いました。
段階的かつ参加型の情報分析や課題発見のプロセスを経たことで、ホームページの企画・設計だけでなく、CI(コーポレートアイデンテティー)の刷新や、事業の提案までトータルに支援することに繋がり、今後に向けてさらなる広がりも生まれています。
- プロジェクト体制
・クライアント:公益社団法人京都市観光協会
・プロデューサー:篠田 栞
・クリエイティブディレクター/PM:寺井 翔茉
・ディレクター:上ノ薗 正人
・テクニカルディレクター:小野村 香里
・ロゴデザイン:Sekilala 本田 篤司
Outputs
Background
リニューアルの背景
京都市観光協会は、京都市の観光振興を目的に活動する公益社団法人として、京都市内の観光に関わる様々な事業者の支援を行なっています。2017年11月、観光地域作りの舵取りを担う団体として、観光庁から日本版DMO(Destination Management Organization)に認定されたことで、「京都市の事業者の稼ぐ力を引き出す」観光政策の事業推進を行うというミッションが明確になりました。
一方、リニューアル前の京都市観光協会ホームページには、観光客向けの情報と事業者向けの情報が混在しており、協会の活動意義や活動内容が広く一般に理解されにくく、協会のミッションである「事業者支援」に取り組みにくいという課題がありました。そこで今回のプロジェクトでは、法人会員数を増やすことで事業者支援を推進すべく、以下の要望をいただきました。
- 日本版DMOとしての協会の方針を見直し、職員内で認識を共有すること
- 京都市観光協会のホームページをBtoBサイトとして再設計し、機能を充実させることで、事業者向けの情報発信力を高めること
Process
3段階のリサーチによる「提供価値の再定義」
プロジェクトの開始にあたり、まずはじめにロフトワークから以下のようなプロセスを提案しました。
フェーズ1では、ホームページ設計の基礎作りとして、協会の「提供価値」と既存会員の「ニーズ」の実態を知ることに注力。
協会職員と既存会員へのインタビューを行うと同時に、会員のニーズを協会職員と”一緒に”考えるためのワークショップの実施を提案しました。
協会内・外へのインタビュー、そしてワークショップで得られた情報を元に、二日間の集中アイディエーションをMTRL KYOTOで実施。クライアントと共に考え、アイデアを統合しながらリニューアル後の姿を描き出していきました。
Step.1 内部・外部 両サイドからの情報収集
内部インタビューでの現状把握
ホームページの情報構造を設計するにあたり、京都市観光協会の活動内容を深く知るため、まずは協会職員 8名の方にご協力いただきインタビューを実施しました。協会が掲げるミッションや提供している価値、日々の会員との関わりなどを、業務領域の異なる方々から直接お話いただき、得られた情報をKJ法で統合することで、協会内部の視点でみた京都市観光協会の「現状」を可視化していきました。
内部インタビューから発見された協会の現状(一部抜粋)
- 入会勧誘を行う専任部署は存在せず、職員全員が個人的に動いている。協会が実施する自主事業のパートナー開拓がきっかけとなり、新規会員を獲得しているケースが多い。
- 大所高所に立った地域の発展の為、として発足された協会だが、世代交代や環境変化により、活動理念が内外ともに伝わりづらくなっている。
- 事業の数が多く、またそれらを統合して解説するためのメディアが存在しておらず、組織内部であっても把握しきれていないため、社外からの問い合わせにスピーディーに回答できないケースがある。
- 高齢化と旅行スタイルの変化に伴い、これまでのボリュームゾーンであった”着地型観光ツアー”の推進以外の施策が必要とされている。
ギャップを知るための外部インタビュー
また、協会職員へのインタビューと併せて、”外の視点”として、直近1年以内に観光協会へ入会した企業を対象に外部インタビューを実施。「なぜ観光協会に入ったのか?」「入会までの検討プロセスは?」などの質問を通して、会員が観光協会に感じている”価値”と”期待感”、そして”協会内部とのギャップ”を探りました。
外部インタビューから発見された協会の現実(一部抜粋)
- 観光協会が「敷居の高い」組織だと感じられており、入会したい意思はあったとしても、二の足を踏んでしまう場合がある。
- 事業規模の大きな企業の場合、他社が入会しているので自社も入会しないわけにはいかない、というプレッシャーが存在している。一方小規模の事業者の場合は、「京都に貢献したい」「ビジネスパートナーになりたい」という能動的な入会意図を持っている。
- 京都”外”から観光ビジネスに新規参入する際の仲介役 兼 アドバイザーとして、知人を通じた紹介で観光協会を頼るケースがある。
- 観光協会と何か協業したいという思いはあるものの、入会後の関わりが薄くなってしまっているケースがある。
内部/外部インタビューの全プロセスでは、観光協会のプロジェクト担当者に同席していただくことを徹底しました。
インタビューごとに担当者とともに振り返りを実施し、記憶が新鮮なうちにアイデアや発見を記録することで、最終的な企画の合意形成がスムーズに進むように工夫しています。
Step.2 ジョブ理論のフレームワークで顧客像を明確化
ここまでのプロセスで得られた情報を踏まえて、顧客増をさらに具体化するための”ジョブ理論ワークショップ”を開催しました。
ジョブ理論とは、「イノベーションのジレンマ」の著者であるクレイトン・M・クリステンセン教授が発表した理論であり、消費者の「ニーズ」を的確に捉えるための新しい方法論を提示したもの。
今回のワークショップでは、この方法論を参考にしながら、ペルソナの仮説出し〜統合〜詳細化のプロセスを、職員の皆さんと一緒に実施しました。
ワークショップの設計・運営は、ロフトワークが運営する学びのプラットフォーム「OpenCU」でも過去数回、講義とワークショップを実施し交流の深い、UXリサーチャの樽本 徹也 さんにご協力いただきました。
Step.3 アイデアの統合と情報設計の集中ワーク
内部/外部インタビューとジョブ理論ワークショップで得られた情報を踏まえ、2日間の集中アイディエーションを実施。インプットした情報すべてをMTRL KYOTOの一室に張り出し、実施すべき施策のアイデアを徹底的に議論していきました。
議論はWebサイトの内容だけに止まらず、今後のKTAとしての活動や、会員同士の交流の場となる新しいイベントづくりにまで発展。生まれた沢山のアイデアに優先度をつけながら整理し、その場でサイトマップにへと落とし込んでいくという、スピード感のある合意形成を行いました。
"2つの窓口"で観光協会と繋がるキッカケを増やす
事業詳細ページ末尾には2つのお問い合わせエリアを設置。事業内容に関連する「相談」をしたい人向けに加え、「コラボレーションの提案」を受け入れるためのお問い合わせエリアを設けています。これはリサーチで発見した「協業を起点とした入会者獲得」に着目した結果です。これまでと同様に入会希望者は広く募りつつ、”協業提案”を受け付ける窓口を新たに設置することで「事業パートナーの開拓から繋がる新規会員の獲得」が起きやすいよう工夫しています。
事業価値を言語化する為のフレーム
これまで詳しい情報が掲載されていなかった各事業に対して、具体的な活動内容を伝えるページを新たに作成。
各事業詳細ページでは「ミッション」「なぜやるのか」「目指すゴール」というエリアを設け、事業内容に共感と理解が生まれることで「協業提案の問い合わせ」が生まれやすくなる事を狙っています。
事業成果を発信する為の仕組み
各事業の詳細ページでは、NEWS機能を使い「事業の四半期レポート」や「協力者の募集」が行える仕組みに。
これまで十分に情報発信できていなかった事業の成果を、より高頻度で発信するための機能を持たせ、これからの協会の”オープンな姿勢”を感じてもらえるように工夫しています。
Member
メンバーズボイス
“「観光」って面白い。
利便性が増す事での快適さと、便利になりすぎる事によって興ざめ感が生まれるジレンマ。よりローカルなことを楽しみたい観光客と、そこで生活をする受け入れ側のジレンマ。多くの人が訪れるほどに混雑はするが、人気になればなるほど、その土地の本来の魅力を堪能できなくなるジレンマ。
たくさんのジレンマを抱えているのが「観光産業」だけれど、世界有数の観光地である”京都”こそが、これらジレンマを解決するイノベーションのメッカになるんじゃないだろうか。そんな思いを持ちながら、プロジェクトを進めてきました。
大げさかもしれないけれど、僕たちはこのプロジェクトで”Webサイト”を作っただけじゃなく、京都が観光産業のイノベーションのメッカになるための”ツール”を作ったのだ。と言えるかもしれません。”
クリエイティブディレクター 寺井 翔茉
“Webサイトリニューアルとしてご相談を受けたプロジェクトではありつつも、スタートから数ヶ月はWebのことはほぼ触れなかった、というくらい、「京都市観光協会の未来像を描くための企画づくり」のための時間だったように思います。企画をするためのリサーチやワークショップを協会の皆様と一緒に行うことで、多くのことを共有することができ、その中でありうるべきWebリニューアルのカタチの検討にスムーズに進むことができたように思っています。Webリニューアルとしては一旦完成となりましたが、京都市観光協会のこれからとしてはむしろ「スタート」。今後、いろんなプロジェクトやイベント、コミュニケーションが蓄積、共有されていくベースになっていけばとても嬉しいです。”
クリエイティブディレクター 上ノ薗 正人
“当初、Webサイトリニューアルのご相談ではありましたが、結果的にWebサイト制作をするプロセスの中で、京都の観光を支えていらっしゃる方の想いを伺い、京都市観光協会の皆様と一緒に「未来像やあるべき姿を考えたプロジェクト」になりました。複雑な課題を解きほぐし、プロジェクトを推し進めていく中での、堀江さんの熱い想いと行動力には本当に頭が下がります。ロフトワークと京都市観光協会さまとのお付き合いは始まったばかりですが、京都のクリエイティブエージェンシーとして、京都の”深い観光の世界”を面白くしていくためのプロジェクトをご一緒させていただきたいです。”
プロデューサー 篠田 栞
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