大丸松坂屋百貨店 PROJECT

大丸松坂屋百貨店が現代アート市場に挑む
文化とユーザーを育てるメディア「ARToVILLA」

「アート作品を購入する」と聞いて、身近なことと感じる人はどれだけいるものでしょうか。

2022年1月、日本に“アートのある暮らし”を定着させるべく、アートメディア「ARToVILLA」がローンチしました。

「本や音楽や映画、おいしいごはんを語るみたいに、アートの話をしませんか?」と投げかけるこのWebメディアには、アートに限らずさまざまなジャンルで活動する方々によるコラムが並んでいます。

このWebメディアを立ち上げたのは、大丸松坂屋百貨店とロフトワークのプロジェクトチームです。

組織の垣根なく、一緒に考えつくりあげているというプロジェクトチームのメンバーに、立ち上げ、そして運営の舞台裏について聞きました。

ARToVILLA Webサイト

ARToVILLA Webサイト

聞き手・編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)
執筆:中嶋 希実
写真:村上 大輔

話した人

(右から)
崎向 瞭太/株式会社大丸松坂屋百貨店 DX推進部 デジタル事業開発担当
樋口 悦子/株式会社大丸松坂屋百貨店 DX推進部 デジタル事業開発担当
村田 俊介/株式会社大丸松坂屋百貨店 DX推進部 プロジェクトマネージャー
高井 勇輝/ロフトワーク クリエイティブDiv. シニアディレクター
原 亮介/ロフトワーク クリエイティブDiv. シニアディレクター

百貨店から、より情緒的な価値観を提示する

——まず、大丸松坂屋百貨店として、現代アート業界への参画を決めた背景からお聞かせいただけますか。

大丸松坂屋百貨店 村田さん(以下、村田) 大丸松坂屋のコーポレートアイデンティティとして「生活と文化を結ぶ」というものがあります。その上でコロナ禍の今、やるべき領域を模索していたときに、このプロジェクトの芽が生まれてきたんです。機能的な価値のあるものを提供することが難しくなってきたなかで、より情緒的な価値観が含まれたものをしっかり提供していこう。その文脈で、アートで新しいチャレンジをしようということになりました。

ロフトワーク 高井(以下、高井) 最初にいただいたサービス案は、今と違う形でしたよね。より富裕層に向けた、割とクローズドなサロンのようなイメージで。アートをもっと売っていくための、メディアコマース構想だったと記憶しています。

——そのタイミングでロフトワークにお声掛けいただいた理由を、教えていただけますか?

村田 ロフトワークのみなさんとは、別のプロジェクトでご一緒したことがあったんです。デザイン経営という文脈であったり、プロジェクトマネジメントに長けているという部分が僕としてはポイントでした。いわゆる全部お任せのコンサルティングではなくて、一緒に共創しながらプロジェクトを推進していただけるんじゃないかと思って。

大丸松坂屋百貨店 樋口さん(以下、樋口) 制作会社の方とお仕事するときは、通常だとこちらで検討したものを渡して、それを形にしていただくことが多いんです。でも、ロフトワークのみなさんは、戦略の部分から一緒に考えてくれて。それはすごくありがたいですよね。

ハードルを超えるための案内役

——最初に取り組んだのが、リサーチのためのトレンド調査とデプスインタビューだと伺っています。実際にやってみて、感触はいかがでしたか。

高井 印象的だったのは、アートを「見る」から「買う」へのハードルは確実に存在するということです。インタビューに答えてくださった方々はみなさん、アートが好きな人だったんですね。だけど、多くのみなさんがアートを「高尚な存在」や「限られたマニアのためのもの」として扱うことには抵抗があるという反応でした。日常の延長線上に、自然と「買う」ハードルを超えられるようなコミュニケーションが必要なのではないか、ということが見えてきました。

村田 リサーチするなかで、自分よりも「ちょっと背伸びした人」が発信する情報を頼りに、ものを購入することがあるという声もありました。また、富裕層と一般層の違いは「予算の額」だけで、アート初心者としての気持ちは同じなんだということもわかってきて。アートの魅力を紹介してくれる身近な案内役のような存在、「DOORS(ドアーズ)」というARToVILLAのキーとなるプレーヤーの概念が生まれてきたのは、この辺りからですね。

ARToVILLAではWebコンテンツやイベントを通して、さまざまな切り口で「アートのある生活」を提案するパートナーを「DOORS」と呼んでいます。

—— リサーチを経て、サービスの形に落とし込むためPoC(概念実証)を実施したんですよね。

高井 新しいサービスなので、スモールスタートでやってこうというのは前提としてありました。一方的に作品を紹介するだけではなく、後にDOORSと呼ぶ、読者の生活と接点をつくるような媒介者がいることで購入の後押しができるのか、というのが仮説としてありました。その検証をするために実施したことの1つが、「HITCH PITCH」というウェビナー企画です。

村田 僕がアートを購買していない初心者という体で、4名のDOORSに、僕の嗜好などを聞いてもらいながら、それぞれの視点でおすすめをピッチし合ってもらいました。配信を見たという人から、「見ていたら作品が欲しくなった」などの反響がけっこうあって。オススメされた僕自身も、「欲しい」と気持ちの変化があったんです。このとき、DOORSという存在を中心にしたメディアをつくればいいんだと確信が持てました。

ウェビナー企画「HITCH PITCH」の様子。

多様性を活かす、入り口を増やす

——さまざまな検証を経て、今のサービスが出来上がってきたんですね。ARToVILLAのWebサイトを見たとき、百貨店のなかによくある高尚なギャラリーのイメージとかけ離れた、ポップでみずみずしいデザインが印象的でした。

高井 百貨店らしい品の良さは持ちつつ、親しみやすさも両立できるデザインを目指しました。今は「部屋から、遠くへ」と打ち出していますが、ARToVILLAは3ヶ月に1度のペースで、日常との接点を持てるような特集テーマを設けていて。そこに関連させてサイトのデザインや記事の内容を変えていこうとしています。Webメディアというより、季刊誌のような立て付けになっているんです。

——テーマを設定するのも、読者の日常とつながりやすくするための工夫なんですね。コンテンツは、どのように考えていったのでしょうか。

ロフトワーク 原(以下、原) アートをアートの文脈だけで語っていたら、それ以外の人たちに関心を持ってもらえないですよね。たとえば音楽や食など、こだわりを持って意味のある生き方を見つけようとしている人たちの関心ごとと、アートをどう結び付けられるか。「いろいろな入り口があることが大事」というところから、編集方針を考えていきました。

——DOORSの顔ぶれが評論家から建築家、デザイナー、アイドルと幅が広いのも、いろいろな入口を意識したということですか?

高井 さまざまな接点をつくれるように、多様であることを大切にしてますよね。

原 読者のみなさんが知っているスタープレーヤーのような人たちだけが出てくるわけじゃないっていうのも、ポイントかもしれないですね。例えばこれからは、農家の方も出てくる予定になっていて。メディアだけじゃなくて、イベントなど、DOORSのメンバーがきっかけとなって新しいことが始まるようになっていくんじゃないかと思っています。そのためにも、もっともっとDOORSの存在が活きるようなプロジェクトにしたいです。

アートが日常になるために、挑戦は続く

 ARToVILLAで販売している作品って、今売れている作家のものが中心なんですよ。極端な言い方をすると、多分ARToVILLAじゃなくても売れるんです。今後のチャレンジポイントは、このメディアがあるからこそ売れる作品や、売れ筋の次のクラスを発掘していくことだと思っています。

樋口 ARToVILLA出身のアーティストが出てくるとおもしろいですね。

村田 僕らでフックアップしていくというか、価値を伝えられるようになりたいですね。今、作家さんの次の活動につながるようなアワード企画も模索しています。

高井 今は先行してメディアを立ち上げながら、認知を広げ始めている段階です。ここからは、人々の意識をアートを「見る」から「買う」へ変容させるための、よりおもしろい仕掛けを考えていきたいですね。

村田 日本のアート市場は、世界と比べてすごく小さいと言われていますよね。潜在層に対してアプローチして、アートを所有する人を1人でも増やすことで、アート業界に貢献できたらと思っています。

——お話を伺っていて、大丸松坂屋百貨店とロフトワークに垣根がなく、同じプロジェクトチームのメンバーとして、メディアについて真剣に考えていることが伝わってきます。いいグルーブが生まれているんですね。

村田 ロフトワークのみなさんと想いの温度が一緒だということは、すごく実感してますね。ビジネスの戦略や構想について議論しているときは、どうしてもかっこつけてしまうというか、抽象度の高いことを話しがちです。だけどこのチームでは等身大というか、リアルに何を実行するべきなのかをわかっていると感じます。

崎向 私たちから「こうしたい」という希望やアイデアを出すと、想定の10倍、100倍の熱量のあるプランを返してくれるのは、すごくありがたいですね。これからも、僕らとは違う視点から、ARToVILLAを一緒により良くしていきたいと思っています。

樋口 私は、ロフトワークのみなさんと仕事するのが、すごく楽しいんです。「仕事=趣味」なんじゃないかと思えるくらい、でき上がった記事を読むのが楽しいと感じられるのは幸せなことですよね。

原 大丸松坂屋さんといい雰囲気でお仕事させてもらえていることに感謝しつつですが、自分としては、まだまだ体制が盤石だとは言えないと思っていて。このメディアもサービスも、始まったばかりです。もっと象徴的なものをつくりたいですよね。ARToVILLAの顔というか、らしさが伝わる場というか。

村田 今、夏に大きなイベントをできないか検討しているところで。それが、「ARToVILLAらしさ」を体感してもらえる場になるかもしれませんね。引き続き、挑戦を続けていきましょう。

——夏のイベント、すごく楽しみですね。今日はありがとうございました。

プロジェクト概要

  • プロジェクト名:アートメディア立ち上げプロジェクト
  • 支援内容
    プロジェクトマネジメント、デザインリサーチ、コンセプト策定、PoC計画・実施、Webサイト構築(サイト方針策定、画面設計、Webデザイン制作、コーディング、CMSテンプレート開発)、VI策定、アートディレクション、メディア編集方針策定、コンテンツ企画・制作、イベント企画・制作
  • プロジェクト期間:2020年12月〜
  • クライアント:株式会社大丸松坂屋百貨店
  • プロジェクト体制
    • プロジェクトマネジメント ・クリエイティブディレクション:高井 勇輝
    • プロデュース:藤原 舞子
    • テクニカルディレクション:伊藤 友美
    • アートディレクション:山田 麗音
    • デザインリサーチ:加藤 修平
    • 企画・編集:原 亮介、坂木 茜、(以上、株式会社ロフトワーク)
    • VIデザイン:植原 亮輔(キギ)
    • グラフィックデザイン:松井 正憲(METER)
    • Webデザイン:山本 洋平
    • コーディング:坂田 一馬(Good rings)
    • CMSテンプレート開発:株式会社ビー・オー・スタジオ
    • 編集アドバイザー:竹中万季・野村由芽(me&you, Inc.)

リサーチ〜CMSの選定までロフトワークのWebプロジェクトの特徴・進め方

プロジェクトの全体感をつかみ、戦略と戦術に落とし込むことで、Webプロジェクトの「成功のすがた」を描きます。

ロフトワークのWebプロジェクトの特徴・進め方

Project Member

高井 勇輝

高井 勇輝

株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター

原 亮介

株式会社ロフトワーク
MVMNTユニットリーダー

Profile

藤原 舞子

株式会社ロフトワーク
シニアプロデューサー

Profile

伊藤 友美

株式会社ロフトワーク
テクニカルグループ テクニカルディレクター

Profile

山田 麗音

株式会社ロフトワーク
Creative Executive/シニアディレクター

Profile

加藤 修平

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

坂木 茜音

坂木 茜音

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

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資料内容
・Webサイト制作プロジェクトの課題
・支援内容
・プロジェクト紹介
・モデルケースと価格
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