文部科学省 PROJECT

全国の知見をつなぎ、新しい時代の学び舎を共創する
「CO-SHA Platform」

Outline

学校の教室といえば、学級単位で仕切られた空間で、黒板に向かって並べられた机に座って、生徒たちは⼀⻫に授業を受ける。そんな光景を想像する人が多いのではないでしょうか。しかし、Society5.0の進展やポストコロナを迎えた時代の変化にあわせ、子どもたちの学びのスタイルは多様化しています。

これからの社会を担う子どもたちが予測困難な時代を生き抜くために、対話的な学び(アクティブ・ラーニング)やICTの活用が、平成29年~30年に改訂された新学習指導要領にも盛り込まれました。学びの在り方が過渡期にある今、子どもたちが多くの時間を過ごす学校空間も実空間としての価値を捉え直す必要性が生じています。

こうした背景のもと、文部科学省が令和4年4月に立ち上げたのが、未来の学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」です。主に小中学校の学校設置者や教職員を対象に、学校施設の整備や活用を進めるための、オンライン/オフラインでの共創・共有の場づくりを目指しています。ロフトワークは文部科学省とともに、本プラットフォームを運営する事務局として取り組みを支援。立ち上げから現在に至るまで、情報発信基盤となるWebサイトの構築、関係者らが集うきっかけとなるイベント、アドバイザリー体制の構築など、包括的なプロジェクトデザインを実践してきました。

この記事では、新しい時代の学び舎づくりの実践を支える「CO-SHA Platform」の概要とポイントついてご紹介します。

Challenge

自律的に「新しい時代の学び舎づくり」にチャレンジするための枠組みをつくる

本プロジェクトではロフトワークが強みとする、「共創型のコミュニティ・プラットフォームの構築・アクティベーション」を通じて、日本全国の学校関係者や教育委員会、そして民間企業が、自律的に「新しい時代の学び舎づくり」にかかわり、その輪を広げていくことを目指しています。「CO-SHA」という言葉は、共創(CO-creation)、アイデアをシェアする (SHAring ideas) 、と「校舎」をかけ合わせた造語です。

令和4年3月、文部科学省は「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について(最終報告)」を公表しました。報告書では、学校が「教室と廊下それ以外の諸室で構成されているもの」という固定観念から脱し、学校施設全体を学びの場として捉え直すことの必要性が指摘されています。また、これまでの小中学校では導入されてこなかった「ラーニングコモンズ」や「デザインラボ」といった、学び合いの場としての新たな施設機能にも注目が集まっています。

文部科学省が提案する新しい学校施設のあり方を示すイラスト集。上段には「学び」に関する4つの空間が描かれており、順に、創造的な学びに対応した教室、多機能型のラーニング・コモンズ、実験や制作が行えるデザインラボ、映像編集やオンライン会議も可能な執務空間。下段には「生活」「共創」「安全」「環境」をテーマにした空間があり、リビングのようにくつろげる生活空間、地域と連携した共創空間、バリアフリー設計などを備えた安全空間、環境教育を意識した再生エネルギー活用の屋外スペースが描かれている。
「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方」の例

このような状況を受け「CO-SHA Platform」では、学校設置者や教職員がより自由度高く、かつ自律的に施設整備・活用に取り組めるよう、これまで全国各地で蓄積されてきた経験や知見をオープンに共有し合い、新たな協働を支える仕組みとネットワークを構築することを目指しました。

さらに、プロジェクト発足2年目以降は、新たな学校づくりの一歩を踏み出し試行する「CO-SHA ソウゾウ プロジェクト」を実施。学校関係者に対して実際にアップデートを試みる機会を提供するとともに、伴走型支援を通じて、現場のニーズを踏まえた活動の進め方や空間づくりのヒントを発信しています。

CO-SHA Platformの全体像

CO-SHA Platformの全体像を表す図。左側では、「学校のつくり手(教育委員会)」「学校の使い手(教職員・関係者)」「学校施設に関わる民間企業(設計者・メーカー等)」の三者が相互に協働し、CO-SHA Platformを中心に据えた関係性が矢印で示されている。右側では、「事務局」と「アドバイザー」が連携し、相談対応やイベント登壇、プロジェクト支援などを行う体制が描かれ、下部に「アイデア集」「相談窓口」「イベント」「プロジェクト伴走支援」の具体的な機能が黄色のボックスで示されている

Approach

本プラットフォームに集う各学校設置者や教職員が事例を知り、学び、共有、そして実践することができるネットワークを包括的にデザインすることを試みました。

イベント企画・運営を通じた、領域を超えた交流と知見共有の機会の提供

普段交流する機会の少ない学校設置者や教職員が横のつながりを築ける機会として、本プラットフォームでは全国各地をオンラインでつないだイベントを定期的に開催しています。これまでに「地域や社会との共創空間としての学校」「自由で主体的な学びのための学習空間とは?」などをテーマに、互いの知見や悩みを分かち合う場として活用されてきました。

また、CO-SHAアドバイザーによるインプットを踏まえたグループディスカッションや、リアルタイムでアドバイスをもらいながら、教室の模様替えやレイアウト変更を行うワークショップなど、さまざまな形式のイベントを実施しています。

イベントは学校設置者や教職員のネットワーク形成の場として機能しているのみならず、文部科学省やCO-SHAアドバイザーにとっては、現場のリアルな声を聞ける貴重な機会にもなっています。

CO-SHA Platform が開催したイベント

参加者の属性」を示した円グラフ。最も大きな割合を占めるのは「教職員」で、次いで「空間設計関係者」「学校設置者」「その他教育関係者」「学生」「その他」の順に続く。各属性は異なる色で色分けされており、多様な立場の人々がイベントに参加していることが視覚的に示されている。

令和4年度からの3年間でイベントを計9回開催。
教職員や学校設置者に限らず、教育や空間に関わる多様な方々が参加しています。「地域や社会との協働」「働き方改革」など多様なテーマで実施した議論の内容は、各回のレポート記事にまとめられています。

すべてのイベント/レポートを見る

相談窓口の設置・運用による、専門知へのアクセスと相談機会の提供

CO-SHA Platformには、主に初等中等教育段階の学校づくりに関する豊富な知見を有する「CO-SHAアドバイザー」が多数在籍。建築環境、ICT教育、教育方法・情報など、多岐にわたる分野において、専門的・技術的な相談をすることができます。

相談窓口は、地理的条件や時間的制約にかかわらず、学校設置者が有識者にアクセスできる仕組みとして設けられています。Webサイト内の相談投稿フォームは常時開設され、入力された相談内容は事務局とアドバイザーとの間で協議し、メールで回答を返信します。さらに、アドバイザーの現地派遣やWeb会議などが必要と判断した場合には、個別で調整を行うことも。アドバイザーは年々増員しており、多様な教育現場の課題に対してフィードバックする支援体制を構築しています。

相談窓口の対応プロセスと相談例

CO-SHA Platformにおける相談窓口の対応プロセスを図解したもの。左側には相談者(自治体関係者、学校関係者、企業など)がWebフォームで相談を送信し、事務局が確認・調整・情報集約を行う流れが示されている。事務局は必要に応じてアドバイザーに依頼し、文部科学省とも連携をとる。回答はメールで相談者に返送され、必要に応じてヒアリングも実施。関係者間の連携によって柔軟な対応がなされる様子が矢印とアイコンで表現されている。
CO-SHA Platformの相談窓口を通じた実際の相談内容と回答例を紹介する図。小中併合化、地域連携、インクルーシブデザイン、教職員スペースの4つの具体的なケースが吹き出しと回答欄で示されている。

対応者はアドバイザーと事務局で協議の上、決定しています。また、個別の助成金に関する質問・相談などの場合、文部科学省内の担当部署とつなぐケースもあります。

CO-SHA アドバイザー(2025年3月時点)

CO-SHA Platformに関わるアドバイザーたちの顔写真と氏名、所属・肩書を紹介する一覧。教育・建築・デザイン・福祉など多様な分野の専門家が顔を揃え、それぞれが学校づくりの支援に関与している様子が伝わる。写真は5列×4段で構成され、各人物の下には名前と所属が明記されている。

「明日の校舎づくり」の第一歩となる、空間アップデートの実践機会の提供

令和5年度より開始した「CO-SHA ソウゾウプロジェクト」は、学校施設のアップデートや課題の解決に取り組む公募型企画です。新しい時代の学びを実現するアイデアをもとに実際の場や空間の改修・活用へのチャレンジを支援します。

対象は、学校の改築や改修、教室の空間レイアウトの更新、教師を取り巻く環境の整備などに取り組みたいと思っている、また、取り組む予定であるものの「何から手をつけたら良いかわからない」「ノウハウがない」「専門の職員が足りない」といった課題を抱えている学校設置者・教職員。彼らと共にプロジェクトを立ち上げ、新たな一歩を踏み出し試行するための機会を提供します。採択された団体には、一定額の経費が支給されるほか、事務局による伴走支援、また、CO-SHAアドバイザーをはじめとする学校施設の整備や活用に関する専門家に相談することが可能です。

学校づくりの先進事例の記事制作と、Webサイトの構築

初年度となる令和4年度には、「新しい時代の学び舎づくり」の実践につながるアイデア発信の基盤として、Webサイトを構築しました。また、Webサイト内のコンテンツの一つとして、「学校づくりのアイデア集」も作成。文部科学省が保有する学校施設の整備に関する事例集データベースを再編集し、読みやすさや検索優位性を追求しています。各事例集では日本全国の学校施設の整備・活用に関する参考事例を紹介し、実践的に役立つ情報を提供。さらに、記事によっては事務局が現地に出向いて取材を行うことでコンテンツの拡充を図っています。

CO-SHA PlatformのWebサイト内にある「新たな学校づくりのアイデア集」ページのキャプチャ画像。左側には、テーマ別タグで事例を絞り込める検索機能と、事例の一覧(学校の空間づくりや木材活用など)のカード形式表示。右側には、具体的な事例ページの内容が表示されており、図書室を地域にひらく工夫に関する写真とプロジェクト概要の説明文、地図が掲載されている。
Webサイト内の「新たな学校づくりのアイデア集」ページ

Credit

プロジェクト基本情報

  • クライアント:文部科学省(施設企画課)
  • プロジェクト期間:2022年9月〜

体制

  • 株式会社ロフトワーク(2024年度)
    • プロジェクトマネジメント:櫃石 祥歌
    • プロデュース:柏木 鉄也
    • ディレクション:鈴木あゆみ、田辺 真琴
    • サポート:松井 創
  • パートナー
    • コンテンツ制作:
      • ライター:野本 纏花、さとう未知子
      • バナーデザイン:本田篤司(sekilala)
    • アドバイザーのみなさま

執筆:野本 纏花
編集:田辺 真琴、守屋 あゆ佳

文科省担当者・アドバイザーの皆さんと振り返るインタビュー記事も公開中!

本プロジェクトの背景には、日本の学校教育をめぐるどんな課題があったのか。そして、「文科省の事業としては前例がない」というCO-SHAのユニークな活動が、3年間の活動を通じて学校関係者や社会にどんな価値を生み出したのか。

文部科学省の永野 和大さん、五十嵐 俊祐さん、アドバイザーとして参画された倉斗 綾子さんと、プロジェクトを支援したロフトワーク LAYOUT のリーダーである松井 創の4名による座談会記事も公開しています。

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Members

櫃石 祥歌

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

鈴木 あゆみ

鈴木 あゆみ

株式会社ロフトワーク
Layout ディレクター

田辺 真琴

株式会社ロフトワーク
Layout ディレクター

Profile

柏木 鉄也

株式会社ロフトワーク
チーフプロデューサー

Profile

松井 創

株式会社ロフトワーク
Layout CLO(Chief Layout Officer)

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