AI時代を生きる、学生たちのレジリエンスを育成
「対立」から学ぶ、共創のプロセス
Outline
AI時代の共創を学ぶ、体験型学習をデザイン
玉川大学は、1929年創立の「全人教育」を理念とする総合大学です。STEAM教育に共通語としての英語を加えた、ESTEAM教育*を推進し、予測不可能な混沌とした現代を切り拓く人材の育成を目指しています。
学生が現代社会で活躍するためには、単なる専門知識の習得だけでなく、多様な人々との「共創」を通じて新しい価値を創造する能力が不可欠である昨今、より実践的な学びの機会が求められています。しかしながら、現状のカリキュラムだけでは「共同作業に止まってしまう」「挫折の経験が少ない」など、他者との共同プロセスにおけるコンフリクト(対立)を乗り越える経験が不足しているという課題がありました。
そこで、学部横断で行われるサマープログラムにて、共創の実践を学習する2日間の集中ワークショップを開催。ロフトワークはプログラム設計と実施を担当しました。テーマには共創する際には避けては通れない「対立」に焦点を当て、人との共創・AIとの共創という2軸で、プログラムをデザイン。従来の「皆で仲良くアイデアを出す」という共同作業から、対立や葛藤を乗り越える「共創」のダイナミズムを実感することを目指しました。
このプログラムを通じて、共創とは「小さな対立の連続」であり、何かを創造するためにはこの対立を乗り越える必要があることが強調されました。学生たちは、自己開示や、チームメンバーとの対話を通じて、共創が社会を生き抜くための不可欠なスキルであることを体験的に理解し、今後の学習やキャリア形成における意識を高めることにつながっています。
*「ESTEAM教育」とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を統合的に教える「STEM教育」に、芸術(Arts)とELF(English as a Lingua Franca:共通語としての英語)を融合するものです。
AI時代の共創を成功に導く6つの鍵
2日間のプログラムを通じて「共創は難しい。難しいからこそ、おもしろい。」というメッセージを提示。AI時代の共創において、必要となるポイントを学びました。
- 「対立」を認識し、建設的に乗り越えること
- 自己と他者を深く理解すること
- 内省(リフレクション)を通じて学びを言語化し、自己成長に繋げること
- 能動的な姿勢と当事者意識を持つこと
- 不確実性の中での問題解決とレジリエンス
- AIを「触媒」として活用し、創造性を拡張すること
Program
プログラムテーマ

未知との遭遇
AI時代の共創、そのためのコラボレーションを「対立」から学ぶ
趣味や思想が分散化する時代。
AIなどテクノロジーの扱い方も個々に違う。
もちろん、DE&Iの観点も欠かせない。
そう考えると、同じ人間でも違うことが大前提となるのがこれからの社会である。
そんな中、他者とどうコラボレーションしていくのか?
鍵は「対立」への向き合い方だ。
といっても、ケンカの方法を学ぶわけではない。
小さな摩擦や小さなズレ、そういった他者との関係で起こるコンフリクトを「対立」とよび、 それらを、いかに捉え、乗り越えていくかのヒントを学ぶ。
「共創って仲良しアイデア発想じゃないんだっけ?」
―そんな共創の従来のイメージを少し変える、夏の特別講義です。
なぜ「対立」なのか?
経済学者カール・マルクスが研究を始めて以来、100年以上にわたり研究されてきた「対立(コンフリクト)」。プロジェクトマネジメントの分野でも、PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)にその手法が頻繁に登場します。しかし、「みんな違って当たり前」という価値観が重視される現代では、対立を避ける傾向にあります。しかし、社会は小さな対立の連続です。こうした状況の中で、バランスを取りながら何かを創り出すための知恵が、現代を生きる私たちには不可欠だと考えました。
本プログラムは、以下の文献を参考に構成されています。
参考文献
- 敵とのコラボレーション――賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法|アダム・カヘン (著), 小田理一郎 (著), 東出顕子 (翻訳)
- High Conflict よい対立 悪い対立 世界を二極化させないために|アマンダ・リプリー (著), 岩田佳代子 (翻訳)
- 見知らぬものと出会う: ファースト・コンタクトの相互行為論|木村 大治 (著)
- ヴィーガンとノンヴィーガンのためのコミュニケーションガイドブック|メラニー ジョイ (著), 玉木 麻子 (翻訳)
- PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来(サイボウズ式ブックス)|オードリー・タン (著), E・グレン・ワイル (著), 山形浩生 (翻訳)
- なめらかな社会とその敵: PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論|鈴木 健 (著)
タイムテーブル
Approach
AIとの共創から、人との対話の大切さを知る
AIの活用が進む今、人間ならではの対話能力を磨くことの価値は、これまで以上に高まっていきます。本プログラムでは、ロフトワークが開発した未来洞察サービス「Future in Hands」を用いた、未来シナリオを作成するワークを実施。AIとの共創そのものを体験すること、AIが提示するシナリオを題材として、チーム間で生まれる対話に重点がおかれました。
AIからの提示は、人間だけでは発想が及ばない意外な方向へ議論を拡張する「触媒」として機能します。AIが提示するシナリオに「違和感」を感じることで、参加者自身の価値観や感性が浮き彫りになり、「どんな未来を選択したいのか」という本質的な議論と主体的な選択に集中できるようになるのです。この違和感や選択の違いこそが、対立を通じて深い議論を促す機会となります。
未来洞察サービス「Future in Hands」について
ワークを通じての変化
2回にわたって実施した「Future in Hands」。2日間で学生たちのマインドにどのような変化があったのでしょうか。アンケートを通じて、対話の深さや対立への捉え方の変化を明らかにしました。
その結果を見ると、Day 1時点では、対話の焦点は「表面的な同意」にとどまっていましたが、Day2では「本質的な合意形成」を目指すものへと深まっていったことが伺えます。特に、対立を「乗り越えることで、より良い共創に至るプロセス」へと捉え直したことは、大きな変化です。生活史をインタビューし合うワークを挟んだからこそ、意見が分かれることを恐れず、むしろ「違いを明確にする」議論が行われました。
共創は自己を開示し、他者の価値観を知ることから
共創の基本は、「相手と自分を知ること」から始まります。そこで、内省し自己理解を深めること、他者理解と対話を促進することを目的に、体験作文を書いた上で、生活史(ライフヒストリー)をペアインタビューするワークを実施しました。
一連のワークは単なるアイスブレイクを超え、チームの関係性を深めました。互いの背景を知ることで人間的な理解が深まり、Day1の表面的な対話から本質的な対話へと深化。遠慮や同調から脱却し、意見の対立を恐れず話し合える心理的安全性を醸成。これにより、質の高い意思決定が可能になりました。

本質を見つめ直し、「未来」に繋げるためのリフレクション
経験を単なる出来事で終わらせずに「学び」や「実践知」として定着させ、不確実な未来を切り開くための「創造的な対話」や「共創力」を育む上で不可欠なプロセスとしてリフレクションは欠かせません。本プログラムの締めくくりには、リフレクションについての講義と2日間を振り返るワークを実施しています。
講師はリフレクションとデザインを軸に、個人や組織の創造性や実践知の表出を支援する、MIMIGURI瀧 知惠美さんです。瀧さんからは、リフレクションを経験とセットで真の学びになるものと定義し、これは「過去」の反省ではなく、「現在」の視点から出来事の本質を見つめ直し、「未来」に繋げるための思考であること。また、初めて直面する不確実な状況において、その場その場で状況を感じ取り、吟味し、試行錯誤しながら判断していくために、経験を振り返り、新たな知識や知恵を獲得し続けることが重要であると伝えられました。
参考文献
- デザイン活動の省察における体験作文の有用性:企業における体験作文を活用したポートフォリオ制作の実践
(日本デザイン学会研究発表大会概要集68巻p.44-45)瀧 知惠美(著)
参加者の声
グループメンバーと意見を交わしていく中で、全員の意見が一致して共感を得られたときには嬉しさを感じた。一方で、意見が対立した時には、それぞれがどのような理由をもとにそう考えるのかを共有し理解することができた。その結果、それぞれが納得できる選択肢を選ぶことができ、グループとして作業を進めるやりがいを感じることができた。この経験を通して、会話によって得られることは大きく、今後の日常生活などでも大切にしていきたいと思えた。
私が今回のWSにおいて一番テンションが上がったことは、ペアインタビューが昼休憩が終わって帰ってきた時に文字起こしが終わり、形として紙媒体に変換されていたことである。相槌の数や、その人の喋り方、口癖、話し言葉を書き直した時の違和感が、全て文字として現れることで、より話している情景が容易く思い浮かぶある種一つの作品と呼べるまでに昇華されていたのである。同じペアでも聞き手と話し手が入れ替われば雰囲気が大きく変わったり、また、ペアによっては半分以上を軽い雑談で過ごしていたりなど、それぞれペアまたは個人の個性が顕著に出ていたように思う。文字自体には会話や声が生み出す独特の温かみがないのに、少しゆっくり話していることを想像しながら読むと自然と頭に声が流れてくるような気がした。これは通常の書き言葉や編集によって書き出した相槌を減らした文などでは起きえない現象であり、一つの文のあり方であるように思う。このような今まで気にしていなかったり見落としていた価値観に気づけたりしたことが、私に大きな感動を与えてくれた。
私が感じたのはAIの使い方は慎重に考えないといけないということである。AIを人間に対して使う場合はデータ収集やAIによる管理などの使い方になり、人間同士のコミュニケーションが減少したり、対立が増えるなどすることがわかった。また、AIが登場したとしても今人間が抱えている対人関係などの問題はなくならず、かえって複雑化させることもあるという未来が見れた。よって私はどのようにAIを使うべきなのか考える必要があると思った。
プロジェクト概要
- クライアント:学校法人玉川学園 玉川大学
- プロジェクト期間:2025年8月〜9月
- ロフトワーク体制
- 企画設計:国広 信哉、村上 航
- パートナー
- 瀧 知惠美(株式会社MIMIGURI)
執筆:横山 暁子(株式会社ロフトワーク)
撮影:村上 航(株式会社ロフトワーク)
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