広島県 PROJECT

基幹産業とデザインの連結で都市の求心力を高める
HIROSHIMA DESIGN CHALLENGE

Outline

広島県は、「イノベーション立県」を掲げ、基幹産業の強みを活かし、市場の変化にも対応していくために、イノベーションの促進を目指しています。更なるイノベーションの好循環を生み出すため、ロフトワークとの連携のもと「HIROSHIMA DESIGN CHALLENGE」を実施しました。

プロジェクトでは、課題を抱える地元事業者と、クリエイターによる課題解決に向けたデザインアイデアを、それぞれオンライン公募プラットフォーム「AWRD(アワード)」を通じて募集。その後、採択された事業者とクリエイターでチームを編成し、新規プロダクトの開発と実装を行いました。

取り組みを通じて、地元事業者が主体的にデザインを活用するとともに、クリエイターが広島の街を舞台に活躍する機会を創出。さらに、プロジェクト期間中、イベントやプレスリリースなどの継続的なPR活動で情報発信することで、県の内外に向けて「広島×デザイン」のブランドイメージを形成。デザインの力を通じて広島の街の魅力向上につなげました。

執筆・編集:後閑 裕太朗(loftwork.com編集部)

Story

広島県は、戦前から西日本有数の産業拠点として発展を続けてきました。なかでも、ものづくりにおいては、造船・鉄鋼・自動車などの重工業から先端産業まで、多様な分野が発展し、独自技術を持つ企業や全国的に高いシェアを誇る企業が数多く存在しています。しかし、近年は目まぐるしい技術革新と競争のグローバル化、そしてコロナ禍による影響によって、市場には急激な変化がみられます。こうした状況に、地元の産業・経済が柔軟に対応していくためには、基幹産業の強みを活用しつつ、新たなビジネスが生まれやすい環境をつくらなければなりません。そこで、広島県知事 湯崎 英彦氏が掲げているのが「イノベーション立県」です。この取り組みは、持続可能な経済社会を目指し、新たな価値やサービスが次々と沸き起こるイノベーション・エコシステムを、広島県内に実装しようというもの。

この目標実現に向けた施策のひとつとして、広島県はイノベーションの原動力となりうる、クリエイターをはじめとした「創造的なデザイン人材」を広島に誘致し、地場産業と連携させるプロジェクトを発足。ロフトワークとの連携のもと、地元事業者とデザイン人材を結びつけるコンペティションを開催しました。また、採択された事業者とクリエイターで開発チームを組成し、デザイン案を素地とした新たなプロダクトの開発・実装の支援も行いました。

Approach

プロジェクトの目標に向け、ロフトワークは以下の3点を支援しました。

  • デザイン人材を惹きつけ、広島で活躍してもらうための機会創出
  • デザインを生かした成功事例を生む、実装サポートなどの活動支援
  • 県内外の一般層に向け、「広島のデザイン」(地域イメージ)への関心を高めるための情報発信

Process

プロジェクトは、デザインコンペティション全体で、事業者公募・デザインパートナー公募をそれぞれ実施。また、開発実装フェーズでは、事業者とデザインパートナー両者が参加する合同ワークショップ、開発支援、最終報告会イベントの実施を行いました。

コンペティションのテーマ設計

コンペティション全体のテーマは「『街なか』をピースにするデザイン」。「ピースにする」という言葉は、「人の小さな幸せを作る」「人や社会を思いやる」「毎日を楽しくする」といった具体目標に分類されます。豊かさや明るいコミュニケーションをもたらすデザインを広島に実装するという、プロジェクトの目的が表現されています。また、コロナ禍で地方自治体が苦境に立たされるなかで、広島県が持つ「レジリエンス」に着目。原爆の投下から75年、壊滅的な状況から街を作り直し、平和を象徴する場所として世界から認知されている、広島の歴史的背景を反映しています。

今後の目標として、「街なか」に限らず、「〇〇」の内容を変えながら継続的な取り組みを続けていくことで、「ピースにするデザイン」というイメージが、広島の街を訪れる人に自然と認識されていくことや、デザインによるコミュニケーションを通じて、平和について誰もが考える未来を目指す、そんな想いが込められたテーマとなっています。

コンペティションの審査委員長には国内外でさまざまなプロダクトデザインを手がけている深澤 直人氏を迎え、他にも広島・東京の2ヵ所を拠点する建築設計事務所、SUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻 誠・吉田 愛両氏と、編集事務所Kichiの柴田 隆寛氏を審査員としてアサイン。広島内外の視点を交えながら、プロダクトに限らず空間やサービスなど、幅広い分野を網羅できる体制としました。

課題と意欲を丁寧に汲み取った事業者公募

地元広島県の事業者を対象に、街なかの空間や設置物を中心にデザインや課題解決に取り組みたい希望者を、オンライン公募プラットフォーム AWRDを通じて公募しました。応募者に対し書類審査とオンライン面談を行い、事業への意気込みや現在の課題感をヒアリング。プロジェクトチームと広島県の審査を通して、新たな事業に挑戦する事業者を採択しました。

また、採択された事業者に対し訪問取材を実施しています。次のフェーズであるデザインパートナーの公募に向け、現地観察も兼ねながら、「ピース」にしたい自社製品や課題感、デザインパートナーへの期待感をヒアリングしました。

採択事業者

カミハチキテル -HEART OF HIROSHIMA-
株式会社スマートコムシティひろしま
株式会社ダイクレ
株式会社ディーネット
RiverDo! 基町川辺コンソーシアム

アイデア公募でデザイン人材と事業者をマッチング

採択された地元事業者の課題に対して、ともに新たな開発実装に挑戦するデザインパートナーを募集しました。多様なジャンルのクリエイターから、154件のデザイン案の応募があったのち、審査会を実施。審査結果をもとに事業者およびクリエイターに改めて開発・実装への意思確認を行い、最終的に5組を決定しました。

募集期間中、事業者の考えや要求への理解を促す「事業者プレゼンテーションイベント」や、直接事業者に質問ができる「個別相談会」をオンラインで実施。文面だけではなく、口頭でのコミュニケーションを設けることで、応募されるアイデアの確度と品質の向上を目指しました。

短期間での実装を実現する、的確なコミュニケーション設計と開発支援

事業者とクリエイター間でチームを組成し、選ばれたデザイン案を元に製品を開発・実装しました。開発チームは、採択事業者とクリエイターの顔合わせを兼ねた合同ワークショップから、最終報告会イベントというゴールまで、議論と開発を重ねました。また、継続的なメンタリングを実施することで、チーム内で程よい緊張感と良好なコミュニケーションを構築することができました。
結果として、2.5ヶ月という短い期間ながらも、5組のチームが全て実装まで至っています。
また、最終報告会では製作したプロダクトを事業者自身がプレゼン。デザインとの主体的な関わり方を通して、今後の自社事業においてもデザインの視点を活用していくきっかけとなりました。

多角的な情報発信で「広島×デザイン」のイメージを形成

プロジェクト期間中、情報発信に力を入れ、コンペティションやイベントの告知など、さまざまなタイミングでプレスリリースやメディア掲載を行っています。具体的には、新聞・クリエイティブ・ビジネス・地元メディアなど、多角的な視点のもとメディアにアプローチをかけ、計122件の掲載を実現。クリエイターや事業者に向けてアワードの認知度を向上させることはもちろん、県内外から「広島のデザイン」のイメージを形成し、人々の関心を集めることを目指しました。

Outputs

メインビジュアル

担当者と議論を重ねながら策定したメインビジュアルは、「『街なか』をピースにするデザイン」をテーマとしながら、公平・安心・希望・想像(創造)をキーワードに、多様なアイデアから広島県の取り組みへの共感者や仲間を増やしていくことを表現しています。

Hiroshima Design Challengeアーカイブサイト

製作・実装されたプロダクト

1.「Porta」
お題:空きスペースを活用する商業空間のデザイン
事業者:カミハチキテル-HEART OF HIROSHIMA-
デザインパートナー:U.K Concept&Design 上松 和磨

2.「オンライン灯ろう流し ー灯ろうに込めるメッセージー」
お題:広島を元気にするデジタルサイネージのデザイン
事業者:株式会社スマートコムシティひろしま
デザインパートナー:ヒロシマ「 」継ぐ展実行委員会 久保田 涼子

3.「woonelf fense (ボンエルフ フェンス)」
お題:人が立ち止まりたくなる水辺のデザイン
事業者:株式会社ダイクレ
デザインパートナー:大田 一朗

4.「エントランスファニチャー sisui(しすい)」
お題:多目的防水ボックスのデザイン
事業者:株式会社ディーネット
デザインパートナー:iii architects

5.「THREE-PIECE CHAIR」
お題:川を眺める時間のデザイン
事業者:RiverDo! 基町川辺コンソーシアム
デザインパートナー:米田 浩介

Outcome

本プロジェクトは、クリエイターをデザイン人材として誘致するだけでなく、地元事業者が主体的にデザインと関わる機会をつくることも目的としていました。事業者に対するアンケートからも、「デザインのフレームワークに触れたことで、既存商品の活用方法や業務における選択肢が広がった」「自分たちの製品や事業の価値や可能性を再発見できた」との声が寄せられました。

また、クリエイターにおいても、地元事業者との伴走の中で地域の生活者や歴史に密接した視点の獲得や、地場産業の高度なものづくり技術とのコラボレーションなど、新たな挑戦がありました。実際に、参加クリエイター当人からは「プロジェクト終了後も、広島の事業者とともにものづくりを進めていくきっかけとなった」という意見も挙がっています。

そして、プロジェクトの最終的なビジョンとして「イノベーション・エコシステム」の実現があります。

本プロジェクトは、県内の事業者や行政担当者がデザインに関心を持つきっかけとなりました。今回の成功体験を契機として、今後より多くのプレーヤーを巻き込みながら県内のデザイン関連事業が増加し、広島の街にデザイン性の高い景観やモノ、空間が充実し、その魅力が向上していくことが期待されます。このようなボトムアップの変化を通じて「広島×デザイン」のイメージが醸成され、更なるデザイン人材を惹きつけ、イノベーションの好循環を生み出していく。本プロジェクトは、広島県が目指す「デザイン溢れるまち」とイノベーション・エコシステムの実現に向けた第一歩となりました。

  • プロジェクト内容:デザインプロモーション業務
  • プロジェクト期間:2020年11月〜2021年9月
  • クライアント:広島県地域政策局 都市圏魅力づくり推進課
  • 体制
    • 株式会社ロフトワーク
    • 事業統括責任者 全体設計 / プロデューサー:井田 幸希
    • 事業実施責任者 / プロジェクトマネージャー:菊地 充
    • クリエイティブ統括ディレクター:山田 麗音
    • コンペティション企画実施ディレクター:加藤 大雅
    • 開発実装フェーズディレクター:戴 薪辰
    • プロジェクト全体サポート:金子 由、寺本 修造、名川 実里
    • PR:鈴木 真理子、岩崎 諒子
    • AWRD担当:小檜山 諒、関井 遼平、​​松田 絵里
    • コンペティション審査員
      • 深澤 直人(Naoto Fukasawa Design)、谷尻 誠・吉田 愛(SUPPOSE DESIGN OFFICE)、柴田 隆寛(編集事務所Kichi)
    • パートナー
      • キービジュアルデザイン:小林 一毅(グラフィックデザイナー)
      • Webデザイン:根子 敬生(CIVILTOKYO)
      • PR :篠原 礼子(liil合同会社)

※肩書きはプロジェクト実施当時

Member

井田 幸希

井田 幸希

株式会社ロフトワーク
FabCafe Nagoya 取締役 / MTRLプロデューサー

菊地 充

株式会社ロフトワーク

Profile

山田 麗音

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

Profile

戴 薪辰

戴 薪辰

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

金子 由

金子 由

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

寺本 修造

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

Profile

名川 実里

名川 実里

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

メンバーズボイス

“新型コロナウイルスの感染拡大状況が目まぐるしく変わるなか、リアルでの開催を予定していたイベントもオンラインにするなど、オンラインでどう効果をあげていくのか悩ましい場面が何度かありました。ロフトワークさんにはその都度柔軟に対応策をご提案いただき、状況に応じた効果的な対応ができました。
こうしたこともあり、県民へのアンケート結果では、今回のプロジェクトが多くの県民のデザインへの関心の喚起につながっており、期待以上の成果をあげることができました。今回生まれたデザイン活用の機運を活かして今後もデザイン人材が活躍できる魅力的な街づくりに取り組んでいきたいと思っています。”

広島県地域政策局 都市圏魅力づくり推進課 原田 康太さん

“まずは、応募いただいた事業者・クリエイターの皆様、審査員の皆様、ロフトワークの皆様をはじめ、関わっていただいた皆様、ありがとうございました。
今回のプロジェクトは、募集したアイデアをアイデアのままで終わらせず開発・実装を目指すものでしたが、参加者の皆様には短期間で実装まで実現していただき大変ありがたく思っています。
開発・実装のなかでは、意匠登録をはじめ様々な課題も出てきましたが、県の担当では対応が追い付かないこともロフトワークの皆様には丁寧にフォローいただきました。
こうして実装まで実現できたことから、県民の方からも「見かけたよ,かっこいいね」「使ってみたい」「そこの雰囲気が良くなった」といったお声をいただきました。これをきっかけにデザインにこだわる視点が広島で一層広がるよう取り組んでいければと思います。”

広島県地域政策局 都市圏魅力づくり推進課 貫名 祥平さん

“広島のデザインって何だろう?
プロジェクトの立ち上げにあたり、その議論に多くの時間を費やしました。
時間だけが進んでいく中で焦りもありましたが、県庁の原田さん、貫名さんと意見交換を重ねていく中で、始動に向けて少しずつ目線合わせができたと感じます。
このプロジェクトは関わった人全員が一緒に創り上げたプロジェクトです。
実際には始動後も難局の連続でしたが、一丸となって乗り越えてきたところが一番誇れる点です。ご協力いただいたみなさまに感謝申し上げます。”

菊地 充 株式会社ロフトワーク クリエイティブDiv. シニアディレクター

“広島出身の私にとって、このプロジェクトは非常に思い入れの強いものでした。加えて、被曝都市で掲げる「ピース」というテーマ、広島に想いを持つ審査員のみなさん。責任と重みを胸に、プロジェクトを進めてまいりました。
コロナ禍で与件は次々と変わり困難な局面もありましたが、たくさんの議論を重ねながら広島県庁のみなさんと戦友のように走り抜けられたこと、広島の事業者のみなさんと全国のクリエイターさんたちの共創の機会と成果を生み出せたこと、広島の多くの人にメッセージを届けられたことを、とても嬉しく思っています。
とはいえ、広島を「ピースにするデザイン」は第一歩目を歩き始めたばかり。これがきっかけとなって、広島が、ピースなデザインに溢れる、より魅力的な都市になっていくことを願っています。”

井田 幸希 株式会社ロフトワーク FabCafe Nagoya 取締役 / MTRLプロデューサー

“この取り組みのテーマを決める際、2つの関係者を意識しました。1つは広島県の事業者。彼らが根差す広島という街(過去の歴史だったり現在の街の空気感だったり)を大切にしたいと願う心に届くのかということ。2つめはクリエイター。「ピースにする」というデザインアプローチが、コロナ禍での社会をより良くするための全人類共通のキーワードだと感じてもらえること。戦争の対義語としての「平和」ではなく、多くの人の中に当たり前のように存在している今を少しだけ良くしたいと思う気持ちを「ピース」とし、あえてヒラけた読みとすること。そして、それを見事なグラフィック表現でカタチにしてくれた小林一毅さんのデザインによって、広島県内外を繋ぐ現代的なテーマになったと感じています。最終的に生み出された5つの素敵なプロダクトが今後、より広島の街なかをピースに変えていってくれることを願っています。”

山田 麗音 株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

“プロジェクトではマッチング後の商品開発フェーズのマネジメントを担当しました。広島×デザインというお題に対して、地域をより豊かにしていくためにデザインはいかに力を発揮できるかについて、事業者さんとクリエイターさんと一緒にチャレンジできたプロジェクトです。事業者さんは抱えている課題を、クリエイターはそれに向き合って魅力的なアイデアを、双方が思いを出した結果、そのお題への答えとしてリアルなプロダクト制作ができました。これから試作物をさらに発展していき、地域の人々が活用する「ピース」なシーンが見れることに楽しみにしています。”

戴 薪辰 株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

“「街なか」をピースにするデザイン。この言葉を最初に聞いた時、広島県をデザイン溢れる県にするぞ、という覚悟を感じました。今回、5つの事業者xクリエイターが試行錯誤を繰り返しながらも2.5ヶ月という短い期間で実装までたどり着けたのは、行政、事業者、クリエイターの目線が同じ方向を向き、ONE TEAMになっていたからこそだと感じています。事業者とクリエイターが「ピース」という言葉を真摯に受け止め、それぞれの課題に落とし込む。静謐ながらも内から湧き上がる情熱を感じました。今後もより多くのピースなデザインが広島県に溢れることを、とても楽しみにしています。”

名川 実里 株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

Platform

多様な視点で共創するなら 、“AWRD (アワード)”

多様な視点で共創するなら 、“AWRD (アワード)”

ロフトワークが運営するエントリー型のオープンなプラットフォーム、AWRD。

パンデミックやテクノロジーの進化、多様化する価値観、サステナブルな社会への移行など──常に変化する社会において、私たちは多くの課題に直面しています。AWRDはこれらの課題解決に向けて、アワードやハッカソンなどの手法を通じて世界中のクリエイターネットワークとのコラボレーション・協働を支援し、価値創出を促進します。

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