経済産業省 中小企業庁 PROJECT

中小企業の成長を加速させる、新たな人材の社会実装へ
「イノベーション・プロデューサー」の職能を体系化

Outline

日本の雇用の7割、付加価値の5割以上を占める中小企業。その事業や経営をサポートする支援施策は、主に技術指導や資金援助を通じたものでしたが、結果として新たな事業化や利益に接続しないケースも存在していました。中小企業の7割以上が自社にイノベーションの必要性を感じている一方、実際に活動へ取り組んでいる企業は4割強にとどまります。必要性の認識と実行のあいだには、依然として距離があるのです。
 
この距離を埋める鍵は、支援を行う「人材」にあります。経済産業省・中小企業庁は、市場ニーズと中小企業のコア技術・ノウハウをつなぎ、事業化までを能動的に牽引する人材を「イノベーション・プロデューサー」と定義しました。そして、その活動を実証によって調査・検証し、広げていくための「成長型中小企業等研究開発支援事業(通称:イノベーション・プロデューサー実証事業)」を、令和6年度から本格的に開始しました。
 
ロフトワークは、本事業の令和6・7年度の実証事務局を担当。実証事業者の選定・契約から月次の進捗管理、現場への同行、そして知見の体系化までを一貫して担いました。運営代行にとどまらず、現場に伴走しながら暗黙知をひらき、中小企業支援機関等が参照できる「イノベーション・プロデューサーガイドライン(第1版)」という形式知にまとめ上げています。

Challenge

イノベーション・プロデューサーとは

従来の中小企業の多くは、大企業からの発注に応じて技術を磨く、“下請け”構造の中で成長してきました。しかし限られた取引先への依存は、関係が途切れた際の経営リスクにもなります。ゆえに、企業自身が自ら市場ニーズを捉え、新製品・新サービスを構想し、事業化まで進める力が求められています。

一方で、多くの中小企業には、自社の強みの言語化や、既存の取引関係を超えたニーズの探索、差別化戦略の構築といった機能が不足しています。このギャップを埋め、中小企業に代わって、あるいは伴走しながらこの機能を提供する存在が「イノベーション・プロデューサー(以下、イノベP)」です。市場ニーズと企業のコア技術やノウハウを掛け合わせ、「新結合」による新たな価値を持つ新製品・サービスを構想し、事業化までプロジェクトを牽引する人材と定義されています。

イノベーション・プロデューサーと、経営コンサルタントなどの支援者の違い

既存の支援者(経営コンサルタント、士業等)とイノベーション・プロデューサーを4つの観点で比較した表。立ち位置は「助言者」に対して「当事者」、提供価値は「知識と分析」に対して「構想と実行」、責任範囲は「提案」に対して一部成果報酬等でコミットする「結果」、リソースは個人や所属組織内の知見に対して「広範なネットワークからの総動員」。
イノベPは、経営コンサルタント・士業などの経営に関わる既存の支援者とは、連携・補完し合うことを前提としつつも、異なる存在として定義されています。なかでも、企業とともに同じチームとして活動し、能動的にプロジェクトの実行までを担うコミットの深さに、大きな違いがあります。(*イノベーション・プロデューサーガイドライン(第1版)より引用)

実証を通じて、暗黙知を可視化する調査スキーム

中小企業庁は有識者との検討を経て、まずは数年間、実証事業としてイノベPの活動支援を行う方針を定めました。事業として2〜3年目にあたる令和6・7年度はロフトワークが事務局を担い、現場で何が起きているのかを丁寧に追いかける調査を積み重ねてきました。

事業を進めるうえでの最大の課題は、優れたイノベPが実践する支援手法が属人的な暗黙知にとどまり、他者に継承・拡大しにくいことでした。この暗黙知をひらくために、本事業は机上の空論にとどまらない「実証事業」となっています。

具体的には、中小企業庁から委託を受けた事務局(ロフトワーク)が、実際に現場で支援活動を行うイノベーション・プロデューサーやトライアル実証事業者を選定し、再委託という形で活動資金を投じています。イノベPやその候補となる事業者は、実際に中小企業支援を実施し、事務局がそのプロセスに伴走することで、現場から知見を集めていきました。

令和7年度イノベーション・プロデューサー実証事業の事業スキーム図。中小企業庁が実証事務局のロフトワークに委託し、事務局はイノベーション・プロデューサー7者とトライアル実証事業者4者の計11者に再委託して活動資金を投じる。実証事業者は製造業・医療機器・介護・半導体関連などの中小企業にプロデュース活動を行う。事務局にはガイドライン策定委員会(令和7年度新設)と第三者審査委員会が接続する。
令和7年度の事業スキームを表した図

Project Scope

本事業の運営事務局としてロフトワークが主導したのは、実証事業者の選定に始まり、現場同行を含むリサーチの実施、得られた情報の体系化までの一連のプロセスです。(調査対象は令和6年度:12者、令和7年度:11者)。

さらに、関係機関とのネットワークの構築や機運醸成に向けたイベントの実施や、イノベPの自律的な拡大を見据えた制度・仕組み(出口案)の提案など、施策としての広がりを支える取り組みを担いました。なかでも令和7年度の最大のミッションは、2年分の実践知を体系化した「イノベーション・プロデューサーガイドライン(第1版)」の策定です。

令和7年度にロフトワークが実証事務局として担った5つの業務。①実証事業者の選定・契約管理(公募運営、再委託契約の締結)、②進捗管理・現場同行(ハンズオンマネージャー配置、月次報告会、現地活動視察)、③知見の体系化(プロセス可視化インタビュー、ガイドライン策定委員会の運営、ガイドライン第1版の策定)、④ネットワーク構築・広報、⑤出口案検討・次年度提言。
本事業におけるロフトワークのスコープ図

Output

2年間の実践を、支援機関などが使える形式知に イノベーション・プロデューサーガイドライン(第1版)

本事業の最終成果物である、中小企業庁『イノベーション・プロデューサー ガイドライン(第1版)』。2年間にわたる実証事業者へのリサーチ、さらには有識者委員会の議論を経て、イノベPの「支援プロセス」「能力要件」「キャリアパス」「行動規範」を初めて体系化しました。

『イノベーション・プロデューサー ガイドライン(第1版)』の表紙と誌面。「1.1 イノベーション・プロデューサーとは」「2.1 イノベーション創出の4つのフェーズと3つのスパイラル」「3.1 6つのコンピテンシー」「イノベーション・プロデューサーの能力要件」などの章が並ぶ。

本資料では、主に5つの問いから、イノベPの支援実態を整理しています。

資料で扱う5つの問い

  • イノベPとは何者か:コンサルタントや伴走支援者との違い
  • どう支援するのか:イノベーション創出の4つのフェーズと3つのスパイラル
  • 何ができる人なのか:6つのコンピテンシーと価値観
  • どうすればなれるのか:担い手の類型とキャリアパス
  • 企業とどう向き合うのか:行動規範

特徴的なのは、市場分析や事業戦略といったハードスキルより、経営者や現場との信頼関係を築く「現場介入スキル」に重心を置いたこと。中小企業にとって「助言者」ではなく「運命共同体」であるというイノベPの本質的な姿勢を伝えています。

Approach

定義の途上にある政策概念を、検証可能なリサーチに落としこむ

ロフトワークが事務局としての支援を開始した時点で、事業はまだ立ち上げ段階にありました。イノベPという概念は、定義としては存在しつつも、それを実務に落とすための能力要件・プロセス・再現性などは不明確な状態です。さらに、異なる市場で異なる手法を用いる実証事業者を、横断的に調査する必要もありました。

そこで調査項目や体制を前もって決めきらず、事業者ごとに見えてきた論点や状況に応じて切り口を変えるアジャイル型のプロセスを採用。あえて設計に余白を残すことで、「新しい概念に対する実証リサーチ」を、実行可能な形に組み立てていきました。

報告書には残らない現場のリアルを、参与観察でつかむ

事業者から話を聞くだけでは、支援の背景にある意図や、現場で直面した葛藤などのリアルな情報は見えてきません。そこで、専任のハンズオンマネージャーを配置。現場活動にも同行し、支援先企業との会議や実証実験の場に同席する「参与観察」を実施しています。

この密接な伴走により、中小企業側のリソース不足や、経営者と従業員の意識のずれ、大企業との連携障壁といった、実証事業者が直面する課題を事務局としても把握することができました。

省庁・有識者・実証事業者をつなぐ、ネットワークの構築

イノベPの活動を広げるには、支援者同士や関係機関がつながる場が必要です。ロフトワークは対象レイヤーの異なる2つの会議体を企画・運営しました。

ひとつは「イノベーション・プロデュース推進会議」です。令和7年度事業では、経済産業大臣政務官をはじめ、中小企業庁、各経済産業局、特許庁、産業技術総合研究所、NEDO、中小企業基盤整備機構といったトップマネジメント層が一堂に会しました。ガイドライン(第1版)の公表とあわせて各機関の支援策を共有し、機関横断の協力体制を築くキックオフの場となりました。

もうひとつは「成長市場ワーキンググループ」です。半導体関連産業への参入支援をテーマに、現場のイノベPや川下企業、有識者が具体的なノウハウを共有し、実務者同士のネットワーキングを行いました。イノベPとの2年間の関わりから生まれたこうしたネットワークは、単年度の成果物では終わらず、次年度以降の事業展開を支える資産となっています。

「イノベーション・プロデュース推進会議」の会場。スクリーンに会議名と令和8年1月19日の日付が映され、演台で話す登壇者に向かって多数の出席者が着席している。後方には複数のテレビカメラが並ぶ。
「イノベーション・プロデュース推進会議」の様子
「第1回成長市場WG」でのクロストーク。スクリーンには「中小企業の半導体関連産業参入と稼ぐ力向上に向けて」と3つの論点が映され、並んで着席する登壇者7名のうち1名がマイクを持って話している。
「第1回成長市場ワーキンググループ」の様子

Credit

プロジェクト概要

  • クライアント名:経済産業省 中小企業庁
  • プロジェクト名:成長型中小企業等研究開発支援事業(イノベーション・プロデューサー実証事業)
  • プロジェクト期間:
    • 令和6年度事業 2024年4月〜2025年2月
    • 令和7年度事業 2025年4月〜2026年2月

体制

ロフトワーク(実証事務局)

  • プロジェクトマネジメント:川原田 昌徳
  • ディレクション:谷 嘉偉, 小林 奈都子, 高橋 直也, 髙橋 聖, 筑間 拓実, 渡邊 美友, 伊藤 望, 寺本 修造, 山田 麗音
  • プロデュース:中圓尾 岳大, 柏木 鉄也
  • サポート:諏訪 光洋, 寺井 翔茉, 山口 謙之介, 後閑 裕太朗, 君塚 美香, 佐藤 仁美, 押谷 麻由美

*肩書きはプロジェクト実施当時のもの

実証事業者(五十音順)
令和6年度

  • イノベーション・プロデューサー
    • 株式会社キャンパスクリエイト 大津留 榮佐久
    • 公益財団法人くまもと産業支援財団 平井 寿敏
    • 株式会社クライシスインテリジェンス 磯部 晃一
    • 一般社団法人首都圏産業活性化協会 芳賀 啓一
    • 中島 清一(大阪大学 特任教授)
    • 株式会社Revitalize 増山 達也
    • 株式会社リ・パブリック 田村 大
  • トライアル実証事業者
    • 株式会社eiicon
    • 株式会社コボ
    • 株式会社産学連携研究所
    • 古谷 知之(慶應義塾大学 教授)
    • 株式会社RICH

令和7年度

  • イノベーション・プロデューサー
    • 一般社団法人安全保障ビジネスイノベーション協会 磯部 晃一
    • 株式会社キャンパスクリエイト 大津留 榮佐久
    • 公益財団法人くまもと産業支援財団 平井 寿敏
    • 一般社団法人首都圏産業活性化協会 芳賀 啓一
    • 中島 清一(大阪大学 特任教授)
    • 一般財団法人防衛技術協会 古谷 知之
    • 株式会社リ・パブリック 田村 大
  • トライアル実証事業者
    • 株式会社eiicon
    • 株式会社善光総合研究所
    • 株式会社RICH
    • リンカーズ株式会社

Member

川原田 昌徳

株式会社ロフトワーク
リードディレクター

Profile

高橋 ナオヤ

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

髙橋 聖

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

筑間 拓実

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

渡邊 美友

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

中圓尾 岳大

株式会社ロフトワーク
シニアプロデューサー

Profile

寺本 修造

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

Profile

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