京都府立植物園 PROJECT

100年先も愛される学びの場をつくる
生物多様性を学ぶ、子ども向け体験ツール開発

Outline

100年先も愛され続ける学びの場をつくる

1924年(大正13年)の開園から100周年を迎えた、日本最古の公立植物園である京都府立植物園。約1万2,000種類もの植物を育む同園は、単なる展示の場に留まらず、植物が生態系にもたらす役割を伝え、未来に続く人と植物の関係性を築いています。この大きな節目を機に、同園は次の100年を見据え、植物の生態や自然の循環といった目に見えない価値を、いかに子どもたちの心に届け、未来へつないでいくか。そのための体験設計やコミュニケーション手法のアップデートを模索していました。

今回、ロフトワークと株式会社ジャクエツ(以下、ジャクエツ)は、来場者との継続的な接点を創出することを目指し協業。植物園を含めた3社共催による体験型イベント「ふしぎラボ in どんぐりの森」を企画・実施しました。

ジャクエツによるインクルーシブな空間設計と、ロフトワークによる五感を刺激する体験設計を掛け合わせました。ロフトワークは、鳥の見え方をヒントに新しい視点で森を観察できる「ふしぎメガネ」や、森のどんぐりを取り巻く生態系を楽しみながら学べる「探検ブック」といったツールを制作。空間と体験の両面からアプローチすることで、“あそび”を入り口に子どもたちが生物多様性への理解を深められる仕掛けをつくりました。2週間のイベント期間で延べ約400人が参加。ロフトワークとジャクエツは、地域と森をつなぐ継続的な催しとして、今後もこのアクティビティを育てていくことを目指しています。

Output

イベント「ふしぎラボ in どんぐりの森」

2025年10月27日〜11月9日の14日間にわたり、あそびを通じて森の生態系を学ぶ体験型イベント「ふしぎラボ in どんぐりの森」を開催しました。舞台となったのは、京都府立植物園の開園100周年を機に新設された、遊びと学びが融合するエリア「どんぐりの森『Dongreen Lab(どんぐりーんらぼ)』」。どんぐりをはじめとする植物に親しみ、五感を使って自然の循環を理解するきっかけを提供するプログラムです。

11月8日には、探検キットの販売に加え、ものづくりワークショップや同園の樹木医による森のガイドツアーも行われました。当日はのべ約180組の来園者がこの会場を訪れました。

ふしぎラボ inどんぐりの森 探検キット

森の景色の見え方を変化させ、生物多様性を遊びながら体験できる学習ツール「ふしぎラボ inどんぐりの森 探検キット」を開発。イベント期間中、会場や園内の複数の販売所で販売しました。

探検キットには、カケスをはじめとした鳥類の紫外線の見え方を想像するためのツール「ふしぎメガネ」と、どんぐりや植物のふしぎを深堀って学ぶことができる「探検ブック」が同封されています。

「ふしぎメガネ」はカケスの目元をあしらったデザインになっており、子どもたちがカケスになりきって森を探検できるように工夫されています。

「探検ブック」には、「違う形のどんぐりを集める」「倒木を触る」といった、子どもたちの好奇心を刺激するミッションが掲載され、五感を使って能動的に森を探索するよう促します。

販売の様子。設置した什器は、若手設計者有志団体「U-35」が制作した、木製ユニット「nomadogi(ノマドギ)」です。来園者と森を繋ぐ存在として、イベントの空間づくりにも大きく貢献しました。nomadogiについて:https://www.aaj.or.jp/nomadogi/

Approach

子どもの「知りたい!」を誘発する、動物の視点を疑似体験できる学習ツール

舞台となる京都府立植物園は、国内に存在する全22種のどんぐりが揃う貴重な場所です。この環境の魅力を体感してもらうため、注目したのは「カケス」という野鳥です。カケスが冬の食料とするためにどんぐりを地面に隠す「貯食行動」は、森が育つ大切なプロセスの一つです。

「カケスには、森がどう見えているんだろう?」という問いから子どもの知的探求心をくすぐる仕組みとして開発したのが、カケスの視点を疑似体験できるメガネです。人間には見えない「紫外線」を感知するカケスの視界のように、見慣れた自然が全く異なる色彩で広がります。

専門家の知見を取り入れ、クリエイターと試行錯誤を重ねて開発。2色のフィルムを通して普段とは全く異なる自然の色彩を体感できる仕掛けです。「カケスには森がどう見えているんだろう?」という問いを入り口に、子どもたちが五感を研ぎ澄ませて自然と出会い直す、新しい体験をデザインしました。

このメガネをかけると、葉っぱや木の実の色彩が一変し、不思議な視覚体験が得られます。

植物園と来園者の長期的な関係性を築く仕掛け

来園者の愛着を育み、植物園との繋がりとなる“思い出の品”

過去のイベント事例を分析する中で、自分で手を動かして作り、持ち帰ることができる“思い出の品”がある方が、植物園への愛着醸成や再来園に繋がりやすいことがわかっていました。

そこで今回のイベントでは、体験を“モノ”として持ち帰れるための仕掛けを随所に散りばめました。 森で拾ったどんぐりや落ち葉を紙製の「ふしぎメガネ」に自由に貼り付けたり、集めた森の欠片を透明な球体に閉じ込める「Dongreenボール」を作ったりと、自分だけのオリジナルアイテムを仕上げる子どもたちの姿が多く見られました。また、探検キットに同封されている「探検ブック」には、どんぐりの森にまつわる豆知識を散りばめました。

子どもたちが家に帰った後も、手作りのアイテムを取り出して遊ぶたびに植物園でのワクワクした記憶がよみがえります。体験を封じ込めた“思い出の品”が植物園との長期的な関係性構築に繋がるようデザインされています。
※通常、植物園内での植物の採集・持ち帰りは禁止されています。

森で拾った葉っぱやどんぐりを貼り付けて自分だけのオリジナルアイテムを作る余白が、自分だけの思い出の品になるための仕掛けとして組み込まれていました。

子どもたちは、「このどんぐりはどこにあるの?」と興味津々に植物園の職員やロフトワークのスタッフに質問を投げかけていました。

常に順番待ちができるほど盛況だった、ジャクエツ企画のワークショップ。自然素材を閉じ込めたボールは、植物園での思い出を日常に飾るインテリアになります。

植物園に込めた想いの真髄に触れる、専門家によるガイドツアー

イベント期間中、植物園の樹木医である中井貞さんと、ジャクエツの西井洸平さんがガイドを務めるツアーを開催しました。森を歩き、木々の肌触りや落ち葉の匂いを感じながら、それぞれの専門家の想いに直接触れるプログラムです。

中井さんが語ったのは、どんぐりの森での体験を通じて、子どもたちの心に「幼い頃にここで遊んだ」という“記憶の種”をまくことの重要性でした。子どもたちが大人になったとき、ふたたびこの場所を訪れ、共に年月を重ねた樹木と再会する喜びを感じてほしい。植物園ならではの「長い時間軸」の価値に共感し、長く愛してくれるファンになってほしい。そんな切実な願いが伝えられました。

西井さんからは、インクルーシブ遊具「RESILIENCE PLAYGROUND」に込められた、障がいの有無にかかわらず誰もが一緒に遊べる空間づくりの理念と背景について解説されました。「インクルーシブ遊具」という言葉は「障がいのある子専用の遊具」と誤解されがちですが、西井さんは、健常な子も障がいを持つ子も分け隔てなく、本当の意味で一緒に楽しく遊べる場を目指したと語りました。

ツアー後、参加した大人たちからは「何度も来ているが、この森の意味を初めて知った」「大人も十分に楽しめ、深く考えさせられた」といった声が寄せられました。このツアーは、参加者の植物園に対する視点を大きく変え、数十年後まで続く関係性の基盤を築く大切なきっかけとなりました。

京都府立植物園 樹木医の中井さんからは、植物の生存戦略や森の循環、長い時間軸で自然と向き合う植物園の想いについて語られました。

「RESILIENCE PLAYGROUND」の遊具は、どんぐりの森のエントランス付近に設置されました。

ツアーには約20名が参加。最初は子どもの付き添いで参加していた大人たちも、興味津々に2人の話に耳を傾けていました。

Outcome

約2週間の販売期間の中で、「探検キット」は園内の複数の販売所でも販売され、のべ410人の方に体験いただきました。

実際に体験した子どもたちからは「このどんぐりはなんの種類?」「この木はどこにあるの?」などの質問がスタッフに寄せられ、コミュニケーションを通じて学びが深まる場が自然と生まれていました。また、遊ぶ子どもをきっかけに「自分もやりたい!」とキットを購入する子どもが増えるなど学びの循環が起こっていました。

Credit

基本情報

  • クライアント:京都府立植物園
  • パートナー:株式会社ジャクエツ
  • プロジェクト期間:2025年8月〜2025年11月

体制

  • 株式会社ロフトワーク
    • プロジェクトマネジメント:山﨑 萌果
    • ディレクション:笹島 啓久
    • プロデュース:浅見 和彦
  • 制作パートナー
    • デザイン:Kuwa.Kusu
    • 監修:京都府立大学・大学院教授 福井 亘
    • メガネ印刷:無限デザインスタジオ
    • 編集・執筆:建石 尚子
    • 写真・動画:BUNCA. 廣川 文花

執筆・編集: 葉山 いつは(loftwork.com編集部)

Member

浅見 和彦

株式会社ロフトワーク
AWRD プロデューサー

Profile

山﨑 萌果

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

笹島 啓久

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

メンバーズボイス

“生物多様性は、図鑑や解説を読むだけでは十分に理解できない概念です。今回の取り組みでは、どんぐりの森をフィールドに、子どもたちが自ら観察し、問いを立て、考える「探究の入口」を体験として設計しました。樹木医として、研究や管理の現場で培ってきた視点を、遊びや発見のプロセスに翻訳することで、植物園が持つ学術的資源を、より身近で生きた学びとして届けられたと感じています。”

京都府立植物園 樹木医 中井 貞

“どんぐりの森『Dongreen Lab(どんぐりーんらぼ)』に、展望デッキ付きの木製遊具が誕生して1年。今回の取り組みでは、それぞれが持つ強みを存分に掛け合わせることで、植物園というロケーションだからこそ実現できる「満足感」と「次への期待感」をお届けできたのではないかと自負しております。私たちはこれからも、自社の強みである『あそび』を軸に、訪れるたびに新しい発見や喜びがあるような取り組みを積極的に展開してまいります。”

株式会社ジャクエツ パブリックスペース主任 西井 洸平

“プロジェクトを通じて、何度も京都府立植物園に足を運ばせていただきました。毎度移り変わる園の表情、打ち合わせで教わる植物の生態……。そのおもしろさをどうすれば子どもたちに届けられるだろうと考え続け、生まれたのが「ふしぎラボ inどんぐりの森 探検キット」です。様々な方のお力添えをいただきながら形にすることができ、子どもたちが夢中で遊ぶ姿を見られたことが、何より大きな喜びでした。”

ロフトワーク クリエイティブディレクター 山﨑 萌果

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