成安造形大学 PROJECT

「チョケる」が生む創造性──
主体性を引き出し、完遂力を育むプログラム開発

Outline

実社会で求められるスキルを実践を通じて学ぶ

ロフトワークが2019年から毎年実施している、成安造形大学の総合領域の特別授業。主に大学2年生を対象に、特定のスキルに特化した学習ではなく、学内で培った学びを社会と結びつけ、実践を通して課題発見からインパクト創出までの一連の流れを体感することを目的とした取り組みです。

7年目を迎えた2025年の授業で題材に取り上げたのはイベント企画。「Set the Scene -チョケた賑わいづくりから学ぶ、プロジェクトマネジメント-」と題し、イベントの企画から実施、振り返りまでの一連のプロセスを通じてプロジェクトマネジメントを学ぶ試みです。

2週間の授業期間中、学生たちはチームでの企画立案から発表までの一連のプロセスを経験しながら、課題発見力、マネジメント力、ディレクション力など、実社会で求められる多様なスキルを実践的に習得。さらに、学外からのフィードバックを得る機会を設けることで、これまでの演習で培った学びを「現場で通用する力」へと変換していくことを目指しました。

Program

プロジェクトマネジメントを実践的に学ぶ機会として、学生たちはFabCafe Osakaを舞台に、1日限定イベントの企画・運営に挑戦。全3回(7コマ)にわたる授業では、企画準備から実施、そして振り返りまでを実施しました。

なぜイベント企画なのか?
イベント実施のプロセスは、企画立案から始まり、広報やマーケティングといった戦略的思考、そして関係者との円滑な連携・交渉が求められます。これらに加え、イベント当日に予測されるトラブルを事前に想定し、対応策を準備するリスクマネジメント能力、さらには予期せぬ事態に冷静に対処する現場対応力までが凝縮されています。イベントは、座学だけでは得られない総合的なビジネススキルを、実践的かつ短期間で横断的に習得できる最適な手段と言えます。

Points

プロフェッショナルとの共創から、企画を具体化する力を養う

イベントのコンテンツ企画では、学生3〜4名の計4チームに分かれ、それぞれにクリエイターをコンテンツパートナーとして迎えました。狙いは、学生が「プロと一緒に考え、つくる」経験を通して、発想を広げながら企画を具体化する力を養うこと。クリエイターが日頃取り組む企画や制作の視点を取り入れ、そこに学生自身のアイデアや得意分野を掛け合わせることで、新しい形の縁日コンテンツを生み出していきました。

クリエイターの方々には単なる指導者ではなく、「共におもしろがる伴走者」としての役割を担っていただき、対話を重ねながら、企画を一緒に具体化していきました。

このプロセスを通じて学生たちは、アイデア発想から、具体化までの流れをリアルに体験。チームでの議論や外部との協働を通して、企画を前に進めるための考え方と手応えを学びました。

写真:学生たちが議論している

クリエイターとチームになり、企画アイデアを考える

形にしたいものを、身近な材料でプロトタイピングしながら模索

写真:図式化する様子

イメージを図式化しながら議論するチームも

イベントの企画に加え、当日の「顔」となるビジュアル制作も、学生全員で取り組みました。 制作の進行は、グラフィックデザイナーのKuwa.Kusuの桑田さんが担当。それぞれの学生が思い描く「チョケる縁日」を色紙で自由に表現し、そのパーツを組み合わせることで、一つのメインビジュアルを完成させました。

限られた準備期間の中でしたが、あえて全員参加のワークショップ形式を採用。その狙いは、学生たち自身が「自分たちの手でイベントをつくる」という強い実感を醸成することにありました。また、グラフィックデザインに関心のある学生も多く、プロの制作プロセスを間近で体感できる貴重な機会としても設計しています。

学生たちは、イベントの世界観をコンテンツだけでなく、ビジュアルとしても形にすることで、 表現する喜びと、チームでつくり上げる達成感を同時に味わうことができました。

写真:生徒が色紙を組み合わせ、パーツを作る様子
それぞれの思う「チョケる縁日」を色紙を使って表現
写真:ビジュアルに用いるパーツを色紙で表現
完成したパーツをパズルのように組み合わせて1つのビジュアルに
画像:カラフルなグラフィクに「チョケル縁日」のロゴを掲載
完成したイベントのキービジュアル(デザイン:Kuwa.Kusu)

本気を深めるコンセプト「チョケる」

イベントのコンセプトとなる言葉には、その場の世界観を象徴し、関わる人たちの思考や行動を方向づける重要な役割があります。今回設定した「チョケる」は、関西弁で「ふざける」「おどける」という意味を持ち、どんな出来事に対してもおもしろがりながら関わってみる姿勢を引き出すことができる言葉です。今回の授業を通じて学生たちには、他者との協働を楽しみながら、自由な発想で意見を交わしてほしい。そんな願いを込めて、この言葉を企画の軸に据えました。

結果として、「チョケる」というキーワードが学生たちの心理的ハードルを下げ、自己の意見や感性を表現しやすい空気を生み出しました。初回授業でゲストスピーカーとして登壇した梅田郁美さんは、「チョケるとは単なる“ふざけ”ではなく、本質や真剣さに触れるための“視点のズラし”であり、企画を豊かにする工夫や遊び心である」と語り、その言葉が学生たちの発想を後押しすることにつながっています。

また、学生たちのおもしろがる姿勢に触発され、成安造形大学の先生方自身も自主的にチームを結成。FabCafe Osakaの地下空間を神社に見立て、お賽銭箱や絵馬まで手づくりするなど、大人が本気でチョケる姿を体現してくださいました。おもしろがりが伝播して、普段は「教える/学ぶ」という関係にある教員と学生が、今回は企画者同士として対等に関わり合えたことも、この授業ならではの光景でした。

写真:FabCafae Osakaが賑わっている様子

縁日当日の様子。多くの人で賑わった

写真:アクリルパーツに光をあて、影を楽しむ様子

アクリルパーツを使った影あそびを制作

写真:ドリンクのフレーバーを選ぶ様子

フレーバーをカスタマイズできる、オリジナルドリンクを提供するチームも

写真:3つのガチャが並ぶ様子

オリジナルシールの詰まったガチャガチャを設置

写真:壁に掲示されたなぞなぞポスター

店内に複数のなぞなぞが仕掛けられ、コミュニケーションの起点に

写真:制作された神社

先生チームはFabCafe Osakaの地下空間に神社を出現させました

写真:提灯

「縁日」を演出するオリジナル提灯も制作

自分の意見を場に出すことから共創は始まる

この授業を受講した学生の多くは、「企画には興味があるけれど、アイデアを出すのが苦手」という課題感を抱いていました。そこで本授業では、プロジェクトを進めるうえで大切な姿勢として「自分の意見を怖がらずに場に出すこと」を繰り返し伝えています。感性に正解や不正解はなく、違和感や好奇心も含めて「自分はこう感じる」と言葉にすることが、プロジェクトに少なからず影響を滲み出していけるはず。短期間での共創だからこそ、自分の意見を出し惜しみせずに取り組むことを意識してもらいました。

最終回の振り返りでは、学生から「自分の意見を出す勇気と、それを受け入れてくれるメンバーや環境があったからこそ、アイデアが連鎖して広がった」という声が上がりました。また、これまでグループワークに苦手意識を持っていた学生からも、「ただ意見を出すだけでなく、情報を整理してチームの進む方向を示す大切さを学んだ」との感想が寄せられました。こうした言葉から、安心して意見を交わせる環境づくりが、チームとしての創造力を引き出し、そのプロセスの中でプロジェクトマネジメントを体感できたことがわかります。

写真:参加者全員での集合写真。先生、生徒、ロフトワークメンバーが集合

Credit

プロジェクト概要

クライアント:成安造形大学
プロジェクト期間:2025年8月-2025年9月

体制

  • ロフトワーク体制
  • プログラム設計・講師:クリエイティブディレクター 山﨑萌果
  • プロデュース:プロデューサー 山田 富久美、FabCafe Kyoto ブランドマネージャー 木下 浩佑
  • パートナー
    • 1回目講義ゲストスピーカー:梅田郁美
    • コンテンツ企画:Kuwa.Kusu、森倉ヒロキ、tanji、FabCafe Osaka
    • イベントKVデザイン:Kuwa.Kusu
    • 撮影:小黒恵太朗(ひとへや)

執筆:山﨑萌果(ロフトワーク)

Members

山﨑 萌果

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

山田 富久美

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

木下 浩佑

株式会社ロフトワーク
FabCafe Kyoto ブランドマネージャー

Profile

メンバーズボイス

“長くご一緒させていただいているこの授業において、初めて教員チームが編成されました。
学生サポートもそっちのけで純粋に楽しみに没入し、大人達が本気で遊んでしまいました。
が、これができたのも、ロフトワークの皆さんや伴走してくださるクリエイターの方達のおかげです。安心してチョケられる場と表現したくなる空気がありました。
授業後も学生との会話で時折話題になることがあります。今回は、学生と同じ目線でイベントに向き合えたことで、立場を超えて刺激し合える関係性になれていたように思います。そうした連鎖の中の一員として関われたことに嬉しさも感じました。”

“プロジェクトマネジメントにおいては、管理業務(マネジメント)に加えて、チームを引っ張るリーダーシップの発揮が求められます。リーダーシップと一言で言っても、そのタイプや発揮の仕方は人それぞれ。講義の最終回では、企画の準備・実行をする中で、自分自身がどのようなリーダーシップを発揮するタイプなのかを振り返りました。自分なりのリーダーシップを発揮しながら、授業のテーマである「Set the Scene」の言葉通り、関わる人たちが楽しく輝ける「舞台をつくる」ことのおもしろさ・重要性を伝えられていれば嬉しく思います。

成安造形大学 特任講師 宮永真実