共栄鋼材株式会社 PROJECT

“製造”から“価値創出”へ。
組織の視座を高める4日間の旅「未来構想スクール」

Outline

1954年から愛知県江南市、岐阜県可児市を拠点に鋼材の加工や販売を行う共栄鋼材株式会社は、板厚16.6mmの厚い鋼材を加工できることを特色として、自動車部品の製造を行っています。これまで高品質のプロダクトを、生産性を高めながら製造することに注力し、現在も安定した経営を続けています。一方で、車のEV化やものづくりのパラダイムシフトが起きている昨今、中長期的な経営を見据え、自ら新しいビジネスを創出していく必要性を感じています。

現在所属するメンバーとともに新たなビジネスを考えていくため、東海エリアで企業の経営戦略をサポートをしているシンクタンク OKB総研とロフトワークがプロジェクトチームを組み、4日間に渡る人材育成プログラム「未来構想スクール」を企画、運営しました。

未来構想スクールに参加したメンバーは、第一線で活躍する外部のメンターとの関わりやデザイン思考の学習と実践を通じて、自社事業を捉え直すための新しい視点・視座を獲得。また、自社が置かれている社会的状況やバリューチェーンをヒントに、次にとるべきアクションを仮説立案・プロトタイプすることを通して、組織文化のアップデートに挑みました。

執筆:中嶋 希実
編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)
写真:金岡 大輝(FabCafe Tokyo CTO)

プロジェクト概要

  • クライアント:共栄鋼材株式会社
  • 実施期間:2021年5月〜9月
  • 体制
    • PD:井田 幸希(MTRL プロデューサー、FabCafe Nagoya CMO)
    • PM/CD:岩倉 慧
    • CD:金岡 大輝(FabCafe Tokyo)
    • プログラム協力:
      • 松本 剛(株式会社飛騨の森でクマは踊る 代表取締役)
      • 井上 彩(株式会社飛騨の森でクマは踊る)
      • 斎藤 健太郎(FabCafe Nagoya コミュニティーマネージャー)
    • ゲスト/メンター
      • 杉本 雅明(エレファンテック株式会社 取締役副社長)
      • 坂本 貴史(株式会社ドッツ スマートモビリティ事業推進室 室長 エクスペリエンスデザインディレクター)
      • ジャスパー・ウ(株式会社U-NEXT)
      • 水谷 岳(株式会社On-Co 代表取締役)
      • 福田 ミキ(株式会社On-Co)
      • 長瀬 一也 (株式会社OKB総研)

Process

各界のスペシャリストたちがプログラムを伴走

ワークショップでは、モビリティ業界、テック業界、デザイン思考などの領域の第一線で活躍しているスペシャリストをメンターとして招聘しました。それぞれの分野についてインプットトークを行うだけでなく、チームが手を動かしプロトタイピングを進めていく場面も含めて全4日間メンターとして伴走。参加した共栄鋼材のメンバーにとって「身近に頼れる先達」として関わり続けました。

共栄鋼材社内から様々な部署・年代・立場のメンバーが参加しチームを形成していく中で、メンター陣が積極的にアクティビティに関わり、議論を引き出す役割を担ったことで、各チーム内部の関係をほぐすことにつながりました。

メンター

杉本 雅明

杉本 雅明

エレファンテック株式会社
取締役副社長

坂本 貴史

坂本 貴史

株式会社ドッツ
スマートモビリティ事業推進室 室長 エクスペリエンスデザインディレクター

ジャスパー・ウ

ジャスパー・ウ

株式会社U-NEXT
Chief Experience Officer

地元から飛騨、名古屋へ。場所を変えながらインプット

4日間に渡るワークショップは、共栄鋼材の工場から始まり、飛騨、名古屋と場所を変えて開催しました。特に合宿形式で2日間を過ごした飛騨では、森で木を伐採するところから製材、加工、製品化してショールームに並ぶところまで、地域の中で木材に関わるバリューチェーンが完結しています。

共栄鋼材のメンバーは、飛騨で森や製剤所、家具職人の工房などを巡りながら「ものづくりの流れ」を体感するツアーに参加。自動車産業に関わる同社は、長いバリューチェーンの内側に組み込まれていることから、自社製品が最終的にどのように製品となり、社会と接続しているのかを想像しにくい状況です。飛騨のバリューチェーンを目の当たりにしたことで、マクロな視点から自社事業を俯瞰し、捉え直すことにつながりました。

Story

Day1 デザイン思考を取り入れるインプットセッション&ワークショップ@共栄鋼材 可児工場

アクティビティ:

  • インプットプレゼンテーション「What think about MOBILITY」/株式会社ドッツ 坂本 貴史
  • レクチャー「デザイン思考の紹介」/株式会社U-NEXT ジャスパー・ウ
  • 課題発見ワーク

共栄鋼材が一部を担うバリューチェーンやモビリティ業界で起きている変化について俯瞰した視点を得るために、坂本貴史氏によるインプットプレゼンテーションを実施。続いて、「デザイン思考とはなにか」をインプットするため、ジャスパー・ウ氏によるレクチャーを行いました。

デザイン思考を短期間でインプットするために、自分たちの現状と課題、強みについて考えていく課題発見ワークを実施。手を動かし小さな失敗と成功を繰り返していくことで、メンバーにデザイン思考のアプローチを浸透させていきました。

課題発見ワークでは、共栄鋼材が関わるステークホルダーを洗い出し、バリューチェーンの先に誰がいるのかを視覚化。さらに、現状の課題を洗い出し、チームごとに取り組むテーマを選択した上で、課題を解決した先にどのような世界を生み出したいかを書き出しました。

Day2,3 インプット+プロトタイピング @FabCafe Hida

アクティビティ:

  • インプットトーク「ビジョンの設定・ヒダクマのエコシステムについて」株式会社飛騨の森でクマは踊る 松本 剛
  • 飛騨のバリューチェーンを巡るツアー:株式会社飛騨の森でクマは踊る 井上 彩
  • プロトタイピング

飛騨に場所を移して開催した2日間は、飛騨の森でクマは踊るのメンバーによるインプットトークとツアーから始まりました。ツアーでは木が育つ森や製材所、家具メーカーを巡ることで、自動車産業よりも短く、小さなコミュニティの中で完結する飛騨のバリューチェーンを体感することにつながりました。

その後はDay1で考えた課題とテーマをもとに、FabCafe Hidaにあるツールを使ってチームごとにプロトタイプを制作しました。

チームA+杉本 雅明:共栄鋼材で製品をつくる過程で出てくる廃材を再利用したプロダクトの可能性を探ることで、新しいビジネスのアイデアを形にしていきます。
チームB+坂本 貴史:共栄鋼材の鉄と飛騨の木材を組み合わせ、新たな家具づくりを模索。社外リソースと関わりながらものづくりをする可能性を検討しました。
チームC+ジャスパー・ウ:特定の人に負荷がかかってしまいがちだった社内の業務フローを課題として設定。模造紙とホワイトボードを用いて、新しい社内システムのダーティプロトタイプを制作しました。

Day4 プレゼンテーション @FabCafe Nagoya

アクティビティ:

  • インプットトーク「人を巻き込む伝え方について」株式会社On-Co 福田ミキ
  • 各チームのプレゼンテーション
  • フィードバック

最終日はプレゼンテーションを行う前に、「さかさま不動産」などを運営する株式会社On-Co 福田ミキ氏より、PRのプロの視点からの「伝え方」についてインプットトークを行いました。考えてきたアイデアをプロジェクトとして動かしていくために、相手に伝え、社内外のさまざまな人を巻き込むための方法を学びました。

各チームのプレゼンテーションには、新たに2名のゲストが参加。東海エリアの事業者に向けて経営のアドバイスをしている立場からOKB総研の長瀬一也氏、空き家活用や定住促進といった地域のさまざまな課題に対して、空間デザインや建築、イベント企画、オンラインサービスなどを通じて地域密着型の新しいアプローチを実践している、株式会社On-Co 水谷岳史氏が、各チームのプレゼンテーションを見守り、フィードバックを行いました。

Outcome

未来構想スクールを通して各チームより生まれた芽は、ワークショップ当日のアイデアで終わらずに、さまざまなかたちで変化しながら、新たな価値創造につながっています。

共栄鋼材では現在、AチームとBチームがプロトタイピングしたアイデアをもとに、DIYによる工場の環境改善が進んでいる他、Cチームのアイデアから始まった社内での情報共有ツールの実装とさらなる改良が進んでいます。さらに大きな動きとして、株式会社飛騨の森でクマは踊ると連携した空間づくりのプロジェクトも進行していています。 

未来構想スクールに参加した社員が起点となり、他の社内のメンバーからも、日々さまざまな改善や提案が行われる風土が育まれつつあります。

メンターからのメッセージ

杉本 雅明 エレファンテック株式会社 取締役副社長

先回りの変革は、未来を担うメンバーと一緒に作る新しい習慣づくりからはじまる。それが起こる瞬間を一緒に目撃できた、とても良いプロジェクトでした。

先代たちが日本の成長期に合わせて生み出した商売をうまく受け継いでいる中小企業が、次の時代でも商売していくために何をしたら良いのか、一つの解決策を私も体感したのではないかと感じています。若手からベテラン、社長もフラットにアイディアを出し合い、手を動かしてプロトタイピングして盛り上がった活動は、プログラム終了後も社内で続き、行動は習慣へと集積しつつあると伺っています。このような活動は、今のビジネスがある程度順調だからできることでもありますが、だからこそ先回りの変革へと向かうことはなかなか容易ではありません。

共栄鋼材さんの新しい習慣から生まれるインパクトが、日本の未来のヒントになると信じ、今後も注目し続けたいと思っています。

坂本 貴史 株式会社ドッツ スマートモビリティ事業推進室室長

世の中の変化に対応すべく、老舗メーカーがどう向き合い進化を遂げるのか。元自動車メーカーにいた立場から、会社の中から変わるにはどうすればよいか、そこを一緒に考えるキッカケになりました。

一番重要なのは「新しい言葉を使うことで、意識が変わる」ことだと思います。共通言語は、価値観の共有でもあり文化になっていきます。短い間でしたが、あの場で新しい言葉が生まれ、皆さんの表情もどんどん変わっていきました。

捨ててしまうもの、廃れてしまったもの、すでにあるもの、それらも新しい見え方を常に求めています。これからもどんどん新しいものを生み出し続けてください。そして新しい言葉ができたら、コッソリ教えてください。

ジャスパー・ウ 株式会社U-NEXT Chief Experience Officer

新型コロナの影響でプロジェクトが大幅に遅れてしまいましたが、今年6月にようやくスタートを切れました。
過去4年間、私が日本で実施したデザイン思考ワークショップのパートナー企業の多くが、IT企業やイノベーションのビジョンを持った企業でした。 今回のプロジェクトのオーナーが、日本で約70年の歴史を持つものづくり企業だと知ったとき、私は驚きと同時にワークショップを企画できることにワクワクしました。 そして、プロジェクトの開始から実施まで、終始、共栄鋼材のみなさんの結束力や団結力を感じることができました。数ヶ月後、プロジェクトは無事に完了し、大きな喜びを得ました。 各チームからは、いくつもの未来的なアイデアが出てきました。

私の見解では、企業には文化、マインドセット、リーダーシップという3つの要素が不可欠です。
第一に、文化です。同社の工場では、チームメンバーは家族のようなもので、全員が非常に平等であり、良好な心理的セキュリティを確立しています。 これも、イノベーション文化の中では非常に重要な要素です。 メンバーは自由に意見を述べることができます。
2つ目はマインドセットです。 皆、新しい情報を受け取り、将来的に会社を成功させるためにはどうすればよいかを考える、とてもオープンマインドな人たちです。
最後に、リーダーシップですが、社長からスタッフまで、全員が自分のビジネスに関する課題だけでなく、大局的な課題から社内のことまで、積極的に考えています。

これらの要素が揃っているからこそ、共栄鋼材はこれからも輝き続けることができると思います。

Member

井田 幸希

井田 幸希

株式会社ロフトワーク
FabCafe Nagoya 取締役 / MTRLプロデューサー

岩倉 慧

株式会社ロフトワーク
バイスFabCafe Tokyoマネージャー

Profile

金岡 大輝

株式会社ロフトワーク/FabCafe LLP
FabCafe Tokyo COO 兼 CTO(事業責任者 兼 最高技術責任者)

Profile

斎藤 健太郎

株式会社 FabCafe Nagoya
FabCafe Nagoya コミュニティマネージャー

Profile

井上 彩

株式会社飛騨の森でクマは踊る
ヒダクマ マーケティング

Profile

メンバーズボイス

“「新しいことへの挑戦」は、ポジティブな面について語られることが多いですが、実際にはリスクを伴うものであり、常に不安や「失敗するかもしれない」という恐れがつきものです。

では、そんな不安や恐れがあるなかで、新しい挑戦に対して前向きになるために必要なものとは何か?
それは「何かあっても、このメンバーだったら大丈夫」という、仲間との信頼関係の深さなのではないかと、共栄鋼材のみなさんと過ごした4日間を通して知ることができました。
今回のプロジェクトが、共栄鋼材さんの挑戦への一歩をより良いものにするための一助になったのであれば、とても嬉しく思います。

最後になりましたが、私たちをパートナーとして選んでくださった共栄鋼材さん、そして、私たちにまけない熱量で共栄鋼材さんに寄り添ってくださったメンターのみなさまに、心より感謝を申し上げます。”

岩倉 慧 株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

“先日、共栄鋼材さんにお伺いしたところ、プロジェクト終了後もプロジェクトメンバーの間で「未来構想」や「まずやってみる」が合言葉になっているとお聞きしました。社内のいろいろな部門・場面で活発に意見が出されるようになり、いくつもの自発的なアクションが起きているそうです。この短期間でここまで社内の意識改革が進んだことに驚くばかりです。

「正直にいうと提案された内容にはよくわからない(イメージできない)部分も多かった。でも、わからないからこそ面白いじゃないですか。」と松本社長も社員のみなさんも笑ってらっしゃいました。もちろん、理解いただけるようにチューニングしながら、詳細なプログラムを設計していったものの、このようなプロジェクト後にまで続く変革は、共栄鋼材のみなさんの、これまでとは違ったやり方を楽しむ柔軟性や、一歩を踏み出す思い切りがあったからこそのものだと思います。今後も、変化を恐れず、むしろ楽しみながら未来を切り拓いていかれるだろう共栄鋼材さんの躍進を楽しみにしています!”

井田 幸希 株式会社ロフトワーク FabCafe Nagoya 取締役 / MTRLプロデューサー

“なにかを始めるときに、その第一歩は僕らも含めて誰も正解はわかりません。それは、5年後10年後に振り返ってみて、はじめてその価値を見つめることができます。

今回のプロジェクトは、まさにその第一歩でした。
日々の業務の間を縫いながら参加していただいた社員の方々が、次第に参加者から主体的にアイデアを臆せず発するようになり、さらにそれが少しずつ現場に実装され始めています。

これから、第二歩、第三歩と共栄鋼材さんが新たな展開を歩んでいく姿が楽しみですし、さまざまな人を巻き込みながら、一緒に新たなものを作り出したいと思っています。”

金岡 大輝 株式会社ロフトワーク/FabCafe LLP FabCafe Tokyo CTO

Service

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社会課題解決に向け、地域に「共助」の仕組みをつくる
NECが挑む、新たな事業領域の探索