スタートアップの成長をデザインの力で牽引する
富山県のスタートアップ成長戦略
Outline
T-Startupとは
富山県は、2022年春から日本一のスタートアップフレンドリーな地域の実現を目指し、成長企業の発掘・支援に向けたスタートアップエコシステム形成プロジェクト「T-Startup」をスタートしました。ロフトワークはT-Startupの企画運営を担当し、スタートアップエコシステムの構築に向けた県内ネットワークの醸成や、T-Startupのビジョン策定などを通し、継続的なプロジェクトの土台形成を行いました。また、T-Startupの成長を牽引し、ポテンシャルの開花が期待されるスタートアップ「T-Startup企業」として採択された6社に対して集中的な支援を行うプログラム「T-Startup Leaders Program 2022」(以下プログラム)を企画設計し、T-Startup企業に対するハンズオン支援を行いました。
執筆:寺本 修造/株式会社ロフトワーク シニアディレクター
編集:岩崎 諒子/Loftwork.com編集部
※スタートアップエコシステムとは:スタートアップをサポートする人材や組織が相互に関わりながら活動を重ね、革新的なアイデアをビジネスに転化させるサポート構造を作り出し、更なるスタートアップを輩出する循環が生じる仕組み。
プロジェクト概要
- 富山県(知事政策局成長戦略室創業・ベンチャー課)
- 実施期間:2022年5月 ~ 2023年3月
- 体制:
- プロジェクトマネジメント:寺本 修造(株式会社ロフトワーク)
- クリエイティブディレクション:室 諭志、名川 実里、川原田 昌徳、岩村 絵理(株式会社ロフトワーク)
- プロデュース:中圓尾 岳大(株式会社ロフトワーク)
富山県が推進する「スタートアップ支援戦略」
富山県は、2022年2月に富山県成長戦略を策定。『幸せ人口1000万』のビジョンのもと、「真の幸せ」(ウェルビーイング)中心の成長戦略を掲げました。成長戦略を担う6つ柱の一翼として「スタートアップ支援戦略」は位置付けられ、真の幸せ(ウェルビーイング)戦略、まちづくり戦略、ブランディング戦略により進められた人材交流・人材集積を基礎として、県経済のみならず、日本経済の将来の成長の種となる新たな企業を富山県から創出することを目的としています。
T-Startupの最重要テーマは「ロールモデル企業の創出」
T-Startupでは、県内開業率の低下や、2010年代以降の県内上場企業数の低推移、大学発ベンチャー数が全国下位である現状を見つめ、スタートアップ支援を抜本的に強化するとともに、その支援も戦略的に行います。直近のマイルストーンでは、県内のスタートアップエコシステム形成に向けて、ロールモデルとなるスタートアップの創出を目指しています。
Related Event
「地域×スタートアップ×デザイン」の可能性を探る、事例報告会を開催
デジタル田園都市国家構想において、地域の成長戦略の重要な要素として掲げられている「スタートアップエコシステムの構築」。自治体や企業が、主体的にスタートアップのアクセラレートを行うことで、スピード感をもった地域経済の振興や、新規事業領域開拓のチャンスにもつながります。
では、地域発のスタートアップが、育ち、活躍する「生態系」は、いかに実装されるのでしょうか。スタートアップが描く社会的インパクトをより大きくするためのハンズオン支援(ミクロ)と、地域にエコシステムをつくる戦略設計(マクロ)の2つのデザインの視点が欠かせません。
「T-Startup」では、どのような工夫を行い、「スタートアップエコシステム」の実装を目指したのか。そのプロセスを、担当したディレクターが解説し、地域発のスタートアップ支援の可能性について探るイベントを開催します。
Project Design
1ヶ月のフィールドリサーチで行った「スタートアップを見守る人」との対話
地域でスタートアップエコシステムが自走する仕組みを実装するためには、その活動をサポートする人々に参画してもらうための域内ネットワークが欠かせません。T-Startupの始動に伴い、富山県内でのスタートアップを軸としたネットワークの構築に向けて、富山県内でフィールドリサーチを1ヶ月間かけて実施しました。県内産業資源の視察など、スタートアップとの接点の有無は問わず、富山県の産業を支える県内事業者30名以上の方々を「スタートアップを見守る人」と位置付け、交流と対話を重ねました。
スタートアップエコシステムの形成において重要なのは、「スタートアップをサポートする文化・相互に連携するネットワークの構築」です。その際にポイントとなるのが「直接的なサポート」と「間接的なサポート」の存在です。「直接的なサポート」とは、今回行った「T-Startup Leaders Program 2022」やオープン・イノベーションなどを通して、スタートアップに対する伴走支援・協業支援などを指します。一方で「間接的なサポート」とは、「どういったサポートを具体的にスタートアップに提供できるかは分からないけれど、ぜひ応援したい」という思いを持つ存在「スタートアップを見守る人」を指します。スタートアップとの関わりが首都圏に比べて少ない地域では、まずは、県内外の「直接的なサポート」をスタートアップに提供できる存在が文化の源流を生み出し、それらの一連の活動を見守る多くの「間接的なサポート」の存在が自然と「直接的なサポート」を提供する存在に変化していく仕組みを作ることが重要になります。
また、スタートアップエコシステムを形成するためには、「エコシステム(生態系)」の定義や特徴から理解する必要がありますが、『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』(著者:佐藤航陽)の中では、うまく回っている生態系には「自律的」「分散的」「有機的」という3つの特徴があると記されています。スタートアップエコシステムの形成において重要なポイントの1つとしてフォーカスした「スタートアップをサポートする文化・相互に連携するネットワークの構築」は、この3つの特徴のうちの「有機的」な視点での活動と位置付けています。
世の中は変えられる。「出すぎた杭」を歓迎するT-Startupの理念
あらゆる活動の目標と目的の明文化は、その活動の成果に大きな影響をもたらします。
「日本一のスタートアップフレンドリーな地域の実現」というミッションの元に始動したT-Startupでは、現状維持ではない未来を見据え、リスクを取りながらも新しい価値を世の中に提供する突き抜けた存在(起業家、スタートアップ)を歓迎します。「個人ではなく集団を優先しなければいけない価値観」すなわち「出る杭は打たれる」社会文化ではなく、出る杭(起業家、スタートアップのメタファー)を伸ばす社会文化の確立を目指し、「“出すぎた杭”たちの、未来の可能性を育てる。」というプロジェクトビジョンを掲げました。
また、ビジョンのキーワードでもある「出すぎた杭」をベースに、T-Startupのロゴ及びキービジュアルはT-Startupのデザインパートナーである羽田 純 氏(アートディレクター)が担当しました。
デザインパートナー
羽田 純 アートディレクター(STUDIO ROLE /)
1984年大阪出身。ギャラリーのキュレーションを8年間担当後、スタジオ「ROLE」設立。現在は富山県を拠点に、デザイン・プロジェクトのほか、ジャンルを横断しながらさまざまな『活動』の魅力をデザイン。
【主な受賞歴】
TOYAMA ADC グランプリ/とやまクリエーター 大賞(最年少受賞)/富山県デザイン展 大賞/富山コピーライターズクラブ 準クラブ賞/北陸コピーライターズクラブ 特別賞/北日本新聞広告賞 特別賞/ゴールデン ピン デザインアワード ベストオブデザイン賞(台湾)/メキシコ国際ポスタービエンナーレ、ブルノ国際グラフィックデザインビエンナーレ、ラハティ国際ポスタービエンナーレ 入選/JAGDA新人賞 ノミネート 等
スタートアップの成長をデザインの力で牽引する
外部専門家や協業先、出資候補先(ベンチャー・キャピタル等)とのマッチメイキングだけではスタートアップに対する本質的な支援は達成されません。スタートアップは常にあらゆるリソースが不足しています。スタートアップに対する伴走支援には、顧客の視点に立ったイノベーションを生み出し、顧客価値の最大化を目的とした組織文化の構築をサポートする存在が必要です。
プログラムに参加した6社のT-Startup企業の事業ステージ(組織規模や事業規模)はさまざまでした。創業3年以上のプレーヤーからプログラムエントリー時は法人化前だったプロジェクトチームまで、多様な成長フェーズのスタートアップに対して『ビジネス(B)、テクノロジー(T)、クリエイティブ(C)』の3次元的側面から急成長を実現するため、組織内外のリソースを利活用したパートナー体制を構築し、メンター(外部専門家)やクリエイティブパートナー(デザイナー、エンジニア、マーケター等)との共創を通じたハンズオン支援プログラムを実施。事業成長をパートナーと二人三脚で加速させていくことを目指しました。
なお、プログラム参加企業共通のパートナーには、ロフトワークに加え、地球や人類の課題解決に資する革新的テクノロジーを有するスタートアップ(リアルテックベンチャー)への投資育成を行うベンチャーキャピタルファンドである「リアルテックファンド」、優れた技術・アイデアを有するスタートアップ企業への知財戦略・実務を融合したアドバイス等、技術法務実現のためのリーガルサービスを提供する「弁護士法人内田・鮫島法律事務所」を迎えました。いずれもJ-Startupサポーター企業でもあります。
Phase 1 「プログラムゴールのデザイン」
「今、何を作るべきなのか」「顧客は何を必要としているのか」「今の組織に何が必要なのか」、事業の本質に近く、戦略的な問いに向き合う期間を設けました。限られたリソースの中でどうやって事業成長率の最大化を実現するのか、長期的なビジョンと現状の課題を把握し、プログラム期間内に到達すべきゴールを設定。モニタリング可能な指標と週単位でのアクションプランを整理しました。
Phase 2 「6者6様のオーダーメイド型ハンズオン支援」
成長実現に向けた組織内外の最適なパートナーとともにハンズオン支援チームを組成し、サービスやプロダクト開発の手段としてのデザインだけでなく、プロダクト戦略や経営戦略、資本政策の構築など、ビジネスの上流から組織・事業横断的にデザインのアプローチを取り入れました。成長率の最大化に向けて、プロダクトのUI/UXデザインの改善に取り組むスタートアップ、空間のデザインに取り組み店舗開発を実現したスタートアップ、組織ビジョンの見直しから既存事業の戦略をリデザイン(再構築)したスタートアップ、知財戦略強化による競争優位性の獲得に取り組んだスタートアップなど、目的もアプローチも異なる多様なスタートアップがピアプレッシャーを感じる環境でプログラムに向き合いました。
T-Startup企業と主な支援内容(企業名五十音順)
T-Startup DemoDay 2022(プログラム成果報告会・交流会)
プログラム終盤には、成果報告会「T-Startup DemoDay 2022」を富山県内で開催。当日は、プログラム参加企業6社によるプログラム成果を発表するプレゼンテーションやゲストレビューの実施に加え、T-Startupサポーター(スタートアップ支援賛同企業)や地方発スタートアップに興味関心のあるベンチャーキャピタル等を含めた来場者交流会を行いました。
会場:「トトン」
応援メッセージ
0→1はリーダーの熱量がすべてです。多くの人は「世の中は変わらない」と思っていますが、想像できることはほぼ実現できます。世の中は変えられます。皆さんも今持っている事業に対する熱量や熱狂、解像度を大切に、富山から日本に、さらには世界に、新しい価値を提供していってください。
ラクスル株式会社 代表取締役社長CEO
松本 恭攝(富山県出身)
Project Summary
Voice
メンバーズボイス
“プログラム中に行ったサービスコンセプトの再構築については、経験豊富なサポーターと共にインタビューの実施やUI/UXのデザインを行うなど、実践的なサポートを受けることで、満足のいくものに仕上げることができています。さらに、新しいサービスコンセプトの検討段階からチームに参加いただいたデザイナーのサポートもあり、プログラム中に大手VCからシードラウンドの資金調達に成功しました。スタートアップとして第一歩を踏み出せたことはもちろん、今後の事業拡大に繋がる外部パートナーとの連携を得られたことに感謝しています。また、担当マネージャー(ロフトワーク)とプログラムパートナーのUI/UXデザイナーが何度も富山に来てくださり、複数回、一日がかりでブレインストーミングを行ったことが印象的です。彼らは、私たちのビジョンや課題について深く理解し、私たちと共にアイデアを出し合い、サービスのコンセプトからサービス名、UI/UXデザインを考案してくれました。その結果、ユーザーにとって受け入れやすいサービスコンセプトへと昇華させることができました。プログラムでサポートいただいた彼らと信頼関係を築くことができ、今後もパートナーとして事業を発展させていく予定です。”
株式会社ModelingX 代表取締役CEO 山田 航大(T-Startup企業)
“今回選定されたT-Startup企業の6社は、成長のステージがどこも異なっていました。ステージの違う企業が一つのハンズオンプログラムに混在することで、あるところは創業期のことを思い出して誰かにアドバイスをしたり、あるところは一歩先にいるスタートアップの背中を見ることで成長曲線のイメージが理解できるような環境があったのではないかと思います。ベンチャー企業で重要なことは、今がすごいことではなく、成長の変化率がすごいこと。T-Startup企業6社のこの半年間の成長は、日本のどの地域・スタートアップにも負けない成長の変化率だったと思います。”
レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役会長兼社長, 最高投資責任者(CIO)藤野 英人(T-Startup選定委員長)
“T-Startup初年度(2022年)は、T-Startup企業や富山県内の方々をはじめ、様々な方との対話の機会を大切にしてきました。世の中のあらゆるデザインの中心には、デザインを必要とする「人」の存在があります。また、スタートアップのようにこれまで存在しなかった新たな価値を形にして社会に提供する活動の背景にも、その価値を必要としている「人」の存在があります。T-Startupで大切にしている「人中心のデザインアプローチ」は、スタートアップの組織横断的な成長のきっかけを生み出せるのではないでしょうか。デザインにはその力があると信じています。”
株式会社ロフトワーク 寺本 修造(プロジェクトマネージャー)
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