「であい、まざる」多摩地域の磁場づくり
──TMU Innovation Hubと歩む、共創拠点化への始めの一歩
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全国の大学キャンパスで産学連携拠点を設ける動きが広がったいま、「共創拠点化」への実現には多くの壁が立ちはだかっています。大学への心理的な敷居の高さや、組織間の文化の違いから、地域社会や企業と本当の意味で交わる場へと育てる難しさに直面しているケースは少なくありません。
2023年10月、東京都立大学 日野キャンパスに開設された「TMU Innovation Hub」も、多摩地域の産学公連携スペースとして、いかに地域に開かれ、共に未来を育むことができるかが問われていました。

ロフトワーク伴走のもと本プロジェクトが取り組んだのは、地域の声に耳を傾け、まずは足並みを揃えることでした。具体的には、大学内外のステークホルダーと共通の未来像を策定し、さらにそこへ向かう第一歩として、共創イベント「たまぐねっと」を開催しました。「たまぐねっと」とは、“マグネット”のように「多摩」地域の多様な人々が出会い、情報やアイデアが混ざりながら、これまで考えたことがないような新しい機会やアイデアを生み出すイベントです。


本記事では、TMU Innovation Hubだからこそ多様なプレイヤーが集い、多摩地域の「磁場」へと育っていく初期プロセスを紐解きます。ヒアリングによる問いの設計から、インスピレーションを刺激するイベントの実践、そして長期的な活動計画の策定に至る軌跡は、大学と地域社会の新しい関係構築を目指す多くの方へのヒントになるかもしれません。
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TMU Innovation Hubが位置する多摩地域は、かつて日本の成長を支えたものづくり企業や技術シーズ、そして多様な大学と研究者が集まるポテンシャルの高いエリアです。しかし、大学の一研究室や、一企業の単独の取り組みだと、地域に眠る豊かな可能性を十分に花開かせることは難しいかもしれません。
本プロジェクトの目的は、長期的な関係構築を見据え、大学の知と地域の力を結びつける基盤を構築することにありました。ロフトワークが伴走した約半年のプロジェクトでは、以下の3つのステップに挑みました。
- 【調査】ステークホルダーへのヒアリングを通じた、リアルな課題と問いの抽出
- 【検証】共創ワークショップ「たまぐねっと」による、交わる対話の場の実践
- 【策定】対話から得た洞察を反映した、5年先を見据える中長期活動計画の策定
このプロセスを経た結果、現時点で地域企業、自治体、そして学内の教員や学生を巻き込んだ、関係性の土台(磁場)が形成され始めています。
イノベーション・コモンズと呼ばれる大学の共創拠点は、どのように産学公の知が混ざり合う活き活きとしたプラットフォームになりうるのでしょうか。本プロジェクトには、その初期調査、プロトタイプ、未来戦略策定という、共創拠点化への始めの一歩が詰まっています。その裏側にある、具体的な戦略と実践を次に詳しく見ていきましょう。
Scope
本プロジェクトにおけるロフトワークの担当スコープは、現状の課題抽出から未来像の言語化、イベントの企画・運営、そして中長期的な計画策定まで、多岐にわたります。
- 活動目的のヒアリングと言語化
TMU Innovation Hubと連携する多摩地域発の事業・研究開発ベンチャー支援プラットフォーム(TAMA-LEAPパートナー)へのヒアリングを実施。現場のリアルな声から見えてきた課題をもとに、活動の指針となる「7つの戦略的な問い」を提案しました。 - コミュニティ未来像の策定
調査結果をもとに、TAMA-LEAPパートナーとワークショップ形式の意見交換会を実施。TMU Innovation Hubが目指すビジョン「『であい』と『まざる』多摩地域の未来を育む、知と未来の交差点」を作成しました。 - イベント「たまぐねっと」の企画・実施(全2回)
策定した未来像を体現する対話の場を検証するため、一般参加型イベント「たまぐねっと」を企画・運営。テーマオーナー(自治体・大学教授)の選定から、ワークショップのプログラム設計、集客、当日のファシリテーションまでをトータルでサポートしました。 - 活動計画書(ロジックモデル)と報告書の作成
ヒアリングやイベントを通じて得られたインサイトを集約し、TMU Innovation Hubが5年後に目指す活動成果と、そこに至るための道筋をまとめた中長期活動計画を策定し、運営チームへとお渡ししました。
Guideline
施設のコンセプトや機能を形骸化させないためには、「そもそもこの場所で何を目指すのか」という共通認識を関係者間で揃える必要がありました。そこでプロジェクトの初期段階で実施したのが、多摩地域の産業支援を担うTAMA-LEAPパートナーへの綿密なヒアリングです。
現場のリアルな声から浮き彫りになったのは、「大学には心理的な敷居の高さを感じる」「技術シーズはあっても、その事業化に向けた動きがまだ積極的ではない印象がある」といった、産学公連携の前に立ちはだかる見えない壁の存在でした。
浮かび上がったこれらの課題に対し、ロフトワークがとったアプローチが、コミュニティの指針となる「7つの戦略的な問い」の策定です。なぜ、「問い」を戦略に盛り込んだのか。それは、変化に対応できるしなやかさの形成を支援すべきと考えたためです。
本プロジェクトにおける私たちの役割は、活動計画の策定とコミュニティ運用の初期支援まででした。もし外部パートナーである私たちが「計画書だけ」を納品して離れてしまえば、それは「絵に描いた餅」になるリスクが残ります。
コミュニティの主役はあくまで集まる人々です。しかも、状況によってあるべき姿は常に変化します。そもそも場の熱量や空気感は、単純な数値(KPI)だけで測りきれません。
だからこそ、「東京都立大学(TMU)は何者か?(アイデンティティ)」「いかにして未来の担い手を育むか?(人材育成)」といった「問い」そのものを戦略に据えました。ロフトワークの伴走期間が終了した後も、TMU Innovation Hubの運営チーム自身が「今、何が必要か?」と問い続け、現場に合わせて活動をしなやかにチューニング(アップデート)できる状態を作ることが、私たちの重要な役割でした。
この「問い」をベースに対話を重ねて紡ぎ出されたのが、「『であい』と『まざる』多摩地域の未来を育む、知と未来の交差点」という未来像です。そのビジョンを検証する次のステップであるイベントでも、この問いを活用して検証を繰り返し、運営チームと議論しながら、そのプロセスを最終的な活動計画へと反映させていきました。

ステークホルダーと「問い」を共有し、共に未来を探るプロセスを築く。これこそが、中長期的に自走する活動の基盤になる、と考えたのが本プロジェクトにおける活動計画の策定をご支援する意義です。
Events
策定した「であい、まざる」というビジョンを体現する実験場として、全2回の一般参加型共創イベント「たまぐねっと」を開催しました。
「たまぐねっと」が目指したのは、現状を打開する答えを性急に出すことではありません。目指したのは、多様なステークホルダーがフラットな接点を持ち、情報を「まぜあわせる」ことで、これまでにない機会やアイデアを生み出す共創プロセスの実践です。
そのため、イベントは、「インプットトーク」「ワークショップ」「交流会」という3部構成で設計しました。
定説をずらし、産学公がフラットに混ざり合うプログラム
ワークショップの最大の工夫は、既存の「当たり前(定説)」をずらし、新たな可能性を探索するプロセスを取り入れたことです。専門知識のない参加者でも萎縮せず楽しめるよう、「自分ごと化」できるテーマ設定と心理的安全性の高い場づくりを心がけました。
第1回では、自治体(八王子市・日野市)をテーマオーナーに迎えました。テーマに上がったのは、「もっと歩きたくなる街にするには?」といった正解のないまちづくりの問いです。企業、市民、学生がそれぞれの視点を持ち寄ってアイディアを出し、行政施策の枠を超え、AI活用や偶発的な出会いを取り入れたアイデアが生まれました。
続く第2回でフォーカスしたのが「大学の専門知」です。機械システム工学とインダストリアルアートを専門とする2名の教授を迎え、それぞれの研究シーズをテーマにワークショップを実施しました。プログラムには「サービスデザイン」や「演出的思考」のメソッドを導入し、あえて常識を横に置き、研究者と参加者が一緒になってまだ世の中にない体験を妄想し、発散させるプロセスを楽しみました。






場を牽引する学生ファシリテーターの存在
このイベントにおいて、特に重要な役割を果たしたのがサブファシリテーターを務めた「学生」の存在です。
学生らは、書記やタイムキープといった補助的な役割だけではなく、大人たちのアイデア出しが行き詰まった際にブレイクスルーとなる視点を提供するなど、積極的な主体性を発揮してくれました。
学生のフレッシュな感性が、企業や自治体、教授陣の思考の枠組みを揺らす心地よい触媒となってくれました。この学生の活躍は、事前に立てた「地域を担う人材育成(TMUはいかにして未来の担い手を育むか?)」という問いへの一つの実践のカタチだったと振り返っています。
検証から得られた「7つの問い」への確かな手応え
全2回のイベントを終え、参加者アンケートからはポジティブな示唆が得られました。特に目立ったのが、「普段は関わりのない相手(行政と学生、教授と市民など)とフラットに対話できた」という声です。
この混ざり合いの体験は、大学や行政に対する敷居の高さ(心理的障壁)を引き下げることに繋がりました。また、研究シーズを開示して市民参加型でアイデアを募る試みが、テーマオーナーとなったお二人の教授にとっても新鮮な経験となったようです。
たとえば、教授自身が想定していなかった新領域への「出口アイデア」や、演出思考を取り入れるワークショップにより地域の魅力を再発見する機会となったと言います。研究や教育の枠を超え、地域を巻き込んだ体験そのものが、今後の活動に示唆を与える実践例として評価されました。
イベントを通して、ヒアリングから導いた「7つの戦略的な問い」に紐付きながら、TMU Innovation Hubが化学反応を生む出会いの起点(プラットフォーム)として機能していく、手応えを得ることができました。
Outcome
本プロジェクトの調査・検証・構想の初期フェーズを通じて、大学内や地域との間に変化の兆しが見え始めています。今回の最大の成果は、TAMA-LEAPパートナーや自治体、企業、研究者、そして学生といった多様なステークホルダーがフラットに交わり、共に思考を巡らせる「関係づくりの土壌」が、この場所にも確かに生まれると実感できたことです。
ロフトワークでは、大学施設をはじめとする共創拠点のプロジェクトにおいて、初期の戦略・未来像の策定から、イベントなどのプロトタイプ実装、さらには(今回はスコープ外であったものの)自走に向けた中長期的なコミュニティの運用支援まで、一気通貫した伴走を行っています。
こうしたプロジェクト経験を通じて実感するのは、戦略企画はもちろん、現場で小さく試し、問いを立てながら活動をチューニングしていくプロセスこそ、活動の形骸化を防ぐ鍵だという点です。実際、本プロジェクトはTMU Innovation Hubをはじめ、さまざまな方々との継続的な協働と調整の連続あってこそのものでした。
同時にその協力体制は、大学や地域に眠る研究シーズや技術の可能性に対し、広く社会が期待と関心を寄せているからこそ実現したものです。まだ見ぬ価値を掘り起こし、社会実装へと繋げていくための第一歩は、立場を超えて関わる一人ひとりが、目の前の課題や未知の技術を「いかに自分ごと化できるか」にかかっています。
ロフトワークは今後も、こうした産学公連携の現場で得た知見と経験を内外に蓄積・還元しながら、多様な力が交差する豊かな磁場づくりを支援していきます。TMU Innovation Hubが牽引する多摩地域をひらく新たな挑戦、そしてロフトワークの挑戦も、まだここから続きます。
Credit
プロジェクト
クライアント名:東京都立大学管理部研究推進課産学公連携係(現 起業推進係)
プロジェクト期間:2025年9月〜2026年3月
体制
ロフトワーク
- PM 小城 真奈
- ディレクター 髙橋 聖
- ディレクター 岡本 かなは
- ディレクター 奥田 蓉子
- プロデューサー 黒沼 雄太
- シニアディレクター 寺本 修造
外部パートナー
- カメラマン 村上 大輔
- カメラマン 川島 彩水
- アートディレクター・グラフィックデザイナー 林 絵子







