近畿大学 PROJECT

デジタルとリアルで描く、新たな本との出会い
図書空間の価値を拡張するコミュニケーション設計

Outline

図書空間の利用を促進する、デジタルとリアルの両面で体験を設計

実学教育と人格の陶冶を建学の精神として、西日本最大級の総合大学として幅広い学びの場を提供している近畿大学。2017年に東大阪キャンパス内にオープンした文理融合の学術拠点である「アカデミックシアター」は、学生の交流や学習の場として多様な機能を有しています。その中核施設となるのが、ライブラリースペースである「ビブリオシアター」です。この施設は、質の高い情報源であり多様な解釈に触れられる本との接点を増やすことを最大の目的に掲げ、約7万冊の蔵書を独自の分類法で配架する「近大INDEX」を採用。これにより、来館者が自分では思いもよらなかった本と偶然出会える空間としてデザインされています。しかし、学生の読書離れが進む昨今、従来の図書館的アプローチでは、すでに本に関心を持って来館した学生の目にしか留まらないという限界がありました。

そこで、本プロジェクトでは、学生と本の偶発的な出会いを創る、デジタルとリアルの体験を融合したコミュニケーション設計を行いました。学生を巻き込んだユーザーテストを通じてインターフェースを改善しながら、約7万冊の蔵書からAIが選書するWebアプリを開発。併せて、五感や身近な興味をフックに読書のハードルを下げる体験型イベントを実施し、デジタルとリアルの両面から独自の図書空間の利用を促進し、新たな本との出会いを創出しています。

学生の反応をもとに、独自の分類エリアを提示する設計へ刷新。周辺の本棚にも目が留まる回遊導線となり、偶発的な本との出会いを生み出しています。

Output

約7万冊の本からAIが選書するWebアプリ「ブックメイト診断」

新たな本との出会いを創出するため、最新のLLM(大規模言語モデル)を活用したWeb選書アプリ「ブックメイト診断」を開発しました。 Webアプリ開発では、ノーコードツールとLLMを活用し、早期にプロトタイプを構築。現場のフィードバックをもとに改善を重ねるアジャイルな手法を採用しています。実際に動く状態に触れてもらうことで、アプリの体験設計における改善すべきポイントを明らかにし、結果として開発のスピード感を高めることにつながりました。

ユーザーが自身の性格や趣味、その日の気分を質問に沿って回答すると、施設内のおすすめの分類エリアと書籍3冊を紹介してくれます。

Approach

人を起点に本と出会い、リアルな接点をつくる体験型イベント

“人を起点に本と出会う”をコンセプトにした2種類のイベントを企画・実施しました。学生が抱く読書への心理的なハードルを取り払い、身近な興味や関心から本に出会うきっかけを作る体験をデザインしました。

味覚・嗅覚・聴覚を使って本を感じる体験型イベント「本を飲む」

本の内容や物語の背景からインスピレーションを得て作られたドリンクを味わう体験型イベント。視覚だけではない、味覚・嗅覚・聴覚を通じた新しい本との出会い方を提案しました。FabCafe Osakaから発祥した同イベントでは、気軽な好奇心から参加できる場を設計しています。従来の読書会とは異なるこのユニークな体験は参加者の記憶に残りやすく、結果として読書への心理的なハードルを下げることに繋がりました。

本企画の企画者であるKZさん(梅田サイファー)と、近畿大学 文芸学部准教授のアサダワタルさんをゲストに迎え、それぞれのおすすめの本に着想を得たオリジナルドリンクが提供されました。

紹介された本を“飲んで味わう”学生たち。イベント後には「本との向き合い方が変わった」という満足度の高いコメントが集まりました。

身近なテーマをきっかけに新たな本と出会うトークイベント「めくるめくシアター」

トークイベントシリーズ「めくるめくシアター」は、学生にとって身近で親しみやすいテーマを入り口に、開催ごとにテーマとゲストが「めくるめく」変わるトークイベントです。多様な切り口から学生の知的好奇心をくすぐり、本との新たな出会いを促します。
第一回は、オーディション番組から読み解くアイドル文化の変遷をテーマに開催しました。参加者同士で自分の“推し”の魅力を言語化するワークを組み込み、自分の好きという感情を客観的な言葉にするプロセスを体験。その上でゲストからその言語化の助けになる本が紹介されました。身近な興味を起点とし、自然な流れで学問や読書へと繋げるアプローチとなっています。

第一回はライターの松本友也さんをゲストに迎え、好きなものの魅力を言語化するプロセスを助けてくれる本が3冊紹介されました。

参加者同士で「推し」の魅力を言語化しプレゼンし合うワークを実施。身近な興味を起点とし、自然な流れで学問や読書へと繋げる有効なアプローチとなりました。

シリーズイベントとして継続して開催するために、告知バナー等のクリエイティブを事前にフォーマット化。今回のプロジェクト以降も盛り上がりを継続できるよう、施設・学生主体での自走を見据えています。

Outcome

本プロジェクトでは、デジタルとリアルを掛け合わせたコミュニケーション設計により、学生と本の新たな出会いを創出しました。イベントを通じて読書の心理的ハードルを下げる体験を提供した結果、イベント直後に本を借りる学生が現れたほか、「これからは大学の図書館をもっと活用していこうと思った」といった声が上がり、施設活用の促進と学生の深い意識変容に繋がっています。

Credit

基本情報

クライアント:近畿大学 アカデミックシアター
プロジェクト期間:2025年7月〜2025年12月

体制

  • 株式会社ロフトワーク
    • プロジェクトマネジメント/クリエイティブディレクション:山﨑 萌果
    • テクニカルディレクション:大内 裕未、川竹 敏晴
    • プロデュース:藤原 里美、吉江 美月
  • 制作パートナー
    • モックアップデザイン:金木 馨
    • 動画撮影・編集:あかつき写房 本田 優生
    • めくるめくシアター
      • ビジュアルデザイン:林加津葉(株式会社Bowl)
      • イラスト・タイトル:キムラユキ
      • タイトルネーミング:朝田 亘
      • トークゲスト:松本 友也
    • 本を飲む
      • 企画提供/トークゲスト:KZ
      • トークゲスト:朝田 亘
      • ドリンク開発:福田 拓未(FabCafe Osaka)
      • ビジュアルデザイン:大西 藍李(FabCafe Osaka)

執筆・編集: 葉山 いつは(loftwork.com編集部)

Member

大内 裕未

株式会社ロフトワーク
テクニカルディレクター

Profile

山﨑 萌果

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

藤原 里美

株式会社ロフトワーク
シニアプロデューサー/CU — Education Design Unit リーダー

Profile

吉江 美月

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

川竹 敏晴

株式会社ロフトワーク
テクニカルグループ テクニカルディレクター

Profile

福田 拓未

株式会社ロフトワーク
FabCafe Osaka カフェマネージャー

Profile

メンバーズボイス

“昨今学生の活字離れが課題となる中、本を「飲む」という味覚と聴覚の体験を新しいアプローチとして挑戦しました。ロフトワークの皆さまと共にエンタメ感を追求し、本の背景や物語を特製ドリンクとして五感で味わう空間を設計できたことは、大きな手応えです。参加した学生たちが気軽な好奇心から本と出会い、新しい楽しみ方を見出していく姿が非常に印象的でした。今後もアカデミックシアターから、学問やカルチャーの枠組みを広げるような、自由で創造的な学びの場を発信し続けたいと考えています。
このような貴重なイベントを企画いただいたロフトワークさんならびに手際よくスムーズに本番までご対応いただいたディレクターの方に感謝いたします。”

近畿大学 大学運営本部 アカデミックシアター学生センター センター長 福原 勝一

“「本」と学生の距離をどう縮めるかという課題に対し、ロフトワークさんは読書イベントを「本を読む場」ではなく、「体験する場」として設計することを提案してくれました。
その結果、これまでイベントにも施設にも足を運んでいなかった学生層にも参加してもらえるようになり、読書習慣のない学生が本と出会うきっかけが生まれました。
ブックメイト診断では、「自分ってどんな人間だっけ?」と自分を見つめ直しながら、AIがその人に合った一冊を紹介してくれます。
意外な本が提示されることもありますが、その理由を確かめたくなり、本を探しに行く行動につながるはずです。
学生が本との新しい関わり方を見つけ、このコンテンツをきっかけに読書が日常の一部になっていくことを期待しています。”

近畿大学 大学運営本部 アカデミックシアター学生センター 杉浦 綾沙子

“本プロジェクトを通じてずっと意識していたのは、「すでに本が好きな人」だけでなく、「まだ本に出会っていない人」にどう届けるかということでした。 「Webアプリで、今の気分にピッタリな本をオススメされた」 「『推し』や『食体験』を目当てにイベントに参加したら、おもしろそうな本を知れた」 そんなふうに、本との“偶然の出会い”を楽しんでもらえるような体験を、チームで試行錯誤しながらつくっていきました。 特に印象に残っているのは、イベント終了後、ゲストから紹介された本を「すぐに借りたい!」と目を輝かせて言いにきてくれた学生さんの姿です。まさに、私たちが目指していた本との出会いが生まれた瞬間でした。”

ロフトワーク クリエイティブディレクター 山﨑 萌果

“私はブックメイト診断の開発ディレクションを担当しました。読みたい本ではなく、今の自分自身のことを問うことで、普段あまり本を読まない人でも答えられて、新たな本との出会いが生まれると考えました。「自分では選ばなかったけれど、言われてみれば読みたいかも」。そんな、人と本の思いがけない引き合わせが、AIによって自然に生まれます。さらにブックメイト診断は、その本が置かれたおすすめのエリアも提示します。本を探しに棚の前まで歩くと、隣に並んだ別の一冊にふと目が留まる。画面の中に留まらず、偶然の出会いが連鎖していく体験にしたいと設計しました。一人ひとりが自分なりのきっかけから本とつながっていく、その一助になれたらうれしいです。”

ロフトワーク テクニカルディレクター 大内 裕未

Keywords

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「.KNOTs」産学共創プログラムの設計と自走できる運営スキームの構築