“実践できる組織”をともにつくる。
R&D拠点「SHIOMER」が、共創の現場に変わるまで
Outline
製造業を取り巻く環境が急速に変化するなか、「自社だけで課題を解決する時代は終わった」という認識のもとに、多くの企業が共創拠点を立ち上げてきました。しかし一方で、「空間は作ったものの、外部委託のイベントに終始してしまい、自社にノウハウや本質的な関係性が残らない」という、運営の形骸化に悩む声が増えています。 単なる『ハコ(空間)』を脱し、自社の力で外部と繋がり、真の価値を生み出し続ける組織へと変容するために──パナソニック エレクトリックワークス株式会社がR&D拠点「SHIOMER」を舞台に挑戦した「共創拠点を作った“その後”」の歩みを紐解きます。
パナソニック エレクトリックワークス株式会社(以下、パナソニックEW株式会社)は、2024年12月、東京・ 田町に共創型R&D拠点「SHIOMER(シオメル)」を開設。自社の持つR&Dの機能と拠点を外部へと開き、多様なステークホルダーとの共創によって社会に新しいソリューションを提案する場として、その運営をスタートしました。
ロフトワークは、拠点立ち上げと運営スタートにあたっての施策をトータルで実施。SHIOMERという場を動かす「人」と「仕組み」を同社とともに育てることを目指しました。
施設立ち上げについて取り上げた記事はこちら
施設が立ち上がった後の「運営」についても支援を行ったロフトワーク。コミュニティマネージャー(以下、コミュマネ)の成育プログラム設計と実施、イベント企画・運営支援、関係人口拡大を目的とした大型カンファレンスという三つの柱からなる取り組みを実践。戦略的パートナーとして、SHIOMERにおける「共創の仕組み」をデザインし、クライアントが将来にわたって価値を生み出し続けられる組織へと変容するプロセスに伴走しました。
本記事では、そうした運営フェーズにおける施策とプロセスを振り返ります。
Approach
ショートショート作家との共創——SHIOMERを「攻めの場」へ転換するイベント設計
「集まる場」から「何かが生まれる場」へ
プロジェクトにおいて目指したのは、パナソニックEW株式会社による「コミュニティ運営の自走」。ゆくゆくは、パナソニックEW株式会社のみでSHIOMERが運営されていることが望ましい状態であると考え、施策を検討してきました。
SHIOMERの目指す「共創」の姿は、3つに大別することができます。一つは、ビジネスにおける人と人との関係を築く「ネットワーキング」、もう一つは、お客様・パートナー様との連携を通した「新しい事業の創出」。そしてもう一つは、同じビジョンを持つ方々との協働から生まれる「様々な社会課題の解決」です。
そして、それら3つの共創の姿を実現するには、人と人との関係を円滑に築く「ネットワーキング」をする役割が必要不可欠。共創の仕掛け人ともいえるこの立場を担うのが、「コミュニティマネージャー」の役割です。彼らの成育機会をどう設計するかが、本プロジェクトの重要なポイントとなりました。
SHIOMERに所属するメンバーがコミュニティマネージャーの技術を得る上で必要だったのは、「外部パートナーと連携し、新しい体験を生み出す」ことの実践でした。
ロフトワークは、参加者が「社内では出会えなかった思考プロセス」に触れ、予期せぬアイデアの発想を促すべく、交流イベントを企画しました。
不思議な言葉から物語を作る、論理を超えた発想体験
2025年3月、ショートショート作家・田丸雅智氏を招いたワークショップを実施。参加者が「不思議な言葉」をランダムに組み合わせて物語の種を作り、それを互いに共有するプログラムが展開されました。
正解がない問いに向き合うことで、参加者の間に「発想の豊かさ」を評価する雰囲気が生まれます。業務上の役職や専門性が一時的に脇に置かれ、一人のアイデアマンとして場に混ざる。こうした体験設計が、組織の垣根を超えた対話の土台として機能しました。
参加者からは、「こんな発想の仕方があるとは思わなかった」「異なる部署の人の考えを知れた」といった声が聞かれました。交流企画を通して、SHIOMERは「その場で得た感覚や思考を、持ち帰る場」へと変容していきました。
SHIOMERの運営メンバーにとって、コミュニティマネージャーとしての素養を育むために必要なさまざまな要素を並行して獲得するべく、「発想法を取り入れること」と「イベント運営の知見を得ること」が同時に行われる設計となりました。
小規模なイベントを通して、共創の土壌づくりを体感したSHIOMER運営メンバー。こうした土壌をより広く外へと広げていくためには、より大きな施策が必要となりました。
「自社運営」を前提にしたコミュニティマネージャー育成トライアル
「運営代行」ではなく「運営移行」を設計する
多くの施設のイベント・コミュニティ運営において、施設運営を外部委託することによって、自社の担当者が共創のパートナーと直接的な関係性を作りにくいという課題感があります。SHIOMERが目指す「外部との共創の場」の運営を自走させていくには、まず内部の人材が変わる必要がありました。
本プロジェクトにおいてロフトワークが担ったのは、「運営の代行」ではありません。成育されたコミュニティマネージャーによる自走状態への「移行」を支援する設計を目指しました。
プロセス——3フェーズで「理論→武器→実践」をつなぐ
他拠点の視察や勉強会開催などのプロセスを経て、R&D拠点における「コミュニティマネージャーの技術」の重要性を認知したSHIOMERチーム。R&Dメンバー自らがその知見と技術を獲得するため、SHIOMER(パナソニックEW株式会社)自らの力により、成育プログラムが企画されました。共創基盤構築の一貫として、まさに自社運営による自走がはじまった大きな一歩だったと言えます。
プログラムでは、ロフトワーク所属のディレクターであり、「BUFFコミュニティマネージャーの学校」を運営している加藤翼が講師を務め、2025年7月からプログラムがスタートしました。
本成育プログラムは、理論的基盤の習得から始まり、実践的スキルの獲得、そして現場でのOJTへと段階的に移行する3フェーズ構成で設計されました。
第1フェーズでは、コミュニティ思考の基礎からメディア、イベント、スペースといった各マネジメント手法の座学を通じて、「コミュニティマネジメントとは何か」を言語化する基盤を整えました。
第1フェーズを行いながら得たもの、SHIOMERの運営を通して得た気づきをかけあわせ、学ぶべき項目を協議しながら形作られてきた本プログラム。第2フェーズでは、「ビジョニング」、「ビジネスマッチング」、「コーチング」といった実践的な専門スキルを習得。これらは担当者が単なる「場の管理者」ではなく、「ビジネス共創の仕掛け人」として自らを再定義するための武器を手に入れるフェーズでした。
第3フェーズでは、実際のイベント企画・運営というOJTを通じて、学んだスキルを現場で試す機会を設けました。
担当者が自分の行動に根拠を持てるようにと、構造的な学びのプロセスを設計。担当者に内面化された根拠は、そのまま組織内部へと引き継がれ、施設運営業務における資産となります。
プロジェクトの行き先を自ら照らすマインドセット
今回の成育プログラムには、合計9名のメンバーが参加。プログラムを通じて、担当者は目標を自ら言語化し、プロジェクトの行き先を主体的に照らすマインドセットを獲得しつつあります。
Output
関係人口拡大を目指したカンファレンス——共創ネットワークの可視化と拡張
「知っている人だけの場」から「広がっていく場」へ
2026年1月、SHIOMERの関係人口拡大を目指し、ロフトワークは大規模なカンファレンス実施を支援しました。
カンファレンスを、SHIOMERの考えを社内外の関係者へと広げていく機会であると同時に、「次の共創パートナーに出会う機会」として設計。パナソニックEW株式会社だけでは持ち得なかった外部との接点を創出するべく『未来共創会議 – ビジョンからはじめる変革の一歩 -』と題したカンファレンスを企画し、渋谷スクランブルスクエア(SCSQ)15階に位置する会員制の共創施設『QWS』で行いました。
今回、SHIOMERのイベントが外部拠点(QWS)で開催されたことで、共創ネットワークを社内外に向けて拡張するための戦略的な場となりました。最終的に会場には、60名を超えるステークホルダーが来場。トークイベントの後に実施されたグループごとのワークショップや、交流会の時間を通して、異なる立場の人々が関わりあう機会となりました。



R&D部門が外部へと開かれることで、異なる業界や技術を活用した協業の可能性が広がります。受動的になりがちなR&Dの場を、より能動的に「外部との接点をつくり、攻めていく」ための場へと変える施策となりました。
外部を巻き込み、「共創の兆し」の風景をつくる
ロフトワークは本カンファレンスの企画・運営の全体設計を担当。SHIOMERの関係人口を増やし、「未来ビジョンを描くこと」からはじまるビジネス共創を加速させていくべく、コンテンツと交流の場を用意しました。
共創が立ち上がる場を目指し、生まれたSHIOMER。その思想を共有し、多様な来場者と議論を深めるべく、「未来を構想して、未来を共創する」をテーマとしたトークイベントを実施。東京大学産学協創推進本部 FoundXディレクターの馬田隆明氏を迎え、ビジョンの役割や未来を描く思考法についてのキーノートセッションを行いました。
さらに、AIを活用した未来洞察ワークショップの実施をあわせて行うことで、より来場者の考えを深め、交流する機会を生み出しました。
パナソニックEW株式会社とロフトワークが共に協力し、実現した今回の大規模カンファレンス。『未来を実装する』著者であり、東京大学産学協創推進本部 FoundXディレクターの馬田隆明氏に登壇いただき、ビジョンの本質や役割、未来を描くための思考法について、実践知を交えてお話しいただくことで、SHIOMERが抱いている思想をより深く考える機会となりました。
SHIOMERの持つ「技術を外部へと開き、共創を生み出す」という思想をパナソニックEW株式会社だけのものとして扱わず、学術分野や実践者の視点から語り直し、世の中に必要不可欠な思想・構想としてあることを伝えました。
Outcome
2024年12月の開設から、SHIOMERでの交流イベント、外部登壇者を招いたカンファレンスなど、多様な交流と共創の機会を生み出してきたSHIOMER。その活動を通じて、少しずつ認知を広げてきました。SHIOMERは、「パナソニックEW株式会社のR&D拠点」という枠を超えて、多様なステークホルダーが自発的に関わりたくなる「共創の磁場」として機能し始めています。
R&D部門が、事業部門の垣根を超えた協業を自ら仕掛ける「攻めの場」への変容がはじまっています。そして、田丸雅智氏とのワークショップに象徴されるような、「既存の延長線上にない発想の場」が社内に生まれたこと。そうした変化が生まれた運営プロジェクトだったといえます。
仕組みと人が育ち、場のビジョンを共有する仲間が増え、そのネットワークが自律的に動き始める——長く続く共創への道のりを、SHIOMERは既に歩みはじめています。
Credit
クライアント:パナソニック エレクトリックワークス株式会社
プロジェクト期間:2025年2月〜3月、2025年6月〜2026年2月
ロフトワーク体制
- プロジェクトマネジメント:村田 菜生 / 山﨑萌果
- プロデューサー:藤原 里美
- ディレクター:加藤翼、岩倉慧
パートナー
- 田丸 雅智(ショートショート作家)
- 馬田隆明(東京大学産学協創推進本部 FoundXディレクター)
- 加藤翼(BUFFコミュニティマネージャーの学校)







