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岩沢 エリ, 山田 憲, 皆川 凌大, 宮崎 真衣 2023.09.26

会津若松から全国へ、現代の「祈り」と向き合うものづくりでビジョンを体現
デザイン経営スタディツアー #3 アルテマイスター・株式会社 保志

デザイン経営に取り組もうとしている企業の経営者が、既に実践している先輩企業を直接訪問し、現場から学ぶ「デザイン経営スタディツアー」を開催しました。3回目となる今回は、全国から10の企業の経営者や自治体の方々と一緒に、福島県会津若松市の「アルテマイスター・株式会社 保志」(以下、アルテマイスター)に訪問しました。

仏壇・仏具・位牌の製造販売を中心に手掛ける同社は、1900年に創業した100年企業です。外部からデザイン人材を招聘し共創したことによって、「時代が求める『祈りのかたち』を創り出す」というビジョンを言語化し、社内外に浸透させてきました。また、伝統的に熟練した男性職人が多く働く職場から、女性や若者など誰もが働きやすい環境づくりに向けて、業務や社内コミュニケーションの改善に取り組んでいます。同社の取り組みを生で見学し、経営者同士が直接言葉を交わした1日をレポートします。

執筆:中川 雅美(良文工房)
編集:宮崎 真衣(株式会社ロフトワーク)
企画:岩沢 エリ、山田 憲、皆川 凌大/株式会社ロフトワーク
撮影:菊地 翼

「新しい祈りのかたち」を創るアルテマイスターを訪問

現社長の保志康徳さんは6代目です。「デザインとは幸せをつくること」という保志さんは、外部のデザイン人材と協働して企業文化の変革と新しい価値の創造を推進。「アルテマイスター」ブランドのもと、従来の仏壇・仏具の概念を超えた「新しい祈りのかたち」を追求しています。

アルテマイスター・株式会社 保志 代表取締役社長 保志康徳さん

「弔い」のための装置から「新しい祈りのかたち」へ

アルテマイスターへの訪問は、美しい水田が広がる眺望の社員食堂からスタート。ここでまず保志さんから事業内容や経営理念を説明いただきました。

生命力あふれる水田の中に、アルテマイスターの工場と社屋がある。

120年以上の歴史を持つ株式会社保志が「アルテマイスター」ブランドを立上げ、伝統的仏壇とは異なる「厨子(ずし)」を世に出したのが約20年前のこと。その背景にあったのが、松屋銀座で長年経営戦略全般に関わり、生活文化を提案してきたコーディネーター山田節子さんとの出会いでした。

厨子とはもともと「大切なものを入れる箱」を意味します。保志さんとともに「弔い」に留まらない「新しい祈りのかたち」を追求して厨子にたどり着いた山田さんは、そのデザインを著名なインテリアデザイナー内田繁さんに依頼。アルテマイスターの職人たちの技術と相まって、これまでにない製品が実現したのでした。以降、現代のライフスタイルに沿う新しい製品が次々と誕生。従来の卸売に加えて直販にも注力し、会津若松市内のほか銀座にも直営店を設けています。

家具のようなシンプルな佇まいの厨子。日本の伝統色を採用した色調の塗装が施され、四季の移ろいを感じる。

「『祈り』であれば世界の精神文化に貢献できる」と保志さん。その「祈り」とは自分だけでなく家族や友人、他人の幸せをも願う気持ちにつながり、「利己から利他へ広がっていく、そのための装置を世界中へ広げたい」という言葉に、参加者一同頷いていました。

美術館のようなショールームはエンドユーザーとの接点にも

続いて工場と同じ敷地内にあるショールームを見学しました。もとは販売業者向けの展示スペースでしたが、生活者との接点を強めるため、現在は一般客も受け入れています。入ってすぐ、内田繁さんが最初にデザインした厨子の展示とコンセプトの説明があり、その奥には同氏デザインによる仏壇「白虹(はっこう)」が輝いて見えます。

左)内田繁さんが手がけた「白虹」。従来の重厚な仏壇ではなく、今日の生活空間に合うように設計されている。右)平安・鎌倉・桃山・江戸、それぞれの時代を象徴する建築様式を取り入れた時代型仏壇。写真は鎌倉時代における東大寺の建築様式を取り入れている。

さらに進むと、様々なサイズ・デザインの仏壇や厨子、位牌、仏具の数々が。空間全体が美術館のような雰囲気で、参加者からはため息も聞かれました。なかでも位牌のデザインの豊富さに驚く人が多数。アルテマイスターでは、これまでショールームを訪れた人々からも「こんなに色々なデザインの位牌があるなんて知らなかった」という声を多く聞くそうです。

会津若松市は伝統工芸品である会津塗の産地でもあり、仏具の産地でもある。位牌は会津地方全体で国内シェア50%*。アルテマイスターの位牌の品番は860を超え、全国から注文が集まる。

*2023年7月時点 アルテマイスター調べ

熟練の手と機械の組み合わせで繊細かつ安全に作業を

アルテマイスターの敷地には、資材工場、本社工場、ファクトリーがあり、この日は後の2つを見せていただきました。まずは本社工場へ。

1~2階では仏壇・位牌の加工・研磨・塗装、3階では仏壇の加飾(蒔絵や金付け)および組立・検査梱包などが行われていました。大きくて重たい仏壇を組立てる作業場には男性の職人が多そうなイメージですが、意外にも、この作業に従事しているのは女性が多い。小さなパーツの加工や細かい作業は、手が小さい女性向きなのだとか。さらに、パワーリフターなどの機械を導入することで、女性でも大きくて重い仏壇を移動できるように工夫しています。作業場によって男性が多く配置されている場所もあり、会社全体では男女比は半々のようです。

性別や体格差に関わらず誰でも作業しやすいように環境改善されている。加工には刃物を使うため、手作業と機械作業をうまく組み合わせ、安全確保を図っている。

機械が立ち並ぶエリアを後にして、位牌の加飾から検査梱包まで行うファクトリーでは、金粉吹付けや金箔貼り、蒔絵や家紋入れなど、繊細な手作業を見学しました。

ここでも多くの女性社員が働いている。手作業中心の工程のため、ベテランから若手の技術継承が鍵になる。

暗黙知を言語化し、口伝に頼らない技術承継を可能に

本社工場見学中、生産スケジュールを表示するモニターの横に、「ノウハウ継承のキーワード」というボードが目に留まりました。以前はベテラン職人たちの勘やコツ、いわゆる「暗黙知」が言語化できておらず、「仕事が覚えられない」といった理由で離職する若手が多かったそう。その解決のため、新人が先輩に聞き取りして作業標準書を作成したそうです。これにより、ノウハウの継承がスムーズになり、若手の仕事へのモチベーションが上がったと言います。

分業制になりがちな工場でコミュニケーションを活性化するための工夫を徹底。口伝に頼らない継承を可能にしている。

さらに、工場で働く職人と営業職の社員がお互いの職場を体験し合うことで、相手の仕事に対する理解が促され連携がスムーズになったり、チームで業務改善案を企画して発表する大会を開催するなど、社員のモチベーションの維持・向上に多くの工夫がある様子。また、「女性が働きやすい環境づくりは絶対条件」という言葉も印象的でした。

老舗企業におけるデザイン経営の実践とその成果とは?

工場見学後は、保志康徳さん(代表取締役社長)、星秀樹さん(デザイン本部長)、山口真人さん(プロモーション企画室長)によるトークセッションに加えて、ツアー参加者を交えたディスカッションを行いました。

当初は事業継承するつもりがなかった保志さんが、「意識が変わった」という祖父の一言とは何か? 老舗のアルテマイスターが、創業者の想いを受け継ぎつつ外部のデザイン人材と協働することによって、どう組織の文化を変え、発展につなげてきたのか。そのお話の数々は、社是である「豊かな心を創る」に則って、自分だけではなく周りが幸せになれるのか、あるいは「豊か」になれるのかという基準で物事を判断していることがわかります。それは形だけのビジョンではなく、繰り返し社員に伝えていくことで、いつの間にか社員の中に沁み込み、様々なところにつながっています。

詳しくは以下のダウンロード版レポートでご紹介しています。どなたでも無料でダウンロードいただけます。「デザイン経営、気になるけどどこから始めれば……」という方へ、きっとヒントが得られるはずです。

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ツアーの中身やアルテマイスターによる具体的なデザイン経営の取り組みを、ホワイトペーパーに掲載しています。
ぜひ、ダウンロードしてご覧ください。

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デザイン経営スタディツアーについて

ロフトワークは、2019年にデザイン振興会と経済産業省 関東経済産業局との共同事業として『中小企業のデザイン経営』のリサーチレポートを公開。以降、これまで数多くの中小企業のみなさんとともに、プロジェクトを通じてデザイン経営導入を実践してきました。

数々の経営に関するお悩みを聞き、導入支援プロジェクト行う中で、「デザイン経営」にまつわる経営者の悩み・モヤモヤは、「現場」をみながら経営者同士で共有・ディスカッションすることで、より本質的な視点やヒントを得られるのではないか、という新たな仮説が見えてきました。

そこで、私たちが始めた活動が「デザイン経営スタディツアー」です。本ツアーでは、デザイン経営に取り組もうとしている企業の経営者が、「先輩企業」を直接訪問します。工場やオフィスといった「デザイン経営の現場」を生で見学し、経営者同士が直接対話をすることで、「生きた経営アプローチ」を吸収することを目指しています。

これまでのツアーレポート

デザイン経営スタディツアー#1 福永紙工
-技術とデザインを武器に、変化の時代をポジティブに生き抜く

デザイン経営スタディツアー#2 ファミリア
– 新たな理念を伝え続けて、組織が変わる、事業が変わる。

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対話を重ねる、外の世界に触れる。
空間に魂を吹き込む、オフィスリニューアルの軌跡