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国広 信哉, 松永 篤, 䂖井 誠, 基 真理子 2020.07.16

“ながら聞き”をUXの中心に。
生配信「カセツラジオ」の舞台裏

こんにちは、ディレクターの国広です。オンラインイベントが劇的に増えた今、設計次第でそこから得られる体験は色々とデザインできそうですよね。今回は”ながら聞き”をUXの中心において実施した、生配信ラジオのねらいとTipsをご紹介します。

国広 信哉

Author国広 信哉(シニアディレクター / なはれ)

美術展やVIのグラフィックデザインを7年間手掛けたのち、2011年ロフトワーク入社。ロフトワーク京都ブランチの立ち上げに従事。企業や省庁の新サービスの顧客開発や、新技術の用途開発などの機会領域を社会に問いながら探っていくプロジェクトが得意。主な担当に、高齢社会の機会領域を探る基礎調査「Transformation」、オンライン融資サービス「ALTOA」顧客開発、成安造形大学特別授業「デザインdeath」など。米国PMI®認定PMP®。趣味は山のぼり、辺境音楽収集、野外録音。大阪大学人間科学研究科博士前期課程に在籍しながら、デザインと人類学の周縁を研究中。

Profile

足場業界への関心を図る、生配信ラジオ

街なかの建設現場で芸術作品のように組まれる足場。みなさんは目にしたことがありますか?実はこの足場業界にも若い人たちを中心とした人材不足の波が押し寄せています。当然、足場がなければ新築や修繕はできず、業界を超えて、社会課題となりつつあるのです。

足場のレンタル事業を行うASNOVA社とロフトワークは、この社会課題に対して、まずは業界への関心を持ってもらうための施策を率先してはじめました。それがWebマガジンPOP UP SOCIETY。そのスピンオフ企画として、4時間の生配信ラジオ「カセツラジオ」を6月5日(金)に実施しました。

このラジオで工夫した点を中心に書きつつ、広告やキャンペーンではなく、自分たちの事業や活動を伝えていくオルタナティブな手法も色々とあるのかも、という気づきをお届けできればと思います。

※2020年9月ごろまで視聴できます。

カセツラジオ - 仮設性を肴に語らう夜話(よばなし)

本番開始前1時間、出演者全員でのオリエン/音声+接続チェック

金曜夜の”ながら聞き”を、UXの中心に置く

一番の工夫は”ながら聞き”をUXの中心に置いたことです。企画設計は、緊急事態宣言延長が噂される4月末。既にオンラインイベントが飽和気味で、6月上旬実施を目指す中で避けたかったのは、正座して画面の前に居座り続けないといけないことでした。いくつかの方法を模索する中で、金曜夜、お酒を飲みながらでも、ソファに寝転がってでも、ゆるりと耳で楽しめるラジオ形式に決めました。

そうと決まったら、リスナーがちゃんと楽しめる形として、徹底的にラジオフォーマットへ則ることにしました。例えばこんな要素を組み合わせて、時間軸に配置します。(この記事などを参考に考えました)

  • アバン (オープニング前のちょっとしたコーナー)
  • BGM (オープニング/エンディングなどで背景に使用するもの)
  • ジングル (番組タイトルなどを短いBGMに乗せたもの)
  • 音楽 (曲をかけるところ)
  • ドラマ (ドラマを流すところ)
  • CM (スポンサーのメッセージ)
  • 提クレ (提供クレジット。~~の提供でお送りしますってアレ)
  • 入中 (いりちゅう。生での交通情報や外部取材など)
  • エピローグ (エンディング後のトークなど)

DJにはFM大阪でも活躍されている赤松悠実さんを迎え、ジングルとBGM制作はサウンドプロデューサーのKafkaさんに依頼しました。内容は、ゲストトークと即興ラジオドラマをメインに、おハガキと題してYoutubeLiveのコメント欄にてリスナーとやりとりする形にしました。「22:40になりました♪この番組は…」の時刻コールも雰囲気づくりに大事。当日の詳しい構成はイベント告知ページをどうぞ。

答えが分からない、スクランブルなコンテンツ

運営側も着地点が見えきらない、スクランブルなコンテンツも特長でした。足場が持つ「仮設性」に着目し、社会に対して「軽やかに実験している」ゲストの方々をお呼びし、雑談という形で1つのクエスチョンに沿ってお話いただきました。意識的にプレゼンテーション形式を避け、ゲストの人間性が垣間みえる偶発的なセッションを目指しました。

リスナー側には静止画スライド画面 
運営側ではZoom画面(テキストチャットも大活用)  

たとえば、バーチャル建築家の番匠カンナさんがVR部屋を特別にモニター上でツアーしてくれたり、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんと都市研究家の鈴木綜真さんとの、初対面ながら旧友かと勘違いするほどのかけあいがうまれたり。

また、即興のラジオドラマも実験してみました。喜劇作家の徳田博丸さんの呼びかけで、番組前半にリスナーからドラマのテーマを自由に募集。集まったキーワードから「初恋」「幼馴染み」「お酒」の3つを使って徳田さんが2時間でドラマの脚本を制作。番組の後半に5人の演者さんがDJの赤松さんと共に、10分間の作品を演じました。

ドラマの最中、ある演者さんのZoom(Wifi環境)が調子が悪く、声がガビガビに聞こえていたのですが、逆にそれが面白く、ネガティブに思われがちな要因も切り口次第でこんなに笑えるものになるんだなと感動しました。ちなみに脚本を書いた徳田さんのドキドキの胸の内はこちらで読めます。

一発勝負!Zoomの入退室も自然すぎて、プロの演者さんはすごい(ドラマコーナーだけ映像あり)

番組自体も「軽やかに実験」してみることで「仮設性」の力を模索してみたい。参加いただいたゲストやクリエイターのみなさんにも「実験の場」として利用してほしい。スクランブルなコンテンツにはそんな思いも込めています。

生配信ラジオで運営側が気をつける4つのチェックポイント

ラジオは各ゲストとzoomで繋ぎながら、YoutubeLiveで静止画+声のみを生配信する形でした。(ちなみにASNOVAさんのSNS保持チャネルはFacebook/Youtubeの2つのみ)準備は大変でしたが、本番終了後に振り返ってみて、特に大事だったなと思う4つのチェックポイントをご紹介します。

京都の運営メンバーはコンテンツリード  
東京の運営メンバーは配信リード

1.静止画BANを防げ

新型コロナの影響もあったのか、春はYoutubeLIveでAIによる誤BANが多発していました。静止画だと確率が高まるため、画面右上にくるくる回るモーションロゴを配置。またFacebookLiveでもマルチ配信を行い、誤BANされたときの保険としました。誤BANされたときの運営側の動きをフローチャートにしたリスク対応フローも準備しています。

2.トークは問いとゴールだけ

ゲストトークは雑談。とはいえ、予めトーク台本は準備しました。特に大事だったなと思うのは各トークコーナーで設置した「問い」と「ゴール」です。ゲストもリスナーも妄想を膨らませられる起点としての問い。また自由にトークできる安心感のための終点としてのゴール。この2つ以外の台本は準備しておきつつ、あえて使わないのが面白さを生むコツかもしれません。

3.音質はなるべく妥協しない

肉声とジングル/BGMをクリアに混ぜてお届けしたい。しかしZoomは自動的に音声補正が入るので意図した音を作るのは難しい。そのため1つのMacから、Zoom音声をHDMI経由、ジングルをオーディオ・インタフェース経由で流し、別の機材を用いてEQやコンプレッサー等で音処理をして配信しています。(Zoomの音声補正系の設定は全部切るのがコツ)

4.香盤表はトリガーに注意

重要なのはトリガーです。音を頼りに進行するので、何の合図で次のアクティビティが開始されるか。特にプログラムの重なりの部分が最も注意したいところです。そのため5人の運営メンバーが適切に動くための香盤表と配信構成図は欠かせません。DJの赤松さんとも、ジングルを流すための「行ってみよ〜」という掛け声の一言一句まで事前にすり合わせています。

香盤表
配信構成図

実験的な手法、これからも試していきます

「4時間は長いよね」「ながら聞きだったからハガキ書かなかった」などの声もあり、反省点も多いにあります。(実験なので大目に見てやってください…)

とはいえ、100〜150人が常時接続いただき、配信終了直後で1700回再生済、YoutubeLiveのコメントも200以上。視聴完了数が半数以上と手応えは上々でした。特にTwitterなどで「発想の転換の機会になった」「時空を捻じ曲げてた」など、ポジティブな反応が多かったのが非常にうれしいです。それもこれも、小気味よく仕切っていただいたDJ赤松さん、予定不調和なトークを繰り広げてくれたゲストのみなさん、実験的なラジオドラマを作っていただいた脚本家/出演者のみなさん、音楽やグラフィックを作ってくれたクリエイターのみなさんのご協力があってこそ。

リスナーの方々に楽しんでもらうことを最優先に、足場業界への興味関心をゆるやかに持ってもらいつつ、ASNOVAさんのメッセージを発信するという三方よしのクリエイティブの形。CSVのような社会的意義のある経営活動を伝えていく実験的な手法を、これからも試していきたいと思います。

クリエイト力が皆無な私にとって、枠にとらわれない自由な発想を持つモンスター陣(褒め言葉)とのトークはあまりにも刺激的で興味深く、自分サイズに噛み砕いて脳に理解させるのに多大なるエネルギーを要しました。と同時に、まだまだ知らない世界や発想がこの世には溢れていて、その中で自分が置いてけぼりにならないためにはまず自分が好きでたまらない、楽しくてたまらないことをどんどん追求していくことなんだとも気付かされました。“自分だったら”“こうしてみたら”まずは自由にカセツをたててみよう。そこから何かが生まれるかもしれない。

ラジオDJ / 女優 赤松 悠実

建設仮設業界外の皆様に、“足場に関心を持ってもらう”こと。建設仮設業界の皆様には、“足場に新たな可能性を感じてもらう”こと。このような目的がある中で今回の企画は、足場を直接的にフォーカスするわけではなく、実験的な取り組みという起点から、足場が持つ「仮設性」というキーワードまで導くことを大事にしました。ASNOVAにとっても「明日の場」を作るチャレンジとなりました。

株式会社ASNOVA 事業企画室 室長 小野 真

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対話を重ねる、外の世界に触れる。
空間に魂を吹き込む、オフィスリニューアルの軌跡