ENJOY NOISE
プロジェクトマネジメントを学ぶ6日間の集中講義
Outline
「不測事態を生かす」プロジェクトマネジメントを学ぶ特別講義
課題解決型の授業を通してデザイン思考や企画提案力を養う、成安造形大学の総合領域。2019年、ロフトワークは同専攻においてデザインリサーチの手法を学ぶ特別授業を企画・実施しました。そして2020年、同じく総合領域の3,4年生の学生の特別講義として、プロジェクトマネジメントを学ぶ授業プログラムを企画。オンラインと実地授業を織り交ぜ、8月から10月にかけて、6回の講義を実施しました。
ロフトワークはプロジェクトマネジメントの知識体系として PMBOK®(ピンボック)を2002年に導入し、ジャンルや領域にとらわれず、さまざまなプロジェクトを企画・実行してきました。大学生にとっても、将来就く仕事に限らず「プロジェクト」(定常業務に対して、期限のある仕事一般)に関わるための姿勢や具体的な行動手順を学ぶことができます。
授業のテーマは「ENJOY NOISE」。社内外からゲストを招き、実際のプロジェクトで発生する失敗談を織り交ぜながら、異なる背景や価値観を持つ人々と共に創造的な活動をするためのマインドセットを得ることを目指し、全6回にわたって授業を行いました。
関連リンク
書籍『Webプロジェクトマネジメント標準』を全文PDF無償公開
ロフトワークは、2002年という早い段階からWebとクリエイティブの領域に世界標準のプロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK®(ピンボック)」を導入し、Webプロジェクトのフレームワーク確立やリスクの軽減などに努めてきました。その過程で得た知識や経験を体系化、Webの制作現場につながるように編綴し、2008年に技術評論社より書籍『Webプロジェクトマネジメント標準』を出版。
プロジェクトと呼ばれる業務に関わるすべての人のヒントにしてもらうべく、全文をPDFデータで無償公開しています。>> ダウンロードはこちら
プロジェクト概要
- 支援内容
授業案の企画・立案・実施 - プロジェクト期間
2020年8月〜2020年10月 - プロジェクトメンバー
クライアント:成安造形大学
プロデューサー:小島 和人
授業企画/講師:基 真理子
企画運営:圓城 史也、浦野 奈美
ゲスト講師(授業登場順):原 亮介、上ノ薗 正人、田根 佐和子、徳田博丸
Outputs
不測事態や変化に前向きに対峙する姿勢を伝える
PMBOK®では、プロジェクトという言葉を2つの要素で定義しています。「有期的であること」と「独自性があること」です。「有期的」とは、文字通り、期日があるということ。一方で「独自性」とは、何かしら新しい要素が加わっていて、これまでやってきた仕事の機械的な反復では済まないということです。
人がプロジェクトに向き合う時、多くの場合、自分とは異なる価値観や事情のある人とチームワークで目標を達成させなければいけません。プロジェクトマネジメントは、リスクやリソース、ステークホルダーなど、9つの領域からプロジェクトを成功に導くための知識体系です。一方で、どれだけ綿密に計画をしても不測事態や予定外の出来事は必ず起こります。プロジェクトマネジメントの本質は、この「不測事態=NOISE」をいかにチャンスに変え、クリエイティブなエネルギーに変えていくかなのです。
そこで、授業のテーマを「ENJOY NOISE 」とし、異文化の人に働きかけ、創造的な仕事をするためのメソッドや、変化に前向きに対峙するための姿勢を伝える授業を6回にかけて企画・実施しました。講師を担当したのは、クリエイティブディレクターの基 真理子。Web案件を中心に中規模〜大規模のデザイン・構築を多数手掛けています。以前は不測事態が発生しないように計画を立てていたという彼女が、自らの経験を生かした、実地で役立つ授業を設計しました。
最終課題は学びをグラフィカルに伝えるレポート
6回にわたって開催された講義は、初回と最終回以外はオンラインで開催されました。4人のゲスト講師も参加し、普段はあまり表に出ない失敗談を話してもらった上で、ディスカッション。加えて次の授業に向けた宿題が毎回出され、学んだことをA3サイズのグラフィカルなレポートとしてまとめることを最終課題としました。
レポートは、アイデアとプロジェクトをつなぐロフトワークのプラットフォーム「AWRD」を用いて紹介ページを作成。学生たちの最終課題が一覧できます。
学生たちの最終課題はこちらからご覧ください。
>>「ENJOY NOISE」最終課題一覧
Points
失敗談をベースにした授業で、実践できる知識を学ぶ
講義では、社内外からゲストを招き、各々が実際に経験した失敗談を共有。華やかな成功談だけでなく、普段はあまり表に出ない失敗を話してもらうことによって、事故や不測事態が起こりやすい状況を紐解きました。その上でディスカッションし、プロジェクトに挑む際のマインドセットや計画や目標の立て方、人の巻き込み方などを学びました。オンラインの授業では、オンラインホワイトボードツール「miro」を活用。宿題はもちろん、講義中に気になったことや質問も話を聞きながら付箋に書き溜め、チームやゲストに共有・ディスカッションしました。
不測事態だらけの卵料理プロジェクトから何を学ぶか
初回の授業ではワークショップを実施。個人ごとに「朝、卵料理を作る」際のタスクをできる限り細かく分解して時系列に整理するワークを行いました。すると同じ「卵料理」でも工程やできあがった料理に、大きな差があることがわかりました。「卵料理=最終成果物」と聞いただけでは、目玉焼きなのか、卵焼きなのかはわかりません。イメージにズレがあるのに、それに気づかなかったり、明確にずれている部分を共有できないままプロジェクトが進んでしまうことも多くあるのです。
また、最終成果物がメンバーで共有されても、プロセスのタスク分解がどこまで具体的かつ細かく細分化し、分担を決められるかも大切なポイント。卵料理ひとつとっても、ある人は「卵を割る」からイメージし、ある人は「手を洗うために腕まくりする」からイメージします。卵料理というシンプルなテーマを取り上げることで、学生たちにとっても、楽しくプロジェクトマネジメントの重要さに興味を持つきっかけになったようでした。
最終日の授業はFabCafe Kyotoで実施。授業の学びを生かし、不測事態をポジティブに受け入れる練習として、初日に実施した「卵料理を作る」ワークショップを不測事態がたくさん起こる想定で再度実施。どんな無理難題もクリエイティブに対応する中で、当初予定していたものと形は変えつつ、誰も見たことのない卵料理のアイデアがたくさん生まれていた。
Impact
授業の学びを生かし、学生たちがプロジェクトを企画・実施
2020年秋、成安造形大学で学生や地域に愛されていたレストランが閉業することになりました。このレストランは成安造形大の学生たちが中心にデザインし作られた特別な場所です。そこで、総合領域3年生のサービスデザインの授業内では、閉業したあとのレストランの建物の活用方法を題材に「夢を結び、実を結ぶ —いま、デザインにできること—」というイベントを企画・開催。ピクニックコーディネーターやランドスケープデザイナーとして活躍する對中剛大さんをゲストに招き、プログラムをデザインしました。このイベントは、「ENJOY NOISE」の講義を受講した学生を中心に設計・リードされ、講義で学んだプロジェクトマネジメントの知識やマインドセットが生かされています。
Member
田中 真一郎
成安造形大学
教授
宮永 真実
成安造形大学
助教
徳田 博丸
喜劇家/脚本家
メンバーズボイス
“この講義で、一番伝えたかったことは「大人って実はたいしたことない」ということでした。
10代の私は、大人になったら失敗することも少なくなるんだろう、と思っていました。でも実際には予測がつかないことだらけだし、たくさん失敗もする。いかに不合理でも感情で動いてしまうことも多いです。それでも何とかなるし、失敗を恐れなくなるほど、人生は楽しくなる可能性も増えていきます。
そしてプロジェクトマネジメントに私が惹かれる理由も、不測事態をポジティブに変えることができる一つの方法だからです。
学生の皆さんが、失敗を恐れず、人生のNOISEを楽しむことができるきっかけになれば、最高に嬉しいなと思います。”
ロフトワーク クリエイティブディレクター 基 真理子
“コロナという最大級の不測事態の中、臨機応変に授業を見直していただき、ロフトワーク皆さんの対応力の高さを間近で感じることができました。
様々なゲスト講師の失敗談や学生達のグループワークは、失敗のまま終わらせないための思考の転換と、そこから生まれるクリエイティブの必要性を体感できる時間でした。
また、授業終了後も、学生達から時折「ENJOY NOISE」という言葉が聞こえることがありました。
”ENJOY NOISE”という前向きで覚えやすいキーワードは、しっかりと体に染み込んでいるようです。
今後、壁にぶつかった時、大きな原動力となってくれることを期待しています。”
成安造形大学 助教 宮永 真実
“「不測の事態」があってこそ実社会は面白い。それをマイナスに捉えずゲームのように楽しむことで、思いもよらない不測の成果を生むことが往々にしてあります。「ENJOY NOISE」な対応力を伸ばすことでこそ実践力を学生たちが修得できるのでは?と日頃から私も考えていました。
今回のプログラムはコロナ対応として2/3が遠隔形式でしたが、時間的・空間的な制約を越え、毎回さまざまなゲスト講師をお招きすることができ、また、mIroを活用した活発なディスカッションは、対面形式とは異なる脳の活性化を導き出していました。コロナが生んだ遠隔ならではのまさにENJOY NOISEな授業構成となっていました。”
成安造形大学 教授 田中 真一郎
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