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林 千晶, 国広 信哉, 井田 幸希, 岩岡 孝太郎, Christine Yeh 2020.12.25

#17 「人とのつながり」をどうつくる?
(ドーナツの穴 — 2020年代を生きるということ — )

現役メンバーとの座談会、最終回のテーマは「人とのつながり」。いま、ロフトワークの中で独自のコミュニティを築きはじめている4人のメンバーが、普段どんなことを考えて、どのように「つながり」をつくっているのか、聞きました。(林千晶)

飛騨で新しい仲間をつくる

林千晶(以下、林):私はいろいろな人とつながりをつくるのが得意だけれど、自分が意識していることを「こういう風にして」と誰かに引き継ぐのは、難しいなと思っていて。でもロフトワークにはすでに、私とは違う形でそれぞれのつながりを広げているメンバーがいるんだよね。

ということで、今回は「つながり」という観点で私が尊敬しているメンバー4人に集まってもらいました。一人ずつ自己紹介をお願いします。どんなコミュニティをつくっているかも教えてください。

岩岡 (以下、岩岡):僕はもともと建築を学んだあと、大学院でデジタルファブリケーションを研究していて、日本ではじめてのデジタルものづくりカフェ「FabCafe」をロフトワークと一緒につくりました。そこから次々と僕たちの活動に共感してくれる人たちと出会い、現在、世界中12箇所でFabCafeが運営されています。僕のつながりかといわれるとよくわからないけれど、すごいですよね。

その後、林さんから「飛騨に行かない?」といわれて、即答で「行きます!」と。気づいたらまた新しい人たちとつながり、FabCafe Hidaをつくり、ヒダクマ(株式会社 飛騨の森でクマは踊る)という会社の仲間づくりに関わり続けて今に至ります。

:岩岡くんは、私がやりたいと思ってはじめた林業を、私以上にがんばってくれていると思う。去年、ヒダクマの社長を引き継いでもらったことについては、どうですか?

岩岡:「責任ってこういうことか」と感じることは増えましたが、基本的には今までとあまり変わっていないですね。

岩岡 孝太郎(Kotaro Iwaoka)/FabCafe創設メンバー、ヒダクマ代表取締役社長 兼CEO。2011年、クリエイティブな制作環境とカフェをひとつにする“FabCafe”構想を持ってロフトワークに入社。2015年の「ヒダクマ」の立ち上げに参画し、2019年4月より現職。>プロフィール

「コミュニティ」の意義を実感した日

井田:私は「MTRL(マテリアル)」という、素材をテーマにしたクリエイターとメーカーのためのイノベーションプラットフォームのチーフと、今年9月名古屋にオープンしたFabCafe Nagoyaの取締役を兼任しています。どちらもクリエイティブの価値を企業に伝え、パートナーシップを築いていくのが仕事です。

ちなみにFabCafe Nagoyaで9月にオープニングイベントを行ったばかりなのですが、「コミュニティが生まれるってこういうことか!」と、自分の中で腹落ちした感覚があったんですよね。

:あ、やっぱりそうなんだ。あのとき、井田さんの雰囲気がグッと変わったのを目の当たりにしました。

井田:正直、これまでは「コミュニティ」ってうさんくさい言葉だと思っていたところがあって。世間一般でコミュニティと呼ばれているものにふれると、「それってただのSNSのフォロワー数じゃない?」とか、「来ている人が楽しそうじゃないんだけど」と思ってしまうことが多かったんです。

でも先日のオープニングイベントでは、もともと地域で別々に活動していた人たちが一箇所に集ってくれて、つながりが生まれることの喜びとか、お互いの活動についてもっと知りたい、聞きたいという熱気を肌で感じることができました。

一つの場所が生まれることが、こんなに人と人とをつなぐんだな、と実感しましたね。だから今後は、このコミュ二ティをもっと膨らませていきたいなと思っています。

井田 幸希(Miyuki Ida)/通販業界を経て独立し、編集プロダクションで企画・編集を幅広く手がける。さらに広告営業を経て、2017年に入社。プロデューサーとして、主にMTRLを軸とした幅広いプロジェクトでクライアントの機会創出を手がける。>プロフィール

グローバルな視点で新しいビジネスをつくる

クリスティーン:私はアメリカ生まれ、台湾育ちです。大学を卒業した後、台湾で友人と起業してメディア事業を手掛けていました。会社をつくって、本当に人生が変わりましたね。エンジニアやデザイナー、学生、ビジネスマン、たくさんの人たちとのネットワークが自然に生まれました。

その会社を日本企業に売却したことをきっかけに日本にきて、ロフトワークと出会っています。渋谷のFabCafeを見て興味を持ちました。今は、FabCafe Globalのブランディングを手掛けていて、同時にアジアのスタートアップコミュニティもつくっています。

:そう、「Loftwork Global」ではなくて、「FabCafe Global」。私は創業者だから、どうしても「Loftwork Global」と言いたくなっちゃうんだけど、クリスティーンに「No, もしロフトワークを世界に広めたいなら、FabCafeを使わないとダメよ」と言われて。それがすごく新鮮だったんだよね。

クリスティーン:そう。「FabCafe Global」の方が、ビジネス的にも、クリエイターに向けてもアプローチしやすいと思っています。私は10年以上いる他のメンバーと違って、まだロフトワークに入って2年目だから、新鮮な目で見ることができているのかもしれないですね。

Christine Yeh/アメリカ生まれ、台湾育ち。カリフォルニア大学卒業後、ネットメディア会社を経て、ライフスタイルを発信するメディアや、P2Pの旅行体験予約サイトを立ち上げる。日本企業にスカウトされ、事業譲渡。それを機に日本での仕事をスタートさせる。活動していく中で、クリエティブとUXデザインに興味を持ち2019年ロフトワークに入社。
>プロフィール

強い「コミュニティ」ではなく気軽なつながりを

国広信哉(以下、国広):僕はロフトワークの核をなしているクリエイティブの部門にいて、2011年に京都オフィスを立ち上げたメンバーの一人です。ただ、そこからしばらくは闇の時代で(笑)。いろいろ失敗もしてきました。

自分のつながりが広がりはじめたと感じたのは、2016年に手掛けた、経済産業省からの委託業務「高齢化にまつわる基礎調査」のプロジェクトがきっかけです。東京、奈良の吉野、そして中国の成都へ行き、高齢の方々(平均年齢77歳)がどう生活し、何に不安を感じているのか取材しました。

そのとき、世の中には本当にいろいろな人たちがいて、その人たちの声に耳を傾けないと、いいクリエイティブを生み出すことはできないと気づいたんです。それ以降、生活者のつながりの話を聞いたり、いろんな職種のクリエイターと交わったりするのが面白いなと思うようになって。

:そうだよね。あのプロジェクトで改めて、クリエイティブは「人に向き合って課題を見つける」ところからなんだと実感したね。人のつながりといえば、京都オフィスは2015年に、複合ビルの一角から五条のリノベーションした建物に移転したじゃない? それで何か変化はあった?

国広:オフィスとしての機能に加え、誰でも利用できる「FabCafe」を併設したことで、京都界隈で活躍する、ローカルなクリエイターが集まれる場所に育ったのは大きいですね。「自分の家の表札をつくりたい」と、地元に住む年配の方が来てくださるような機会も増えました。

国広 信哉(Shinya Kunihiro)/大学卒業後、デザイン事務所にてソーシャルデザインを軸に空間/紙/Webなどのデザイン及び企画設計を担当。2011年ロフトワーク京都へ入社。中〜大規模Webサイトのデザインリニューアルから、地場産業とクリエイティブを掛け合わせて価値を作り出すプロジェクトを得意とする。>プロフィール

FabCafeを通じてひろがるコミュニティ

:FabCafeのコミュニティについて、岩岡くんにも聞いてみたいです。

岩岡:当時、ロフトワークはクリエイター向けのプラットフォームサービスを運営していて、「オンライン上のクリエイターコミュニティです」とコンセプトを掲げていたものの、グラフィックやイラストレーション、デザインなど平面のクリエイターがほとんどでした。僕は建築とか家具とか、立体を手掛けるクリエイターがもっと入ったらいいと思ったんです。

だから2012年にFabCafeをつくったとき、真っ先に思い浮かべたのは物質的なものづくりクリエイターに特化したつながりを生み出していくことでした。今、そういうコミュニティになりつつあると思います。

:確かにFabCafeという新しい場ができたことで、ロフトワークのクリエイターコミュニティの多様性が増したんだよね。それは、社長 諏訪くんの悲願でもあって、本当に喜ばしいと思っています。。井田さんはどうですか?

井田:私はもともとプロデューサーで、営業的な立場なのですが、ロフトワークの活動に興味を持ってくれている人がいても、具体的な関わりになるのは年月がかかると実感しています。

たとえば、もともとコミュニティスペースとして運営してきた「MTRL」をビジネスサービスにすべく、3年前から活動をしてきたのですが、当初は「面白いね!」といっていただけたとしても、お金を出してもらうところまで至らないケースも多くて。

そんな中でもいくつかビジネスをベースにしたプロジェクトが生まれ、地道に働きかけや発信を続けていくうちに、プロジェクトを通して人同士がつながって新たな活動が生まれたりと、コミュニティがエコシステムに発展してきた感覚があります。だからあきらめないこと、継続することって大切だし、それができることがすごいと思っています。

今後は名古屋で出会った方とも一人ひとり真摯に向き合いながら、パートナーになっていきたいと思っています。そのためにも、名古屋に引っ越すしかないかな、とも感じているんですよね。目下の悩みなんですけど。

待っているだけではなく、自分たちから仕掛けに行く

:クリスティーンは、自分で会社をやっていたからまたみんなと違ったつながりを持っているよね。

クリスティーン:そうですね。ただ「ネットワークをつくりたい」と考えているわけではなくて、シンプルに自分がクリエイティブな人に興味があるだけかもしれません。例えば台湾で出会ったクリエイターと、今度、FabCafe Tokyoで展示をすることになったんですよ。

:それは面白いね。ちなみに、どちらから声をかけたの?

クリスティーン:もちろん私からです(笑)普段から、FacebookでFabCafeのことについて投稿することが多いので、台湾の友人たちがみんなそれを見てくれているんです。台湾にいるビジネスパーソンやクリエイターの人たちは、みんな東京で展示やイベントをしたいと思っていますよ。

台湾の人たちは東京に行きたい。日本企業も台湾に興味がある。だから、私はその“Bridge(架け橋)”になりたいですね。

:それは心強いです。ちなみに他の国でも、ロフトワークやFabCafeがマッチするんじゃないか、と感じるところはあったりしますか?

クリスティーン:We have to go to Seoul! クリエイティブ、デザイン、ファッション、音楽、すべてが盛り上がってます。ソウルは絶対。

今のFabCafe Globalのビジネスはまだ、「FabCafeを作りたい」と言われるのを待っている状態ですよね。でも待っているだけじゃなくて、自分たちで行って企画して、経営してくれる人を探して、クリエイティブコミュニティをイチからつくる。日本とアジアでできることは、たくさんあると思います。

「つくる」が100%ではない、ゆるやかなつながりとは

:ここまでFabCafeなどを中心に話をしてきたけれど、国広くんにはちょっと違うことを聞いてみたくて。というのも、国広くんって「仕事は人生の一部にすぎない」と、のびのび生きているような気がするんだよね。その中で培っているのが、国広くんにとっての「つながり」じゃないかな、と。

国広:そうですね。いい意味で、僕は「ロフトワークに貢献せねば!」と思って働いているわけではないんですよ。自然に思っていたことなので、あまり意識しているわけではないんですけど。

:うん、それでいいと思う。自分の人生があって、その過程で「ロフトワークって面白いよね」と思ってもらえればいい。「会社のために」と仕事してしまうと、実はどんどん苦しくなると思うんだ。ちなみに国広くんは、これからどんなつながりの中で生きていこうと思っている?

国広:僕は今、京都の「夕顔町」という小さい町に住んでいるんですけど、そこは強固な「コミュニティ」というよりも、人々が自然と寄り集まって暮らしているみたいな感じなんです。でも町中で顔を合わせれば仲良く話す。そんな小さな場所で、楽しく暮らせたらいいと思っています。

例えば、街の人がみんな家で夕顔を育てているんですけど、それは決して強制ではない。強いつながりを無理やり作り出すのではなく、みんなが自然に「夕顔」というものを媒介してゆるやかにつながっているのがいいな、と思っていて。

「別に参加してもしなくてもOK」くらいの集合体が、いくつも生まれたらみんな幸せなんじゃないかな。

:国広くんの考え方は、私がこれからやりたいこととも重なっていると思う。「コミュニティをつくる」「人とのつながりをつくる」の「つくる」が100%ではないというか。あくまでも自然発生的ではあるけれど、自分自身も動いたうえでの「つくる」イメージだよね。

国広:そうですね。人が自然体でつながっていくためには「つくる」行為が必要なのかなと。つくらないと、基本は「消費者」になるから受け身になってしまう。ゆるやかにつくり、ゆるやかにつながる、そんな暮らしがいいなと思ってます。

:うんうん。それはすごく重要なポイントだと思う。

出会った目の前の人たちを愛していく

:今日はそれぞれが今、あるいはこれからつくっていこうとしている「新しいつながり」が見えた気がします。じゃあ最後に、岩岡くんに締めてもらおうかな。

岩岡:僕は「自分って何だろう」と思ったときに、今の自分の99%は自分じゃない何かでできている気がしていて。今まで出会ってきた人との関係性があってこそというか。それでよかったと思っているので、次は誰かにそう思ってもらえるようになりたいです。

僕がロフトワークに入ったときは社員数が40名くらいでしたが、今は人数も増えて、全体のことを考えなければいけなくなってきている中で、個々のつながりが改めて問われるフェーズになっている。

お互いの個性を認め、深め合い、吸収しあえる、そういう単位の集まりをつくっていきたいです。だから今目の前でつながっている人たちを、心から本当に愛そうと思っています!

:本当にね。自分の99%が出会った人たちでできている、というのはまさに「ドーナツの穴」そのもの。4人とも、そしてロフトワーク全体がそんな素敵なつながりをこれからもつくっていってほしいと思います。今日は本当にありがとう!

撮影:西田香織

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空間に魂を吹き込む、オフィスリニューアルの軌跡